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(C)Eriko Kawaguchi 2015-12-24
「ねぇねぇ、雑誌に心理テストが載ってたのよ。ハルト、やってみない?」
クラスメイトの女子、アリナが寄ってきたので、ボクはとりあえず質問に答えることにした。
「友達が殴られていました。君は?報復に行く?介抱しに行く?」
「取り敢えず、殴られていた子の介抱が先だよ。報復が必要ならするけど、その後」
「友達と廊下でぶつかりそうになりました。その時、道を譲る?先に通ろうとする?」
「譲る。だって先に通ろうとしたら本当にぶつかるかも知れないもん」
「お料理の本と戦車の本、どちらを読みたい?」
「戦争は嫌いだなあ。お料理の本がマシかなあ、あまり料理に興味は無いけど」
「お花の図鑑とピストルの図鑑、どちらを買いたい?」
「人殺しの道具って嫌い。お花にも興味は無いけど、そちらがいい」
「ハルト、あんた射撃の成績、学年1なのにピストル嫌いなんだ?」
「もしかしてピストルは嫌いだけどライフルは好きだとか?」
「射撃の授業は、授業だから仕方なくやってるけど、あまり好きじゃない。それに授業で撃つのはあくまで的(まと)だもん」
「でもどっちみち兵役に行ったら人を撃たないといけないよ」
「それ、憂鬱〜」
男の子である以上、18歳になったら兵役が待っている。兵役というのはつまり戦争に行くということで、戦争に行けば自分が撃たなければ撃たれるだけだ。
「シンデレラの話とジャックと豆の木、どちらが好き?」
「シンデレラかなあ」
「赤い鞄と青い鞄、どちらを持ちたい?」
「黒が好き」
「赤か青か」
「赤かなあ。青ってボクあまり好きじゃないんだよね」
「数学と国語、どちらが好き?」
「国語。ボク、図形の問題が苦手」
「男の人が何人かお酒を飲んで楽しそうにしています。女の人が数人、おやつを食べながら何か話しています。どちらのグループの輪に加わりたいですか?」
「ボクお酒は飲めないから女の人の方かな」
「歩く時、内股ですか?外股ですか?」
「あ、ボクわりと内股なんだよねー」
「生まれ変わるとしたら、女の子がいい?男の子がいい?」
「えー?また男の子の方がいいな」
「採点します。点数は90点」
「へー。それ何のテストだったの?」
「女の子らしさのテスト」
「え〜〜!?」
「今何人かやったけど、女子でも今の所最高が70点」
「うっそー」
「だから、ハルトはここにいる女子の誰よりも女らしい」
「あはは」
「もうこれは、いっそ男の子はやめて女の子になった方がいいレベル」
「女の子になると言われても・・・」
「ちょっと手術しちゃえばいいじゃん」
「手術して女の子になれるの?」
「性転換手術って言うんだよ。知らない?」
「知らなかった!」
「6組のマイクが先週、性転換手術受けて女の子になったんだよ」
「それも知らなかった!」
「名前もマイコって変えて。凄く可愛い女の子になってるよ」
「へー。でもマイクって優しい性格だったから、女の子でも行けるかもね」
「ハルトもたぶん女の子で行ける」
「別に女になりたくはないよ」
そんなことを学校で女子のクラスメイトたちと話したものの、ボクは女の子になる手術って、どういう手術なんだろう?と考えて、何だかドキドキした。
女の子って、みんな髪が長いし。髪を長くするのかな? あと女の子はみんなおっぱいがあるし。おっぱいも大きくするんだろうか?お母ちゃんもお姉ちゃんもおっぱい大きいもんなあ。妹はまだ小さいから大しておっぱいが無い。でもこれから少しずつ大きくなるのかな。
ボクは当時、女の子と男の子の違いというのが実はよく分かっていなかった。
その日はクラス運営委員で女子のアリナ、ネリカ、男子のトマスとボクの4人で一緒に来週のクリスマスの行事のことで放課後一緒に打ち合わせた。クラスの予算で100クロナくらいのささやかな文具やアクセサリーなどを買って、サンタガールに扮した女子数名に配ってもらおうということで話がまとまる。他にクッキーやジュースなどを買ってみんなで食べることにする。
「サンタガールは誰がやるんだっけ?」
とトマス君が言う。
「まあ私とアリナはやるよね?」
とネリカ。
「まあ運営委員だから仕方ない」
