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■萌えいづるホワイトデー(4)

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うーん。やり直しだ。と和実は帰りのタクシーの中で考えていた。
 
渚さんにリードされて(こういうことばを和実は最近覚えた)女の子雰囲気創出大作戦をしてきて、みんなから女っぽくなったといわれて、実は高校に行っている時も友人から「最近カマっぽくない?」と言われるのも気にせず、女の子化の努力をしてきた。どこに行っても女の子としてパス(この言葉も「リード」と一緒に覚えた)すると思っていた。コンビニのボタンチェックも100%赤いボタンを押されていた(コンビニの客層ボタンのことも最近覚えた)。だけど翔太には通じなかった。目が見えないから、勘が強烈に働くんだ。自分が病室に入ってきてからの歩き方、交わした会話、それらの中に男の子の要素を感じたのか・・・・いや違う。と和実は思った。そういう具体的なものじゃなくて、自分があそこにいた時に放っていた、オーラのようなものを感じて、あの子は男の子だと判断したんだ。それってどうやったら変えられる?あの子をがっかりさせたくない。
 
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「あ、すみません。急に用事を思い出して。イオンの盛岡南まで行って下さい」
と和実はタクシーの運転手さんに声を掛けた。
 
何か使えるもの無いかな………和実は専門店街を見て回る。ランジェリーショップで足を停める。ちょっとここに入るのは恥ずかしいな。。。でも普通の人には僕は…あっ……『僕』なんて言っちゃいけない。『私』って言おう………普通の人には私は充分女の子に見えるはず。思い切って中に入る。
 
ブラとショーツのペアになっているので可愛いのがあった。こういうのを付けようとか思ったこと無かったなあ。これまで和実は下着類は悠子が買ってくれるのをそのまま付けていた。幾つか自分で気に入ったのを手に取る。そして和実はヌーブラに目を留めた。あ、これ使えそう!
 
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結局ブラとショーツのセットを5着(花柄2着、星模様、レース、キャラクタ物)と、ヌーブラにバストパッドもいつも使っている丸いものではなく、脇から押し上げるタイプとかを買ってみた。会計をしてメイド喫茶に戻る。
 
「あ、サブチーフ良い所へ。今日はお客さん多いです」と和奏が悲鳴をあげた。「ごめんね」と言って和実は店長室に飛び込むとその隅に置いてある衝立の影で手早くメイド服に着替えた。店長はお客様と何か話をしていた。「失礼します」
と言って出る。
 
3日間、学校を休もうかとも思ったのだが、渚さんが女の子が学生服を着てたって女の子に見えると言っていたのを思い出し、学校にはちゃんと行くことにした。しかし女の子の雰囲気を作るために今までと違った日常を過ごしてみた。
 
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これまでお店に出る時だけしていた股間の処理(この頃まだ和実はタックということばを知らなかった)は、3日後までずっとしたままにしておくことにした。3日間はヒゲの処理をしないことにした。股間の処理のためにあれに触ったり、ヒゲを処理すること自体で意識が男に戻ってしまう。ヒゲはそのくらいの期間は処理しなくても大きな問題はないことに和実は既に気付いていた。ヌーブラを胸に貼り付けてその上からブラジャーをした。もちろんそのままで学校にも行く!
 
それまでは学校に行く間は、自分があまり女っぽく見えないようにしようとしていたのだが、むしろ「私は女の子だもん♪」という感じにして、堂々と行動した。なお、学校でのトイレは実は2学期以降個室しか使っていなかった。
 
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クラスメイトで小学生の頃からの友人でもある梓が「ね?和実、性転換した?」
と言ったが、和実は「さあ、どうかしら?」と微笑みながら女の子っぽい声で答えた。この日以降、和実の性別疑惑が校内に広まっていくのだが、和実がそのことに気付いたのはかなり先のことである。
 
和実は今自分が男の子か女の子かというのを判別する方法として、ペンジュラムを使うことを思いついた。思えば1ヶ月前に渚さんにペンジュラムを使って催眠術を掛けられたのだが、ペンジュラムを使った占いなどで恋の可否を縦に振れるか横に振れるかで判断するものがあることを思い出した。この時ペンジュラムがきちんと反応しているかどうかを確認する方法として、最初に「私は女の子です」
などと心の中で言ってみて、それに対してペンジュラムがちゃんと自分の性別に合う振れ方をするかで確認するというのがある。
 
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そのことに思い至ったので和実は翔太と会った日の夜、お店の仕事が終わってからまだ開いていた100円ショップに飛び込むと、可愛いハート型のローズクォーツのペンジュラムを買ってきた。早速「私は女の子です」と心の中で言いながら揺らすと、ペンジュラムは「NO」を示した。くそぉ、正直者め。
 
しかし翌日から「完全女の子生活」をはじめた所、翌日の夕方くらいから、ペンジュラムはこの質問に対して迷うような動きを見せるようになった。しかしちゃんと横には振れてくれない。
 
