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(c)Eriko Kawaguchi 2013-03-08
その日和実が友人の梓と一緒に地下鉄に乗っていたら、梓が突然変な顔をした。ん?という感じで和実が梓を見ると、梓が目で合図をする。和実がそちらの方に目をやると梓の後ろに立っている背広を着た男性が梓のお尻を撫でていた。和実は素早く、その男の腕を掴んだ。男があっという顔をしている。男は振り解こうとしたが和実が腕の急所を指で押さえているので、振り解けない。
「な、何だよ。何するんだ?」と男。
「何するんだはこっちの台詞でしょ、痴漢のおじさん。警察呼ぶ?」
「俺は何もしてないぞ」
と言うが、男はかなり焦っている様子。周囲の視線が降り注ぐ。
梓に「どうする?」と訊くが「荒立てなくてもいいよ」などと言う。
「そういう態度が痴漢を蔓延させるんだけどなあ」と和実は言うが、本人がそう言うのであれば仕方無い。
「じゃこうしよう」と言って、和実は思いっきり男の股間を蹴り上げた。
「うっ」といううめき声をあげて男がうずくまった。そしてちょうど駅に着いてドアが開いたので「じゃね」と言って男の身体を軽く押すと、男は倒れるようにして電車の外に転げ出た。乗降客がいないのですぐにドアが閉まる。
周囲からパチパチパチと拍手が起きて、和実はVの字を指で作った。
「何かかなり思いっきり蹴り上げなかった?」
「女が男の股間蹴るのは正当防衛だから、梓も覚えておきなよ」
「あ、うん」
「特にさっきのはツボに当てたから、あの男、きっと一週間くらい立たないだろうね(一週間で済むといいね)」
「ひぇー」
「でもあそこ蹴られた時ってどのくらい痛いの?」と梓が小声で訊く。
「さあ。私ももうその痛みを感じること無くなっちゃったから分からないや」
と和実も小声で答えた。
「生理痛と金蹴りの痛みは同じくらいではという説もあるけど両方経験できる人がいないから分からないよね」
「うーん。それは永遠の謎だな」
やがて目的の駅に着く。降りて歩きながら話す。
「かなり順調みたいね。手術の跡」
「うん。もうほとんど痛み無いよ」
「新生活にも慣れてきた感じ?」
「うんうん」
「使ったの?」
「ふふふ。土曜日に初めて使ったよ。ちょっと早いクリスマス」
「おお。気持ち良かった?」
「良かった。幸せな気分になったし」
「へー。私も使ってみたいなあ。どこかに彼氏落ちてないかな。私今年もまたシングルベルだよ」
「私もシングルベルだよ。淳とは同じマンションで暮らしてるのにめったに会えないんだもん」
「へ!?」
工藤和実は高校時代に友人に誘われ盛岡のメイド喫茶ショコラの男性スタッフのバイトをしようと面接を受けに行き、勘違いなどもありメイドとして採用されてしまった。それまで女装なんてしたことがなかった(公式見解)ので最初は死ぬほど恥ずかしかったものの、その内この仕事が楽しくなり、すっかりのめりこんでバイトの時だけでなく普段でも女の子の格好で出歩くようになり、女子の友人たちの交流も増え、学校にも女子の制服で出て行ったりするようになった。
高校卒業と共に上京して東京の私立大学に入ったが、ショコラの友好店である東京のメイド喫茶エヴォンに移籍して学費稼ぎのため、やはりメイドとして働き続けた。そして大学には最初から女の子として通学した。約1年経った時、春休みで帰省する途中、女装の会社員・淳と出会い急速に親しくなるが、折しも東日本大震災が発生。和実は仙台で被災する。淳はその時青森に居たが、避難所で食べるものが無いと言う和実のため、リンゴ園を経営している伯父から提供された大量のリンゴを避難所まで運ぶ。そしてこれがきっかけで和実と淳は被災地に食糧や物資などを運ぶボランティアを始めた。
このボランティアの話は和実が勤めるメイド喫茶の客たちの共感を呼び、多数の寄付が集まる。和実はエヴォンの店長や同僚の麻衣などとともにボランティア・グループを組織し、2011年の年末まで約10ヶ月間の被災地支援活動を続けた。
