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■トワイライト・出発(4)

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朝御飯が終わり、和実に見送られて淳は出かけた。ここは和実の学校へも割と近いので、ここに引っ越して来てからは、淳が和実に見送られて先に出るパターンが多くなった。ほんとに和実は私の奥さんみたい、などと淳は思う。料理もほとんど和実が作っているし。でも可愛い奥さんだよな・・・・
 
そう思いながら、半月ほど前の実家訪問の時を思い起こしていた。
 
淳が結婚を考えていること、実はもう同棲していること、相手は10歳年下の女子大生であること。結婚式を挙げるのは、彼女が大学を卒業してからになるとは思うが、それ以前に入籍だけは済ませてしまうかも知れないことなどまで話したら、淳の父はまあそれでも良いのではないかと言い、母が撮ってきた和実の写真を見せると「凄い美人やん」とご機嫌になった。
 
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「しかし同棲してるなら、早く籍だけでも入れた方がいいんじゃないか?」
「それが今年の秋くらいまでは籍を入れられないらしいのよね」と母。「なんだ?まだ16歳になってないのか?」と父。
「年齢は今20歳よ」
「じゃ、もしかしてバツイチで離婚して間もないとか?」
「ううん。結婚した経歴は無いよ」
「じゃ、なんで?」
「まだこの子、性別が女じゃないのよ」
「は!?」
「今年の夏くらいに性転換手術受けて、手術が終わったら戸籍上の性別も女にするって。そしたら入籍できるようになるのよね」
「何〜〜〜〜!??」
 
父は話にならん、と言っていたらしいが、母からとにかく会ってみてあげてと言われ、電話で淳の兄の恭介からも「あの子、性別はまだ女になってないかも知れないけど、凄く女らしいし、淳平にはもったいないくらい凄く良い子だから」
などと言われると、じゃ会うだけは会うが、そんな結婚絶対に認めないなどと言う。
 
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「でもさ、淳平自身も性転換するつもりなんだって」と母が言うと、父は「はあ?」
と言ったっきり、言葉が言葉にならないようであったらしい。
 
「淳平自身が、今はもうほとんど女として暮らしているのよ」
「そんな話聞いてなかったぞ」
 
「うん。本人の口からはこないだ初めて私も聞いたんだけどね。でも何年も前から私は、どうもそんな感じだなと思ってたよ。だから結婚しないんだろうなって。恭介の方はそもそも女の子にもてないタイプだけどさ。淳平は女の子の友だち、けっこう居たし、これまで恋人も何度か作ってたでしょ。だからあの子23〜24で結婚するかな?とも思ったこともあったけど、結婚しないでここまで来たのは、たぶん、あの子自身が女の子になりたいからじゃないかなって思ってたのよね、私」と母は父に言ったらしい。
 
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「だからさ、この結婚を認めてあげなかったら、あの子、そのまま性転換して女になっちゃって、結婚も一生しないだろうね」
「その・・・和実さんと結婚したら、淳平は男のままで過ごすのか?」
「ううん。たぶん、結婚した後で性転換しちゃうんじゃない?」
「そしたら女同士になってしまうじゃないか」
「それでもこのふたり、構わないみたい」
「俺にはよく分からん話だ」
 
そんな話があった上で、取り敢えず父としても和実の顔を見てみたいという所まで母の説得で辿り着いたということであった。
 
そして淳は2月の下旬の週末、和実を伴って愛媛の実家を訪れた。

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「お初にお目に掛かります。本来でしたら、もっと早く御挨拶に参るべきでしたのですが、遅くなりまして申し訳ありません。わたくし、淳平さんの恋人で工藤和実と申します」
と振袖姿の和実は、きちんと正座して、丁寧に淳の父に挨拶した。
 
「あ、いえ、何かうちの馬鹿息子が随分、お世話になっているようで」
と父の方が、どうも口がまめらない感じであった。
 
「しかし、立派なお召し物ですな」と父は唐突に振袖を褒める。
「和実は自分で振袖が着れるんだよ。最近の子では珍しいでしょ」と淳は言う。
「それは立派ですね。美人だし。声も女性の声にしか聞こえないのですが」
 