まだ足りない・・・・この状態ではまだ翔太には会えない、と和実は思った。
 
13日の日は、高校で女の子たちの会話の輪に飛び込んでみた。いつも女の子の服を着ているし、お店で同世代の子たちがアイドルの話などをよくしているので、和実はファッションの話題など、ふつうにクラスメイトの女の子たちの会話にも混じることができた。輪に飛び込んだ時には一瞬彼女たちの間に緊張感が走るのを感じたが、和実が他の女の子達と変わらない雰囲気で話しているので、みんな次第にふつうの感じに戻っていった。話題がパンティライナーの話に及んだ時、和実が「私、ロリエのスリムが好き。肌触りがソフトで」などと発言したものだから、さすがに「使ってるの!?」と驚くような声が上がった。
 
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「えへへ」と和実は答えを曖昧にしておいた。実はショーツの前の方を汚さないようにするためにパンティライナーを愛用しているのであった。マチの部分以外にシミがつくのを和実は許せない気分だった。これは今回の女の子大作戦を始める前からである。しかしこのロリエ発言で、更に彼女たちの警戒心が解けてしまった感じであった。そもそも和実はよく「声は女の子だよね〜」などと言われていた。しかしこの頃からクラスメイトの女子達の間で「和実ってまさか本当の女の子?」
という疑惑が色濃くなっていったのであるが・・・・
 
13日の放課後。悠子のアパートでいつもの通勤用の女の子服に着替えたあと、ペンジュラムを揺らしてみた。かなり横に揺れる気がする。でも揺れ方は楕円を描くような感じで、完全に横一線の揺れ方ではない。明日なのに・・・・和実は初めて焦りを覚えた。
 
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和実はその日、悠子が手が空いている時を狙ってこの問題を相談してみた。「それで一昨日あたりからまた急に女の子っぽくなったのか!」と悠子は納得したような顔で答えた。悠子はこれ以上やると和実がほんとに男の子に戻れないんじゃないだろうかと心配し、ブレーキを掛けるべきかと一瞬悩んだが、それは明日翔太に会ってからでもいいと思い直した。
「じゃ、これお守りにあげる」といって悠子は携帯に取り付けていたキティちゃんのストラップを外して渡してくれた。「ちょっと傷んでるけどね」
「これ、とても大事にしていたものでは?」
「これね、私が高校生時代に親に連れられてピューロランドに行った時に買ってもらったものなの。当時はうちの旅館、景気よかったし、番頭さんがしっかり管理してくれていたから、旅行に出かけることもできたんだよね。でもその番頭さんが亡くなったあと、うちの父も母も経営のセンスがいまいちで急速にさびれちゃって。それで私も東京の大学3年まで行ったところで学資がもたなくなって中退しちゃったのよね」
 
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「そんな思い出の品を・・・」
「だからあげるの。あとで返しちゃだめよ。もう和ちゃんにあげたんだから」
「はい」
「だって人を思いやる心、それが大事だと思わない?和ちゃんが、その男の子のために頑張ってみようとしているのも、それでしょ。和ちゃんって、もともとそのあたりが凄く優しい性格なのよね。そういう意味では男の子にしておくのもったいないって時々思ってた。私も今和ちゃんのために何かしてあげたい気がしたから、これをあげようと思ったの。だから私の心を受け止めてくれる?」
「はい」
和実はストラップを両手でつかんで胸の所で祈るように持って悠子に礼をした。
 
14日。この日は入試が行われるので学校はお休みだった。最後の切り札と思って和実は昨夜ネグリジェを着て寝ていた。うまい具合に両親は昨夜から親戚の家に法事の相談で泊まりに行っている。姉は早朝バーゲンに行くといって朝早くから出かけていた。和実はゆっくりと7時半くらいまで寝ていたが。起きると家の中に誰もいないことをいいことに、そのままの格好で洗顔をして化粧水と乳液を付けた。そして食卓に座り、鏡を見て「うん、いい感じの女の子」と思い、ペンジュラムを振ってみる。左手には悠子からもらったキティちゃんのストラップを握っている。やった!ペンジュラムはきれいに横に振れた。
 
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と思ったが、すぐにまた楕円の動きになってしまう。
 
うーん。和実は万策尽きた思いだった。翔太に何か言い訳を考えるべきか。いや、負けるもんか。もうこうなったら性転換手術受けちゃおうかと一瞬思ったが、さすがに今日どこか飛び込んで即日そんな手術してくれるところがあるとは思えない。だいたいそんな時間も無い。
 
ホワイトデー。マシュマロ、チョコのお礼・・・・チョコ?
 
その時、突然、和実は「あの人」と話がしてみたくなった。まだ朝だ。たぶん家にいる。和実は学年名簿をめくった。
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