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2011年12月23-28日、東京体育館でウィンターカップが開催された。
出場校は各都道府県代表、インターハイの優勝校・準優勝校、開催地(東京)から+1校の男女各50チームである。
今年のインターハイの優勝は高梁王子の岡山E女子高、準優勝は久保田希望らの札幌P高校なので、結果的に岡山と北海道は2校出られることになり、岡山では岡山H女子高、北海道では旭川N高校が代表になった。
N高校は北海道予選では決勝トーナメントを勝ち上がっていき、(2つだけ行われた)準々決勝で札幌D学園に勝ち、(1試合だけ行われた)準決勝で旭川L女子高を破ってウィンターカップ4年連続出場を決めたが、代表選出に関係無く行われた名目上の決勝戦では札幌P高校に敗れた。
札幌P高校はU16アジア選手権での優勝に貢献した1年生の酒井明穂が大活躍。N高校を寄せ付けず、松崎由実が悔しがっていた。
旭川N高校女子バスケット部はこのウィンターカップに合わせて東京合宿をおこなった。昨年までと同様に、東京のV高校の宿泊施設と体育館を借りる。女子バスケ部員は、3年生でベンチ枠に入ってない選手や、4月以降部活を継続する意志の無い選手を除いて全員参加で、一行は70人ほどである。
そして例年のように、この遠征組のお世話と練習相手を兼ねてOGの協力者を募り、東京近辺に住んでいる川南や夏恋・雪子などが応じたが、それ以外にわざわざ北海道から来た暢子・留実子・絵津子なども参加した。北海道から来た3人と日本代表の経験もある雪子は練習相手だけを務め、お世話係は免除、ということにしていたのだが、暢子と留実子は、かなりお手伝いをしてくれた。
今回の遠征費(約300万円)は全額を千里が寄付している。暢子たち北海道から来た3人の交通費も千里が出した。現在、旭川N高校バスケット部に寄付をしている人のトップスリーは、千里・藍川真璃子・中村晃湖である。以前多大な寄付をしてくれていた漫画家の村埜カーチャは連載が終わってしまったため、あまり多額の寄付をする余裕は無いようである。
千里は今年は費用は出したものの、このボランティア自体には参加しない。それは自身が年明けのオールジャパンに出場するからである。
ジョイフルゴールドの越路永子はチームがオールジャパンに出場するものの、ベンチ枠に入れなかったということで、こちらの手伝いに来てくれている。本人はチームに居るつもりだったが、藍川さんがお手伝いしておいでよと言って送り出してくれたらしい。
1月に性転換手術を受けた横田倫代(3年)はまだ性転換から日数が経っていないので女子選手として出場することはできないものの、もちろん一緒に来て出場選手たちの練習相手を務めている。
「夏は少しパワーが落ちてたけど、かなり戻ってきている」
と暢子が言っていた。
「かなり筋力トレーニングやってますから」
と倫代。
「瞬発力は昨年より上がっている」
と留実子。
「お股に余分な物が付いてないから素早く動ける感じです」
と倫代。
「あそこが軽くなって調子が良くなるのなら、サーヤ(留実子)もそろそろ性転換を考えたら?」
と暢子が茶々を入れる。
「そうだなあ。僕も結婚までには性転換しないといけないかな」
と留実子が言ったが、近くに居た倉岡鱒美は、それがマジなのかジョークなのか判断しかねている雰囲気だった。
なお、倫代は、昨年の遠征の時は南野コーチと同室だったが今年は普通の女子扱いで、松崎由実や倉岡鱒美たちと同室になっている。
(夏の合宿の時は他の女子に随分触られたと言っていた。観察希望者には見せてあげたが「きれいに女の子になってるね」と言われて喜んでいたらしい)
旭川N高校の一行は12月21日に東京に移動してきたので、千里も22日にはV高校に顔を出し、今年のベンチ枠メンバーと手合わせした。松崎由実が対高梁の練習をしたいと言っていたので自分自身に擬態した《こうちゃん》にたくさん練習相手をさせた。
南野コーチは
「千里ちゃんって、そういうパワープレイもできるようになったのね」
と感心していたが、暢子は
「今日の千里はワイルド。まるで性転換して男に戻ったかのようだ」
などと言っていた。
千里は23日はローキューツの練習の方に参加(その日も《こうちゃん》に由実の練習相手をさせた)。その練習が終わってから夕方からZZR-1400に乗って大阪に移動。25日まで貴司と過ごす。雨が降っていたので貴司のAUDI A4 Avantを借りて東京に戻る。
27日にラッキーブロッサムのラストコンサートに行って来た他は26-27日はずっとローキューツの練習をしていたが、28日から1日夕方まで桃香と一緒に高岡に行ってくる。千里が高岡に行っている間28-31日および1月1日昼までのローキューツの練習は《こうちゃん》が代理を務め、誠美が闘志を燃やしていた。
