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■クリスマス事件(6)

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フライドチキンが揚がったのはもう授業の終わり頃なので、そのまま教室に持ち帰り、男子たちとシェアして食べた。
 
「美味しい、美味しい」
「揚げたてのチキンは美味しいね〜」
と好評である。
 
「もう死んでもいいと思うくらいの美味さ」
などとニッケなど言っている。
 
「じゃニッケが死ぬ時は、フライドチキンを作ってあげよう」
とイリヤ。
「マジ?ステーキでもいいけどね」
「100万クロネくらいくれたら」
「随分料金の高いレストランだな!」
 
「しかしハルト、じゃなかった、ハルア。射撃の先生が、お前が女になって射撃の授業から外れたというの聞いてがっかりしてたぞ」
とトマスが言う。
 
「あまり性(しょう)に合わなかったから私はホッとしてるけどね」
とボクは答えた。
 
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「今日は2組のジョンが1番だった。初めて青いリボン付けてもらって喜んでた」
とトマス。
「うちに大量に青いリボンが貯まってるよ」
とボクは笑って言った。
 
射撃成績1位の証である青いリボン。それを毎週もらっていたから、それで実はボクは青という色が嫌いになった。それは誰にも話していないこと。
 

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チキンをみんなで食べた後、クリスマス会の準備を始める。
 
机を口の字型に並べる。そして男子たちの手で部屋にロープが渡され、キラキラのお星様とか、綿で作った雪のように見える飾りとか、トナカイやサンタの人形などもぶらさげる。お皿が並べられて、女子の有志がこの週末に作って焼いていたクッキーが配られた。
 
それでみんなでクリスマスの歌を歌ったり、何人か教室の中央に出て芸を披露する子もいる。
 
楽しい催しが続き、そろそろクライマックスかなという時、アリナが目配せするのでボクは席を立った。
 
廊下に出て隣の教材準備室に入り、サンタガールの衣装に着替える。結局サンタガールは、ボクとアリナ、ネリカにトマスである。ボクとアリナ・ネリカはおしゃべりしながら着替えたが、トマスはひとり窓際に行き、後ろを向いて着替えていた。
 
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「トマス、充分女の子サンタに見えるよ」
とネリカが言うと
 
「これ絶対父ちゃんとかには見せられない」
などと言っている。
 
「でも違和感無いよね」
とボクが言うと
 
「トマスも手術して女の子になる?」
などとアリナから言われる。
 
「嫌だ。女になるなんて絶対嫌だ」
とトマス。
 
「ボクも嫌だと言ったのに、無理矢理手術受けさせられちゃった」
とボク。
 
「じゃトマスのお母ちゃんを唆すか」
「やめて〜」
 

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それでプレゼントの入った袋を持って教室の外でスタンバイする。中に居る先生から合図があるので、前後の戸から2人ずつ入って
 
「メリークリスマス!」
と言い、教室内のみんなにプレゼントを配り始めた。
 
「ハルア、ほんとにそういう服着ているとちゃんと女に見えるな」
と男子から言われると、ボクはちょっとだけ嬉しい気分になった。
 
「髪が短いから、男に見えないかなと思ったんだけどね」
「いや、スポーツしてる女は短くしてる子もいるし」
「確かにそうだね〜」
 
ひとりひとりと言葉を交わしながら配るので、担当の10人に配り終えるのに結局5分近く掛かった。
 
ボクたち運営委員同士は、最後に残った物を、アリナ→ボク→ネリカ→トーマス→アリナという順に「メリークリスマス」と言って渡した。
 
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それでボクたちもサンタガールの衣装のまま席に着き、プレゼントを開ける。ボクの箱にはカチューシャが入っていた。
 
「あ、可愛いじゃん。つけてごらんよ」
と隣の席のイリアが言うのでサンタの帽子を脱いで、つけてみる。
 
「おお、似合ってる似合ってる」
と言って鏡を見せてくれた。
 
「可愛いかも」
とボクは言ってしまった。
 
「うん、充分可愛い」
と反対側の隣に座っているケイカも言ってくれた。
 
一応男の子に渡すものは青い包装、女の子に渡すものは赤い包装、どちらに渡してもいいものは黒い包装になっていた。
 
でも入れ間違いもあったようで、トマスが
「俺、色つきリップとかもらっても困る」
などと言っている。彼がもらったのは青い箱だったのだが、包装する時に勘違いしたのだろう。
 
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「別に男の子がリップ塗ってもいいと思うけど」
「あ、塗ってあげるよ」
 
などと言って隣の女の子から塗ってもらっていた。
 
「ほら鏡見てごらん」
と言って見せられると
「何か変だ」
と言っていた。
 
「変だと思うなら女の子になるとか」
「それはもっと嫌だ」
 

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このプレゼント配りでクリスマス会もお開きとなる。最後にみんなで「クリスマスに平和を」の歌を歌い、クラス運営委員代表のトマスがサンタガールの衣装のまま
 
