広告:まりあ†ほりっく 第4巻 [DVD]
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■女の子たちの性別疑惑(6)

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そして男子の第2試合、千里たちのN高校と貴司たちのS高校が激突する。インターハイに行ける切符は残り1枚だ。この試合に勝った方がインターハイに行ける。物凄く分かりやすい勝負である。
 
試合前に整列する。千里は貴司を見た。貴司も千里を見る。丸刈り頭をこんな至近距離で貴司の前に曝すのは初めてだ。でも千里は動じなかった。数子から貴司が自分と別れた後、本当は彼女を作っていないことを聞いたことが、千里の心を物凄く安定させていた。
 
お互いに真剣な目で相手を見詰める。貴司と敵になるのは、N高校の特待生の話が来た時に、S高校vsS中学で練習試合をした時以来だ。
 
むろん貴司も千里もスターティングメンバーである。貴司は最初から全開で来た。S高にも田臥君という優秀なシューターがいるのだが、この日は敢えて貴司が直接ゴールまで攻め入ってシュートしたりしていた。千里もゴール下の守りに入る。
 
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貴司のフェンイトに騙されずに本当のシュートのタイミングに合わせてジャンプし、千里のブロックが決まる。リバウンドを北岡君が取り、俊足のポイントガード真駒君にパスする。真駒君の速攻から毛利君の3ポイントが決まる。
 
コートの中央付近でそれを見ていた貴司と千里の目が合う。お互いに厳しい視線をぶつけ合う。
 
S高側が攻めてくる。貴司の前に千里が立ちはだかる。フェイトを入れた後、千里の手の下をかいくぐろうとしたが、その隙を突いて千里がボールをスティール。そのまま真駒君にパスする。貴司が千里と視線をぶつけ合う。でもすぐ2人ともボールの後を追う。
 
激しい戦いだった。
 
どちらもよく攻めるが、それ以上によく守るので、なかなか点数が入らない。本来はどちらも守りより攻撃を重視するチームなのに、試合はロースコアで推移していた。
 
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千里が珍しくフリーになり3ポイントを撃とうとしたら貴司が猛ダッシュしてきた。しかし一瞬速く千里が撃つ。貴司は停まろうとしたが、あまりに勢いが付いていて停まることができず、千里と接触する。
 
ふたりで視線をぶつけ合う。千里のシュートは入ったので3点が認められ、貴司のファウルで、ボールはN高のスローインで再開となった。(撃った後のファウルなのでバスケットカウント・ワンスローではない)
 

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第3ピリオドの後、最後のインターバルに暢子が訊く。
 
「千里、向こうの7番の子と凄い睨み合ってたね。良く知ってる子?」
 
「うん、まあね」
と千里は答えたが、留実子が
 
「あれ、千里の彼氏だよ」
と言う。
 
「へー。凄い睨み合ってるから嫌いなのかと思った」
と暢子が驚いて言う。
 
「好きだからこそ、お互いに最高のプレイで戦っているんだと思う」
と留実子は言った。
 
「貴司とは春に別れたんだよ」
と千里は言う。
 
「でもその後、どちらも新たな恋人は作ってないよね?」
「うん、まあね」
「それで交換日記も続けてるんでしょ?」
「ちょっと!何で知ってんの!?」
 
「だって千里いつもミニレターに何か書いてるじゃん。人が近づくと恥ずかしそうにして隠すし。ああ細川君とミニレター使って交換日記してるんだなと思って見てたよ」
 
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「友だちとして交換日記してるだけだよ」
と千里は言ったが
 
「ふーん、友だちねぇ」
と暢子は楽しそうに言った。
 
時間が来る。
 
「よし。貴司を倒してくる」
と言って千里は最後のピリオドに出て行った。
 

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試合はひたすらロースコアのシーソーゲームで続いていた。千里を知り尽くしている貴司がマークしているので、千里もなかなかまともにシュートさせてもらえない。しかし貴司を知り尽くしている千里が全開なので、貴司もまともにシュートできない。
 
むろん役者としては貴司の方が2枚も3枚も上なので、貴司は千里の裏を書いてシュートを決めていく。一方の千里も、敢えて3ポイントの体勢から瞬間的に北岡君へのパスに切り替えて、ゴールを奪ったりする。
 
