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■娘たちの地雷復(7)

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「奥さんから訴えられたらその時だけどさ」
 
と美緒が言った時、最初彼女自身の話かと思ったが、そうではなく千里の話だった。
 
「千里の話を聞いているとむしろ千里のほうがその結婚した女を不倫で訴えられるくらい、千里の方が正当な妻だという気がするよ」
 
それは何となくそんな気がしていたのだが、美緒からも言われて、やはりそうなのかもと千里は再確信した。
 
「私、美緒と話して良かった」
「まあ、私はふしだらな女だと言われるのには慣れてるし」
「私も不道徳な女だと言われても気にしなければいいんだね」
 
「そうそう。一妻一夫制なんて、明治以降に唐突に出てきた考え方に過ぎない。伝統的な日本人の男女関係を続ければいい」
「なんかそれ凄いかも」
「それで男の態度でストレス感じたらさ、何かでぱーっとすることしてストレス発散すればいいんだよ」
「ぱーっとすることか」
 
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「私は海外旅行とか行ってくると結構気が晴れるけどね。この夏休みには清紀とふたりでオーストラリアに行って来たよ」
「新婚旅行?」
「まさか。清紀に女装させて女2人の旅行を装ったよ。清紀のパスポートは女装の写真で作らせた」
 
「清紀って・・・性転換させてもいいのでは?」
「本人はちんちん無くすのは絶対嫌だと言ってる」
「使ってない癖に」
「ね!」
 
「海外かぁ。。。」
 
私実は海外に住んでいるけどね!?と千里は思う。
 
「無駄遣いするのもいいよ」
「ああ、気が晴れそうだ」
 
「ラスベガスに行ってカジノでもしてくるとかは?」
「そんなにお金無いよ!」
 

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その日は途中で居酒屋に場所を移し、夜遅くまで美緒と話して結局彼女のアパートに泊めてもらった。紙屋君とも久しぶりに会ったが、
 
「千里、気晴らしに清紀と寝てみない?」
と言われた。紙屋君まで
「千里が男役してくれるんなら寝てもいいけど」
などと言ったが、取り敢えず遠慮しておいた。
 
そしたら2人は「仕方ない。清紀とやるか」「今夜は美緒で我慢しよう」といって、結構な音を立ててやっていた!
 
仲良いじゃん!
 
本当にこの2人はよく分からない。
 

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翌10月5日、美緒たちに御礼を言って別れ、取り敢えず葛西に戻ろうかと思ったのだが、ふと気付くと千葉市内まで来ていた。あれ〜?と思って取り敢えず近くに見たショッピングモールの駐車場にバイクを駐める。
 
それで昨日美緒から言われたことを思い出し、確かにスペインのシーズンが始まるまで、どこか観光にでも行ってくるのもいいかなあと思いながらモールの建物の方に行こうとした時、道路の反対側に中古車屋さんがあるのに気付く。そういえば、スクーターがもう絶望的だから、代わりに軽自動車の中古車買ったら?とか言われていたよな、などと思う。
 
(げんちゃんが言っていたのは“軽自動車”買ったら?というのであって“軽自動車の中古”買ったら?ではない)
 
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千里はそこに「30,000」と書かれた紙の貼られた赤いミラがあるのに目を留めた。
 
3万円ってすごっ!
 
と思って、思わず駐車場を出て、道路を横断する。そして道に立ち止まったまま、その車を見ていたら、スタッフの人が寄ってきた。
 
「中に入って、よく見られませんか?」
「あ、そうですね」
 
それで中に入ってみる。
 

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「ちょっと型式が古いのでこのお値段なんですよ。車自体はそんなに傷んでいませんよ」
「確かに凹みとかはそう多くないですね」
「ええ。フレームに響くような傷はありません」
 
「距離はどのくらい走っています?」
「どのくらいかな。ちょっと待って下さい」
と言ってスタッフさんはそのミラの鍵を持って来てくれた。
 
スイッチを入れるとオドメーターに 223606 という数字が表示された。
 
「すごーい。ルート5だ」
「え?」
「√5=2.2360679 富士山麓オーム鳴く、ですよ」
「ああ、そんなの習いましたね。何でしたらちょっと試乗してみられます?」
「してみます!」
 
それでスタッフさんが助手席に同乗してそのあたりを回ってくる。
 
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「お嬢さん、運転うまいですね」
とスタッフさんがマジで感心したように言う。
 

しっかしパワーの無い車だなあ、と千里は思った。
 
千里が普段使っている車としては、主として葛西に置いているインプレッサ(2000cc)、貴司が所有しているA4 Avant(1800cc), スペインで乗っているイビサ(1600cc)、と、ある程度のパワーがある車ばかりである。千里は軽はあまり運転したことがなかった。バイクの運搬用に使っているハイゼットは軽だが、あれはたまにしか運転していない。
 
