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西の千里は色々行動するのに大阪の近くにも拠点があった方がいいなと考えて確保することにした。それでその日きーちゃんを連れて大阪に出ると一軒の不動産屋さんに飛び込む。
「大阪市かその近くで不便な場所で構わないので20-30坪程度の古家付きの土地がありませんかね」
と尋ねた。
「そこに家を建てられるんですか」
「古家があったら、取り敢えずそこに住んでもいいです」
「でしたら再建不可物件とかは」
「車を駐めたいから接道してないと困る」
「豊中市とか吹田市でもいい?」
「豊中市は相性の悪い人が住んでるけど吹田市はOk」
豊中市は貴司のマンションがある。貴司と顔を合わせると面倒だし青と交錯しやすい。
「21坪で1500万という物件があるのですが」
「安いね。事故物件か何か?」
「実は前の住人が自殺しています」
「ふーん。まあ見せてよ」
それで不動産屋さんの車で行ってみた。
「なるほど。これは普通の人なら自殺するだろうね」
と千里は言った。霊道が通っているのでかなり幽霊が出るはずだ。
「1000万なら買うよ」
と千里は言った。
「よくこんな所買う気になるね。私なら600万でも買わない」
と、きーちゃんは言っている。
「他人と一緒に住むのなら他の人まで守りきれないけど私1人なら何とかなる」
「あぁ。ちーなら平気かもね」
千里は不動産屋さんに言った。
「ここ売れないでしょ。1000万とかではどうです?」
「それはさすがに。1400万では?」
「1050万」
「ちょっと事務所でご相談しません?」
「いいよ」
それで事務所に戻り店長さんが交渉する。それで“隣接する再建不可物件”30坪と合わせて、キャッシュ払い1800万で妥結したのである。
千里は即1800万円をキャッシュで払い、土地の権利変更の書類と家の鍵2本を受け取った。
(以下、霊道が通っているが広い道に接道している方を“表の家”、その裏手の再建不可物件だった方を“裏の家”と言う)
きーちゃんには司法書士事務所(合筆の書類を作ってもらった)と法務局まで付き合ってもらってから帰した。その家(表の家)に入ってみて眺めていたら障子に障子紙代わりに何かチラシのようなものが貼ってある。よく見たらどこかの株券である。“ほふり”の時代に今時株券なんて滅多に見ないが印刷が旧字体であり、かなり古いもののようである。千里は前橋と七瀬、つまり八龍の女組を召喚した。
「わっ、なんですか、ここ」
と顔をしかめている。これは男組も必要だなと思ったので九重と清川も呼び、女組を守ってと命じた。そして前橋たちに頼んだ。
「この障子に貼り付けてある株券をできるだけ傷めないように剥がして」
九重が提案する。
「ここで作業するのは辛いです。障子自体をどこかまともな場所に運んで、それから作業しましょう」
「それでいいよ」
それで九重たちは障子を千里がついでに買った“裏の家”(霊道が通ってない)の庭に移し、前橋たちはそこで障子剥がしの作業をした。前橋の娘たち(アイリス・シレーヌ)や姉(バトー)も手伝った。
(前橋の姉は金比羅さんと関係があるので“金比羅舟舟”からフランス語で舟を表すbateau からバトーと呼ばれる。馬頭観音とは無関係)
彼女たちは3時間ほどで障子から株券を剥がしてくれた。そしてついでに普通の障子紙を貼った。それで九重達が障子を元の家に戻した。ちなみに九重達には
「ここにはいつでも来て好きなだけ食べていいから」
と言ったら
「かなりの食べ甲斐がありますね」
と言っていた。関西組だけでなく勾陳なども誘ってよく食べに来ているようである。
千里は結局彼らの良い餌場を獲得したようなものである。
剥がした株券を千里は証券会社に持ち込んでみた。
「かなり古いものですね」
「無価値かもしれないけどひょっとして今もこの会社続いてたら私の口座に入れて」
「分かりました。お調べします」
株券の発行元は“王實(実)運輸”というものであった。千里がネットで調べた範囲ではヒットしなかった。そもそも発行日が紀元2590年(昭和5年)である。無価値だから障子紙の代わりにしたのかもと千里も思った。ちなみに額面は五拾圓(50円)で、それが800枚ちょっとあった。昭和初期の50円は今なら5万円くらいだが、会社が無くなっていれば株券は1円にもならない。まさに紙くずである。
千里はこの株券の帰属についてこの家を売った不動産会社に照会したが、
「家自体をお売りしていますからその中の調度その他もお客様のものです。自由に御処分ください」
ということであった。向こうも多分障子紙代わりにした株券に価値があるとは思わなかったのではという気もした。しかしこの手のものは一度きちんと話しておかないと後で揉めると面倒である。
5月8日、この日未明に茨城県沖を震源地とするマグニチュード6.7の強い地震が発生。茨城県水戸市並びに栃木県芳賀郡茂木町で震度5弱を観測した。尚、この地震で気象庁は『緊急地震速報』を発信した。
5月3-6日、H大姫路剣道部は千里家でミニ合宿をした。
「しかし今年は5月3日が土曜日だから休みを1日損したな」
「土曜日も振替休日になればいいのにね」
タイなどは土曜日の祝日でも振替休日がおこなわれる。
合宿のメニューは、朝上町神社まで往復ジョギングしたあと、体操、腕立て伏せ・腹筋をしてから、素振り・切り返し・そしてひたすら掛かり稽古である。今回お昼は連日熊カツ、晩はジンギスカンをした。
