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■神様のお陰・高3編(5)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-06-03
 
「でもふたりとも何代も前からこの村の人だよね」と宮司さん。
「そうですね。そういう古い家系も少なくなってきましたね。そうそう奥田と辛島は何代か前につながってるんでしたね」
「うん。奥田さんちから辛島にお嫁に来たんだよ。うちのひいばあさんが。そのひいばあさんは、斎藤さんちとも、古い時代につながってると言ってたらしい。まあ、こういう村はほぼ全員が親戚」
「確かに」
「それで少し先の話だけど、理彩ちゃんでも命(めい)ちゃんでもいいけど、ふたりがもし男の子を産んだら神社の跡取りに欲しいなあと思って」
「ああ」
 
「私が男の子産んで、神社とかに興味持ってそうだったら、考えていいですよ」
と理彩。
「うん。助かる」
「命(めい)もいいよね? 命(めい)が産んだ子の意志次第ではあるけど」
「えっと・・・・僕も子供産むんだっけ?」
「タネが必要なら、そのうち彼氏紹介してあげるから」
と微笑んで理彩は言った。
 
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120年前。
 
明治26年癸巳(1893年,前年の1892年が壬辰)。村の組頭を務めていた奥田家に産婆が呼ばれてきた。産婆は奥田家に妊婦がいるということ自体を知らなかったので、最初てっきり、たまたま来ていた親戚の女でも産気づいたのかと思ったのだが、案内されて離れに行くと、産気づいて苦しんでいるのが当家の三男であったことに驚く。
 
「命理君って、実は女の子だったの?」と産婆さん。
「いや、男の子だけど、なぜか妊娠しちゃって」と奥さん。
「奇異に見られてはいけないから、お腹が大きくなってからはずっとこの離れにいたんです。おっぱいも女みたいに大きくなってしまったし。できたら、このことは内密に」
「内密にはいいけど、どこから産ませればいいんです?」
 
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すると産みの苦しみに喘いでいる命理が
「とにかく、この子を無事出してあげてください。実際問題としてお腹を割いて出すしかないと思っています。私自身は死ぬのは覚悟してます」
と言う。
 
「帝王切開という方法があるんですよ。お腹を割いて赤子を取り出すけど、ちゃんと母親も子供も両方助けます」
「そんなことができるんですか?」
 
「でもそれは医者でなきゃできません。誰か馬場先生を呼んできて。医者は守秘義務があるから、見たことを絶対他人には漏らしませんよ」
と産婆が言うので、命理の兄が隣町の若い開業医の所まで走って呼びに行くことになった。
 
当時は電話などまだ普及していない。自動車は都会の大金持ちしか持っていない。自転車でさえ、かなり高価な代物であり、この集落には1台も無かった。医者のいる町まで片道10km。戻ってくるのは2〜3時間後だろう。
 
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産婆はとにかくお腹をさすったり手を握って元気付けたりして、少しでも命理の苦痛をやわらげる努力をしていた。さすってあげながら、なにやら祈りの文句を唱えている。昔の産婆というのは祈祷師を兼ねていて、出産の際に悪霊が母子の命を奪いに来るのを防止するのも役目だった。
 
命理は身体を拘束する衣服が辛いというので、下半身は褌も外して裸にされている。下腹部はもう産まれんとばかりの状態ではあるが、産むべき穴が存在しない。
 
30分ほどそんなことをしていた時、「なんか産まれそうな気がする」と唐突に命理が言う。
「産まれるといっても・・・・」と産婆は言ったものの、確かに胎児が子宮から産道に移動し始めたような感触があった。その時、突然命理の陰部に今まであったはずの陰茎が消滅した。
 
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「へ?」と産婆は目をこすってみる。
しかしそこには陰茎・陰嚢が無くなり、少し開いた陰裂が姿を現していた。
 
それを見ていた周囲のみんなが驚いているが、産婆は「これなら取り出せるかも」
と言い、独特の伝統的手法でお腹のマッサージをする。産婆は行ける!と確信した。「これちゃんと産まれますよ!」と言う。命理が苦しそうな声を出すが、ほんとに産まれそうな雰囲気だ。「頑張って」とお母さんが励ます。
 
やがて産道から胎児の先端が現れてくる・・・・が胞衣に包まれている!産婆はその先端を掴むと引き出すようにして胞衣の卵を取り出した。すぐにカミソリを使って羊膜を開封する。羊膜が厚くて開封に手間取ったが、やがて、おぎゃー!という元気な声。
 
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「産まれた!」
命理は声を出せないものの涙を浮かべて嬉しそうな顔をしている。そのまま力尽きそうなのを「赤ちゃん元気だから、あんたも頑張らなきゃ」と励ます。
 