そして今ミラに試乗していて、千里はそのミラがまるで自分自身のような気がした。
 
昨年夏までは日本代表やってたのに、今はそこから外れて、スペインでリハビリ中である。先日NTCに行ってエレンと対決し、自分の力がまだまだなのを再認識した。昨年夏まで貴司の奥さんやってたのに、今は愛人にも等しい状態。
 
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これは易の地雷復だと思った。地雷復というのは
 
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という形の卦である。陽爻がいちばん下に1本だけあり、上は陰爻ばかり。要するに“どん底”だが、逆に言えば、これはここから陽爻が少しずつ上に昇っていこうという卦なのである。だから「復」つまり「復活」の卦なのだ。これは冬至の太陽を表すとも言われる。ここから少しずつ太陽の高度も上がっていく。つまりクリスマスである。
 

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「この車気に入っちゃった。買います」
と千里は言った。
 
だって美緒は無駄遣いもいいよと言ってたもん。無駄遣い、無駄遣い。
 
「じゃ事務所の方で手続きしますね」
 
それで千里はこのミラを衝動買いしてしまったのである!
 

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エンジンオイルをフィルターと一緒に交換してもらい、バッテリーも弱っているので交換、ワイパーも傷んでいたので交換してもらった。その代金と車の価格、登録諸費用を入れて18万、任意保険料を1年分7万円、“例のカード”で一括払いしたら、車自体はそのままお持ち帰りしていいですよと言われた。カードを見せた時、お店の人がギョッとしていたので、やはりこのカードは水戸黄門の印籠並みに“効く”なあと思った。
 
車庫証明書は友人に今日中に持参してもらいますと言い《すーちゃん》に頼んだ。彼女にはバイクで駐車場まで往復し、その後バイクを葛西に回送してもらう。
 
諸手続が終わったら書類はまとめて住所に送ると言われたので桃香のアパートに送ってもらうことにした。
 
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それでミラに乗って中古車屋さんから出て、千里は美緒に言われたように“観光”してこようと思った。
 
まずは向かいのショッピングモールに戻り、食料、寝具、着換え、衛生用品にサンシェードも積んだ上で出発する。GSに寄って満タン給油した上で、東北道に乗ってひたすら北へ走る。
 
しかしミラは何と言ってもスピードが出ない!特にこのミラは年季が入っているので、エンジンが弱っており、アクセルをフルに踏んでも80km/h出るかどうかである。坂道だとたちまち60km/hくらいまで落ちる。
 
当然後ろから煽られる。クラクションまで鳴らされる。
 
でもスピードの上げようが無い。
 
千里はこの走行で「厚かましく生きる姿勢」を心の中に確立していった。
 
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またミラは給油タンクが小さい。こまめに給油する必要もある。それで千里は早め早めに手を打つことの必要性も再認識していった。
 
そもそも阿倍子の存在は、早い時期に緋那から警告してもらっていた。
 
それなのに自分はまさか貴司が自分との婚約を破棄するとは思いもよらず、彼女に対して何の対策も取っていなかった。早い時期ならどうにでも対処法があったはずである。
 
千里はミラで高速道路を走りながら、そんなことを考えていた。
 

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その日は青森の浅虫温泉のひなびた宿に泊まった。
 
お風呂にのんびりと浸かっていたら、おばちゃんの団体客が入ってくる。
 
「あなた凄い筋肉ね」
と言われる。
 
「私、プロバスケットボール選手なんですよ」
「へー。凄い!木村沙織ちゃんみたいな」
「木村沙織はバレーボールです!」
「あ、そうか!」
「私よくバスケットボールとバレーボールが混乱する」
「私、ソフトボールとも混乱する」
 
うーんソフトボールって「ボール」が共通しているだけでは?
 
「でもこの筋肉だけ見たら男かと思うけど、あなたおっぱいも大きいもんね」
「ちんちんも無いし」
と言って触られる!
 