12月31日で支援活動を終え、都内で姉の胡桃および淳とともに初詣に出た和実は「私、今年性転換手術受ける」と言い出す。震災を経験したことで、和実は自分の中の何か大きな枠組みが変わってしまった気がした。そして自分は女として生きるのだという気持ちを固めたのであった。
和実は震災後の6月、ボランティア活動中に唐突に同じような女装者あるいはMTF,MTXの人たちと偶然大量遭遇した(クロスロード)。とりわけ特に若いまだ中学生のMTFで富山県在住の川上青葉、都内で歌手として活動している唐本冬子とは親しくなり、既に性転換手術を終えていた冬子から「さっさと性転換しちゃおう」
などと煽られて淳と共に病院に通い、性同一性障害の診断書を既に2枚もらっていた。
そこで性転換手術をするタイの病院のコーディネイトをしている会社に接触していったんその夏にタイで手術を受けることを決めたのだが、その直後、青葉から(普通は18歳未満では性転換手術を受けられないのに超特例で)富山県内の病院で手術を受けられることになったと聞くと、「いいな、いいな」と言ったので、青葉から「和実もここで受ける?」などと言われて、すぐ富山まで赴き受診。和実のケースはとても特殊なので、ぜひ治療させてという医師の話に乗り、タイの病院の方はキャンセルして、こちらで手術を受けることにした。
一方、震災直後から親密になっていた淳とは、和実が震災のPTSDでひとりでは夜眠れないという症状が出ていたことから淳のアパートに転がり込み同居生活を送る内にやがて将来を誓い合う仲になり、双方の親も認める関係となった。ふたりは、先に和実が性転換して戸籍上の性別を変更した上で結婚しようという話をした。(その後淳も性転換するが、結婚維持のため、淳の戸籍上の性別は敢えて変更しない)
その淳は、会社には男装で出て行き、家に帰ると女装に戻るという二重生活をしていたものの、ちょっとしたきっかけで会社が女装での勤務を認めることになり、完全女装OL生活に移行した。それと時を同じくして和実はメイド喫茶の新しい支店の店長に任命される。和実は7月に性転換手術を受け、体力回復のためしばらく休職した後、9月に新規オープンする銀座店の店長(店内での呼名はチーフメイド)になることになった。
2012年7月24日。和実は胡桃と淳に付き添ってもらい富山に行き、手術を受ける病院に入院した。ほんの6日前に青葉がこの病院で性転換手術を受けたばかりで青葉自身もまだ入院していたのだが、気功師である青葉は自分で手術跡を治療し、もうすっかり元気であり、隣の病室になった和実を見舞いに来てくれた。
「手術受けたらすっごく調子いいよ。和実も手術終わったらきっとすっきりするよ」
と青葉は笑顔で和実を煽る。
「来る途中の新幹線の中ではまだ少し不安があったけど、青葉のその笑顔見たらもう今すぐにも手術されたい気分になっちゃう」
と和実。
するとその会話を聞いていた執刀医の松井医師は
「あら、今すぐ手術室に運び込んで切っちゃおうか?」
などと言い出す。
「あ、いえ。予定通り明日でいいです」
と和実は慌てて言う。この医師はとにかく人間の身体を切り刻むの大好き、おちんちんを切り取るのも大好きと公言している「ちょっと危ないお医者さん」
である。
「先生、アメリカでもそんな感じで手術してたんでしょ?」と青葉が訊くと
「うんうん。手術の付き添いで来てた父親をうまく乗せて、速効で手術室に運び込んで、性転換しちゃったこともあるよ。1日で father and son からmother and daughter にしちゃった」
などと言っている。
淳も松井医師から随分「あなたも一緒に切ってあげようか?」などと言われてかなり心が揺れていた感じであった。
「でも和実ちゃんの子宮、なかなか写らないわねえ」
と松井医師は悔しそうに言う。
和実はこの病院に初めて来て受診した時、MRIで検査されて子宮や卵巣が映像に写った。更に染色体を調べるとXXだった。それであなた半陰陽なのでは?と言われたのだが再検査するとそのようなものは写っていなかったし染色体もXYだった。
和実は昨年関東方面の病院に性同一性障害の診断書をもらいに行った時も、受診した2つの病院でいづれも子宮が体内撮影で画像に写った。結果的には再検査ではそのようなものは写らなかったので「他の人の画像と間違ったようだ」