部屋割では、千里・清香・双葉で一室、香織・光・大を一室にしている。男子では、公世・春恵と山崎君を一室、福田君と栗原君を一室にしている。
「あ、福田先輩、ちんちんはあるんですね」
と栗原君は言った。
「僕は元々女の子になりたい気持ちがあって睾丸だけは取った。でもまだちんちんまで取る決断できないから付けてる。女に負けたら女になれなんてのはジョークだから気にしない方がいいよ」
「ジョークだったんですね。よかったぁ」
「元々男の娘には剣道やる人が多いんだよ。男らしくないから親から武道でもやれと言われる。でも自分は女だという意識があるから男の子と掴み合う柔道はしたくない。それで剣道に来る」
「なるほどー」
「谷口とか山崎君は典型的なそのパターンだよ」
「へー」
「工藤の場合は別に性転換手術とかしたわけでもないのに身体が勝手に女性化してしまったらしい。時々あることみたいね。それで戸籍上の性別も変更できるけど、本人は自分は男だという意識があるから男子の部で剣道してる」
「なるほどー」
「彼は医学的には完全な女らしい。卵巣もある。でも女子選手は『自分は男であり今後最低3年間は性別は変更しない』と宣言することにより男子選手として認められる。その制度を利用して男子の部に出ている」
「そんな制度があるんですか」
「男が『自分は女である』と宣言しても女子の部への出場は認められない」
「それは認めちゃいけませんよ」
「だから谷口とかは自分が女の子だという意識があるから本当は女子の部に出たいけど我慢してる」
「かわいそうだけど仕方無いですね」
最終日には部員全員で大会をする。30名の部員を8グループに分け各グループで総当たり戦をしてトップになった人でトーナメントをする。但し、千里・清香・双葉・公世はシードで準々決勝からの登場である。
各グループ予選を勝ち抜いたのはこの8人である。
3年生:谷口・福田
2年生:山崎・香織・光・知代
1年生:大・栗原
1回戦でこの4人が残った。
谷口・福田・香織・大
光はいきなり福田君と当たったのが運が悪かった。山崎君も谷口(春恵)に負けた。香織は知代に勝ち、大は栗原君に勝った。
「ここの女子はみんな強すぎる」
と栗原君が言っていた。
そしてシードされていた4人が入って準々決勝をするがシードの4人が勝った。
「ここまでの試合が全てムダだった」
「あまりに強すぎる」
準決勝では、千里が双葉に勝ち、清香が公世に勝つ。そして千里と清香の決勝戦だが例によって決着が付かない。第4延長までやっても決まらないので引き分けが宣言され大会は終了した。
最後は打ち上げにオージービーフで焼き肉をした。
立花北町のセブンイレブン跡地に建築されていた建物は5月頭に完成したが、建物にはローソンの看板が掲げられたので近隣の住民は驚いた。しかしコンビニのブランド移行はよくあることである。
お店は連休明けの5月7日(水・みつ)にオープンした。オープン記念でおにぎり・サンドイッチ3割引きといいうので千里は早速行ってみたがレジの所に居る人を見てびっくりした。
「みつ子さん・・・じゃないですよね」
その人はK大神の眷属のみつ子さんによく似ていたのである。
「あら、お知り合いに似てるんかな」
「ええちょっと」
「でしたら、そのよしみで御贔屓に」
まあ大神の眷属がコンビニやっている訳が無い。
「オーナーさんですか」
「ええ。夫と2人で始めたんですよ。以前は**町で小さな薬屋さんしてたんですけどね。全然もうからないからコンビニやろうと言って。ちょうど募集していたから。コンビニなんて、きついぱかりだよと言ったんですけど、客が全然来ない薬屋よりマシと夫が言って」
「24時間の仕事で休みも無いしノルマとかも大変ですよね」
「えぇ。でも薬屋はそもそも全然お客さん来なかったから。ここはこうやって初日からたくさんお客さん来てくれたし」
「あまり無理しない範囲で頑張って下さいね」
オーナーさんは芳本さんというらしかった。
「バイトさんも募集してるから」
と言って名刺も頂いた。千里は逆に節分の時に神社で豆を蒔く行事に参加してもらえないかと勧誘しておいた。
後日この奧さんのほうが神社に来て商売繁盛の御祈祷を受け、招き猫を買って行った。
しかしK大神は、この奧さん(美代さん:元アイドルの名前みたい)が気に入ったようである。やはりみつ子さんに似てるから??
5月9日(金・友引・さだん)には、立花上町のK神社および境内のセブンイレブンもオープンした。初日は結構な参拝客があり、美鈴さんも忙しかったようである。この日はヘルプを兼ねて花絵も行き、現地でご祈祷もした。この日だけで20組のご祈祷をしたということだった。
コンビニもたくさんお客さんが来たらしい。境内で遊ぶ小学生の姿も見られた。
「私も小さい頃ここでたくさん遊びました」
と町内会長さんが懐かしそうに語っていた。
遊具を置いて欲しいという要望もあったので、安全度の高いと思われる滑り台を設置する方向で検討する。
なお境内は雑木がはえて鬱蒼としていたが、4月の内に御神木になっているものを除いて伐採したので日の光が届き明るくなっている。境内の表面には学校の校庭などにも使用されている真砂土を敷いている。ただし入口から社務所・コンビニおよび集会所までベビーカー・車椅子が行けるアスファルトのパスも作っている。このパスはヒールのある靴を履く女性にも好評だった。
(北町社も同様の仕様になっている:真砂土+アスファルトの舗道)