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■クロスロード3(2)

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実際車は国道283号・国道107号といった道を通っていくが、かなりの山道である。特に前半走る283号は急カーブの連続である。しかし千里はそのカーブをスローイン・ファーストアウトで丁寧に走って行く。特に曲がり方の大きなカーブや急傾斜は低速度で走る。
 
民雄が
「村山さん、凄く運転うまいですね」
と言った。
 
「ありがとうございます。ただ丁寧に走っているだけですけどね。私ブレーキ踏むのあまり好きじゃないから」
と千里は答える。
 
「今ちょっと危ない言葉を聞いた気がした」
「いやエンジンブレーキを多用してできるだけブレーキペダルを踏まなくて済むような運転をしているだけです」
「そういう意味か!赤信号でアクセル踏むタイプかと」
「それやったら都会では捕まりますから」
 
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「免許取って何年ですか?」
「高校を卒業してから取ったので2年ちょっとです。だからまだグリーン免許なんですよ」
「へー。それでここまで運転できるのは偉い。じゃかなり乗ってるでしょう?普段は何に乗っているんですか?」
 
「インプレッサです。運転した距離は2年間でまだ5万km程度だから、ドライバーとしてはヒヨっ子かな」
と千里が言うと
 
「それ、僕が免許取ってから13年間で乗った距離より多い!」
と民雄は言った。
 

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千里はあまりスピードを出さずに丁寧に走ったので大船渡に着いたのは16時近くであった。山道にしてはあまりGの掛からないドライブだったので、その間に美由紀は結局お弁当を3つたいらげたが、青葉から仕出しが余っているけどと言われると食べる!と答えて日香理がちょっと呆れていた。しかし、美由紀につられて日香理も仕出しを食べた。
 
お通夜・葬儀には青葉が思っていた人数を遥かに超える人が集まりつつあったので、その対応で桃香がてんやわんやであった。千里もすぐその手伝いに入る。決断力のある桃香は主として葬儀場の人や仕出し屋さん・旅館などとの交渉事を担当し、物腰の柔らかい千里は弔問客とへの挨拶やお話・相談などを担当することにした。
 
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美由紀たちが到着して間もなく高知の菊枝が、自分の車(パジェロ・イオ)に高野山の山奥に住む瞬嶽を乗せて到着する。
 
瞬嶽が来てくれるとは思ってもいなかったので青葉はびっくりする。朋子がすぐ出て来て
 
「娘がお世話になっておりまして」
と挨拶し、一方の瞬嶽は
「弟子がお世話になることになって」
と挨拶する。
 
桃香と千里も出て来て瞬嶽と菊枝に挨拶する。
 
「どうもお世話になっております。えっと青葉の幼稚園の時の園長先生でしたっけ?」
などと桃香が言うので
「違うよ。桃香姉さん。私の霊的な技術のお師匠さんだよ」
と青葉は訂正する。
「じゃダンブルドア校長みたいな人?」と桃香。
「うん。ダンブルドア校長より凄いと思うよ」と青葉。
 
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「ああ。ダンブルドアはなかなか優秀」
と瞬嶽が言うので青葉はびっくりして
「ハリー・ポッターをご覧になったんですか?」
と尋ねる。
 
「下界に降りた時に、瞬高がビデオで見せてくれた」
と瞬嶽。
 
千里も瞬嶽に
「どうもお世話になっております」
と挨拶したが、瞬嶽は千里を見るなり
「うーん・・・・」
 
と考え込んでしまった。
 
「師匠どうなさったんですか?」
と青葉が訊く。
 
「あ、いや。お姉さんは、元男の人?」
と瞬嶽は千里に訊いた。
 
「そうですね。生まれた時は男の子でした。3日前に去勢手術を受けて、その後、青葉に気の巡り方を女性型に調整してもらったんですが。来年くらいには性転換手術を受けるつもりです」
と千里は答える。
 
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「ああ。だったら青葉と似たようなタイプなんだ?」
「はい」
「青葉があんたを頼った理由(わけ)がよく分かった」
「似た立場なので、理解しあえるものがあるみたいです」
 

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やがて££寺のご住職・川上法嶺(青葉の祖父・川上雷蔵の又従弟)が到着し、通夜が始まろうとしたが、法嶺は、瞬嶽の気配に気付き、こんなお偉い方がおられる席で自分が導師など務められないと言う。そこで瞬嶽が通夜・葬儀の導師をすることになり、瞬嶽の読経で通夜は始まった。
 
その読経が行われている最中に、歌手の冬子(ローズ+リリーのケイ)が到着する。彼女は新曲(『夏の日の想い出』)のキャンペーンで全国を駆け巡っている所だったのだが、この日青森でのキャンペーンを終え、翌朝仙台の放送局に出るのに移動中でこちらに立ち寄ってくれたのである。上等なブラックフォーマルを着て大粒の真珠のネックレスをしている。
 
