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1時間ほどお茶を飲みながら話していたのだが、その席で母と和実が、かなり意気投合した感じであったので、そのまま少し散歩したあと、自宅マンションに母を連れて行き、和実が夕ご飯を作って、ちょうど帰ってきた胡桃も入って4人で一緒に晩御飯を食べた。
「淳平さんのお母様ですか。御挨拶が遅れまして申し訳ありません。和実の姉で胡桃と申します」と胡桃は丁寧に挨拶した。
「いえいえ、こちらこそ、淳平がお世話になっておりまして」と母。
胡桃が石巻で被災して、勤めていた美容院が津波の直撃で全員死亡したものの、彼女だけたまたま遅めのお昼御飯に出ていて助かったと言うと、それは大変でしたね、と母は言った。
「ああ、じゃ、今は3人で暮らしているのね」
「はい。私、実は和実が男の人と付き合っているというので、えー!?と思ってちょっとこの子たちを監視しようと思って、一緒に暮らし始めたのですが、ふたりが凄く仲がいいし、お互い、同じ境遇なのでよく理解しあえてるみたいで、これなら、このふたりのことを認めてあげていいかなと思って」
と胡桃が言った。
「同じ境遇?」と母が訊くが、淳平は『あっ。。。』と思った。
「ええ、ふたりともMTFって言うんですか? 女の子になりたい男の子で」と胡桃。「あんた、女の子になりたいんだっけ?」と母。
「ごめん。それも言ってなかった。僕も、会社に行く時以外はだいたい女装してる」
と淳平は今更ながら説明した。
「あんたね・・・・」
と母は言ったまま絶句していたが、やがて少し思い直したように、
「あんた、自分もそのエムティー何とか? なんだったら、和実さんの性別のことだけ言うのは、卑怯じゃない」
などと言い出す。
「あ、えっと・・・・」
「和実さんの性別のこと話す前に、自分の性別のこと話しなさいよ」
「ごめん」
「でも確かにあんた、よく私のスカートとか勝手に穿いたりしてたよね」
「うんまあ」
「この子、女の子になりたいのかな、とかはチラっと思ってたよ」
「うん。僕も物心付いた頃から、女の子になりたかった」
「ずっと結婚しないのも、そのせいなんだろうなと思ってたけど、結婚すると聞いて、やっぱり男の子に戻ったのかなと思ったら、相手の人が男だって言うから、ひょっとして、あんたはその人のお嫁さんになるつもりなのかと思ったりもしたけど、和実さん、凄く可愛い女の子で、じゃ、やはりあんたは男として結婚するのかと思ったら、やっぱりあんた自身も女の子になりたいって、私は全く訳が分からないわ」
「だから、このふたり、両方ともウェディングドレス着て、結婚式挙げたいみたいです」と胡桃。
「そんな結婚式、挙げさせてくれるんだっけ?」と母。
「一応、表向きは僕がタキシード着て、和実がウエディングドレス着て、結婚式挙げるつもり。戸籍上の性別も、和実は手術が終わったら女に変えてしまうけど僕は手術を受けるにしても受けないにしても、戸籍は変えないつもり」
「なるほど。それなら戸籍上は男女だから、結婚できるわけね」
「実態はレスビアン婚なんだけど」
「はあ。。。まあ、あんたのことは最初から諦めてたから、結婚してくれるのなら、そういうことでもいいわ。和実さん、とってもいい子だし」
と母は多少投げやりな感じで言った。
「でも、私はあんたたちふたりのことを認めてあげるよ」
と母は笑顔になって言った。
「ありがとう、お母ちゃん」
「ありがとうございます」
「でも、私、あんたたちのことを何て父ちゃんに言おうかね」
そんなことを話しているうちに和実が肉じゃがを仕上げてテーブルに運んで来る。
「美味しい!」と母は言った。
「あなた、料理上手なのね」
「高校時代は、母と1日交替で夕飯作ってましたので」と和実は微笑んで言う。
「わあ、ちゃんと花嫁修業してたのね」
「はい」
「淳平は料理、適当だよね」と母。
「そうだね。和実に比べるとレパートリー少ないよ」
「じゃ、やっぱり、和実さんの方がお嫁さんなのかな」
「はい、淳さんのお嫁さんにしてもらえたらと思ってます」
「うんうん」
と母は美味しい肉じゃがが食べられて、満足のようであった。
「で、実際、あんたたち、いつ頃、結婚するつもり?」
「和実が大学を出てからのつもり。それまでは学業優先。和実は大学院まで行くつもりのようなので、あと4年かな。でも先に籍だけ入れてしまうかも」
「だって、あんたたち、既に一緒に暮らしてるんだから、籍は早めに入れちゃったほうがいいよ。赤ちゃんできてから慌てて入籍とかはやめてよね」
