広告:Back-Street-Girls-4-ヤンマガKCスペシャル
[携帯Top] [文字サイズ]

■少女たちの基礎教育(7)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

1994年10月。
 
千里は母に連れられて近くの幼稚園に入園試験を受けに行った。試験を受ける子だけ並べられた椅子に座らせ、親は後ろの方で見ている。園長先生のお話があっていたのだが、千里は椅子に座ったままじっと聞いていたものの、中にはちゃんと椅子に座っていられなくて立ち上がって走り回り慌てて親が寄ってきて、また座らせたりしている子もいた。
 
(先生がその様子を見ながらメモしていたので、どうもこの「座ってお話を聴く」というの自体が試験の一部のようである)
 
やがて1人ずつ名前を呼ばれる。
 
「村山千里さん」
と呼ばれるので千里は
「はい!」
と元気よく答えて、椅子から立ち、別室に行く。母がそれに付き添う。
 
↓ ↑ Bottom Top

それで大きな星形が印刷された紙とハサミを渡され、この線の通りに切ってくださいと言われた。千里は紙を右手で、ハサミを左手で持って切り始める。
 
「あら、お嬢さんは左利きですか?」
と先生から言われる。
 
「あ、どちらも行けるみたいです。千里、右手でハサミを持って」
と母が(お嬢さんと言われたことは取り敢えず置いといて)言うと
 
「うん」
と千里は答えて、紙を左手、ハサミを右手で持ち直して、続きを切って行った。
 
「線の通り、きれいに切れたね」
と先生は褒めてくれた。
 

↓ ↑ Bottom Top

そのあとは先生が千里に質問した。
 
「お名前は何ですか?」
「むらやまちさと」
「何歳ですか?」
「3さい」
 
(千里は1991年3月生なので、2年保育に行く場合3歳半の状態で面接を受けることになる。早生まれの子にとって幼稚園の面接はとっても大変である)
 
「好きなものは何ですか?」
「おさしみ」
 
「昨日は何を食べましたか?」
「カレー」
「大きくなったら何になりたい?」
「セーラーマーズ」
 
「セーラーマーズが好きなんだ?」
「レイちゃんかっこいい。おおぬさふってあくりょうたいさん」
 
と千里が言った時、
 
その時、左端に座っていた園長先生が「え!?」という表情をした。
 
「あなた、もしかして・・・・」
 
↓ ↑ Bottom Top

と言って千里を少し見つめる。「ちょっと待って」と言い、席を立って何かのカードを持って来た。裏返しに5枚並べる。そして別の5枚を表向きにして渡すと
 
「千里ちゃん、このカードを表向きに5枚このカードの下に並べて」
と言う。
 
それで千里は先生からカードを受け取ると、左から順に□○+☆、そして川のような模様が描かれたカードと並べた。園長先生が最初に裏返しに並べていたカードをめくる。するとそのカードも左から□○+☆川だった。
 
「千里ちゃん、仲間合わせ好きなのね?」
「うん、すき」
 
と千里が言うと、園長先生は微笑んでいた。千里の母は何だろう?と思い首をひねっていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

幼稚園の入試結果は翌週通知された。面接と年収で絞った後に最終的には抽選までしたらしいが、結果は合格で、12月に制服の採寸をしてくださいということであった。
 
制服はセーラー服の上下に帽子、園内で着るスモッグ、体操服の上下で合計18000円と書かれている。公立なので、私立に比べるとぐっと安いものの、それでも公立に来るのはあまり裕福ではない家庭が多いし、ボーナス時期の後に払えばいいようにしているのかなと津気子は思った。
 
村山家の家計にしても、津気子が武矢と結婚した頃はけっこう潤っていて、子供が生まれる頃には市営住宅を出て家を建てようかなどという話もしていたのだが、その後ソビエト及び1991年12月の解体後にそれを継承したロシアの200海里水域での漁獲量制限などもあり、水揚げは急速に減ってきた。船自体の数が、結婚して留萌に来た当初の半分くらいになっている。特に昨年以降は制限が本当に厳しくなり、津気子はかなりの緊縮家計を強いられている。正直私立の幼稚園なら月謝を払うのも辛いと思っていたので、公立に入ることができたのは助かった。
 
