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(c)Eriko Kawaguchi 2012-06-17
「私、時々先代の宮司さんには会いに来てたから。で、宮司さんとこ出た時にちょうど近くで遊んでたあんたたちに会ったのが、最初だったんだよね」
「わあ、そうだったんですか!」と理彩。
「今、どちらに住んでおられるんですか?」
「・・・・・東京に母ちゃんと一緒に住んでたんだけどね。先月亡くなったんだ」
「それはたいへんでしたね」と命(めい)が悲しい表情で言う。
「ふーん。。。。悲しんでくれるの」
「だって、まどかお姉さんのお母さんだもん」
「私は悲しくなかった。母親に恨み持ってたから。小さい頃ひどい目にあわされたから」
「そうだったんですか。。。。辛かったでしょうね。でも、それでうらみ持つの、良くないです」と命(めい)が言う。
「お母さんにうらみを持つって、ほんとに色々あったんだろうけど、もう亡くなったんだし、許してあげましょうよ」と理彩まで言う。
「あんたたち、しっかりしてるね。小学3年生とは思えないよ」
とまどかは笑顔で言う。
「まだ東京にいるんですか?」
「今、和歌山県の知り合いのところにいる」
「いっそ、こちらにもどって来たりはしないんですか?」
「そうだね〜。戻って来ない? って言ってくれる人はいるんだけど。理彩ちゃんの遠縁の人でね」
「へー。でもまどかお姉さん、戻ってきたら、きっとみんなかんげいしますよ」
「そうかな。歓迎されるかな?」
「少なくともわたしとメイは大かんげいです」
「ふふ。あなたたちがいるなら、戻ってもいいかな」とまどかは珍しく優しい顔で言った。
そんな会話をしたのだが、ふたりともこの時の会話の大半はその後忘れてしまった。なお、温泉の帰りはまどかが集落まで一緒に下りてくれた。命(めい)のおちんちんは集落に戻るのと同時に元に戻った。そして、おちんちんが戻るのと同時に命(めい)が女体になっていたことも忘れてしまった。
命(めい)が女体になったことがあるということ自体、理彩も命(めい)も、実際に命(めい)が女体になっている時だけ(理彩はそれを見た時だけ)思い出すのである。ただそれは徹底している訳ではなく、関連する記憶と一緒に微妙に記憶が残存していることもあり、また女体化した後数時間は思いだそうとすると思い出せる時もあった。それは目が覚めた直後の、夢の内容の記憶に似ている。
まどかは温泉までの精密な地図を描いてくれたので、その後理彩と命(めい)はしばしばこの温泉に入りに来た。命(めい)のおちんちんが無くなったりはしなかったが「おちんちん小さくなるかも」と言う命(めい)に、理彩は「小さくなっちゃったら、私がお嫁さんにしてあげるから」などと言って、入湯させていた。
でも、ふたりとも、この温泉に入った後はとても体調が良くなるのを感じていた。命(めい)はおちんちんが縮まないかな、と少し不安に思っていたが、特に縮んでしまう様子は見られなかった。
その半年くらい後、ある場所でこんな会話がおこなわれた。
「え?円、村に帰るの?」
「うん。帰ってもいいかなあと思って」
「助かるよ。あと8年で交替しないといけないのに、君がずっとここにいるから、場合によってはあと60年、僕が神様務めないといけないかとも思ってた」
「神様やるのたいへんだからね。120年はもたないよ。コーちゃん、たぶん途中で力尽きて消滅しちゃうよ」
「昔、事情があって120年務めた神様いたらしい。任期終了とともに消滅したと鶴(つる)さんが言ってた」
「任期終了まで必死で頑張ったんだろうね。守り神不在はまずいもんね」
「でも、どういう風の吹き回しなの?」
「うん。ちょっと気になるものがあってね・・・・」
「何年か前から円、しばしば村に行ってたみたいだし、そこで何か見たの?」
「ふふ。私の密かな趣味よ」
「趣味? お花でも育ててるの?」