第4ピリオド残り2分まで行ってS高32対N高30と完璧に拮抗していた。
 
こちらの渋谷さんがボールを取ってドリブルで駆け上がる。千里のそばには貴司が付いている。それを見て毛利君にパスする。そこにS高の佐々木君が猛チェックする。とても撃てないと見た毛利君は北岡君にパスする。北岡君がゴール下まで侵攻するが、囲まれてシュートできない。それで外側に居た千里にパスする。
 
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貴司がそのパスを途中カットしようとするが、千里は貴司を押しのけるようにして前に出てキャッチした。貴司が千里にほとんど密着するかのような状態で守っている。千里は貴司に瞬間的に後ろを向け、外側に向かってドリブルして離れる。貴司が後を追ってくるのを感じる。そして千里はジャンプして空中で身体をねじりながら・・・・
 
北岡君にパスする。
 
それを北岡君が取り、3ポイントラインの外側からシュート。
 
入って32対33。逆転!
 
千里と貴司が睨み合う。しかしゲームは進行する。ふたりとも走る。
 

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そのままお互いに点を取れないまま、残り時間は18秒。
 
ゴール下の乱戦を制してS高の佐々木君がシュートしようとしたが、それをN高の黒岩さんが停めた・・・。
 
に見えたが、腕に触ったとしてファウルを取られる。シュートが入らなかったのでフリースロー2本である。
 
1本目。
 
外れる。
 
2本目。
 
撃つと同時に全員動き出す。シュートはまた外れたが、そのリバウンドを貴司が取ってそのままシュート!
 
2点入って34対33。またS高のリード。時計は後12秒。
 

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渋谷さんからの超ロングパス。全力で駆け上がっている千里が取る。貴司が猛烈にダッシュしてくる。構わず撃つ。
 
入る。
 
34対36で、またN高のリード。時計は残り5秒。
 
山根さんからの長いスローインを受け取り貴司が猛スピードのドリブルで駆け上がる。千里が待ち構えている。しかし貴司はゴール下には侵攻しようとせず、千里の数歩手前でピタリと停止した。停止するのに凄まじい衝撃が貴司の足に掛かったのではないかと思った。
 
そしてそこから貴司はシュートを撃った。
 
その貴司のシュートの直後に試合終了のブザーが鳴った。
 
千里はブロックしようとジャンプしたが届かなかった。着地後振り返ってボールの行方を見る。ここは3ポイントラインの外側である。
 
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ボールはバックボードに当たり、更にリングに当たり、・・・・
 
ネットに吸い込まれた。
 

審判がゴールを認めるジェスチャーをしている。ブザービーターであった。
 
千里は大きく息をしていた。
貴司も大きく息をしていた。
 
ふたりはごく自然に抱き合う。
 
ここまでは試合後によく見られる風景だ。
 
しかし・・・ここで貴司は千里にキスしてしまった。
 
「えーーー!?」
という声を多数聞いたような気がした。
 
審判が駆け寄ってくる。
 
「君たち、何やってる?」
 
「済みません。凄い試合だったので、感動してキスしてしまいました」
と貴司が謝る。
「済みません。私も全力出し切ったので、頭が空白になって、つい」
と千里も謝る。
 
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「試合中だったらファウルを取る所だよ」
と審判が厳しい口調で言う。
 
「申し訳ありませんでした」
と言って、貴司と千里は一緒に謝った。
 
確かにファウルを取られるかも知れないなぁ。でもこれ何のファウル?プッシング?ホールディング??うーん。抱き合ったからホールディングなのかなあ。キッシングなんて無かったよね???
 

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整列する。
 
「37対36でS高校の勝ち」
と審判が言う。
 
「ありがとうございました」
と両チームの選手が言い、お互いに握手した。千里は向こうの選手(みんな知っている顔ばかりだ)と握手し、最後に貴司と少し長めの握手をした。
 
試合中は厳しい表情でお互いを見ていたが、ここではお互い笑顔で相手を見て、別れた。
 

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そういう訳で、この年の道大会、男子はV高校と貴司たちのS高校がインターハイに行くことになった。N高校は3位である。全国にこそ行けなかったものの、N高男子がこんなに良い成績を修めたのは初めてである。
 