↓ ↑ Bottom Top


11月上旬の飛び石連休に、津気子の姉で当時は札幌に住んでいた優芽子が2人の娘・吉子(小3)と愛子(年長)を連れて遊びに来た。
 
「ああ、公立に入れたんだ。良かったね」
と優芽子が言う。
 
「うん。お母さんたちの話を聞いていたら、年収400万円以上を足切りした上で抽選で40人くらいを25人に絞ったらしい」
 
「結構競争率高いね!」
「そうそう。私立だと月謝も高いし、制服とかも高いみたいだから結構辛いかなと思っていたから良かった」
「そうだ。今愛子が使っている通園カバンとか、譲ろうか?」
「あ、助かる。ちょうだい。私立は規定のがあるけど、公立はそういうのも好きなの使っていいみたいだから」
 
「わたしは?」
と愛子が言うが
「あんたは来年からは小学校だからランドセル買ってあげるから」
と優芽子が言うと
「あ、それもたのしみ」
などと愛子は言っていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「赤いカバンだけど、男の子が使っても問題無いよね?」
「あ、平気平気。それに千里わりと赤が好きみたいだし」
「あれ?今千里ちゃんが着ているブラウスも愛子が着てたのかな?」
「そうそう。まだ小さいし、別にブラウスでもいいだろうと思って」
「うん。小さい内はそのあたりもいいよね」
「千里が着れなくなったら玲羅に」
「こちらも元々は吉子が着ていたものを愛子に着せて、そのあとこちらに送ったんだけどね」
「いや、すごく洋服は助かってる。子供はすぐ大きくなるから」
「だよねー」
 
「清彦兄さんとこは一番下が玲羅のひとつ下だし、あそこの三兄弟だけで終わってしまうみたいだもんね」
「そもそも男の子が3人も着た服は使用不能」
「うん。女の子はおとなしいから再利用できるけど」
「千里ちゃんもおとなしいからあまり服痛まないでしょ?」
「そうそう。この子はあまり外で遊んだりせずに本読んだりしてることが多いのよね。何か運動とかもさせた方がいいのかも知れないけど」
 
↓ ↑ Bottom Top


「家の中で遊んでるのが好きなら、家の中でできる風船遊びとかボウリングとか輪投げとかもいいかもね。100円ショップに売ってるよ」
 
「うーん。こちらにはそんなのまで売ってる100円ショップが無い」
「そっかー。じゃ今度適当にみつくろって買って送ってあげようか」
「あ、助かるかもー」
 
「でも幼稚園はお稽古事とかはないの?」
「私立の方はいろいろあるみたい。ピアノ、バレエ、空手、習字、パソコンに英語、お絵描き、水泳とか。でも公立の方はピアノと体操教室だけみたい。幼稚園の先生が自分で教えられる範囲みたいで。だから月謝も1500円だって」
 
「安いね!」
「半ば延長保育みたいなもんだから」
「なるほどー」
 
「男の子は体操教室、女の子はピアノ教室に参加する子が多いみたい」
と津気子が言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ふーん。千里ちゃんは体操教室させる?」
「それがこの子、体操は好きじゃないからピアノしたいって」
「ああ、それもいいかもね〜。男の子がピアノ習ってもいいと思うよ。あ、だったら愛子が弾いてたおもちゃのピアノもあげようか? もう愛子も普通のアップライトピアノ弾いてるから、あまりあれ弾いてないもんね?」
 
「あれ出ない音があるけど」
と吉子が言っているが
 
「そのくらいは愛嬌で」
と津気子は言った。
 

↓ ↑ Bottom Top

それで連休明けに優芽子は、札幌の100円ショップで買った輪投げとボウリングに愛子が使っていたおもちゃのピアノ(というより電子キーボード)で、演奏するとお人形さんが踊る仕様のをまとめて送ってきてくれた。もっとも5つ立っているお人形の内、1つは動かない。どうも少し壊れているようだ。
 
千里はこのキーボードが気に入ったようで、探り弾きで童謡などを弾いていた。
 
「あんた上手に弾くじゃん」
と津気子は千里に声を掛ける。
 
「うん。これたのしい」
 
千里が左手でメロディーを弾いているので津気子は言う。
 
「でもピアノって右手でメロディー弾くんだよ。左手では伴奏するんだよ」
「ばんそう?」
 
それで津気子は押し入れの中から自分が子供の頃使っていたエレクトーンの教本を出して来て、それで確認しながら教える。
 
↓ ↑ Bottom Top

「取り敢えずこの3つの和音を覚えなさい」
 
と言ってC(ソドミ)、F(ラドファ)、G7(ソシファ)だけ教える。
 
「この中のどれを弾けばいいかは、その時にいちばん合っている気がするのを選べばいいんだよ」
 
と教えると、千里は悩みながら色々試しているようであった。
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
少女たちの基礎教育(7)

広告:放浪息子-完全設定資料集-ホビー書籍部