「お花か。そうねー。似たようなもんだな。あのお花、最初はとっても弱かったの。それをしっかり水と栄養あげて添え木したりして雨風から守ってきたから。一番やばかった時は接ぎ木して何とか持たせたよ」
「へー、円ってそんなマメなこともするんだね」
そして命(めい)たちが小学5年生の時。
学校からの帰り道、突然理彩がこんなことを言い出した。
「命(めい)、あのね。私昨日、生理きちゃった」
「わあ」
「これで私も大人の女の仲間入り」
「おめでとう・・・なのかな?」
「うん。お母ちゃんからおめでとうって言われて、昨夜は赤飯だったよ」
「へー」
「命(めい)はまだ生理来ないの?」
「生理って、女の子にだけ来るんじゃないの?」
「命(めい)って女の子じゃないんだっけ?」
「うーん。一応男の子のつもりだけど」
「そうなのかな?」
「でも、生理って、血が出てくるんでしょ? 今大丈夫?」
「ああ。ナプキンっての付けるんだよ」
「ナプキンって、レストランとか行った時に使う奴?」
「違う違う。同じナプキンという名前でも、全然別物」
「へー。どんなのだろう?」
「1枚、あげようか? ひょっとして命(めい)にも生理来るかも知れないし」
と言って、理彩は手提げかばんの中から小さなポーチを出し、そこからナプキンを1枚出して命(めい)に渡した」
「あ。。。これと似たの、うちのトイレにも置いてある。一度いたずらしててお母ちゃんに叱られた」
「女専用のものだから、男が触れば叱られるよ」
「でも、これ、どうやって使うんだろ?」
「包み紙取ったら、粘着テープでくっついてるから、それ剥がして、ショーツに貼り付けるの」
「ふーん。今度試してみよう」
「そうだね。生理来た時のために練習しておくといいよ」
「来るといいなあ」
と言って命(めい)はナプキンをズボンのポケットにしまう。
理彩は立ち止まり、急に声を小さくした。
「ねぇ、ねぇ、どうやったら赤ちゃんできるか知ってる?」
「え? 結婚したらできるんじゃないの?」
「結婚しただけじゃ、できないよ。あのさ、子供がお母さんに似るのは分かるけど、お父さんにも似るのって、不思議に思ったことない?」
「うーん。愛していたら似るのかなって思ってた」
理彩は命(めい)を誘って、水田の中にある、お地蔵さんのそばに行ってふたりで近くの岩に腰掛けた。
「あのね、性交ってのをするから赤ちゃんできるんだって」
「何?それ」
「女の子のお股に奥の穴があるの知ってるよね」
「うん。何度か触ったし」
「そこが子宮とつながってるのは知ってる?」
「うん」
「だから、生理もそこから出てくるんだけど」
「あ、そうか。だから生理は女の子だけに来るのか」
「そうだね。で、男の子のおちんちんを、その穴に入れると、赤ちゃんできるんだって」
「おちんちん? だって、おしっこするものなのに!」
「命(めい)、そこからおしっこじゃないもの出てこない?」
「あ。。。。おちんちんいじってたら白い液体が出てくる」
「その白い液体を子宮に入れると、赤ちゃんができるのよ」
「えー!?」
「ねえ、一度やってみない?」
「でも、赤ちゃんできたら、どうすんの?」
「うーん。一緒に育てようよ」
「でも、小学生で赤ちゃん産む人って聞いたことない」
「生理が来たってことは、もう赤ちゃん作れるようになったということなのよ。男の子もおちんちんから、白い液体が出るようになったら、女の子に赤ちゃんを作らせることができるようになったということ」
「多分・・・・結婚してから、したほうがいいんじゃない?」
「そうかもねー。でも性交ってしてみたいのに」
「結婚するまで待とうよ」
「でも結婚出来るのって、女の子は16歳、男の子は18歳。だから、私たち、まだ7年先まで結婚出来ない」
「それまで待とうよ。18になったら結婚してあげるからさ。そしたら性交しよ」
「きっとよ」
「約束する」
「じゃ。キスして」
「えっと。。。キスしても赤ちゃんできないよね?」
「できないよ。性交しない限り」
「じゃ、キス」