とアリナ。
「40人に配るからなあ。できたらあと2人くらい欲しい」
「誰か適当に女子を徴用したら?」
「そうだね。ジュナとかイリヤあたりに声を掛けてみるかなあ」
「あるいは、トマスとハルトがサンタガールの衣装付けてやるか」
「やだ」
「男が女の服を着るのは戒律に反する」
「じゃ女になるとか?」
「やだ」
「ちょっと手術受ければいいじゃん」
「俺チンコ無くしたくねーよ」
とトマスが言った。
それでボクは、あれ〜?女の子になる手術って、もしかしておちんちん取るのかな?と思い至った。そういえば、たぶん女の子にはおちんちん無いよね?でもおちんちん無くなったら、おしっことかどうすればいいんだろう?女の子って、おしっこしないんだっけ?? 女の子ってトイレは大をする時みたいに座ってしているみたいだけど、もしかしておしっこはうんこと一緒に出るの?なんかそれも嫌だなあ。
誰がサンタガールをするかについては、また後で検討することにして、その日は取り敢えず、先生からお金をもらって4人でプレゼントを買いに行った。クッキーは女子数人で作るという話になり、お菓子作りの得意な子何人かに声を掛けて、この週末に作るということであった。
12月21日(金)。その日、うちではクリスマスのお祝いを少し早めにすることになった。お父さんがお仕事でコラビアまで行ってこないといけないので、その前にしておこうということになったのである。
七面鳥の丸焼き、ローストビーフ、それにケーキなども用意する。この日だけは10歳以上の子供もシャンパンを飲んでもいいことになっているので、姉のローザが栓を抜き、みんなのグラスに注いだ。
「メリー・クリスマス!」
と言って乾杯し、それを飲んで、ケーキや料理を食べる。
「美味しいね!」
「うん。クリスマスっていいね〜」
「お父さんはいつ帰ってくるの?」
「明日の夕方出発して、帰りは1月中旬くらいになると思う」
「大変ね」
「コラビアって結構ぶっそうなんじゃないの?」
「まああの国は国民全員が武装してるから、喧嘩が起きると片方は死ぬって国だな」
「怖〜」
「あなた、武器は持っていくの?」
と母が心配そうに言う。
「護身用に6連発のリボルバーと銃弾を24発持って行く。使うハメにならないことを祈っているけどね」
「殺されるのも嫌だけど、相手を殺すのも嫌よね」
「うん。それはそうだけど、殺されそうになったら先に殺るしかないから」
「そういうことにならないことを祈ってるわ」
「うん。俺も祈ってる」
「だけどうちの国はなかなか戦争が終結しないことを除けば国内の治安は比較的いいよね」
と母が言う。
「まあ国境方面は悲惨だし、戦いも一進一退で決着の目処が立たないけど国内は凶悪犯罪も少ないしね」
と父。
「でもこないだの劇場立てこもり事件は酷かったね」
と姉が言う。
「うん。特殊部隊ももう少しうまくやれなかったかね。人質100人の内90人死亡というのは、あんまりだ」
と父。
「突入の時にかなり混乱したし、ホロウファントム側が乱射したみたいだから」
と母。
「立てこもっていた人は3人だったんでしょ?それにしては犠牲者が多すぎる」
と姉。
「その人数も把握できてなかったみたいだね。それに立てこもってすぐの段階で大人の男は全員殺されたらしいし。抵抗されると面倒というので」
と父は言った。
「人質は女子供だけでいいということか」
「少ない人数で多数の人質を管理しようとするとそうなるのかもね」
そういうぶっそうな話もあったものの、その日はだいたいは楽しい話が多かった。姉のローザは来年大学に進学するが、姉の成績なら楽勝っぽい。ボクは再来年高校に進学しなければならない。ボクは体育以外は成績があまり良くないので「お前塾に行く?」などと言われたものの「ボク勉強頑張るから」と言って、その話はパスさせてもらった。妹はまだ小学生だから気楽なようである。
それで20時頃になるとクリスマスのディナーは終わりである。子供たち3人で食器をキッチンに運び、お母さんとお姉さん、それにボクの3人で洗った。妹のカレアにはもう寝るように言った。
20時半頃には洗い物も終わり、明日からの出張に備えて準備をしているお父さん、寝ているカレアを除く3人でおしゃべりし、21時半にはボクも寝た。ローザはまだしばらく母と話しているようであった。