喪主席に居た青葉(喪主席には青葉と朋子が就いている)と、弔問客の対応で場内を動き回っていた千里が冬子の所に寄っていく。
 
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「お忙しい所、ありがとうございます。よくお時間取れましたね」
と青葉が本当に驚いたような顔で言う。
 
「うん。青森のキャンペーンが15時で終わって、それからこちらに移動してきた。明日は仙台から」
「ハードですね!」
 
「あ、これ札幌から来たから、白い恋人。青葉、お友だちがたくさん来てるみたいだし、その子たちで分けて」
と言って冬子が袋を渡す。千里が取り敢えず預かる。
 

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「そうだ。千里」
と冬子が言う。
 
「うん」
「駐車場が分からなかったんで、取り敢えず会場の前に車駐めちゃったんだけど、よかったら移動してもらえない?」
 
「いいよ。明日朝仙台なら、今夜はここに泊まるよね?」
「そうさせて。朝から北海道に飛んで、南下してきて、盛岡から運転してきたから、さすがに疲れてる」
 
「じゃ、宿の駐車場の方に回送しておくから。車は何?」
「助かる。白いプリウス」
と言って冬子が車のキーを渡すので千里が預かる。
 
「でも会社で運転手は付けてくれなかったの?」
「プライベートな用事だからひとりで運転してきた」
「でも冬子に万一のことがあったら、プライベートな問題では済まないよ。日本中のファンが悲しむし、★★レコードも大打撃だよ。遠慮せずに、運転手付けてくれと言うか、個人的にドライバーを雇うかすべきだと思う」
と千里は言う。
 
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「ありがとう。そういうこと言ってくれる人は少ないから肝に銘じるよ」
と冬子は答えていた。
 

そんなことまで話した時、冬子はふと何かに気付いたように言った。
 
「ね。あのお経読んでる導師の方、何者?」
「私のお師匠さんなんです」
と青葉が答える。
 
「何なの?あの物凄いオーラは?」
と冬子。
 
「ああ、冬子さんにも分かりますか?」
と青葉。
 
「私、ふつうオーラとか見えないけどさ、さすがにあのオーラは分かる」
と冬子が言う。
「千里、少し霊感あるよね?千里にも分かるでしょ?」
 
「うん。私も普通オーラとかチャクラとかさっぱり分からないけど、瞬嶽さんのオーラは凄い。まるで巨大宇宙戦艦」
と千里が言う。
 
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「ああ、冬子さんもちー姉も分かるのか。あの師匠のオーラってかえって普通の霊能者や霊感体質の人には見えないんですよ。凄くうまく隠しているから。私は直弟子だから見えるけど。でもかえって霊能者ではない、勘の鋭い人の中には気付く人がいるんですよね」
と青葉。
 
「青葉のオーラも凄いけどさ。青葉のオーラがジャンボジェットなら、あの人のオーラは空母だよ。いや千里の言うように宇宙戦艦かも」
 

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やがて焼香が始まるが、この会場ではお坊さんの席と祭壇との間に焼香する所が設置されている。それで焼香する人は、左側から焼香台の前に進み、焼香をしたあと、振り返ってお坊さんに一礼し、右手に抜けてそこで喪主(青葉と朋子)に挨拶し、自分の席に戻るというルートになる。
 
美由紀や日香理、早紀や椿妃たちは、身内に準じるポジションなので桃香・千里、彪志とその両親が焼香した後、それに続けて焼香をした。そして自分たちの席に戻って、他の弔問客の焼香を見ていた。
 
日香理はこの焼香を見ていて4度「え?」と思うような場面があった。いづれも焼香をする人の周りに巨大なオーブ(玉響:たまゆら)が出現したような気がしたのである。
 
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その4度というのは、最初に焼香した青葉自身、4番目に焼香した千里、一般参列客の中で焼香したケイ、そして葬儀委員として最後に焼香した佐竹慶子の娘・真穂であった。全員焼香を終えて導師席に一礼した瞬間に、そのオーブが出現した気がしたのである。
 
青葉と千里でオーブが出現したのを見て、ふたりともMTFなので何か性別と関係するのだろうか?と考えたりもしたが、隣に座っている美由紀は多分オーブなんて見えていないので相談相手にならないなと思い、黙っていた。
 
3人目その時点では誰なのか知らなかった女子大生風の人の所で出現した時に、日香理は考えていて「そうか!あの人はローズ+リリーのケイちゃんだ」ということに気付く。彼女もMTFだし、やはり性別絡みだろうかと考えたものの、最後に真穂にも出現したのには首をひねった。
 
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あの人も、実は男の娘ってことはないよね!?
 