産婆はすぐにヘソの緒を切り、産湯に付けて洗い、命理の母親に渡す。そして自分は命理の方の身体の消毒などをしてあげた。
 
少し落ち着いてきた命理が「赤ちゃんにおっぱいあげたい」などと言うので、命理の母が赤ちゃんを命理の乳房の所に持って行くと、赤ちゃんは自力で乳を吸っているようである。命理はほんとに幸せそうな顔をしている。
 
しばらくそんなことをしている内に命理が眠くなってきたという。
「後は任せて。少し寝なさい」
と母親に言われて命理は目を瞑った。
 
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そして命理が眠ってしまったとたん、股間に唐突に陰茎と陰嚢が出現した。
「へ?」
完全にその部分は元の男の子の形に戻っている。赤ちゃんはまだ命理のおっぱいに吸い付き、母乳を飲んでいる。
 
「おっぱいは去年の秋頃から大きくなってきました。それと同時にお腹の方も大きくなったので、とても人前には出られない状態になったんですよね」
とお母さん。
 
「こんな不思議なことは、50年も産婆やってて初めて見た」と産婆さん。
 
「やはり、この子、神様の子供なのかな」とお母さん。
「どういうことです?」
 
「この子から、妊娠したみたいだと言われた時、そんな馬鹿ななんて言っていたのですが・・・この子、去年の5月頃に、神様がやってきて、その時だけ自分は女の身体になって、神様とまぐわいをしたと言っていたんです。この子、もう頭がおかしくなったのかと思っていたんですが・・・・」
 
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「きっと神様の子供だから、こうやって無事産まれたんですよ。この子はみんなで大事に育てましょう」と産婆さん。
 
「ほんとですね・・・・」
「きっと、この子はこの家にも村にも、大きな幸いをもたらしますよ。何といっても、奇跡としか思えない産まれ方をしたんだもん」
 
命理は満19歳でその子供、理(ことわり)を産んだ。理が後に命(めい)と神婚した神様である。命理は20歳の時に徴兵検査があったが、乳房が膨らみ授乳の都合上もあり女の服を着ている命理は当然のことながら不合格となった。(実際は検査場に行くなり「帰れ」と言われた)
 
その後、命理は彼に思いを寄せていた村の女性・阿夜と結婚し、半ば姉妹のような結婚生活を送りながら、田畑を耕して一緒に理を育てた。親戚たちも友人たちもそんな命理と阿夜を応援してくれて理はたくさんの愛情を受けて育った。ふたりの間にはその後、命理を父とし、阿夜を母とする娘・美智も生まれた。
 
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命理は1927年に急な心臓発作で亡くなった。理は命理が生きている間だけこの世にとどまる約束だったので、命理の葬儀が終わった後昇天し、その後霊体の状態で、しばしば阿夜の世話をしていた。
 
美智は村の若き宮司の所にお嫁に行き、男の子を産んだ。それが命(めい)たちの時代の宮司(辛島和雄)のお祖父さん・辛島琴雄である。60年前の神婚で生まれた子供とその母親を、琴雄の息子である利雄(和雄の父)が保護したのは、曾祖母・阿夜と祖母・美智の意向を受けたものであった。阿夜は村から逃げるように去って行ったその母子のことを案じながら1955年に77歳で亡くなった。
 
理彩は理彩の父が奥さんの連れ子で奥田家の養子になったので、元々の奥田家の血は引いてないのだが、来海や真那は命理の長兄の子孫に当たる。
 
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(系図参照 http://femine.net/j.pl/sh/keizu )

話を現代に戻そう。
 
7月31日。命(めい)と理彩は一緒に大阪に出て行った。ふたりは日々の自主的な勉強でかなり実力を付けては来ていたのだが、やはり阪大のようなハイレベルな大学を受けるには、大手予備校の講義も受けておいた方がいい、というのが、両親や、ふたりの受験を応援している理彩のおじ・太造との一致した意見だった。
 
最初はゴールデンウィークと同様に、合宿講座を受けようと思っていたのだがいつもふたりに受験情報を流してくれている、大阪の友人、千草から
「ふたりのレベルなら合宿より、ふつうの講義受けた方が良い」と言われた。
 
「合宿講座って、セット料理、お子様ランチなのよ。何でもかんでもコミだから、確かに役に立つ講義もあるけど、私や命(めい)・理彩のレベルなら、不要な講義もある。それより、自分でチョイスして講座を選べる、ふつうの夏期講座を受けた方がいい。セット料理じゃなくてアラカルトで行くのね」
 
