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■男の娘とりかえばや物語・各々の出発(6)

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花子は最初は雪子の執務が終わった後、夕方以降に梨壺に呼ばれて、一緒に夕食(ゆうげ)を食べたり、更には一緒に御帳の中に入って夜伽(よとぎ)をしたりしていました。むろん夜伽といっても、女同士ですから、性的な行為をする訳ではありません(この件は後述)。純粋に添い寝して東宮が眠ってしまうまでおしゃべりの相手をするだけです。流行の小説を借りてきて花子が朗読し、雪子がそれに聞き入っている内に眠ってしまうということもよくありました。
 
また雪子の時間が取れる時は、貝覆いなどのゲームをしたり、一緒に絵を描いたり、あるいは和歌の読み比べをしたり、時には箏の合奏をしたりしていました。また雪子は、花子が苦手と言っていた漢字を、優しい字から順に少しずつ教えていってくれました。
 
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雪子の信頼が篤くなると、夕方梨壺に呼ばれるだけではなく、昼間に“上の御局”にも呼ばれて、執務の間の空き時間に麦湯(*5)を入れて飲みながらおしゃべりしたり、場合によっては雪子と重臣や地方から来た国司などとの会談の記録を取ったりするなど、秘書代わりのような仕事をする場合もありました(そもそも内侍司というのは秘書役である)。
 
更に行啓の時に同行して、助手のようなことをする場合もあり、頭の回転が速く、一応ひらがなでなら美しい文字で筆記ができる花子は、雪子にとっても貴重な片腕となっていくのです。
 

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(*3)似たような言葉がいくつかあるので整理する。まだ使う対象から。
 
行幸 天皇
行啓 皇后・皇太后・皇太子・皇太子妃
 
天皇皇后両陛下が一緒にお出かけになる場合は「行幸啓」と言う。
 
目的地が複数ある場合は、巡幸・巡啓と言われる。
 
また「御幸(みゆき)」という言葉があるが、これは天皇・上皇・法皇・女院(**1)に対して使う。それ以外の皇族の外出は単に「お成り」と言う。
 
雪子は皇太子なので「行啓」あるいは「巡啓」と言われる。
 

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(*4)上の御局(うえのみつぼね)は女御や更衣の別室を天皇の居場所の近くに設けたもので、平安の内裏では弘徽殿と藤壺の“上の御局”が清涼殿にあったことが分かっているが、他にも臨時に設置される場合はあった。源氏物語では源氏の生母・桐壺更衣は清涼殿の隣の後涼殿に上局を賜っている。
 
雪子は女御ではなく東宮だが、女御以上に天皇の近くに執務室が必要であったと思われ、そのため設置されていたのだろう。当然その場所は帝の居場所のすぐ近くだったものと思われる。↓はその予想を元に描いた図である。
 

 
村上天皇中宮の安子は藤壺に住まいを持っていたが、天皇が宣耀殿女御の芳子に熱心だというので藤壺上御局と夜御殿の間に開いていた(開けた?)穴から土器(かわらけ)の破片を芳子に投げつけて、さすがに帝から叱られた。
 
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花山天皇をさっさと退位させて自分の孫である懐仁親王(一条天皇)を帝位に付けたい藤原兼家は、深夜に天皇を唆し、人目に付かないように藤壺上御局の妻戸から外に導いて出家させてしまった(寛和の変)。
 
平安時代初期〜中期頃の建築では、桁行(縦方向)はいくらでも長くできたが、梁間(横方向)は柱3本の2間(1間は10尺=3m)と決まっていた(例外的に柱4本の3間で作られた建築物は存在する)。そのため↑の図で「母屋」は実は夜御殿や弘徽殿・藤壺の上局がある列のみで、東宮上局や石灰壇(暖房)があるのは東廂(ひがしのひさし)、朝餉間・台盤所などがあるのは西廂(にしのひさし)である。弘廂はその東廂から更に屋根を張り出した孫廂になっている。弘廂の外側には壁が無く、吹放しになっている。
 
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なお、清涼殿は寝殿造りの一種なので、固定された部屋は塗籠めの夜御殿のみであり、他はパーティションや建具によって“室礼(しつらえ)”された空間であって、必要があれば間仕切りを変更することができた。
 
