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■萌えいづるホワイトデー(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-04-07〜08
 
和実はこの夏から盛岡市内のメイド喫茶でバイトをしていた。最初は夏休みだけのバイトのつもりだったのだが、ついつい楽しくなって、学校が始まってからも放課後数時間仕事を続けていた。土日には朝から晩まで仕事をしている。それで成績も以前より上がっていたので、両親も特にバイトのことは何も言わなかった。
 
ただ和実は両親には「女装してメイドさんの格好をして」仕事をしていることは隠していた。毎日家をふつうの男の子の格好で出ては、途中で和実をとても可愛がってくれているチーフの佐々木悠子さんのアパートにより、そこで女の子の格好に着替えてからお店に行き、そこでメイドさんの姿になってお店に出ているのである。
 
メイド喫茶といっても、変なサービスをしたりはしない健全なお店である。コーヒーや紅茶の代金も1杯350円からで、オムレツにケチャップでお客様の名前などをハートマーク付きで描くのも最初から600円のオムレツの料金に入っている。「接待」行為にならないように気を付けて、飲食店営業の形式で運営していた。
 
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和実は最初、この可愛いメイド服を着るのが死ぬほど恥ずかしかった。このお店で仕事を始めるまで、そもそも女装の経験が無かったのである。しかし成り行きでメイドさんの格好をするようになってから、少しずつこの「お遊び」が楽しくなり、今では堂々と仕事をやり遂げている。学生服を着て高校に行っている時も早くこんな男の子の服を脱いで女の子の服を着たいと思っていた。まさにハマってしまった状態である。
 
和実が男の子であることは一応お店のスタッフにはばらしていたし、和実も着替えは女子更衣室ではなく、店長室の隅で素早く着替えていた。しかしお客様には特に言う必要もないということでオープンにはしていなかった。それでもお客様で和実を男の子と思う人はいないようであった。普通に女の子と見られている感じで、そのことも和実を調子に乗せていた。その日、そのお客様が来るまでは・・・・
 
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それは2月初旬のある日だった。和実がここに勤め始めてから4ヶ月半が過ぎていた。
「お帰りなさいませ、奥様」
来店した30代くらいの女性に和実は元気に声を掛けた。実はこの年代の女性に声を掛けるのは難しい。20代くらいであればまだ「お嬢様」と言えるのだが、この年代だとお嬢様と呼びかけるのは失礼である。未婚の可能性も充分あるので難しいのだが、店長はそのくらいの年代なら「奥様」とお呼びして、違っていたら謝ればよいと指示していた。
 
このお客様の場合、特に変な顔はしなかったので、奥様で良かったのかなと思いながら席にご案内する。メニューを出してお決まりになりましたらお呼び下さいとといって席を離れようとしたところで、そばを通り掛かったチーフの悠子が「あら」
とそのお客様に声を掛けた。
 
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「お久しぶりです、渚さん」
「うん、久しぶり、悠子ちゃん」
「あ、済みません。チーフのお知り合いでしたか?」と和実が尋ねる。
「うん。渚さん、こちら私の妹分で、ここのサブの和実ちゃん。メイド名はミケ。和実ちゃん、こちらは私が東京のメイド喫茶に居た時の先輩で、渚さん」
「初めまして、ミケこと和実です。よろしくお願いします」
「うん。よろしくね。でも可愛い男の子ね」「え?」
「ちょっと、渚さん、ここではやめて」
「あ、ごめん。男の子というのは秘密なのね」
和実はちょっとショックを受けていた。これまで男だってバレたことは1度も無いのに。この人はちょっと見ただけで見破った。何かミスした?
 