「バスケ女子には背が高いから男と間違われて女湯で悲鳴あげられるって子がたくさん居ますよ」
 
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「なるほどー。そうかもね」
「今私が所属しているチームには192cmの選手がいますよ」
「192!? 本当に女子なの?」
「ええ。彼女は女湯とか女子トイレで悲鳴あげられるのは慣れっこだと言ってました」
「それも大変そう」
 
「私は168cmだから、チームの中ではいちばん背が低いんですよ」
「168でいちばん小さいんだ!」
「それでも私の身長だと、合う服が少なくて困るんですけどね」
「ああ、背の高い人は大変よね」
 
「以前所属していたチームの子は182cmで、女の子用の服が合わなくて男物ばかり着ていたから、それで更に性別間違われるって言っていました」
「ほんと大変そう」
「彼女、高校入る時に面接受けたら『うちは女子校なので男子生徒は受け入れられないのですが』と言われたとか」
 
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「本当に女子なんだよね?男の子だったけど、ちんちん取って女の子になったとか?」
「本人もしばしば、生まれた時は付いてたけど、あまり乱暴だったから切られちゃった、なんてジョークをよく言ってましたが」
「ジョークなの?」
「それあんたが言ったらジョークに聞こえないからやめとけって言われてました」
「ああ」
 
そのおばちゃんたちとバスケット女子の性別誤解に関する話をしていたら、また楽しくなってきた。この手のネタはかなりたくさんある。
 
このおばちゃんたち(仙台から来たらしい)とは、とっても仲良くなって、お風呂をあがった後、彼女たちの部屋に招かれて、おやつなど摘まみながらけっこう遅くまでおしゃべりしていた。
 
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7日には東北道を南下、磐越道に行き新潟PAで車中泊。8日は北陸道を西行して長岡JCTから関越に入り、高崎JCTから上信越道→長野道と走りみどり湖PAで車中泊。9日は中央道を名古屋方面に走り、東海環状道・伊勢湾岸道・東名阪道と走る。数日前に Gladius 400 で走ったのと逆方向である。
 
しかし新名神には行かずに伊勢道を南下、夕方、伊勢の神宮に外宮→内宮と参拝。二見ヶ浦でカエルさんたちと戯れていたら、カエルの大王様?から「お前気に入ったから眷属を付けてやる」と言われ鷲璃(わしり)という若い蛙の女の子が千里に付き従った。《すーちゃん》や《てんちゃん》が「おお、可愛い!」と歓迎し、彼女は《わっちゃん》と呼ばれることになる。彼女は後に千里が3分裂した時は、ひとりだけ最初から千里3に従い、千里3の貴重な手駒になってくれた。
 
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この日は瀧原宮・瀧原竝宮前の道の駅で車中泊する。
 
10月10日の日出と共にその瀧原宮・瀧原竝宮に参拝して、すがすがしい空気の中で千里は心の平穏をかなり取り戻した。
 

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その後、紀伊半島の沿岸を半日走り続けて和歌山の加太で夕日を見る。これは高校生の時に雨宮先生と走ったルートの逆方向である。あれは思えば運転初体験だったのである。
 
そして夜間に阪和道・近畿道・阪神高速と走って明石海峡大橋を越え、道の駅あわじで車中泊する。この道の駅は貴司を芦耶さんから実質取り返した場所である。千里はこの道の駅で、今度は貴司を阿倍子さんから取り返すぞと自分の心に気合いを入れ直した。
 
自分はここ1年3ヶ月ほど、弱気になりすぎていた。
 
千里はそう思った。
 
11日は大鳴門橋を越えて四国に渡った後、高松自動車道から瀬戸大橋で岡山に戻る。山陽道→中国道と走って壇ノ浦PAで車中泊。 12日は九州道→宮崎道と走り、青島まで行く。ここも色々と思い入れのある場所だ。13日の日出とともに青島神社に参拝してから、九州東岸を北上。大分の佐賀関で関サバを食べてから国道フェリーに乗り愛媛県の三崎へ。ここから愛媛県内を走り、道後温泉で休憩してから、しまなみ海道を走って大三島へ。大山祇神社横の道の駅で車中泊。
 
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14日は大三島神社に参拝した後、しまなみ海道に再度乗って本州に戻り(これで四国三橋制覇)、山陽道・岡山道・中国道・名神・北陸道と走って徳光PA(HO)で車中泊。15日は白山スーパー林道で白川郷に抜け、東海北陸道→名神・東名・首都高・京葉道路と走って16日深夜0時過ぎに千葉市に帰還した。
 
ミラのトリップメーターは5260kmを示していた。千里は「逆から読めば貴司の誕生日(6月25日)だ」と思った。
 
そして千里はこのミラでの10日間の旅で自分が生まれ変わった気分になった。
 

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千里がミラを桃香のアパートの傍に付け、大量のおみやげを持って部屋にあがっていくと、桃香はびっくりしていた。
 
「あの車はまた借り物?」
「ううん。買っちゃった」
「いくら?」
「3万円」
「私、そういうの大好き!」
「桃香も自由に運転していいよ。少々ぶつけても全然惜しくないから」
「あはは。少し練習させてもらおうかな」
 

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娘たちの地雷復(7)

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