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■萌えいづるホワイトデー(2)

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「和ちゃん、和ちゃん」
揺り動かされて、和実は目を覚ました。
「あれ・・・・僕」
「あぁ。よかった、いつもの和ちゃんだ」
「あ、佐々木さん、すみません。なんか眠っちゃってたみたい」
「立てる?」
「はい。あ、もうこんな時間。とりあえず今日は帰りますね」
「うん、気をつけてね」
和実は手早く男の子の服に着替えると、自宅に帰った。悠子や渚と話していて、そうだ・・・催眠術掛けられたんだっけ。でもその後の記憶が無い。うーん。何をしていたんだろう。変なことしてないといいけど。財布をチェックしてみた。レシートがある。げ?何だろう。この2000円の菓子って・・・でも何も荷物持ってなかったな・・・他にチョコを3つ買ってる。まさか、女の子の気分になってチョコを配って回った?恥ずかし−。誰に渡したんだろ?僕、メイド服のままだったんだよね。
 
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翌日、和実は学校で少しぼんやりしていた。
昨日の自分の行動がどうも気になる。
 
「え、何?おまえチョコもらったの?」「俺もだけどな」
「うそだろ?あ、分かったおまえの母ちゃんとか姉ちゃんとかだろ?」
窓際のほうで話をしている男子たちがいた。和実はこの手の会話に入るのが苦手なのだが、なんとなく聞き耳を立てる。
「知らない子だよ。なんか可愛い服、着てたなあ」
「なんかレースひらひらの服でさ」レースひらひら?
「全体的に黒っぽい服で、大人の雰囲気だったなあ」黒っぽい服?
「チロルチョコとかじゃないぜ。あれ400-500円するんじゃないかな」レシートは300円だったな・・・和実は彼らの会話を聞いていて、そのチョコを渡したのは自分だと確信した。そして頭を抱えた。
お化粧もしていたしウィッグも付けていたからバレないとは思うけど、そうか。自分はあの子たちにチョコを渡したのか。どうせ渡すなら、もっと格好いい男の子に渡せばいいのに・・・ん?何か渡した気がするぞ、格好いい子・・・
 
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その日、いつものようにお店に出たが、なんとなく調子が変だった。そこでいつもより早めに終わらせてもらい悠子のアパートに戻った。今日はちゃんとお店からふつうの女の子の服に着替えて戻って来たのだが、男の子の服に着替える前に、この女の子の服のまま、自分の昨日の記憶をたどる作業をしてみることにした。
 
渚さん、自分が女の子であると信じろと言ってたな・・・・・
畳の上で女の子座りをして、壁に掛けてある姿見を見る。
可愛いピンクのセーターにプリーツスカートの女の子が鏡に映っている。和実は笑顔でそれを見ると心を楽にしてα状態にした。
目をつぶる。昼間チョコの話をしていたクラスメイトのことを思い起こす。そこをヒントに記憶の糸をゆっくりと探す・・・・・・・
 
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瞑想状態に入ると時間経過がよく分からないので、自分では1時間くらいやっていいたかなと思ったのだが、時計を見ると10分くらいしかたっていなかった。和実はだいたい昨日の自分の行動を思い出すのに成功した。
 
しかし・・・・紺野君に本命チョコ渡したのか・・・ひぇー恥ずかしい。同じクラスでなくて良かった。恥ずかしくて顔を合わせられない。
クラスメイトの2人には気付かれずに済んだが、なぜか紺野君には会えばバレてしまう気がした。
 
でも自分は暗示に掛かりやすい体質なんだなと和実は思った。昨日の催眠術は効き過ぎた。もう少し簡単な暗示で、あるいは女の子の雰囲気を出すことができるかも知れないという気がした。でも自分が女の子であることを信じることか・・・・・これ確かに難しいかもという気がしたが、和実は試してみたくなった。お店に電話する。ちょうどうまい具合に悠子が出た。
 
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「あ、すみません。体調が回復したのでまたお店に行っていいですか?」
「大丈夫なの?」「ええ、元気です」
 
その日は団体さんが2組も来ていたので、来てくれて助かったと言われた。和実は店内と厨房をせわしく行き来しながらにこやかにお客様と応対し、料理のほうも自分が受けた分のみでなく、他の子が受けた分でもじゃんじゃん作っていた。最初に言い出したのはこの12月から勤め出していた恵里香だった。
 