従来、藤壺上御局と弘徽殿上御局の間に萩戸という部屋があったとされてきたが、建築史家の島田武彦は萩戸は北廂の東側の戸の意味で部屋の名前ではないとする。この図はその説に従った。実際問題として最もランクが高いはずの弘徽殿女御の部屋が、夜御殿と直接行き来できないのは変だと私は思っていた。
 
なお“荒海”“昆明池”“年中行事”は障子の名前。年中行事障子にはその名の通り年中行事の予定が書き込まれており、要するに殿上人たちへの掲示板の役割を果たしていた。行事が変更になったり臨時のものがある時は、随時書き加えられた。
 
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帝は昼間は昼御座(ひのおまし)に、夜間は夜御殿(よんのおとど)におられる。御帳台(みちょうだい)が正規の座る場所で大床子(だいしょうじ)は食事や理髪の時に座る場所である。ただし仕事の時は東廂上にある御座まで出て行き、弘廂(孫廂)に来た官僚と話をしていた。
 
夜御殿はふつうの寝殿造りの塗籠と同じ仕様のもので、そこの東側に置かれた棚に剣璽(天叢雲剣・八尺瓊勾玉)が置かれている(禁秘抄)。当然の結果として、帝は東側を枕にしてお休みになることになる。これは帝の寝室に剣璽が置かれているというより正確には帝が剣璽の番人をしているのである!
 
夜御殿は剣璽を置く部屋であることから24時間灯りが灯されていた。油を補充する係の者は北東の燈台から始めて反時計回りに作業し、南東の燈台で終える。つまり剣璽が置かれている東側の棚の前を通過しないようにする。夜御殿の東西の妻戸は北側に作られており、それも剣璽を直接外の部屋からは見えないようにするためである。夜御殿はまさに剣璽のための部屋である。
 
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(*5)麦茶のことを昔は(昭和30年代までは!)「麦湯」と言った。「麦茶」という言葉は常陸屋本舗が1963年に発売した『江戸麦茶パック』というティーパック製品以降に普及した新語といわれる。
 
なお普通の「茶」は805年に伝教大師・最澄が中国から茶の種を持ち帰り比叡山山麓の坂本に植えたのが始まりとされるが、平安時代は寺院などで供される特殊な飲み物という位置づけであった。一般に普及して行くのは鎌倉時代以降である。
 
なお麦湯はその名の通り、炒った麦に湯を注いでいれるものであり、熱い飲み物であった!(平安時代に冷蔵庫は存在しない)。
 

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さて、花子の性別は実は花子が宮中にあがって一週間もしない内に雪子にバレてしまいました!
 
だいたい雪子は、父の朱雀院が心配していたように軽はずみな性格です。花子が夜伽を務めていた時、ふざけて花子に襲いかかりました。
 
「ちょっと!おやめください」
「減るもんじゃないし、よいではないか、よいではないか、お嬢ちゃん、ボクと遊ぼうぜ」
「あ〜れ〜」
 
そもそも花子は腕力が無いので、雪子に簡単に組み敷かれてしまいました。そして身ぐるみ剥がされてしまいます。
 
「・・・・・」
 
さすがに雪子が花子の胸を見て沈黙しました。
 
「なんであんたそんなに胸が無い訳?」
「御免なさい、御免なさい。私実は男なんです」
「うっそー!?じゃちんちんあるの?」
「えーっと・・・」
 
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それで湯文字まで脱がされて全裸にされてしまいます。
 
「ちんちん無いじゃん」
「隠しているんです」
「ん?」
 
それで雪子は花子のお股に手で触って調べます。
 
「すごーい。これ接着してるんだ!」
「膠(にかわ)で留めてるんです」
「あんた、これおしっこはどうやってするの?」
「普通の女の人のようにします」
「だよね!これなら尿筒は使えない」
 
と雪子も言います。そして腕を組んで考えて言いました。
 
「ってことは、あんたたち兄と妹じゃなくて、兄と弟だったの?」
「いや、それが・・・涼道の方が実は女なんです」
「うっそー!?じゃ、あんたたち入れ替わってるんだ?」
 