通夜が終わった後、お食事会をする。ここに出席したのは、導師の瞬嶽と脇導師を務めた川上法嶺、青葉・朋子・桃香・千里、彪志・彪志の両親、小坂先生・美由紀・日香理、早紀・早紀の母、椿妃・椿妃の母、柚女、咲良・咲良の母、藤原夫妻、菊枝、冬子、慶子・真穂と総勢25名であった。
 
冬子の両隣は菊枝と真穂だったのだが、真穂が
「凄く大きな真珠ですね」
と冬子のネックレスを見て言う。
 
「あ、これ淡水真珠の安物なんですよ」
と冬子はあっさり言う。
 
「嘘!だって、これ真珠がきれいな球形なのに」
と真穂。
 
隣から菊枝が言う。
 
「淡水真珠は形が長円だったりいびつだったりするものが多いけど、その中でも高級品の湖水真珠の中には稀にきれいな真円形のものがあるんです。でもレアだから、値段はふつうの淡水真珠と1桁違う。ましてやそれを同じサイズ色合いで40個とか揃えられたら凄まじくレア。これ逸品ですよ」
 
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「ええ。このネックレスは20万円です。普通の淡水真珠なら多分3000円」
と冬子。
「でもこれが本真珠なら500万以上しますよね」
 
「うんうん。そのくらい」
と菊枝が言う。
 
「ちょっと見せてもらえます?」
と菊枝が言うので冬子はネックレスを外して菊枝に渡す。菊枝はしばらくそのネックレスをいじっていたが、やがて
 
「これ、ほんとによく出来た品ですよ。30-40万円してもおかしくない」
と言って、冬子に返した。
 
「お金持ちのお嬢さんかと思った」と真穂。
「いや、この人はお金持ちだと思う」と菊枝。
 
「私、今年ここまで100万くらいしか収入無いです」
と冬子は言ったが
「でも確定申告は多分億でしょ?」
と菊枝。
 
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「ひぇー」
と真穂が声をあげるが
 
「そんなに行ったらいいですけどねぇ」
と冬子は答えた。
 
「あのぉ、何をなさってる方ですか?」
と真穂がおそるおそる訊くので、冬子は
 
「一種の水商売です」
と答える。
 
「へー。でもそれで億稼げるって凄い」と真穂。
「運が良ければですね。運が悪ければ収入ゼロ」と冬子。
 
「だから水商売と言うんだろうね」
と菊枝は言った。
 
「ところでそこに書いておられるABCとかEFGとかの記号の列は何ですか?」
と真穂が訊いた。
 
「ああ。私、よくこういうアルファベットの悪戯書きする癖があるんですよねー」
と冬子。
 
「へー。何かの暗号か、そうでなかったらギターコードか何かかと思った」
と真穂。
 
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菊枝が吹き出しそうになっていた。
 

食事の後、早紀・椿妃・柚女は自宅に帰り、咲良母娘は早紀の家に泊めてもらうということで一緒に退出し、川上法嶺もお寺に戻り、慶子と真穂も自宅に戻り、残りの15名で宿に移動することになる。
 
冬子が青葉の所に寄って言った。
 
「青葉、私、宿に着いたら即寝ていい?」
「即寝てください!」
 
それで冬子が明日朝4時に起きて仙台に向けて出発しなければというので、いつも4時に起きる習慣のある青葉が起こしてあげることにした。
 
「じゃ安心して寝てよう」
 
その時ふと青葉は冬子のネックレスに気付いた。
 
「そのネックレス、ここに来られた時に着けておられたものと同じ物ですよね?」
 
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「え?そうだけど。そんなに何個も持ち歩けないよ。これは実は今着ている礼服と一緒にいつもボストンバッグに放り込んでるネックレス」
 
「色が見違えている」
「へ?」
 
「ここに来られた時はそのパールが凄く疲れてるなと思ったんです。でも今そのパール、凄く活き活きとしてる。何かありました?」
 
「え?何もしてないよ。さっき食事の席で隣になった菊枝さんだっけ?なんか凄いオーラ持ってる人にちょっと見せたくらいかな」
 
「菊枝さんか!」
と言って青葉が菊枝の方を見ると、彼女はVサインをしている。
 
「冬子さん、このネックレス、今回のキャンペーンの間、服のポケットにでも入れておくと結構疲れが取れます」
と青葉は言う。
 
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「凄い!」
 

宿の部屋割は、青葉・朋子・千里・桃香で1部屋、彪志親子が1部屋、藤原夫妻で1部屋、瞬嶽と菊枝が1部屋、美由紀・日香理で1部屋、小坂先生と冬子はそれぞれ個室である。瞬嶽はどうも菊枝に何かの口述筆記をさせているようであった。
 
宿では、最初、瞬嶽の部屋に、青葉・菊枝・直美という3人の弟子が集まり、色々とお話をした。その後、青葉が美由紀と日香理の部屋に移動すると、そこに青葉の移動に気付いた桃香と千里、朋子、小坂先生に彪志親子までやってきて、六畳の部屋に10人も入り、賑やかな談笑の輪が出来て24時近くまでその部屋は明るい声が絶えなかった。
 

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