「これでクリスマス会を終わります」
と言いかけた時のことであった。
 
突然荒々しく教室の戸が開けられる。そこに銃を持った男がいるのを見て、ボクは直感的にやばい!と思った。
 
先生が
「あなたたち何ですか?」
と言って、男たちの所に寄る。
 
すると男はいきなり銃を撃った。
 
先生が倒れる。数回ピクピクとして動かなくなった。
 
「きゃー!」
と女の子たちが悲鳴をあげる。
 
「静かにしろ。俺たちはホロウファントムだ」
と彼らは名乗った。
 

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後から聞いた話では、彼らは5人で近くの銀行を襲撃して、警官隊と銃撃戦をした後、この学校に3人が逃げ込んだらしい。うち1人は学校の警備員さんに撃たれたものの(警備員さんは他のメンバーに射殺された)、残り2人が玄関に近いこの教室に飛び込んで来たという状況だったようである。
 
しかしとにかくも教室はパニックになった。
 
「男は廊下側に行け。女は窓側に行け」
と彼らは言った。
 
ボクが何気なく廊下側に行こうとしたら、アリナが慌ててボクの服をつかみ「あんたはこっち」と言って、窓側に連れて行ってくれた。ボクはこれで助かった。トマスがサンタガールの衣装のまま廊下側に並んだが
 
「何やってる。ぶっ殺すぞ。女はこっちじゃねー」
と銃を持った男に言われ、銃で殴られて倒れる。
 
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「トマちゃん、こっち」
とアリナが言うので、その声に応じてトマスは起き上がり、女の子たちが並ぶ窓側の方に来た。これでトマスも助かった。
 
「よし。別れたな」
と男は言うと、廊下側に並んでいる男子たちに向けていきなりサブマシンガンをぶっ放した。
 
「ぎゃーっ」
という男子たちの凄い悲鳴が聞こえる。
 
ボクは隣に居るネリカとケイカの目に手を当ててふさいだ。こんなの見るものではない。
 
銃声と悲鳴がやんだ時、廊下側には男子たちが倒れていて、おびただしい血が流れていた。
 
それで窓側に居た女子たちが「きゃー」と悲鳴をあげるが
 
「静かにしろ。騒いだらてめーらも撃つぞ」
と男たちが言うと、みんな沈黙した。
 
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そこに
「警察だ。無駄な抵抗はやめて投降しろ」
という拡声器の声が聞こえた。
 
警官隊がようやく到着したようであった。
 

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状況は膠着した。
 
立てこもっているホロウファントムは2人だが、ライフルとサブマシンガンで重武装している。防弾チョッキを着て頭を完全に覆うヘルメットをかぶっており、目の所にもシールドを付けている。これは狙撃しにくいなとボクは思った。
 
人質は22人である。もともと男20人女20人のクラスだったのが、ボクが女の子になってしまって1人増え、サンタガールの衣装を着たトマスも女子と誤認されてこちらに入っている。
 
警察は事件が起きて1時間後に天井から侵入しようとしたものの、気づかれて犯人に2人射殺され、犠牲者が増えた。
 
その一方でどうも専門のネゴシエーターの人が来て、説得をしているようだが、彼らは何だかよく分からない主張をしていて、説得に応じる様子は全く無い。
 
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夜9時になって、夕食が差し入れられる。差し入れを持って来たのは定年間際の女先生で、食事に対する感謝として、神経が細く、事件のショックで気分が悪くなっていたマリエを解放してくれた。マリエは女先生と一緒に教室を出た。
 
食事をしたことで、少し緊張が解けたのか、トイレに行きたいと言う子が数人出る。しかし行かせてくれる訳が無い。教室の後ろの方でしろと言われた。それで男子たちの死体が転がっているのをそばに見ながら、数人がおしっこをしていた。ボクも午前3時くらいになってから、アリナが「トイレ一緒にしようよ」と誘われてしてきたが、おしっこの臭いと、近くにある男子の遺体の臭いとが合わさり、凄く嫌な気分だった。
 
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夜12時くらいになった時、犯人が
 
「この中に片親の奴いるか?」
と訊いた。ユリナが手を挙げた。
 
「ユリナはお父さんが小さい頃亡くなったんです」
とアリナが説明してくれる。
 
「だったら、お前出て行っていいぞ」
と言うので、ユリナはアリナに促されて、ひとりで教室を出た。すぐ近くにいた警官に保護されたようである。
 
深夜遅くなってもみんなとても眠れずにいたのだが、さすがに疲れてきて午前4時頃から少し眠った。ホロウファントム側は1人ずつ仮眠しているようであった。しかし仮眠している間も銃から手を放さなかった。
 

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