「涼道はとっても男らしい性格で、私は女みたいな性格なので」
 
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「へー!それ面白いかも」
と言ってから雪子は少し考えていたようですが、言いました。
 
「だったらあんたは普通に女の子でいいね」
「いいんですか〜?」
 
「この一週間、あんたと一緒に過ごしていて、私あんたが女であることを一時(ひととき)も疑ったことないもん。それだけ完璧に女であるなら、お股の形が少しくらい違っていても、女の一種ということで問題無いよ」
 
「そうですか?」
 
「だから花子ちゃんは女の子、涼道君は男の子で問題無し。だから花子ちゃんは私の遊び相手として仕えて、涼道君は中納言としてお仕事をしていればよい」
 
「ありがとうございます」
 
「これ私と花子ちゃんだけの秘密にしようね。だから涼道君にも内緒」
「はい、それでいいです」
 
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そういう訳でバレてしまったものの、雪子は「秘密」と言った通り、誰にもふたりの性別のことは言わなかったので、花子は結局ふつう通り、女性として雪子のそばに仕えることになったのです。
 
雪子としても秘密を守ってあげることで、とても忠実な部下を得られたようなもので、これは雪子にとっても美味しい取引となりました。
 

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雪子は結構花子“で”遊んでいました。
 
「花子ちゃんのお化粧って素っ気ないよね。私がもっと可愛くお化粧してあげる」
などといって、高価な化粧品を使ってきれいにお化粧してあげたりします。
 
お股の偽装については、腹心の伊勢と式部を呼び、風呂の蒸気に当てて外してみせ、それを再度膠で貼り付ける実演をしてみせました。
 
ちなみに伊勢と式部は「ああ。バレちゃいましたか。普通バレますよね」と言っていました。
 
「涼道はなんでバレないんだろう?」
と花子が言うと
 
「だって萌子さん、ぼんやりさんですもん」
とふたりとも言っていました。
 
膠で貼り付けて、まるで女のような股間に偽装する所は
「面白い。私にもやらせろ」
 
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と雪子が言うので、再度風呂に連れて行って蒸気に当てて外し、伊勢たちが手伝って、雪子が自分の手で偽装してみていましたが、雪子は
 
「楽しい!これ毎回私にさせて」
などと言っていました。
 
「しかしちんちんもタマタマもあったんだなあ」
「ごめんなさい」
 
「でもちんちんはまだいいとして、タマタマが付いてるとその内男っぽくなってしまって、女を装えなくなるよ。あまり男っぽくならない内に睾丸は取っちゃった方がいいね。そういうのできる渡来人知ってるから紹介してあげるよ」
などと雪子は言っています。
 
やはり取ることになるのか〜?と花子も、雪子からまで言われて諦めの境地に達しつつありました。
 

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そういうことで花子の性別がバレてしまった後は、花子は雪子の“安全な遊び道具”と化してしまいました。服の中に手を入れて平らな胸をわざわざ触って面白がっています。夜伽の時など雪子から
 
「ねぇねぇ、あれに触らせてよ」
などと言われることもあります。
 
「勘弁して下さい」
「気持ち良くしてあげるよ」
「そんなことして何かあったらまずいです」
 
と言うものの、実は花子はその“気持ち良くする”というのが分かっていません。彼はいまだに自慰の経験が無いし、具体的にどういうことをすれば妊娠するのかもよく分かっていません。ちんちんから出る物質で妊娠するらしいということは聞いているものの、実はちんちんから、おしっこ以外の物質が出た経験がありません。小さい頃からずっと睾丸を体内に入れていたため、睾丸が休止状態のままなのです。当然第2次性徴も来ておらず、鬚(ひげ)なども無ければ、身体付きは性別未分化の状態で、まるで少女のような体型をしています。
 
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「もし悪戯してて妊娠しちゃったら、花子ちゃんが妊娠したことにすればいいしね」
「へ!?」
 
しかしさすがにこれは花子が何とか貞操!?を守り抜き、花子が妊娠??することはありませんでした。
 

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