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というのが千草の意見で、命(めい)と理彩も確かにそうかも知れないと考え、大阪市内の予備校で8月に開講される、90分×5講などといった短期コースを幾つか自分たちでチョイスして受けることにしたのである。
 
日程を組んでみたら、毎日5〜6講(1講は90分)で10日間(2週間)にきれいにおさまるスケジュールとなった。1セットの講義が月曜から金曜まで毎日1講あるので2週間と、その間の土日の特別講義まで受講して、8月1日(月)から12日(金)までのコースである。その間は大阪市内の安いビジネスホテルに泊まることにした。「あんたたち集中講義している最中に野生に帰ったりしないよね?」と言われてツインの部屋に一緒に宿泊する。受講料が結構な高額になるので宿泊費だけでも抑えようという作戦である。
 
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村を出る時は命(めい)は一応男の子の格好をしていたが、電車に乗り換える駅の「女子トイレ」で、理彩が用意してくれていた女の子の服に着替えた。
 
大阪では千草にも会うし、他にもゴールデンウィークの合宿講座で会った子に遭遇することもあるし、などと理彩にうまく乗せられて命(めい)としてもこの12日間は女の子で通す気になっていた。
 

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取り敢えずホテルにチェックインし、部屋に入る。
 
「なるほど。格安ツインって、こういうことか」と命(めい)。
「1泊(2人で)4500円というのが納得だわ」と理彩。
 
その部屋はどう見てもシングルの部屋だが、無理矢理ベッドが2個置かれている。
 
「取り敢えずベッドくっつけない?」
「うん。くっつけてここのスペース空けないと、テーブルのところに座って勉強できないね」
 
片方のベッドの端がテーブルにくっついていて、そこに座れなくなっている。ふたりで協力してベッドをずらした。
 
「これでOK」
「ベッドの端に腰掛けて、テーブルを使えるね」
「眠くなったら、そのまま仰向けに倒れると、ベッドの上で一応寝れる」
 
「ね、提案」と命(めい)。
「ん?」
「集中講座やってる10日間は、悪戯してHなこと仕掛けたりしない」
「そうだなあ。確かにセックスしたければ、家に帰ってからでもできるよね。何だか、どちらの親も私たちが早くくっついてくれないかな、と思ってる気がしない?」と理彩。
 
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「するする。避妊具持って行くか?とか言われたけど、気合い入れて勉強している時に、そんなことしないからと言って断った。でも、僕は理彩のこと好きだから、そういう感じで言われるのは構わないけど」
 
「えっと、セックスも保留だけど、私たちの関係、恋愛問題についても棚上げしようよ」と理彩。
「了解。じゃ『好き』と言わずにキスしちゃおう」
 
「唇にする?」
「ううん。いつも通り、頬でいいよ」と命(めい)。
「頬なら、断らずにいつでもしていいよ」と理彩。
「するつもりだよ」と命(めい)は言って、理彩の頬にキスした。理彩もキスを返してくれた。
 

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その日はホテルで少し休んだ後、明日から受講する予備校に行き、会員証をもらい、受講する講座の説明書、それに受験に関するいろいろな資料集などももらった。その後、100円ショップでノート、シャープペンシルの芯など、また物干しロープ・たこ足、電気の延長コード、などなど10日間に必要となりそうな生活用品などを少し買いそろえる。おやつも買う。またスーパーに寄って、通常の食糧や非常食に、ショップブランドの安いペットボトル入りお茶を買い、ホテルに戻った。
 
お部屋で夕飯用に買ってきたお弁当を食べた。命(めい)が朱塗りの小ぶりなマイ箸でお弁当を食べる様が何だか可愛い感じだ。理彩は見ていてドキドキした。
 
「命(めい)はもう完全に女の子ライフに馴染んでるね」
「うん。結構楽しんでるかな。取り敢えず女子トイレに入るのには抵抗が無くなった」
「それは以前からでしょ! もう性転換まであと1歩かな」
「性転換するつもりは無いよ。性転換したら理彩と結婚出来ないじゃん」
「私、レズでもいいよ」
 
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と理彩は笑って答えたが、今の会話ひょっとして求婚とその承諾の返事になってないか?と理彩は一瞬考えた。もし・・・・・命(めい)が本当に女の子になっちゃったりしたら、私と命(めい)って、双方ウェディングドレス着た結婚式とか挙げちゃったりして?? というのを想像してみると、何かそれも楽しい気がしてしまう。命(めい)、きっと女の子になっちゃっても私のこと愛してくれるだろうしなあ。。。。でもレズのセックスって、どうやるんだろう??
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神様のお陰・高3編(5)

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