「渚さん、私のおごりにしますから、ちょっと事務室の方でお話しません?」
と悠子が助け船を出した。
「じゃ、キリマンジャロブレンド1杯とオムレツ。ミケちゃん?オムレツはあなたが作ってハートに『Love』と書いて」
「はい、かしこまりました、奥様」
和実は気を取り直して調理場に行き、コーヒーを入れながらオムレツを作りできあがったところで事務室に持って行く。
「奥様、お食事ができました」と言ってから
ケチャップで、ハートマークにLoveの文字を書いた。
「おお、可愛い文字。女子高生風の文字ね。練習した?」
「はい、鍛えられました」
「オムレツの形も美しいし」と渚は和実を褒めた。
 
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「うちの店はエヴォンと同じで注文を受けた子が自分で調理してお出しするシステムですが、この子、料理とかお菓子作りのセンスが凄くいいんです。ですから難しい料理は他の子の分も作るんですよ。オムレツも上手でしょ」と悠子。
「うん。柔らかさも絶妙。卵料理って、火加減や調理時間を
ちょっと変えるだけで、食感がぜんぜん変わっちゃうから」
「ありがとうございます」と和実は少しホッとして答える。
「うん。コーヒーも美味しい。86度くらいの抽出かな?」
「エヴォンは温度計使ってましたが、ここは店長の方針で使わないんです。めんどくせーっと言って。でもだいたいそのくらいの温度だと思いますよ。ところで渚さん、こちらは旅行?」
「うん。それで盛岡に来たところで、たしか悠子ちゃんがこっちのメイド喫茶にいたんじゃないかと思って。名前分からなかったけど、情報誌見たらメイド喫茶ほかに無かったからすぐ分かった」
 
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「あの、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、なぜ男の子と分かったか?ふつう分からないわよね。あなた元々が凄く可愛いし、きれいにそのメイド服を着こなしているし、声も女の子っぽい。その声は練習したの?」
「いえ、もともとこんな声です」
「ふーん。女の子やる素質があるんだなあ。でもね、とっても残念なことがあって」
「それを教えて頂けますでしょうか?私、頑張って直します」
「うーん。直すの難しいと思うけどな。それは雰囲気よ」
「雰囲気?」
「そ。あなた、どんなに可愛く女の子の服を着ていても、あなたの持っている雰囲気が男の子なの。だから私最初から、あなたを男の子としか思わなかったわ」
「それってどうすれば出るんでしょう?」
「女の子の雰囲気出すのはいいけど、出せるようになったら、もう戻れないかもね」
 
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「戻れない?」
「そ、女の子の雰囲気が出るほどだったら、きっともう男の子には戻れない」
「ちょっと、渚さん、やめて。この子、私の大事な妹分なんだから」
「まあ、やるかどうかは本人次第よ。基本はね、自分が女の子だと完全に信じること。それができたら、あなたの身体から女の子のオーラが出て、たとえ男の子の服を着ていても、女の子だと思われる。ね、考えてみて、あなたの同級生の女の子が学生服を着ていたとして、その子が男の子に見えると思う?」
「あ・・・・・」
「でしょ。女の子は男の子の服を着てても女の子に見える。男の子も女の子の服着ていても男の子に見える」
「でも、私が男の子と見破ったの、渚さんが初めてです」
「見た目にけっこう意識が左右されるからね。バレてなくても、みんな微妙な違和感は感じていたと思う。慣れてないとその違和感の正体が分からない」
「だって渚さんは特別だもん」と悠子が困ったような表情で言う。
「特別?」和実がきょとんとして訊く。
「私、もと男だからねえ」
へ?
 
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「同類だから勘が働くのよ」と悠子が言った。
「男の方なんですか?」
「元ね。今はもう女になっちゃったけど」
「ああ、全部終わっちゃったんですね」「終わったって?」
「うん。戸籍も修正完了」「ああ・・・」和実もそのくらいは意味が分かった。
「まだ私のいたメイド喫茶にいた頃は、男の人だったのよ。でも胸は大きくしてましたよね」
「うん。タマも取っちゃってたけどね」
「タマ?」和実は一瞬意味が分からなくて尋ねてしまった。
「睾丸よ、あなたにも付いてるんでしょ?」
「あ、はい」和実は真っ赤になってしまった。
「ふーん。ここで恥ずかしがるのは女の子の素質がある子だわ。純粋な男の子なら『付いてるます』って反発するように言うのよね、ミケちゃん、ちょっとだけ『女の子の雰囲気』体験してみる?」
「ね、お願いだから危ないことやめて」と悠子は言ったが和実も同時に「お願いします。体験させてください」と言っていた。
 
