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■娘たちの1200(4)

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「それで明日の朝出発して網走(あばしり)に向かいます」
 
「あんた、バイクでどのくらい走ってる?」
「まだあのバイクでは6000kmくらいですね。その前にST250で3000kmくらい」
 
実際はST250で1000km, ZZR-1400で2000kmくらいだが、3倍に水増しして言っておいた。
 
「そのくらいで大丈夫かなあ」
「四輪なら年間5万km乗っているんですけどね」
「5万?あんた運送業か何か?」
「いえ。ただの貧乏学生です。まあ他にバスケットを趣味でやってます」
 
「そういえばあんた腕が太いなと思った。あ、ごめん。女の子なのに」
「いえ。私はシューターだから、腕は鍛えてますよ。腕相撲しましょうか?」
「よし」
 
それで腕相撲するが千里の圧勝である。
 
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「すげー!あんたならできるかも。でも冬の北海道は厳しいよ」
「私、道産娘ですから。高校時代は雪の上を自転車で走って通学してましたよ」
「凄っ!地元かぁ。北海道のどこ?」
「留萌(るもい)ってとこなんですけどね」
「ニシンの町だ!」
「もう今はニシンが来なくなって久しくて、最近はホタテの稚貝の養殖とかやってますけどね。うちの父は漁師でスケソウダラを獲っていたんですよ。魚の居る場所が北に移動して、ロシア領内になってしまったので、私が高校に入る年に廃船になってしまいましたが」
 
「ああ、魚が移動してしまうのはどうしようもないだろうなあ」
 
彼とはしばし漁業論議をした。それで結構気に入られた感じである。
 
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「ところでそのさがみビールは開けないの?」
「飲みたいのはやまやまですが、飲むとバイクを宿まで持って行けなくなるので」
「だったら俺もらってもいい?」
「いいですけど、そちらは帰りは?」
「店の前に置きっぱなしにして明日取りに来る」
「なるほどー!」
 
「お姉ちゃんのバイクもここに置いていてもいいよ」
とマスターが言う。
 
「じゃ私も飲んじゃおうかな?」
 
それでふたりで、さがみビールで乾杯し、更にツーリングなどの論議をした。
 
「先日、このZZR-1400で国道459号を走ってきたんですよ」
「楽しいでしょ?」
「まあまあ楽しかったですね。冬なのでレークラインとかを通れなかったのが残念でした」
「レークラインは美しいよ」
「走ったことのある参加者から聞きました」
 
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「ツーリングの楽しみはそのあたりの交款もあるよなあ。あんた今回の網走までの行程で泊まりはどうするの?」
「テント持っていってもいいのですが、凍死しそうなので屋根のある所に泊まります」
「ああ、それがいいと思うよ。特に女の子は」
「そういう時は女は面倒ですね。性転換してもいいけど」
「男もいろいろ面倒なことも多いよ」
 

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結局彼とは23時頃まで飲みながらおしゃべりしてから別れた。お勘定は千里が払ったが、むろん後で雨宮先生に請求する(実際には新島さんに領収書を出しておけば適当に処理してもらえる)。
 
そして千里はその夜は市内のホテルに泊まり、翌11日朝6時にスナックの前まで行って、バイクを始動させた。
 
1000マイル(1600km)の旅の始まりである。
 

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本来なら国道6号をずっと北上していきたいのだが、あいにく現在国道6号は原発事故のため、新夜ノ森の富岡消防署北交差点から浪江町と双葉の町境付近までの区間が通行禁止になっている。そこで仙台まではこういうルートを取ることにした。
 
横須賀(国道16/国道15/国道6)広野町
 
広野IC(常磐道・磐越道・東北道・仙台南/東道・三陸道)石巻河南IC
 
現時点で立入禁止区域の南端に近い広野町まで国道6号を走り、そこから常磐道を南行して戻り、磐越道経由で東北道に行き北上して、仙台南道路で海岸沿いに再度行く。そして仙台東部道路・三陸道を通って石巻まで行く。
 
そして胡桃のアパートに泊めてもらう!!
 