一方のN高校女子も、得失点差で結局3位となり、インターハイ進出はならなかった。Z高校はP高校に29点差で負けたのでN高校より得失点差で3点上回りインターハイ出場を決めていた。札幌P高校という絶対的な強者のいる北海道高校女子バスケ界では「負け方」も重要である。
 
「あぁあ、結局男子も女子も3位止まりか」
と暢子が大きく伸びをしながら言う。
 
「ごめーん。ボクが最後、貴司を停めきれなかったから」
と千里。
 
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「いや、あそこは誰も停めきれなかったよ」
「あの試合、ボク3ポイントを4本しか入れきれなかったし」
「なんか凄い守備だったもん」
「守備要員は疲れがたまらないように計画的に交替させて体力をもたせた感じだった」
 
「千里を封じるにはこうするしかないというお手本を見せてくれた感じでもある」
「だけど、細川君クラスのプレイヤーがいないと、あそこまでの超マークはできないよ。千里、ほんとに相手からマーク外すのが巧いもん」
 
「うーん。単に人の波動の少ない所に移動しているだけなんだけどね」
「意味が分からん」
 
「だけど《公的な機関の検査》で千里は女子であることが確定したみたいだし秋の大会では千里、女子チームの方に出てよ」
「そうそう。そしたら女子チームは優勝できる」
「一緒に東京体育館(ウィンターカップ)に行こうよ」
「うーん。。。。」
 
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「それとあのキスは大胆だったね」
「800人の観衆の前で愛の確認」
「あはは。宇田先生から始末書を書けと言われた」
「ああ。確かに始末書ものだ」
「多分細川君の方も始末書を書かされている」
「事実上の交際再開宣言だよね?」
「そんなこと無いと思うけどなあ」
「いや。交際再開以前に、そもそも別れていなかったんだと思う」
「えー?ちゃんと別れたよ。記念に最初で最後のHもしたし」
「・・・・・」
 
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
 

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千里がバイトしている神社で七夕祭りが近づいてくる。その直前6月30日は年に2度ある大祓(おおはらえ)のひとつ、夏越大祓(なごしのおおはらえ)である。
 
普段、千里は土日限定でバイトしているのだが、この時期はバスケットの道大会が終わったこともあり、部活を休んで、平日も授業が終わった後神社に行って、8時までお仕事をしていた。参拝客も多いので昇殿祈祷のお手伝いをする(お守りや縁起物の販売は臨時雇いの巫女さんたちに任せておく)。
 
祈祷で笛を吹いていて、千里は色々なものが煮詰まってきているような感覚を覚えていた。やはり雑多なものが溜まりすぎるから、それをきれいに掃除するのが大祓なのであろう。
 
『こうちゃん、楽しそうね』
と千里は自分の眷属の中でも一際目立ちたがりの《こうちゃん》に語りかけた。
『いやいや、毎年6月と12月1月の神社は素敵です。千里さんが3月で神社辞めるというから今年はありつけないかと思ったらまた神社に再就職してくれて嬉しい。ここは留萌より食べ甲斐がある』
 
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そこに眷属のリーダー格《とうちゃん》が釘を刺す。
『やりすぎるなよ』
『大丈夫だよ。悪い気の塊にしか手は出してないから』
『そりゃそうしてもらわなきゃ』
 
夏越大祓に合わせて、神社の入口に大きな茅の輪(ちのわ)が設置されており、その左右に、大きな門と小さな門が作られている。
 
大半の参拝客は茅の輪だけをくぐる。しかしそこに立ててある解説を見た人は左右どちらかの門をくぐっていったん手前に戻り、再度茅の輪をくぐっていた。
 
左側の大きな門は基本的に男性用、右側の小さな門は女性用である。どちらも手を突いて4つんばいにならないとくぐれないサイズだ。太りすぎている人はたぶん通れない。
 
昇殿の客が途絶えたので、御守り授与所のところで境内を眺めていたら、鞠古君と留実子のカップルが入ってくるのを見た。留実子は例によって男装している。見ていたら、ふたりとも茅の輪をくぐった後で、左側の男性用の門を続けてくぐり、再度茅の輪をくぐって境内に進んだ。
 
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千里は心がゆるむような思いだった。
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女の子たちの性別疑惑(6)

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