「和実は声変わりしなかったんだよ。たまにいるんだよね。こういう子が。元々男性ホルモンとかが弱かったみたいで。肩もなで肩だし、ウエストはくびれているし。身体の脂肪の付き方も女性的なんだよね」
「その・・・おっぱいもあるのか?」
「はい、Dカップのブラジャーを付けてます」と和実はにこやかに答えた。「父ちゃん、何聞いてるのよ?」と母がたしなめた。
 
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「お前たちが、淳平の相手は男だというから、野太い声でしゃべって、がさつな動きをするオカマを想像していたら、声は可愛いし、動作も上品な、立派なお嬢さんじゃないか」
などと父は人のせいにするような発言をする。
 
「和実は小さい頃、おばあさんにかなり厳しく躾をされたみたい。だから、礼儀作法の基本ができてるんだよね。今時の若い子で、畳の縁を踏まずに歩ける子はそうそういないよ」
「何か淳平にはもったいないような人じゃないか」と父。
「だから、私もそう言いましたよ」と母。
 
結局、父もそんな感じで、実物の和実を見て、少なくともふたりの結婚に反対はしない感じになったようであった。
 

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お昼頃に父の姉2人がやってきて、挨拶をし、一緒にお昼を食べた。仕出しを取っていたのだが、きれいな振袖をきちんと着こなし、銘々膳に置かれた料理を、きれいな箸の持ち方で、上品に食べる和実の様子を見て、ふたりの伯母さんたちも、和実を気に入ったようであった。
 
和実がまだ完全な女性ではなく、この夏に性転換手術を受けて、その後性別を女性に変更した上で淳平と結婚する計画であることも言ったのだが、ふたりとも「これだけ美人なら、生まれながらの女性でなくても構わない」「30歳過ぎたら結婚してくれるというだけでありがたい」などと言って、和実のことを認めてくれた。
 
「だけど、淳ちゃん、私はあんたの方が女の子になっちゃうのかと思ってたよ」
とひとりの伯母さんは言った。
「あ、いえ、僕は結婚した後で性転換するつもりです」
「あら。でも淳ちゃんのおちんちん無くなっちゃったら、和実さん困らない?」
「大丈夫です。女同士でもちゃんと楽しめますから」
 
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「ああ、そういうのもいいかも知れないわね。男は出したら終わりだけど、女同士って一晩中でも楽しめるって聞いたことあるわ」
 
ふたりの伯母さんは、性別問題で文句を言う親戚がいたら、自分たちが味方になってやるからと言った。
 
何やら援軍が増えて、淳も和実も頼もしい気持ちになることができた。
 
「ね、ね、和実ちゃん、温泉に行こう」
と伯母さんたちは言い出した。
 
「えっと、和実ちゃん、お風呂に入れるのかしら?」
と母が心配したが、和実は
「あ、大丈夫ですよ。私、高校2年の3学期以降、女湯にしか入ってませんから」
などと言うので、伯母さんたちも、
「へー、凄いね。もうその頃には女の子の身体になってたんだ!」
と感心した。
 
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結局、淳と和実、淳の両親、それにふたりの伯母さん、と6人で道後温泉まで出かけて行くことにした。和実は振袖ではさすがに温泉に行けないというので、普通の服に着替えたが、また「可愛い!」「まだ高校生みたい!」などと言われていた。
 
2台の車に分乗し、淳と父が運転して温泉まで行く。到着してチェックインする。伯母さんたちは女湯、淳の母も女湯、和実も女湯、淳の父は男湯である。
 
「あれ?淳ちゃん、そこで何やってるのよ?」と伯母さん。
「いや、その僕はえっと・・・・」
「淳、一緒に女湯に来ようよ。女湯に入れる状態でしょ?今」と和実。
「うん、まあ・・・」
「あら、淳ちゃんも女の子の身体になってるんなら、こちらにいらっしゃい」
ともうひとりの伯母さんが腕を引っ張る。
 
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「いや、ちょっとまずいよ」と淳は抵抗する。
「少なくとも、もう男湯には入れないよね、淳の身体では」と和実。
「うん。係の人が飛んできて、女性は女湯に入ってください、って言われると思う」
「じゃ、最初からちゃんと女湯に来ようね」
「分かった」
 
