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ヤヨイは日本の温泉に何度か入っているものの、タマラは本格的な温泉は初めてらしい。それではしゃいでいる感じで、さっさと服を脱いで裸になっている。ヤヨイは今服を脱いで下着を脱ごうとしている。
千里は急いでセーターやズボンを脱ぐとその下に着ている下着も脱ぐ。
「Chisato, you wear a boy-like pantie」
などとタマラが言う。
「It's warm」
と千里が言うと
「Ah, that's the way」
などと言って納得していた。
ちなみにこの日千里は上半身はドラえもんのTシャツを着ていた。ユニセックスに近いものである。
それで千里がトランクスを脱ぐと、タマラには普通に女の子のお股に見える。
「Not willy, it's mary」
などとタマラが言うと、ヤヨイが何か英語で叱っている感じだ。そういう言葉を人前で口に出して言ってはいけない、みたいに言われているのかなと千里は思った。
小春も服と下着を脱いで裸になっていた。
それで浴室の中に入る。タマラが浴槽に突進しようとするのをヤヨイが停める。
「After you wash your body」
と言っている。
ヤヨイは日本生活が長いので日本の習慣などはよく分かっているようである。それで全員おのおの身体をちゃんと洗ってから浴槽に入る。
洗い場から浴槽に移動する時に、千里は小春が足を引きずっていることに気づいた。
「小春ちゃん、足どうかしたの?」
「うん。ちょっとこないだ怪我したのがまだ治りきってないのよ」
「だったら温泉に入ると治るかも」
「そうだね」
と言って小春は微笑んだ。
そして浴槽の中に入ると、千里が小春の左足のふくらはぎに手を当て
「ちんちん・ぷいぷい」
と唱える。
「ソレ、ドーユーイミデスか?」
とヤヨイが訊くので千里は
「痛い所を治すおまじないなんです」
と答える。
タマラが
「It means Willy and Mary」
というと
「Oh, god」
と言ってヤヨイは首を振っていた。
「ソウダ。ミンナ、タンジョウビは、イツ?」
とヤヨイが訊いた。
「June 6, 6:00AM」
とタマラが言うと
「Like Damian!?」
と小春が驚いたように言う。
「Yes, yes. She's often told」
と言ってヤヨイが笑っている。
千里が分からないようなので小春が、昔あった「オーメン」という映画の主人公の悪魔の子供が6月6日6時生まれで、666というのは聖書の黙示録に書かれている悪魔の象徴の数字なのだと説明した。
「コハル、ヨクシッテルね」
とヤヨイは感心している。
「October 10. "Koharu" is another name of October」
と小春が片言っぽい英語で言った。
ヤヨイはそれは知らなかったようで、感心したように頷く。
「10ガツ、カンナトモ、ユーよね?」
「Yes, Kanna-zuki or Kamiari-zuki is more popular name of October」
と小春はヤヨイの質問に答えた。
「Kanna means "No Gods" and Kamiari means "Gods are here". In October,all gods in Japan gathers in Izumo district to have a conference. So there are no gods in all area of Japan except Izumo, and it is called "No gods month". While in Izumo many gods gathers so that it is called "Gods staying month".」
と小春が説明すると、ヤヨイはその話を知っているようで頷いているがタマラは知らなかったようで「へー」という感じの顔をしている。
「Koharu means "little spring". The climate of October resembles to that of spring, so it is called "Little spring"」
と小春が自分の名前の由来を説明すると、ヤヨイは
「That explains it」
と言って納得した様子であった。
小春は英語でヤヨイたちに説明しながら、心の声では日本語で(?)千里に内容を伝えてくれたので、千里も「へー」という感じで聞いていた。
「ソウダ。チサトのタンジョウビは?」
とヤヨイが尋ねる。
千里が
「わたしはへいせいさんねん、さんがつみっか」
と言うと小春が
「March 3 Heisei 3」
と英語に訳してくれる。
「アラ、キョウガ、タンジョウビ?」
とヤヨイが今そのことに気づく。
「Yes, yes. Today is Chisato's birthday」
と小春が答える。
「Oh, Happy Birthday!」
とヤヨイとタマラが言い
「サンキュー」
と千里も答えた。
「チサト、3ガ、ナランデイル?」
「よくいわれる」
「ジャ、 6ガナラブ、タマラト、3ガナラブ、チサトデ、オトモダチ」
とヤヨイ。
「ソレト、コハルモ10ガナラブ」
とまで日本語で言った後、英語でもタマラに説明する
「We three are friends」
「うん、おともだち」
と3人は言い合った。
3人が「そろそろ帰ろうか」と言って温泉からあがったのはもう4時頃である。窓の外を見ると、来る時は小雪だったのが、今は結構な吹雪になっている。
「かなり降ってるね」
「ユキ、タクサンツモルカナ?」
などと言いながらロビーで少し涼んでいた。
お土産物コーナーを覗いていたタマラが興味を持ったものがあった。
「Very cute figures!」
と言っている。
「What's this?」
と近寄っていった千里に訊く。
「これ十二支のお人形だよ」
と小春が代わって答えた。指先くらいの小さな十二支の陶器の人形が並んでいる。