ということになったのだが、松井医師は「この子宮・卵巣は確かに存在する」
と断言した。ただそれが写真に写ったり写らなかったりするのだと言うのである。
そこで和実はそれ以降、交通費などを病院持ちにしてもらって毎月1度この病院を訪れ、MRIや染色体を検査してもらったが、その後1度も子宮や卵巣は写らなかったし、染色体も毎回XYであった。今日も検査されたのだが、同様だった。
「やはり何かの間違いだったのでは?」
「いや。私の長年の医師としての勘が言ってる。あの卵巣や子宮は本当にある、とね。アメリカでもさ、癌細胞が検査の度に見つかったりどこにも無かったりした患者がいてね」
「へー」
「私はこの癌は絶対存在すると主張した。それで手術をした。確かに肝臓の一部が癌に侵されていて摘出したよ」
「うーん。。。」
「和実ちゃんも手術してみたらヴァギナが作るまでもなく最初からちゃーんとあったりしてね」
「あはは、あったらいいですけどね」
「でもさっき青葉ちゃんが言ってたわね。あなた子供が産めるって」
「どうやったら産めるのか分かりません」
「でもあなた、骨盤が女の子の形なんだよね。だから妊娠自体は可能かも」
「ええ。それは前の病院でも指摘されました」
「あなた声変わりもしてないし、第二次性徴期に男性ホルモンが働かなかったんだろうね」
「かも知れませんね」
「その頃から女性ホルモンを飲んでた訳じゃないんでしょ?」
「私、女性ホルモンは飲んだことありませんよ〜」
「ほんとかなあ・・・」
和実は以前の病院でも、またこの病院でも体内の男性ホルモンの量がふつうの女性並みしか無いことを指摘されていた。前の病院では「女性ホルモン飲んでるでしょ?」と言われ、和実が否定しても信じてくれなかった。松井医師は一応信じてはくれたものの、疑惑は感じているようだ。
「まあ、高校になるまで女装したことなかったというのはいわゆる公式見解ですけど、ホルモンの方はほんとに飲んだこと無いんですよ」
「じゃ、やはり睾丸の働きが不全だったんだろうね。まあ明日は取っちゃうから今更どうでもいいんだけどね」
「そうですね」
明日の手術に備えるため、陰毛は全てきれいに剃った。タックも診察のためもあって外している。
和実は病室でふたりだけになった時、淳に言ってみた。胡桃もふたりに配慮して席を外している。胡桃はせっかく富山に来たからちょっと町を見てくるなどと言って、海王丸パークまで出かけて行った。しばらくは戻って来ない。ここは個室である。
「ね、私のおちんちん見せてあげようか?」
それまで和実は一度たりとも、それを淳に見せたことは無かった。服の上から触らせたことが何度かあるだけである。和実は淳の前で自分は女の子でありたいからと言っていた。
「ううん。いいよ。私の前では女の子でいたいんでしょ?」
「でも淳、私のおちんちん見ても、私を男の子だとは思わないよね?」
「和実を男の子だなんて思ったことは一度も無いよ」
「だったら見てもいいよ。私と淳の関係だから。私は淳には何も隠す必要無いし」
「おちんちんも、おっぱいも隠してるくせに!」
和実はバストさえもめったに淳に見せることはない。お布団の中ではいつも触らせているし、乳首を吸ったりもさせてはいるのだが。また和実はそういったことを明るい所でするのを嫌がるから昼間にする時は厚手のカーテンを引く。
「でも今日見なかったら、もう二度と見られないよ。明日は無くなっちゃうから」
淳は迷ってしまった。
「ね、それ立つの?」
「立たないと思うけどなあ。青葉は私の男性能力まだ残ってるとは言ってたけど。これ最後に立ったの、高校1年の時だよ。もう5年間立ったことないから」
「立つかどうか試してみようか?」
「いいけど」
淳は毛布をめくらずに手だけ中に入れ、更に和実のパジャマの中に手を入れる。
ドキッ。
ああ。。。確かに和実って、おちんちんあったのか。
淳はそもそもこれに生で触るのも初めてだ。これまで和実は服の上からしか触らせてくれなかった。しかし、そこには確かに柔らかい突起があり、その向こうには空気の抜けたテニスボールのような物体もあった。和実は触られて少し複雑そうな顔をしている。淳はその柔らかい突起を弄んだ。