「あ、ごめんなさい。私、子供産めません」
「あ、そうか! あなたがあんまりふつうに女の子だから忘れてた。性転換手術しても、子供が産めるようになるわけじゃないのね」
「お母さんに孫の顔を見せてあげられなくて御免なさい。私、子宮や卵巣が無いから」
「うん、まあそれはいいわ。恭介の方も結婚する気無さそうだしなあ。でもしょうがないね。結婚してくれるだけ、あんたの方がマシなのかも」
「済みません」
「でも。。。。和実ちゃん、ほんとに赤ちゃん産めないの?」
「えっと・・・」
「何でかな。。。。私、和実ちゃんを最初見た時に、一瞬、和実ちゃんが赤ちゃんを抱っこしている姿が目に浮かんじゃって」と母。
「この子、何かの間違いで赤ちゃん産んじゃうかも知れないですね。この夏に知り合いの霊能者さんに会った時、このふたりの間には子供ができる、なんて言われたんですよね」
と胡桃が笑って言った。
「へー。霊能者さんに言われたんなら、ほんとにできたりしてね」
と母も笑顔で言った。
「うーん。変に期待されても困るんだけどなあ」
と和実は頭を掻いていた。
「お母ちゃん、和実が子供を産めなかったとしても、僕たち多分養子か何かもらって、子育てはすると思うよ」
と淳は言った。
「うん、まあ、それでもいいけどね」
と言いながらも、母は少し楽しそうな顔をしていた。
食事の後でもお茶を飲みながら、和気藹々と話は続き、母はその夜のサンライズ瀬戸で帰郷した。
和実は後部座席でかなり熟睡していたが、宇都宮付近まで来たあたりで起きて、あれこれ話しかけてくるようになった。元気そうなので、運転交替することにし、大谷PAで休憩してから、交替した。淳は助手席で少し仮眠させてもらった。
淳は眠りに就きながら、この1年のことを思い出していた。
きつい仕事が一段落したところでもらった休暇。東北方面に走って行く途中で偶然和実を拾った。同じMTF同士ということで意気投合し、一緒に金華山と松島に行った。和実が石巻の姉の所に行き、自分は青森に行き、そして地震に遭遇した。和実がmixiに「取り敢えず無事」と書き込んでいるのを見た時は、本当に良かったと思った。食べるものが無いという連絡に、伯父からもらったリンゴを石巻まで運んだ。
そして一緒に東京に出て、ひとりで寝られないという和実をうちに泊めて、結局そのまま一緒に暮らすようになってしまった。そしてふたりで被災地支援のボランティアを始めて。ふたりだけではできないので協力者を募ったら、たくさん来てくれて。募金もたくさんもらって。自分たちは大企業などの支援活動に比べたら小さな力しか無かったけど、それでも少しは被災地の人たちの役に立ったかな、という自負もある。
みんな頑張っている。でも復興はなかなか進まない。
政府とかの反応があまりに遅すぎるし、制度や法律にこだわって、必要なことをしてくれないことに不満はある。でもとにかく、自分たちでやれることをひとつひとつやっていくしかない。
でも、ほんとにこの1年、いろいろな人との触れ合いがあったよな・・・そんなことを淳は考えていた。
*月*日。
やっとバイトが決まった! 38件目。洋服屋さん。私がちゃんと女の子の声で話せることで、これなら全然問題無しと言われた。やっぱり声の練習頑張って良かったなあ。これでとりあえず学費は何とか払っていける。
制服に着替えて、なんて言われて下着姿のチェックされた感じもする。ヌーブラ入れてるから、一見おっぱいあるみたいに見えるし、下はちゃんとタックができてるから、付いてるようには見えないし、一応「女試験合格」って感じかな。
「あなた胸あるみたいに見えるね」なんて言われてブラの上から触られちゃったし。シリコンの感触って、すごく本物に近いからね。
ああ、でもホントの女体になりたいなあ。今は下着姿でしかパスできないけど、裸でパスできる状態になりたい。
この記念すべき日に、昨日届いた女性ホルモン、3錠飲んでみた。
飲んだ以上、もう男の子は卒業。バイバイ、男の子の身体。
タマも抜いちゃいたいけど、今はお金が無いからなあ。
足とかヒゲとかの脱毛もしたいし。
女の子になるのって、お金がかかりすぎるよ!
*月*日。
学校で職員室に呼ばれて、教頭先生から私の性別のことを尋ねられる。いつも女性のような服を着ているし、トイレや更衣室も女性用を使っているようですが、あなた男性ですよね?などと言われたが、自分では女だと思っていると主張。すると頷くようにして「分かりました。あなたは女子のグループの方に入れておきますから」と言ってもらった。体育も次からは女子の方で受けて下さいと。やった!