「In Eastern Asia, each year said to be guarded by twelve spirits.Mouse, Cow, Tiger, Rabbit, Dragon, Snake, Horse, Sheep, Monkey, Bird, Dog, and Boar」
と説明する。
ちょうどそこにヤヨイも寄ってきた。
「I like tiger」
などとタクラが言うと
「Then I will buy them for you three」
とヤヨイは言って、寅の小さな人形を3つ取る。
しかし小春は
「I like dragon better」
と言ったので、ヤヨイは寅をひとつ返して1つは辰の置物を取り、それをレジに持って行ってお金を払った。
「Present」
と言って、寅と辰の人形を千里と小春に渡してくれて、ふたりとも
「Thank you」
とお礼を言った。
千里はその人形を着てきたコートのポケットに入れた。
「あれ、小春、足よくなった?」
と千里が訊く。
「うん。千里がおまじないしてくれたから、だいぶ良くなったよ」
と小春は笑顔で答えた。
千里が自宅に戻ってみると、父は海が荒れて早めの帰港になった割には機嫌が良かった。海が荒れた時にありがちで漁の成果が良かったようである。
「しかし俺たちはもう危ないから帰ろうというので帰って来たけど、まだ漁を続けている船も結構あったよ。確かにこういう時は獲れるからなあ」
などと父は熱燗の日本酒を飲みながら言っていた。
夜中、千里は父と母の会話で目を覚ました。
「じゃ神崎さんたちの船が連絡取れないの?」
「海上保安庁の船が現場付近に向かっているらしいけど、本格的な捜索は夜が明けてからになるんじゃないかと。俺たちも朝になったら出る」
「じゃ、タケちゃん、寝てなきゃ」
「そうする」
と言って父は寝ることにしたようである。母はふだん千里の前では父のことを「お父ちゃん」と呼ぶ。子供が寝ているので「タケちゃん」になったのかなと千里は思った。父も子供が寝ていると思うと母のことを「ツッキー」と呼んでいるようだ。
そのあと、どうも母は神崎さんの奥さんと電話で話したようである。
「きっとこの嵐の影響で通信機器が故障したのよ。変なこと考えずに無事を祈ってましょう。え?お百度? この大雪の中?。うん。あなた自身が風邪とか引かないように温かくしてね」
と言って母は電話を切った。そして父の寝ている布団の隣に潜り込む。母も取り敢えず寝るのだろう。
しかしこの夜、千里はなぜか寝付けなかった。
30分ほどもしたろうか。父も母も寝息を立てて寝ている。ベビーベッドの玲羅も熟睡しているようだ・・・と思ったのだが、軽くぐずる。
千里は起き上がると、ベビーベッドのそばに寄り、おむつの所に手を当ててみる。おしっこしたのかな?と思い、おむつを換えてあげることにする。玲羅は1992年7月23日生まれ、千里と年子だが学年は2つ下になる。現在1歳7ヶ月である。最近は結構しゃべるし、起きているとあちこち動き回るので「目が離せない」状態。母がいる時はいいが、買物などに出ていると千里はかなり玲羅に振り回されている。
新しいおむつを出して来て、下に敷き、今つけているおむつを取り外す。おしっこを吸っていて生暖かく重い。
そして・・・
このおむつを外した時に、いやでも玲羅のお股を見ることになる。自分と形が違うそのお股を見て千里は「いいなあ」と思った。自分もこういうお股だったら良かったのに。
すぐ新しいおむつを装着してマジックテープを留める。おしっこを吸ったおむつは丸めてトイレのペタルペールに捨てる。トイレに来たついでに自分もおしっこする。
千里は決して立ってはおしっこをしない。必ず便器に座ってする。しかしおしっこをしていて、はぁと思う。なんで私にはこんなものがお股に付いているんだろう。取れないのかなあと思って、おしっこして拭いた後、思いっきり引っ張ってみる。痛いけど取れない。引っ張り方が弱すぎるのかなと思って、かなり強く引っ張ってみたこともあるが、それはちぎれなかった。
パンツをあげて手を洗い、トイレを出ようとした時、窓をトントンと叩く音があった。
『千里、よかったら力を貸してくれない?』
と小春が《心の声》で呼びかけてきた。
『小春ちゃん?こんな夜中にどうしたの?』
と千里は心の中で明確に思考すると、
『神崎さんたちを助けたいの』
と小春は千里に言った。
パジャマの上にセーターとコートを着て、そっと勝手口から外に出る。小春は昼間見た時よりずっとお姉さんのような雰囲気だった。女子高生か女子大生くらいに見える。
「私と一緒に来て」
「うん」
それで小春に付いていく。やがて神社のそばまで来る。暗闇の中、神崎さんのお母さんがずっと歩き回っている。「おひゃくど」とかいうのをすると言っていたから、それをしているのかなと千里は思った。
「神崎さんがお百度踏んでいるけど、今それをしても無駄」
と小春は言った。
「どうして?」
「神様が居ないから」
「へー。おるすなの?」
「2年ほど前に宮司さんが亡くなってから、ここの神社は放置されていたから神様が居られなくなって出ていってしまい、そのあと、おかしな物たちの住処になっていた。でも最近千里たちがここで遊ぶようになって、少しだけ状況がよくなったんだよ」
「ふーん」
「それで私は神様をここに連れ戻しに来たんだけど、私自身が怪我しちゃってまだ十分な力が出せない。それで千里に手伝って欲しい」
「まだけががよくなってないの?」
「千里のおかげで随分よくなったよ」
と言って小春は微笑んだ。
「今この神社に住み着いているものたちのボスは狼なんだよ。そいつが強くて私にもなかなか手が出せなくて。でも千里なら倒せる」
「おおかみってこわそう」
「千里、昼間ヤヨイさんに寅の人形をもらったでしょ?」
「うん」
と言って千里は今着ているコートのポケットにそれが入っていることを思い出し取り出し、ビニール袋から出して手に握った。
「寅で狼に勝てるんだよ。木剋土と言ってね」
「へー。たしかにトラのほうがつよそうだね」
「その人形を持って私と一緒に来て」
「うん」