淳はかなり迷ったものの、伯母さんたちや和実にうまく言いくるめられて、結局女湯の暖簾をくぐった。淳の母は笑っていた。結果的に男湯に行ったのは淳の父だけであった。
 

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脱衣場に行くと、和実はさっさと服を脱いで裸になってしまう。淳の母からも伯母さんたちからも
「きれいな身体してるわね!」
と褒められていた。
 
「モデルさんができるみたいな細さじゃん」
「いえ、実は私、細すぎて、ヨーロッパだとモデルになれないんですよ。日本でなら規制がまだできてないから、できますけど」
「そんなに細いんだ! 特にこのウェストのくびれが凄いもん」
 
「くびれすぎないように注意してます。これ以上くびれると、今度は美しくなくなってしまうので」
「すごーい」
「おっぱいも大きいね。シリコン?ホルモン?」
「ちょっと違います。特殊な方法で大きくしたものです。淳さんのおっぱいもですよ」
と和実が言うと、伯母さんたちは
「淳ちゃん、さっさと脱ぎなさい」と言う。淳はまだもじもじしてた。
 
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「淳、女湯に入るの初めてじゃないじゃん。開き直りなよ」
「うん」
と言って、淳はやっと脱ぎだす。
 
セーターを脱ぎ、ポロシャツを脱ぐと、淳の胸の膨らみが顕わになった。「淳、お前、かなり胸があるじゃん」と母から言われる。
「これ以上は大きくならないように、いったん停めてる。これ以上大きくなったら、男として会社に行けなくなるから」
「女として行けばいいのに」と伯母さん。
「私も唆しているんですが、まだしばらくは『男性会社員』を続けたいみたいです」
「こんなに、おっぱい大きくしておいて、それはもう無いわよね」
「いやちょっと・・・」
 
ズボンを脱ぎ、それからTシャツを脱ぐ。ブラとパンティーだけの姿になると、充分もう女性の下着姿である。
 
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「パンティ、膨らんでないわね。もう取っちゃったの?」
「いえ、まだ付いてますが隠してます」
「あら、淳ちゃん、女の子みたいな声」
「だって、ここで男の声は使えませんよ」
「へー、どちらの声も出るんだ? 和実ちゃんも両方出せるの?」
「いえ、私は男の子の声は出せません」と和実。
 
周囲を見回したりしながら、おそるおそる淳はブラジャーとパンティを脱いだ。
 
「なるほど。和実ちゃんの体型の良さが分かるわ」
「淳ちゃん、少しダイエットしようか。お腹の肉が余ってるよ」
「反省してます」
 
「でも付いてないみたいに見えるわね」
「私のと同じ方式で隠してます」と和実は言った。
 
「まあ、そこら辺にこのくらいのおばちゃんは幾らでもいるわ。さあ、中に入ろう、入ろう」
と言って、一行5人は浴室の中に入った。
 
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身体を洗ってから浴槽に入り、5人で固まって話したが、会話は盛り上がった。
 
2人の伯母さんが物凄く話し好きで、それに和実がよく合わせているので、話はとめどもなく展開していく。淳の母もそれにあわせていろいろ相槌を打ち、淳も時々は会話に参加するという感じで、湯船の中で笑いが絶えない。
 
おそらくは1時間以上話していたのではないかというくらいになってから、
「まだ話したりないけど、いったん上がろうか」
ということになり、外に出て、身体を拭き、服を着た。
 
「だけど東京で暮らすんでしょうから、しょっちゅうは会えないけど、こちらに来た時はまた一緒に温泉に来ようね、和実ちゃん」
と伯母さんたちは言った。
「はい、ぜひ御一緒させてください」と和実。
 
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脱衣場を出て休憩室の方に行くと、淳の父がビールを3本ほど開けた様子で、待ちくたびれていた。
「あら、あんたお酒飲んだの?」と淳の母。
「お前ら、いつまでも出てこないから暇をもてあました」と父。
「ドライバーが飲んじゃいけないじゃん」と母が怒ったように言うが、「あ、帰りは淳さんと私が運転するから大丈夫ですよ」と和実が言った。
 
「あら、和実ちゃんも運転するの?」
「中型免許を去年一緒に取りに行ったんです。だから10トン車でも運転できますよ」
と淳は言った。
 
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