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■クリスマス事件(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-12-25
 
校長先生に「女子生徒として頑張ってね」と言われてから教室に戻り、新しい生徒証を見せると
 
「おお、ちゃんと女子生徒になったね。おめでとう」
などと言われる。
 
「でもあれ校医の先生がボクは男と診断しちゃったら、どうなってたんだろう?」
「その場合は、男子生徒のままじゃないの?」
「男子制服着て来なくちゃ」
「だって身体は性転換されちゃったのに」
「性転換のされ損かな」
「トイレも立ってしないといけない」
「もうできないよぉ」
「それを根性で」
 
「私小さい頃けっこう立ってしてた」
などとイリヤが言っている。
 
「すごーい」
「まあパンツは脱がないと無理」
「それはそうだろうね〜」
 

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次の授業は保健の時間だった。男子は体育で野球をやるということであった。女子は視聴覚室に行き、性教育の授業を受けた。
 
が、保健の先生は最初5分ほど授業しただけで、急用で呼び出され、出て行ってしまい、あとは自習していてと言われた。
 
ボクが女の子の身体の構造がよく分かってないと言うと、アリナが保険の教科書を開いて、教えてくれた。
 
「え〜!? 男の子のおちんちんを女の子のヴァギナに入れるの?」
とボクが驚いて言うと
 
「あんた、そんなことも知らなかったの?」
「中学生になっても、知らないなんてありえん」
などと他の子から言われる。
 
「だって習ったこと無かったし」
 
「男子には性教育なんてしないからなあ」
「まあふつう男子は教えられなくても自然に覚える」
 
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「ハルアは男の兄弟とかいないから、教えられなかったのかもね」
「あまり男の友だちもいない感じだし」
 
「でもセックスしたら、赤ちゃんできる可能性あるからね」
「だから、安易にセックスしてはいけない」
「少なくとも相手と結婚しているか、結婚してもいいと思ってないとね」
 
《生理》の仕組みについても全く知らなかったので、アリナたちに教えられて驚いた。
 
「そういう仕組みで赤ちゃんができるのか」
「まあ、生理は憂鬱だけど、赤ちゃんが産めるという印だしね」
「ハルア、卵巣もあるんだっけ?」
 
「なんか自分の万能細胞で作ったものを移植したと言われた」
とボクが言うと
 
「なるほどー」
とみんなが納得しているようなので
 
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「何?何?」
と訊く。
 
「万能細胞から臓器を作るにはだいたい1年掛かるんだよ」
「え?そうなの?」
「つまり、ハルアの性転換は1年以上前から準備されていたということだね」
「そうだったのか!?」
 
「そもそも性転換手術なんて、希望者たくさん居るから今日連絡して午後に空いてるなんてあり得ない」
「うん。だいたい半年待ち。マイコはたまたまキャンセルがあって入れてもらったけど、それでも申し込んでから3ヶ月待っている」
「そんなに!?」
「だからハルアの手術も1年くらい前から予約されていたんだよ」
「うっそー!」
 
「きっとハルアが中学生になった頃から、この子、男の子ではなくて女の子にしてあげた方が良さそうって、両親が話し合ったんだよ」
「うん、それで今の時期に性転換手術ってことになったんじゃないかな」
 
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「マイクとかは、とりあえず外見だけ女にしたらしいんだよね」
「そうそう。だからヴァギナと子宮と卵巣は1年後に移植するらしい」
「へー」
 
「じゃハルア、生理もあるんだね?」
「なんか半年くらいしたら《月のもの》が来るようになると言われたけど、もしかして《月のもの》って生理のこと?」
 
「そうそう。毎月1回くらい来るから《月のもの》と言う」
「まあ色々な呼び方がある」
「女の子の日とか」
「月経とか」
「お客様とか」
「アレとか」
 
「アレじゃ分からないよ!」
 
「でも半年かかるんだね」
「たぶん突然女の身体になったから、ホルモンとかのバランスが完全に女の子になって、身体全体のシステムが女として機能しはじめるのに時間が掛かるんだよ」
「あ、そうかもね」
 
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「だからハルアが妊娠できるようになるのは半年後ってことね」
 

その日のお昼休みは、アリナが誘ってくれて女子たちと一緒にお弁当を食べた。それで女の子たちとたくさんおしゃべりしていたのだが
 
「ハルアが居ても何も違和感無いね」
とケイカが言う。
 
「まあ結構女子のおしゃべりに引き込んでいたからなあ」
とジュナ。
 
「むしろあんた男子と話すの苦手でしょ?」
アリナが指摘する。
 
「ボク、戦車とか戦闘機の型番とかもよく分からないし、野球のルールとかもよく分からないし」
とボクは言う。
 
「ああ。こないだ打ってから3塁に走ったというのは聞いた」
「だってバットに当たったの初めてだったんだもん」
 
「けっこうハルアって元々女の子の性格だったんだよ」
「そうなのかなあ。ボクは男の子で良かったんだけど」
 
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お弁当を食べ終わり、そのあとしばらくおしゃべりしていて、やがてトイレに行こうということになる。アリナたちと一緒におしゃべりしながら廊下に出てトイレの前まで行く。それでボクが「じゃまた後で」と言って、男子トイレの方に入ろうとすると
 
