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■萌えいづるホワイトデー(5)

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目をつぶり「女の子、女の子、女の子」と自分に言い聞かせてダイヤルを押した。3回コール音があって、向こうの受話器が上がった。うまい具合に本人が出た。
 
「おはようございます。すみません。私、先日紺野君にチョコを渡したものなんですが」
「ああ、黒いシックなドレス、白いレース付きの服着ていた子でしょ?」
「はい!覚えてくださってたんですか!」
「すごく可愛い声だったから覚えていたよ。チョコも美味しかったよ」
「わあ、食べてくださったんですか!ありがとうございます。あの、ちょっとだけお話していいですか?。あの、その、付き合ってとか、そんなんじゃないですから」
「ん?いきなり自分を引いちゃうの?」
「え?」
 
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「チョコをくれたのは僕のこと好きだからじゃなかったのかな?」
「あ・・・」
和実はもう顔が真っ赤になっていた。
「君って凄く優しい性格っぽいね。声を聞いただけでそれを感じる。でも、自分の気持ちはちゃんと伝えないと、幸せをつかむことはできないよ。幸せって勝手に飛び込んでくるものじゃないから」
「そうですよね」
「優しい人ってしばしば自分に自信が無いんだけど、自分に自信を持った人の優しさこそが本当の優しさだと思うんだ」
和実はまさに自分の心の構造の問題点を指摘された気がした。
「じゃ、わたし主張します。紺野さん、付き合ってください」
和実はチラッと自分は何言ってんだ?とも思ったが、しかしその時、自身が彼のことをすごく好きだと思ってしまったことも認識していた。
 
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「うん、言えたね」
「はい。言いました」
「ここでOKできたらいいんだけど、ごめんね。僕は心に決めた人がいるから」
「はい。私玉砕したんですね」
和実は涙が出てきた。
 
「でも告白しなかったら玉砕できなかった。何もしない人は玉砕もできない」
「ほんとですね」
「だから、失敗してもいいから人は挑戦すべきなんだよ」
和実はその時紺野のことばにほんとうに感動していた。
 
「ありがとうございました。失礼します」
「あ、君、名前だけでも教えて」
「はるかです」
和実は突然頭の中に「降りてきた」名前を名乗って受話器を置いた。
 
しばらく涙が出ていたが、和実はそれをそのままにしておいた。
そうだ。自信を持とう。私って『女の子に見える』男の子じゃない。
私は『女の子』なんだ。
失恋したてだけどね・・・・和実は実は男の子としても恋愛をしたことがなかった。これが和実にとってははじめての恋だった。束の間の恋ではあったが。
 
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ペンジュラムに目がいく。
振ってみようかと思ったけど、振る必要は無いと思った。
横に振れるに決まっている。そういう確信があった。
時計を見る。ぎょっ、もう8時半だ。手術は10時すぎから始まるはずだ。
 
着替えて出かけようとしたが、今日のために持ち込んでいた「女の子服」に不満を感じた。これ適当すぎる。もう少し可愛い服を持ってくれば良かった。でも悠子のアパートまで行って取ってくる時間は無い。
和実は意を決して、姉の部屋に無断侵入した。
 
戸締まりして出かけようとしたところで、ちょうどショッピングバッグを抱えた胡桃が戻ってきた。
 
「あ、お姉ちゃん、このワンピースちょっと借りるね。行ってきまぁす」
姉はきょとんとして、花柄のワンピース姿の和実を見送った。
え?え?今の和実なの?うん和実だったよね。でも。。。。
今の女の子だったよね?和実の友達とかじゃなくて??
いや確かに和実だった。あれ?和実って女の子だったっけ?あれれれ?
 