「サブチーフ、今日なんだか雰囲気が違う」「そう」
「なんか、女の子の香りがするんですけど」「コロンとかは付けてないよ」
飲物や料理を扱うお店なので、香水・コロンはもちろん、香料の入った化粧品も使用禁止である。和実は香料の入ってない化粧品を使っていた。
「あ、具体的な香りじゃないんだけど、何かな・・・これ」
 
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一息ついた時、和実同様フル回転だった悠子もこんなことを言った。
「今日は男の子の和ちゃんは欠席してるみたい」「え?」
「代わりに女の子の和ちゃんが出てきてる」と悠子は言った。
しかし少し心配そうに
「昨日の暗示が残ってたりしない?」と小声で聞く。
「大丈夫です。やってみたのは、自分の心の向きをちょっと変えてみたの」
「へー」
「少し女っぽくなりました?」
「なってる。ぐっと女っぽい。わたし的には、昨日までの和ちゃんも充分女の子らしかったと思うんだけど、今日の和ちゃん見ると、昨日までは少し男の子の感じが混じってたんだなという気がする」
 
和実はちょっと試してみたことが効いているようなので嬉しかった。
和実が試してみたのは「心の向き」の変更だった。ふだんの自分と昨日催眠状態にあった自分との違いを半分瞑想しながらチェックしていて、ふだんの自分の心が『放出型』だったのが、催眠状態の時は『流入型』になっていたことに気付いた。そこで、心を静かにして、『風』(と和実は呼んでいた。たぶん「気」のようなもの)が外から内に入ってくるようにイメージしてみた。それとあわせて、風が最も出入りする器官である目の使い方を変えた。物を見る時に「視線を投げかける」
のではなく「視界を受け入れる」ように見るようにした。ここまでした段階で、和実は姿見の中の自分がぐっと女っぽくなった気がしたので、それを試してみたくて、お店にまた出てきたのであった。少なくとも、あそこから男の服を着て帰宅したくはない気分だった。
 
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高校生なので夜10時以降は働けないが、店長はお店の方針として原則として高校生は夜9時で終わらせることにしていた。もう少しこの状態を試してみたいんだけどと和実は思ったが帰らざるを得ない。悠子のアパートに戻り着替えるが、ふと思いついた。そうだ!下着は女の子のを着たまま帰っちゃおう。和実はふだんここで下着も男の子用と女の子用をチェンジしているのだが、少しでもこの女の子の気分を長く「運転」して、色々試してみるのに、女の子の下着で明日またここに来るまで過ごしてみようと思いついたのであった。
 
パンティはズボンで隠れるがブラジャーがワイシャツの上に透けてしまう。うーん。セーターを脱がなきゃいいよね。と和実は考えた。
 
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和実は翌日は女の子の下着のまま、学生服を着て学校に行き、学校が終わってからまた悠子の家に行き、シャワーを浴びてから新しいパンティーとブラを身につけた。この時、今まで気にしていなかった、パンティのふくらみが気になった。女の子にはこんなふくらみ無いよね。。。。こんなのあったら女の子にはなれない。何とかできないかな・・・・
 
和実はボールを「例の場所」に押し込み、バットの方はぎゅっと後ろに引っ張った状態でガムテープで留めてみた。それでショーツを穿く。お、これいい。外から見ると何も付いてないみたいに見える。でもこれ、トイレできないぞ。。。。。トイレに入るたびに交換するか。和実はガムテープを交換用に少し取り、持って行くことにした。胸が無いのは速攻ではどうにもならないな。。。少したくさん食べるようにして脂肪を付けてみようかな?お腹とかにも脂肪が付くと困るけど。
 
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和実はこのようにして、毎日いろいろな工夫をしながら自分の「女らしさ」を磨いていった。股間のテープ留めについては試行錯誤を重ねた末、ついに留めたままトイレができる方法に辿り着いていた。最初のうち毛があるせいで留まりかたが甘かったので、和実はあのあたりの毛を全部シェーバーで剃ってしまった。また顔のヒゲは毛抜きで抜くようにした。剃っているとどうしても剃り跡が残るのでお化粧でごまかしていたのだが、抜くときれいな肌になり、メイク無しでも女の子として通ることに気付いた。足の毛も剃らずに抜くことにして、和実はいろいろ比較してソイエが良さそうだと思い買ってきた。はじめてソイエした時は、途中でやめたくなるくらい痛くて辛かった。でも女の子はこの痛みに耐えてるんだよなと思い直し、頑張った。慣れると少し平気になるかなと思ったのだが、慣れてもやはり痛かった。和実はこれは痛いのを我慢しなくちゃいけないものなんだと自分に言い聞かせた。
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