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「ちょっと催眠術掛ける。大丈夫。すぐ解けるようにするから」
「このペンジュラム見てて」
渚は和実を座らせるとバッグから取り出した、コインの付いたペンジュラムを和実の前で振り出した。

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催眠術に掛かった和実が「すみません。何か気分がすぐれないので早引きさせてください」と言って出て行くと、悠子が心配そうに渚に尋ねた。
「ちょっと大丈夫、あれ?」
「大丈夫と思うけどなあ、たぶん」
「たぶん?」悠子が問い詰めるように言う。
「いや大丈夫よ、日が暮れたら自動的に解除されるようにしたから」
と渚は言った。
 
和実はふらふらとした感じで歩いていた。何だか雲の上でも歩いているような感じだった。あれ?僕、メイド服のままお店出て来ちゃった。着替えに戻らないといけないかな。。。でもあまり気分良くないし、このまま悠子さんの家まで行っちゃおう。
 
コンビニを見かける。「St. Valentine」の文字があった。そうか。バレンタイン。あれ?バレンタインって女の子が男の子にチョコ贈るんだよな。ってあれれ?僕、男の子だっけ?女の子だっけ?和実は自分の服装を見た。僕女の子の服を着てる。あ、じゃ僕って女の子だったんだ。じゃチョコ買いたいな・・・」
 
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ふらふらとコンビニに入った和実は2000円の上等な生チョコ1つと300円のシンプルなチョコ3個を買い求めた。やはり本命チョコと義理チョコとよね。。。。あれ?あそこにいるの、3組の紺野君だ。女の子に人気なんだよね、彼。あれれ?私も女の子だから、紺野くんのこと好きになってもいいのかな?
 
和実はふらふらと紺野君のそばによると、「あの、済みません、これ受け取って下さい」といってさきほどコンビニで2000円で買ったチョコを差し出した。彼は突然声を掛けられて驚いたようだったが、「君、可愛い服を着てるね。じゃ、受け取るだけ受け取るね」とにこやかに言った。
「はい、ありがとうございます」
和実は紺野君の笑顔を見ていいなと思い、チョコを受け取ってもらえたことが何だかとても嬉しい気がした。
 
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そのまま紺野君のそばを離れると、悠子の家の方へ歩いていく。向こうからやってくる男子高校生がふたりいた。同じクラスの木村と伊藤だ。あ。同じクラスの子だ。義理チョコくらいあげるかな。そう思うと和実は、ふたりのそばに寄り、「義理チョコだけど、これあげる」といってふたりに1個ずつチョコを差し出した。「え?君だれだったっけ?」とふたりは驚いていたが、「これくれるの?ありがとう」といい、チョコを嬉しそうに受け取った。
 
和実がまだふらふらと歩いていたら、バス停で待つ母子がいた。
「ね。大丈夫だから行きましょう。先生が待ってるわ」
「いやだもん。痛いこといろいろされるんだもん」
と男の子がぐずっている。どうも病院に行くところのようだが、男の子が嫌がっているようだ。和実はそばによった。
「ね、君、このチョコあげるから頑張りな」といって最後残っていたチョコをその子に渡す。「男の子が病院怖がってたらダメだよ」と、笑顔で言った。「うん」男の子はこちらに顔を向けながら言った。その視線が変な感じがした。「この子、目が・・・・」と和実は母親の方に向かって言った。
「ええ。目が見えないんです。でも今回の手術受けたら回復するかも
知れないのですが」
「じゃ頑張ろう。きっと君の目、見えるようになるよ。頑張るってお姉さんと指切りしよう」「うん」
和実はその子と指切りをして頑張れといった。
 
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やがて和実は悠子のアパートに辿り着いた。持っている鍵を使って中に入る。そして・・・・和実はそのまま眠ってしまった。
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