一方ウィンターカップでは旭川N高校はシードされていて23日は不戦勝であった。24日が初試合となったが、宮崎県の高校に快勝して3回戦に駒を進めた。
BEST16(24日の試合に勝った所)は下記のチームである。
札幌P・福岡W・東京T・宮城K・愛知J・山梨F・山形Y・市川A・岡山E・静岡L・旭川N・愛媛Q・岐阜F・金沢T・大阪E・東京U
強豪が順当に勝っている。
高梁王子を擁する岡山E女子高は1回戦はむろん不戦勝であったが、2回戦で22-138という破壊的なスコアで勝った。高梁はこの試合で1人で60点取り、ウィンターカップの1試合での個人得点記録を大幅に塗り替えた。
またチーム138点、得点差116点というのも、1試合でのチーム得点の新記録である。これまでの最高得点は1987年3月の大会で昭和学院が記録した134点、最大点差は1973年3月の大会で東京成徳が記録した84点(34-118)である。
(この大会は1986年度までは3月に行われていた。1987年度から12月に移動し“ウィンターカップ”と呼ばれるようになった)
この日のE女子高の相手は1回戦で関東のチームに30点差で勝っていたチームだったのだが、この試合では選手がみんな泣きながらプレイしていて監督も顔面蒼白だったらしい。
愛知J学園の小池シンシアはU16アジア優勝の勢いに乗って1人で51点取り、これはそれまでの1試合での個人得点最高記録(神奈川県・富岡高校の加藤貴子が持つ51得点)に並んだのだが、その後で高梁の得点を聞き「やられたぁ」と叫んだらしい(J学園の試合が先に行われているので、小池は一時的にタイ記録になっている。協会から表彰状をあげると言われたものの辞退した)。
山梨F学苑は吉田愛美がゴール下を完全に支配して30点差で勝利している。
24日は点差の大きな試合が多かった。
(なお、史実では1試合得点記録は2011年に札幌山の手・長岡萌映子が51得点で加藤貴子の記録に並んだ後、2017年に八雲学園・奥山理々嘉が新記録の62点を取っている)
(ちなみに長岡萌映子は実は佐藤玲央美のモデルの1人である)
25日、旭川から100名ほどの応援団が到着する(この応援団の費用に関しては千里が交通費だけを負担し、宿泊費と食費は自己負担となった)。昨日の試合ではベンチ枠外の1年生部員がチアの衣裳を着て応援していたのだが、今日はN高校の生徒会で組織したチアが主体になる(1年生部員も引き続きチアをする)。
この日の相手は強豪の愛媛Q女子高である。N高校の松崎由実と一緒にU19世界選手権で代表チームのセンターを務め世界7位に貢献した小松日奈がキャプテンである。
ふたりとも気合い充分で、試合前にはお互い睨み合っていた。
ゲームは二転三転のシーソーゲームとなる。第4ピリオド残り6秒で1点差の場面で小松日奈が2点を入れて3点差とし、勝負あったかと思われたが、そこから宮口花夜のブザービーターとなるスリーで追いつき延長戦となる。
延長戦では一時期Q女子高が6点差を付けたが、そこから松崎由実1人で6点取って追いつき、最後は倉岡鱒美がフリースローを1本入れて88-89で勝利した。
試合が終わった後で、小松と松崎はハグし、お互いに涙を流していた。
この日の結果は下記である。
福岡W×−○札幌P
宮城K×−○東京T
山梨F×−○愛知J
市川A×−○山形Y
静岡L×−○岡山E
愛媛Q×−○旭川N
金沢T×−○岐阜F
東京U×−○大阪E
愛知J学園と山梨F学苑の試合では体格の良い小池シンシアと吉田愛美のヘビー級対決となったが、日本代表活動での経験で自分より更に体格の良い相手とも多数経験を積んでいる小池が吉田に勝利。試合も10点差でJ学園が勝った。
岡山E女子高は強豪の静岡L学園をトリプルスコアで破って勝ち上がった。今日の静岡L学園の監督も顔面蒼白で、生徒たちに心配される状態だったらしい。
これでBEST8が出そろった。
札幌P高校・東京T高校、愛知J学園・山形Y実業、岡山E女子・旭川N高校、岐阜F女子・大阪E女学
なお、静岡L学園の監督も、昨日E女子高に大敗した学校の監督も辞表を書いたらしいが「相手が悪すぎたよ」と言われて、どちらも慰留されたらしい。
そして26日準々決勝での旭川N高校の相手はその岡山E女子高であった。
インターハイでは準決勝で当たったのだが、今回は準々決勝で当たってしまった。
この試合で松崎由実は1人で高梁王子に対抗した。E女子高に高梁以外にも強い選手が育ってきているので、ダブルチームを掛ける訳にはいかないのである。
由実はインターハイの時同様、かなり王子を停めた。王子も進化していたが由実も進化していた。王子がかなりイライラしている様子が見てとれたが、自分がファウルで退場になるとチームが負ける可能性があるので、かなり我慢していた。このあたりは彼女の精神的成長が窺える面である。