キス自体は昔からしていたが、愛というものを意識してしたキスは多分それが最初だ。そして中学生の頃はふたりはもうキスしまくりだった。そしてふたりは「避妊」という手段があることも知ってしまう。でもさすがに中学生の頃は、コンドームなんて買いに行く勇気は無かったから、性交もできないと思っていた。
理彩と生理と性交の話をした翌日。命(めい)は母と会話していて、話の流れから理彩に生理が来たことを話した。その晩は父は残業していて、まだ帰ってなかった。
「へー。理彩ちゃんも大人の仲間入りしたんだね。もう赤ちゃん産めるってことだからね」
「うん。僕と理彩の赤ちゃん欲しいね、なんて言われたけど、結婚してからにしようねって言った」
「まあ、それがいいね。赤ちゃんそだてるのに、お金掛かるから、命(めい)も学校出て、お仕事してなきゃだめだよ」
「そうか。お仕事しなきゃだね」
「うん。だから今は勉強頑張ろう」
「うん。でもいいなあ。僕も赤ちゃん、産みたい」
「そうだね。手術して女の子になっちゃったら産めるかもね」
「手術して女の子になれるの?」
「うん。性転換手術といってね。赤ちゃん産む穴を作ってもらうの。結構受ける人いるよ。お母ちゃんも子供の頃は男の子だったけど、中学生になる少し前に手術して女の子になって、それであんたを産んだんだよ」
「えー、そうだったんだ? 僕もその手術受けたいなあ」
「でも凄く痛かったよ」
「女の子になれるなら我慢する」
「じゃ、病院行って、女の子になる手術してもらう?」
「受けたい」
「じゃ、明日にでも一緒に病院に行こうか?」
「行きたい」
「でも女の子になるには、おちんちんもたまたまも切っちゃうけどいい?」
「うん。いいよ。僕、おちんちんとたまたまがあるより、割れ目ちゃんと赤ちゃん産む穴がある方が好き。おっぱいも欲しいし」
「おちんちん無くなったら、命(めい)が時々してる、おちんちんいじって気持ちよくなって、白い液体出てくるやつもできなくなるよ」
「あれ知ってたの? でも気持ち良くない。あれする度に悲しくなるの。こんなことしたくなかったのにって。僕、おちんちん無い方がいいのにって」
「ほんとに女の子になりたいんだね」
「うん」
「まあ、命(めい)なら可愛い女の子になれそうだしね」
「お母ちゃんも小さい頃から女の子になりたかったの?」
「・・・・えっと、ごめん。冗談だったんだけどね」
「えー?」
「軽い冗談のつもりが、命(めい)マジになっちゃうし」
「じゃ、お母ちゃんは男の子じゃなかったの?」
「うん。ごめんね」
「じゃ、最初から女の子だったの?」
「うん。最初から、おちんちんは無くて、赤ちゃん産む穴があったの。それに男の子が手術して女の子になることはできるけど、お嫁さんにもなれないし、赤ちゃんも産めないのよ」
「えー?赤ちゃん産めないの!?」
「そもそも、あんた女の子になっちゃったら、理彩ちゃんと結婚出来なくなるけど、いいの?」
「あ、それは困る!」
命(めい)があまり性のことを分かってないようだというので、母も少しずつ教えてあげていた。母は特に性交と妊娠のことはしっかり教えておかないとやばいと思った。理彩ちゃんを妊娠させる訳にはいかない。また女の子には卵巣と子宮があるが、男の子が性転換しても卵巣と子宮を作ることはできないので赤ちゃんが産めないのだということも説明してあげた。
「卵巣は赤ちゃんの卵が入ってるのよ。その卵に男の子のおちんちんの先から出る赤ちゃんの素を掛けると、赤ちゃんができるのね。命(めい)には、もともとその卵が無いから赤ちゃんは産めないのよ」
「そっかー。無いんじゃ、しょうがないね」
「それと、子宮で赤ちゃんを育てるけど、子宮って、ものすごく丈夫なの。これはさすがに、人工的には作れないんだ。子宮と身体の表面とをつなぐ、膣までは作れるけどね」
「何十年か先には作れるようになるかなあ」
「うん。子宮までは作れるようになると思うよ。でも、その頃はもう命(めい)はおばあちゃんになってるもん」
「おばあちゃんじゃ、赤ちゃん産めないね」
「さすがにね」