「こら待て」
と言って、アリナにつかまる。
 
「あんた、女になったんだからこっち」
「あ、そうか!忘れてた!」
 
というので、彼女たちと一緒に女子トイレに入る。列ができていて3人待っている。その後ろに並ぶ。
 
「でもあんた、これまでも知ってる人のいない所では女子トイレとか使ってなかったの?」
「そんなことしてないよぉ」
「でも女の子の格好では出歩いていたんでしょ?」
「女の服なんて持ってなかったし」
「お姉ちゃんの服を勝手に着るとかは?」
「したことない」
 
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「じゃあんた、全然女の子になりたいとか思ったことなかったの?」
「思ったことなかった」
「それにしては、なんかふつーに女の子になっちゃってるよね」
「ボク、適応性がいいと言われたことある」
 
「ああハルアは受容性、適応性がいいと思う」
とアリナが言う。
「そのあたりの性格も女の子的だなあとは思っていたけどね」
 
「ああ、ハルアって言われたら、そのまましちゃうよね」
「うん。わりと何も考えてない感じ」
「よく言えば素直というか」
 
「だけど女子トイレっていつもこういう列できてるの? 昨日お姉ちゃんに連れられてデパートのトイレに入った時も列ができてた」
 
「女子トイレに列ができるのは普通」
「どうしても女子はおしっこするのに時間がかかるからさ」
「スカートめくってパンティ下げて。した後も拭かないといけないし」
「そっかー」
 
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「まあ待ち行列は女子トイレの名物」
「だからギリギリになる前に行かないとやばい」
 
「全然知らなかった。女の子って大変なんだね」
とハルアが言うと
 
「ほんとに女子トイレ使ってなかったみたいね」
とみんなから半ば感心され、半ば呆れられている感じもあった。
 

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「こないだ性転換したマイコとか、男の子時代にもけっこう女装で街歩いていたよね」
「うんうん。私も女装のあの子に会ったことある」
「私は女子トイレで遭遇したことあった」
「私なんて温泉の女湯でマイクに会ったこともある」
「女湯に入ってたの!?」
 
「おちんちんはタオルで必死に隠して入るんだと言ってた。結局一緒に入ったんだけど、美事だったよ」
「すげー」
「でも見付かったら逮捕されるよ」
「うん。だから見付からないように必死で隠すと言ってた」
 
「でもマイクなら充分女の子に見えるから何とか女湯も行けてたのかもね」
「そうそう。小学生の頃とか、いつも女の子に間違えられてたもん」
 
「じゃ女の子の身体になれて、今は安心して女湯に入れるんだね」
「ハルアも今度、女湯に入ってみなよ」
 
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「土曜日、性転換手術が終わって退院したら、すぐ温泉に連れて行かれた」
「おお、もう体験済みか」
「どうだった?」
「裸の女の人がいっぱい居てびっくりした」
 
「そりゃ温泉は裸で入るから」
 
「おっぱいも色々形があるんだなあと感心した」
「まあ、ひとそれぞれだよね」
 
「おちんちんだって人それぞれだったでしょ?」
「そんなおちんちんなんてじとじと見たことないし」
「まあ、もう見に行けないね」
「男の子のうちにたくさん見ておけば良かったのに」
 

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「そうだ。今日のクリスマス会のサンタガール、ひとりはハルアやってよ」
とアリナが言う。
 
「そうだね。女の子になっちゃったし、いいよ」
とボクは答える。
 
「でも運営委員、ボクが女の子になっちゃったから、女子3人に男子1人だけどいいのかなあ」
「まあ男子ゼロじゃないからいいと思うよ」
「どうせ3月までだしね」
「そだねー」
 
「あ、そうだ。もうひとりのサンタガール、トマスにやらせようよ」
とネリカが言い出す。
 
「え〜!?男の子なのに?」
「トマスは身体が華奢だから、サンタガールの服入るはず」
 
「そういえば、そもそもハルアも女の子体型だよね」
「あ、ボク男子ではいちばん細かったんだよね」
「トマスはその次くらいに細いもん。たぶん行ける」
「よし、私が口説き落とす」
とアリナが張り切っていた。
 
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その日の6時間目は料理だった。ボクは初めて女子たちと一緒に料理教室に行った。この時間、男子たちは射撃をやっている。
 
「今日はクリスマスなので、フライドチキンとフライドポテトを作ります」
と言われる。
 
鶏肉は手羽を使うので、切ったりする必要は無い。下味用のソースを作りそれに漬ける。その味を浸透させている間にジャガイモの皮を剥き、角柱状に切る。
 
「あ、ハルア、皮剥くの上手いじゃん」
「リンゴの皮を剥くのと同じ要領でできるみたい」
「そうそう。似た要領だよね」
「ジャガイモの芽は取ってね。それ毒だから」
「へー。分かった」
 
ボクが剥いたジャガイモをアリナが細かく切る。それで鍋に油を熱してそこに投入し、軽く揚げてから皿に取る。そして塩をまぶす。
 
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鍋は続けてチキンを揚げる。手羽は芯まで熱が通るのに時間が掛かるのでこれを20分間加熱しなければならない。時々交代でひっくり返すことにして、待つ間にみんなでフライドポテトを食べる。
 
「美味しい〜」
「揚げて塩まぶすだけの簡単な料理なのに美味しいよね」
「特に揚げたては美味しい」
 
「女子はいいなあ、こういうの食べられて」
とボクが言うと
「もうハルアすっかり女子に溶け込んでいるよ」
とみんなから言われた。
 

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