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実際に千里が横須賀のスナック前に駐めていたZZR-1400に乗って出発したのは予定より少し早い朝5時である。まだ空は暗い。この日の天文薄明は5:20である。
 
国道16号を北上して横浜市内に至り、そこから国道15号で都心に向かう。都心は日中は酷く渋滞するのだが、早朝なので全く渋滞に掛からないまま都心を通り抜けることができた。7時くらいには松戸市付近に到達する。このくらいの時間帯から少しずつ混み始めるが、まだ深刻にならない内に有名渋滞ポイントである柏市の呼塚交差点も抜けることができた。
 
沿道のコンビニでトイレ休憩をしてから先に進む。またガソリンは少しでも安いと思ったGSがあったら給油しておく。
 
それでだいたい2時間おきくらいに休憩する感じで、12時すぎに広野町に到達した。目に留まった食堂に入り早めの昼食を取る。
 
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トイレも借りてから13時前に出発する。
 
広野ICから常磐道上りに乗り、いわきJCTから磐越道に乗り、郡山JCTから東北道下りに乗る。高速はやはりすいすいと走れる。そして国見SAで休憩・給油し、仙台南ICから仙台南道路に行き、仙台若林JCTで仙台東部道路に、そして仙台港北ICで三陸道に入って、石巻河南ICで降りる。
 
胡桃のアパートに辿り着いたのは18時前である。何とか完全に暗くなる前に辿り着くことができた。この日の石巻市の天文薄明終了は18;07である。(日没16:33 日暮17:10)
 
アパートのドアの外で様子を窺っても不在のようである。
 
メールしてみる。5分ほどで返信がある。
 
《郵便受けの中に鍵があるから、開けて中に入っていて。郵便受けの鍵のダイヤルは375》
 
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それで指示通り、郵便受けを開けて鍵を取りだし、勝手にドアを開けて中に入ると、布団が2つ敷いてある。それで布団乾燥機が掛けてあった方が客用だろう判断し、もうひとつの布団に布団乾燥機を掛けてから、自分は今掛けてあった方の布団を借りて仮眠させてもらった。
 

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ドアの開く音で目を覚ます。もう0時過ぎである。千里もかなり熟睡していたようだが、胡桃も遅くまで作業しているようだ。
 
「お帰り〜。お疲れ様。勝手に仮眠させてもらってた」
「そのまま寝てていいよ。それともお弁当食べる?」
「食べる」
 
それで半額で買ったというお弁当を1つずつ食べる。
 
「毎日買ってるから、最近は時間が切れてもすぐには廃棄せずに最低1個リザーブしていてくれることが多い。でも今日は偶然2個残ってたから2個買ってきた」
 
「わぁ。私も半額シール大好き。でも毎日こんなに遅くなるんだ?」
「開店までにしなければいけないことが山ほどある。本当に間に合うか自信が無いけど、やはり3月11日オープンという線は動かしたくないから」
「でもよく開店までこぎつけたよね」
 
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「まあ乗り越えないといけないものはたくさんあったよ」
と言ってから胡桃は何か考えているふう。
 

「どうかした?」
「いや。和実だけどさ。あいつ、既に性転換手術が終わっているということはないんだろうか?と思ったりすることがあるんだけど、どう思う?」
 
「あの子も完璧だよね〜。全然男の子には見えないもん」
「高校時代は、男の子と女の子が混じっていた。男の子の日もあれば女の子の日もあった。でも去年の3月に被災して11月くらいまで同じアパートで暮らしていて、男の子の日が無いんだよね〜」
 
「淳さんと同居してるからじゃないの?奥さんの意識が強まって、女の子としての自分が常時出ているようになったとか」
 
「確かにしっかり奥さんしてた!」
 
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「千里はいつ性転換手術したんだっけ?」
「今年手術するよ」
「・・・・まだ男の子なんだっけ?」
「そうだけど」
「それは絶対嘘だ」
 
と言ってから胡桃は言った。
 
「千里占いができたよね。和実が今、男の子の身体なのか女の子の身体なのか占ってよ」
 
「うーん・・・。病院に連れて行って医学的検査でも受けさせた方がいい気がするけどね〜」
と言いながら千里はバッグの中から愛用のタロットを取りだした。
 
1枚引く。
 
「皇帝。男の子」
 
「ほんとに〜。マジでちんちんとかタマタマとか付いてるの?あの子」
「金貨の8。剣の10。ちんちんは既に機能を失っているけど付いてる。タマタマではなくて卵巣がある」
 
「なんで卵巣があるの〜〜〜!?」
 
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千里は黙って1枚引く。金貨の9である。
 
「マーヤ夫人(*1)が妊娠している図。去年の夏に青葉が言ってたじゃん。川口市のビストロに集まった時。あの場にいる全員に子供ができるって。きっと和実はその内、赤ちゃん産むよ」
 
