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■萌えいづるホワイトデー(3)

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/,最近和実の雰囲気が明らかに変わってきているのを感じて悠子が心配した。
「ねえ、和ちゃん、男の子とバレたのが悔しいのは分かるけど、あまり女の子化やりすぎると、男の子に戻れなくなるよ」
「心配してくれてありがとう。でも違うの。今回のことで、私、今まで仕事を適当にしてたなと思い至ったの」
「適当?」
「もともとバイト代の高さに目がくらんで、女装くらいいいよね、なんて気持ちで始めたお仕事だったんだけど、コーヒーや紅茶入れるの楽しいし、オムレツとかハンバーグとか作るの楽しいし、最初はちょっと恥ずかしかったけど可愛い服が着れるの楽しく思えてきたし、それでお客様にチヤホヤされるし、ほんとに半ば遊び感覚で仕事をしていたと思うの。でも、お客様はここに束の間の休息を求めていらっしゃってるんだよなということを再認識して、それで仕事している私が、簡単にばれる程度の女装でいいのかと考えたのよね」
 
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「いや、渚さんは特別だから。ふつうはバレないって」
「でもお客様はここに可愛い女の子がいることを期待して来てくださってるんでしょう?別に変な接待はしないけど。でもそこに男の子が混じっていたら、ロシアンルーレットに当たったようなものかなって。だから、ここにいる間は私は完全な女の子になってみせようと思ったの」
 
「うーん。プロ意識を持ってくれるのは嬉しいけど、でもホントに私心配。あなたが男の子に戻れなくなったら、ご両親に申し訳ないし」
「それは大丈夫」
「ほんとに?」
「うん。だって私、ほんとに女の子になりたいと思い始めたから」
「え?」
「お仕事のためじゃなくて、私自身が女の子になりたいから、完全に女の子と見てもらえるように努力するのなら構いませんよね」
「うん。まあ、それは・・・・」
「ね、女の子たち、みんな名前で呼び合っているのに、今まで私だけちょっと遠慮してみんなを苗字で呼んでたでしょ?あれ、名前で呼ぶように変えてもいいかな? とりあえず佐々木さん、名前で呼んでいい?」
「いいよ。呼び捨てにして」
「うん。じゃ、悠子、私がんばるから見てて」
「うん」
悠子は少しごまかされたような気もしたが、何となく和実の女の子作戦を応援してもいいかなという気分になってしまった。
 
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こうして和実の「女の子大作戦」は続いていったが、3週間ほどが過ぎたある日、和実がお店に入ってすぐに、メイド服のままコーヒーの出前に出かけていた菜々美が30代の女性を伴って戻って来た。あら?と和実は思った。その女性に見覚えがあった。いや正確には「思い出し覚え」があった。向こうも和実を見ると「ああ、あなただ!」と言って近寄って来た。和実はにこやかな顔で、「お帰りなさいませ、奥様」と言った。
 
事情がありそうなので、奥のパーティールームで話を聞くことにした。和実がオーダーされたモカコーヒーを持って行くと「美味しい!ここでこんなコーヒーが飲めるとは思ってませんでした」と言った(モカは2008年夏に輸入停止になった。当時は輸入停止前)。
 
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「うちは、本格的な喫茶店志向なんですよ。スタッフも将来喫茶店を経営したいと思っている子が多くて」「もしかしてあなたがいれたの?」「はい、うちの店はコーヒーとかオムレツはオーダーを受けたスタッフが自分で作るポリシーです」と和実は答えた。「すごい。でも変わったお店ね」「でしょ?こんな店はそうそう無いと思います。今の飲食店の流れ、基本は分業ですから。センターキッチンで調理したものが配送されてきてお店では暖めて出すだけなんて所も多いですよね。うちの場合は、ホールスタッフとキッチンスタッフの区別が無くて、その代り入店してしばらくは徹底的に鍛えられますよ。毎日20個はオムレツ作らされる。だから7割はすぐ辞めちゃう」と和実は笑いながら説明する。
 
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「それで何か事情がありそうにお見受けしたのですが」と誘い水をする。女性は熊谷と名乗った。和実も本名を名乗る。
「それでなんですが、うちの息子が明明後日に目の手術を受けるのですが」
「ああ、いよいよなんですね」
こないだバス停で会った日が入院の日だったのだそうだ。
「それで、ちょうどその日がホワイトデーなので、こないだチョコをもらったお姉ちゃんにマシュマロあげたいと言って」
「ああ」
 
「でもどこの方か分からなくて、手がかり無いし。困っていたのですが、先程買い物に出てきたら、ちょうどこないだあなたが着ていたのと同じ服を着ている方を見かけて、それで、これはどこかのレストランの制服かも知れないと思って声を掛けたら、うちの店に来てみますかと言われて、来てみたら、あなたがいたから。それでもしよかったら、空いてる時間がありましたら、病院に来てマシュマロを受け取ってもらえないかと思って」
「いいですよ。今まだ忙しくならない時間帯だから。一緒に行きましょう」
と和実は明るく答えた。
 
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今日はまだチーフの悠子が出てきてないので和奏に「チーフ代行」のグリーンのリボンを渡し、簡単に事情を説明して後事を託し出かけた。
 
病院までは片道10分くらいか。忙しくなる時間帯までには充分戻ってこれるはずだ、と思った。タクシーで病院に乗り付ける。病室に行くと、こないだの男の子がベッドに座って画用紙に絵を描いていた。和実が覗いてみると、ロボットのイラストができかけている。
 
「これは・・・・」
「この子、手の感覚だけで絵を描いてるんです」
「すごい」
「クレヨンは毎回同じ場所に収納するから並びで色が分かるみたいです」
 
「あれ、お客さん?」と男の子が訊いた。
「こんにちは、翔太くん、頑張ってる?」と和実は笑顔で声を掛けた。すると意外な答えが返ってきた。
「あれ?こないだチョコをくれたお姉さんの、お兄さん?」
なに?なぜそうなる?
「えっとどうして、あの子のお兄さんと思ったの?」と和実は冷静に尋ねた。
「だって、こないだのお姉さんと声がとっても似てるし。でも、お兄さん、男の人でしょ。だからあのお姉さんのお兄さんかなと思ったんだよ」
「すごいね、君。こないだチョコをあげた子は女の子と思った?」
「うん。女の子だったよ」
「ごめんね。あの子が遠くに行ってて来れなかったから、今日は代わりに僕が来たんだ。でも手術の日までには、あの子戻ってくるから、その日に必ずここに来させるよ。だから頑張ってね」
「うん」
翔太は元気に答えた。母親の方は何がなんだか訳が分からない様子でいる。和実は母親に「3日後の朝にまた来ます」と言って病室を出た。
「あ、これを」と言って、母親は和実に帰りのタクシー代にと5000円札を渡してくれた。
 
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