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タクシーに乗り、病院に着いたのが9時5分だった。病室ではもう翔太が手術着に着替えているところだった。
「翔太君、元気?」
和実はあえてふつうの声を使って声を掛けた。こないだは少し女の子っぽい声を使ったのだが、この子には声色は無意味と思った。
「あ、お姉ちゃん!」
「今から手術だね。頑張っておいでよ」
「うん。でもちょっとだけ怖い」
「なんだい。君、男の子だろう。手術なんか怖くないよ。頑張りなさい」
「うん」翔太は最初少し不安な顔をしていたが、少し明るい顔になって答えた。
「そうだ。こないだのチョコのお礼にマシュマロを・・・・」
和実はその手を止めた。
「マシュマロは手術の後で受け取るよ。今は手術、頑張っといで」
「うん」
 
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しばらく翔太の絵を褒めたり、友達の話などをしていたが、やがて翔太は移動式のベッドに移され、手術室へ運ばれていった。
「手術はどのくらいかかるんですか?」と母親に尋ねる。
「来て下さってありがとうございます。手術は1時間半くらいだと思います。この手術、命の危険とかはないのですが、麻酔していてもかなり痛い手術らしくて」
「じゃ、待ってましょう」と和実は母親に言った。
 
ロビーの公衆電話からお店に電話したらちょうど悠子が出たので、手術が終わるまで待っていたいから午後からの出勤になることを伝える。その時悠子が「和ちゃん、何したの?昨日と全然雰囲気が違うんだけど」と言った。「ひ・み・つ」と和実は少し悪戯っぽい口調で言った。
 
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また和実は自宅の姉に電話して、自分の部屋にある女物の下着・服とネグリジェを母に見つかる前に、姉の部屋に回収しておいて欲しいと頼んだ。「詳しいことはあとで姉ちゃんには説明するからお願い」と言うと、胡桃は「分かった。でも全部話してもらうよ」と言って『工作』を承諾した。
 
病室に戻り母親といろいろ話をした。翔太は3歳頃まではふつうに視力があったものの、その後急速に視力が悪化し失明状態になってしまったのだということであった。「ああ、以前は物が見えていたから、ああやって絵が描けるんですね」
と和実は言う。「それ、お医者さんにも言われました」「しかし凄い才能ですよ」
和実はあの作品群をぜひ出版することを勧めた。「病気と闘っている全国の子供達を勇気づけますよ」と言った。
 
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「あの・・・ところで和実さん、もしかして男の方だったんですか?
全然そんな風には見えないのですけど、ただ、今日はあの子、和実さんを女の子と認識していたみたいでした」
「はい。今日から女の子になりました」と和実は楽しそうに言った。
 
母親が売店で買ってきたお昼御飯用のパンとお茶を一緒に食べながら、翔太のことだけでなく世間話などもしていたら、やがて手術室から翔太が戻って来た。1時間ほどして麻酔が覚めると翔太は痛いようと泣いた。和実は翔太の手を握ってあげて「痛いの、おねえちゃんといっしょにがんばろうね」と言った。母親ももう片方の手を握った。
 
翔太は両目に眼帯をしていたが、やがて主治医の先生が来て眼帯を外した。「見える?」「はい。なんだかぼんやりとですけど」
「今日はまだ手術直後で充血してるからね。明日になったらもっと見えるようになるよ」
「ありがとうございます」
翔太はあたりを見回し、母親を見つけた。
「あ、お母さん、僕見えるよ」
 
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「よかったね」母親は翔太の手を握ったまま涙を流していた。
「あ、お姉ちゃんですよね?」
と翔太は和実の方を見て、言った。
「うん、がんばったね」
「あ、お母さん、マシュマロを」「はいはい」
母親が笑顔でマシュマロの箱を翔太に渡した。
「お姉ちゃん、こないだはチョコありがとう」
和実はマシュマロの箱を受け取って「ありがとう」と言い、翔太と握手をした。
「また、御見舞いに来るからね。今日は翔太君の勇気を受け取った。
これからも負けるんじゃないよ」

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和実が花柄のワンピースを着たままメイド喫茶に出て行くと、悠子が「え?」
という顔をしていた。店長室の衝立の陰で着替えていると、悠子は店長室に入ってきて「ね。和実、性転換手術とか受けてないよね?」と言った。
 
「性転換しちゃったかも」と和実は答えた。この時ほんとうにそんな気がした。
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