しかしE女子高は雨地月夢も翡翠史帆も頑張ったし、何よりも由実が高梁に専念していたおかげで、リバウンドはE女子高の182cm桃山由里がほとんど取ってしまい、全体的には大きく競り負けた。
結局85-70の15点差負けとなった。
試合終了後、また松崎由実は意識を失ってしまったが、担架が運び込まれてくると「大丈夫です」と言って、自分で起き上がり、ちゃんと最後の挨拶はすることができた。
しかしこれで松崎由実の高校バスケットは終わったのである。
敗戦したので応援団はこの日の最終便で旭川に帰ることになる。しかしバスケ部員は最終日まで試合を観戦する。
この日の試合結果
東京T高校×−○札幌P高校
山形Y実業×−○愛知J学園
旭川N高校×−○岡山E女子
大阪E女学×−○岐阜F女子
27日は準決勝2試合が行われる、
岐阜F女子−岡山E女子
札幌P高校−愛知J学園
第1試合では岡山E女子高が岐阜F女子高にダブルスコアで勝った。
F女子高の八幡監督は打つ手が無いようで「参った」という顔をしていた。
第2試合では札幌P高校の正センター真中ミドリ(185cm 90kg)が物凄く頑張りU16日本代表センターの小池シンシアに競り勝って愛知J学園を倒した。真中は評価急上昇である。
この日は試合が午前中で終わったので、午後からN高校が昨日負けた他の3チームに呼びかけて交流戦をした。全チーム宿泊は27日晩まで確保している(但しY実業とE女学院はベンチ枠外の部員の多くが帰っていて、ベンチ枠の選手と来季のベンチ枠候補の数人のみが残っている)。
会場はV高校の体育館を想定していたのだが、東京T高校(東京北区)が「うちの体育館を使いましょう」と言ってくれたので、そちらで試合をした。ベンチに座らせる人数は自由!にしたので山形Y実業も大阪E女学院も残っている選手を全員座らせていた。
13:30-15:00 旭川N−東京T 山形Y−大阪E
15:30-17:00 旭川N−山形Y 東京T−大阪E
(夕食)
19:00-20:30 旭川N−大阪E 山形Y−東京T
しかし1日3試合で、しかもお互い強豪相手で、全員くたくたになり
「本戦よりきつい」
という声も出ていた。
なお東京T高校は地元なので全部員いるし、旭川N高校も全部員が居残っているので両者のチーム枠外メンバーが審判やTO・掃除係を務めた(旭川N高校と東京T高校の試合では東京T高校の男子バスケ部員が審判とTOを務めてくれたが掃除係はN高校・T高校の女子部員が共同で務めた)。
さてウィンターカップ本戦であるが、28日の決勝戦は札幌P高校と岡山E女子高で争われたものの、思わぬ大差が付いてしまった。
インターハイでも札幌P高校は高梁に打つ手無しという感じであったのだが、今回の試合では高梁も完全には停めきれないし、高梁に気を取られていると雨地や翡翠にやられてしまうので、結果的にまさかのダブルスコアで岡山E女子高が優勝した。
結局今年の岡山E女子高は、準々決勝で当たった旭川N高校以外との全ての試合をダブルスコア以上で勝ったのである。
あまりにも圧倒的な強さであった。
高梁は得点女王とMVPに輝いた。リバウンド女王は小池シンシア、アシスト女王は翡翠史帆だが、翡翠は得点ランキングでも5位に入っている。
(得点は2位小池シンシア、3位松崎由実、4位久保田希望)、スリーポイント女王は雨地月夢が取り、E女子高が個人成績の上位を独占した。ベスト5は、高梁・小池・雨地・翡翠に松崎由実と発表された。準々決勝で敗れたチームからのBEST5選出は異例だが、松崎由実以外に高梁王子を停めた選手がいなかったことからの高評価であった。
またこれで岡山E女子高はインターハイとウィンターカップの二冠である。
なお、国体は旭川選抜が優勝している。高梁が年齢制限で国体少年女子の出場資格は無かったので岡山選抜は愛知選抜(愛知J学園)に負けてBEST8に留まっている。今回E女子高はそのリベンジがしたかったようだが、残念ながらJ学園との対戦は無かった。
今回のウィンターカップでは、高梁があまりにも強すぎたので、バスケ協会でインターハイ・ウィンターカップの出場資格に年齢制限を入れるべきではという意見も出たものの、病気で休学して1年遅れたりした人のことなども考えると制限は入れられないという結論になったようである。現状の「1学年につき1回だけ」の規定を維持する。
アメリカなどにバスケ留学する生徒は以前から居て、結構な実績を残している。将来の日本代表の育成を考えると、留学はむしろ推奨したい。
恐らく高梁のような選手自体が十年に1度の逸材だし、その選手が留学のため1年遅れたというのは恐らく20-30年に1度のケースであろう。彼女の場合は所属していた高校のバスケ部が学校側の事情で解体されてしまったという気の毒な事情があったことも考慮されたようである。
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娘たちの2012オールジャパン(2)