バイト1日目。とにかく自分がすべきことを見つけてしていくように心がける。でも、分からないことばがたくさんあって、何人かのお客さんから叱られた。ブックオフに行ったら、服飾用語辞典が1000円であったので買って帰った。分厚いけど、斜め読みしてみよう。
女性ホルモン飲み始めて3日。何か異様にしたくなって、今日は3回も出してしまった。ホルモンバランスが崩れて、したくなってしまうのだろうか?でも、こんなのできるだけしないようにしなくちゃ。だって、私、女の子なのに、男の子の機能なんて使いたくないもん。
タマ取っちゃえば、もうしなくても平気なようになるんだろうけど、それまでは頑張って我慢するようにしよう。
パンティライナーを買ってきたので、しちゃった後、ショーツを汚さないようにするのに貼り付けた。目的外使用という気がするけどなあ。本来の目的でパンティライナーが使える状態に、早くなりたい。
*月*日。
体育の時間、初めて女子と一緒にやる。○江が柔軟体操で組んでくれた。○江にはいっぱい助けてもらってる。お化粧とかもたくさん教えてもらったし。無意識に出ていた男っぽい仕草とかも注意してくれたし。友だちって、ほんとにありがたい。
バイト5日目。かなり慣れてきて、お客さんの対応にも、あまり悩まなくなったし「どちらがお勧め?」なんて聞かれるのにも「こちらがお似合いですよ」とちゃんとお勧めできるようになった。
「そばで見ていても、ちゃんと似合う方を勧めてるよ」と副店長から褒められた。頑張ろう!
今日は鉛筆型の消しゴム買ってきた。直径2cmくらいあるかな。ドラッグストアで買ってきたコンちゃんを付けてゆっくり入れてみた。そしてゆっくりと出し入れしてみた。こんなところにこんなもの入れたのは初めてだけど結構気持ちいい気がする。でも自分の身体にものが入ってくるというのは不思議な感覚だ。ピストン運動って抜かれる時の方が気持ちいいよ、と聞いたことあるけど、私はむしろ入れられる時の方が気持ちいい。これってもしかしたら、女の子だからこそ得られる「入れられてる」という状況に精神的な充足感を感じているのかも知れないけど。
ヴァギナに入れられるのもこんな感じかなあ。早くヴァギナを獲得したい。短大卒業するまでに手術できたらいいけど、さすがにお金貯まらないかな。
*月*日。
今日はコットンの下着セットを付けてみた。いつもはナイロンのばかりだけどこのコットンの下着の感触は優しくていいなあ。
ナイロンの下着って女の子だけのものだから、憧れみたいなのあって、3月以来ずっとナイロンばかり付けてたけど、たまにはコットンもいいかもね。
平日はナイロンで気合い入れて勝負! 休日はコットンでリセット・リラックスってのもいいかも知れない。
でも、こういうふうに色々選択の余地があるのが、女の子のいい所だよね。私、女の子になって幸せ。
東京に戻ってきたのは明け方5時頃であった。もらった開店祝いの品をふたりで一緒にマンションの部屋まで持って行くと、お米を研いで、タイマーで炊飯を掛けてから、ふたりで取り敢えず一緒にベッドで寝た。
6時頃、和実が起きだして朝御飯と淳のお弁当を作り始めた。作っている最中に御飯が炊きあがるので、おにぎりにしてお弁当箱に入れ、淳を起こして一緒に朝御飯を食べた。
「しかしボランティアが終わってからしばらくは東北に走らないのが変な気分だったけど、ようやく慣れてきた気がするよ」
「それでもなんだかんだでけっこう東北には行ってるね」
「美容室の開店準備もあったしね」
「でも和実、この1年でボランティア活動に、かなり自腹切ったでしょ?」
「うん。それはエヴォンの店長もだよ。かなりの持ち出しをしてくれた」
「それで、実家にも家の修理とかにお金渡したみたいだし、今回美容室の会社設立にも実質出資金を出したし、お金大丈夫? もし性転換手術代に足りないようだったら、私出そうか? 私、手術するの、まだ2〜3年先だと思うし」
「えっとね。ギリギリくらい残ってる。たぶん手術受けたらスッカラカンになる」
「スッカラカンはまずいと思うな。お金は何かの時にために少しとっておくべきだもん。やはり、手術代、私が出すよ」
「そうだなあ。借りちゃおうかな」
「うん、そうしよう」
「御免ね。来年くらいにはたぶん返せると思うし」
「返せなかったら、和実の身体でもらうから大丈夫」
「ああ、それもいいな。身体払いかあ」
と和実は楽しそうな目をした。
「淳のおちんちんって、まだ立つの?」
「反応鈍いけど、立つことは立つよ」
「じゃ、私が女の子になれたら、入れてね。私のバージンもらって欲しい」
「うん。もらっちゃう。でも手術してすぐは入れられないよね」
「たぶん半年くらいは待たないといけないかも」
「じゃ、年明けくらいかな」
「お正月の姫始めに、バージンあげられたらいいかな」
「あ、それ、いいね」