(*1)マーヤ夫人はお釈迦様の母。
 
「あいつ半陰陽なのかなあ」
 
「男の子だと思うけど。でも骨盤は完璧に女の子の形だよね。あれなら妊娠維持できる気がする。ああいう形状になるには、間違い無く10歳前後から女性ホルモンを体内に入れていたと思う。高校時代にはもうバストあったんでしょ?」
 
「あいつ、いったん太ってから1ヶ月くらい絶食して肉を落としたら胸の所だけ脂肪が残ったって言ってたけど」
「それこそ嘘くさい」
「やはり?でも骨盤が女の子の形だとしても、卵子は?」
 
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「卵巣があるとしたら、そこから出てくる」
「子宮もある訳?」
 
タロットを引く。剣の8である。
 
「今は無いけど、妊娠するまでにはできるんだと思う」
「そんなもの発生する訳?それとも移植?」
 
「どうなんだろうね。でも男の子が妊娠しても不思議ではないよ。私も男の子だけど、わりと妊娠する自信ある」
 
「マジ!?」
 

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遅いので1時過ぎには寝る。
 
朝は4時前に起きる。胡桃が戻って来る前に6時間ほど寝ていたのでこれで睡眠は充分だ。寝ている間に《りくちゃん》が食材を調達してきてくれていたので、それで朝御飯を作る。胡桃は熟睡しているようで起きない。
 
ラップを掛けて『朝御飯作ったから良かったら食べて』というメモを置く。それで自分の分だけ食べて食器を洗い、下着を交換しトイレを済ませてからアパートを出た。
 
ZZR-1400を始動し、国道45号方面に走る。まだ暗いが平気である。
(この日の天文薄明開始は5:18 夜明けは6:15 日出は6:52)
 
走り始めて早々に震災による崖崩れで不通の箇所があるので迂回路を行く(石巻市内の不通箇所はこの年の2月3日に復旧した)。
 
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気仙沼を6:30頃通過、大船渡に7時半頃到達する。朝日がまぶしい中、バイクを停めて少し海を眺め、青葉の家族のために祈った。
 

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公園のトイレを借りて一休みしてから先に進む。
 
このあたりから道の難易度が増していく。千里は先日国道459号を走ったのが良い経験になったなと思った。あれに比べればまだマシという気持ちになれる。
 
10時すぎに宮古市に到達する。
 
お店が開き始めているので少し市内を回っていたらラーメン屋さんが店を開けている所だった。
 
「いいですか?」
と訊くと
「ああ、いいよ」
と言うのでバイクを駐めて中に入る。ヘルメットを取ったら
 
「女の子だったのか!」
と驚かれた。
 
「そうですね。取り敢えずここ5〜6年は女みたいです」
「5〜6歳には見えないけど。どこから走ってきたの?」
 
「横須賀ですけど、その前に大阪の友人の所から横須賀まで走っているから、けっこうな距離になるかな」
「凄いな!ツーリング?」
「そんなものですね。八戸まで行ってフェリーで苫小牧に渡って、目的地は網走です」
「よく走るなあ。でもでかいバイクだね」
「はい。ガソリンは食いますけど」
「食うだろうね!」
 
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それでラーメンを作ってもらったが美味しかった。チャーシューをおまけして倍入れてくれた!
 
ここで1時間近く休んだが、お客さんがまだ来ないので、店主さんは千里の席に来て色々話す。
 
「だけど北海道は無茶苦茶寒いよ。大丈夫?」
「服は登山用の装備を持って来ています」
「バイクは?雪が降っている路面ではバイクのタイヤは無力だよ」
「実はあのバイクは北海道では走らせないんですよ」
「そうなんだ!」
 
「八戸に置いて行きます。苫小牧に友人が冬用の特製バイクを用意してくれています」
「特製バイクか!市販のバイクでは無理だろうね。この付近ででも道路に雪が積もっていたらバイクはお休みだよ」
「でしょうね。グリップが全く利かないと聞きました。自転車なら私は中高生時代、ふつうに北海道の雪の上を自転車で走ってましたけどね」
 
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「あんた道産娘?」
「はい。北海道の冬を知らない人なら、普通のバイクで走ろうとして、そのまま天国まで走っていくでしょうけどね」
 
「うん。俺もそれを心配した!」
 
 
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娘たちの1200(4)

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