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■女の子たちの陰陽反転(7)

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留実子は走って廊下の端にある非常扉の向こうまで行ってしまった。千里もそれに続き、非常口の外に出る。
 
留実子は非常階段の手摺りに寄りかかって、立っていた。
 
「るみちゃん」
と声を掛ける。
 
「千里」
と言って留実子はそのまま千里の胸に顔を埋めると泣いた。
 
千里は留実子が泣くに任せていた。
 

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どうしたらいいんだろう。
 
千里はその日ずっと悩んでいた。当の鞠古君は昼休みに女子トイレの使用を敢行しようとしたが1分で叩き出された。
 
「私、女の子なのよ。女子トイレ使ってもいいでしょ?」
と言う鞠古君に対して
 
「セナなら半分女の子だから女子トイレでも歓迎するけど、鞠古は完全に男だから次入ってきたら痴漢として警察に突き出す」
 
などと蓮菜から言われている。
 
結局彼は1階にある多目的トイレで用を達して来たようである。
 
「女トイレ入ってみたけど、小便器が無くてまず戸惑ったわ」
などと本人は言っている。
 
「まあ、女は立って小便しないからな」
と同級生男子から言われている。
 
そういえば留実子は男装している時は立ってすると言ってたし、3月に旭川で会った時も実際男子トイレを使っていたけど、どうやってするんだろ?と千里は疑問に思った。
 
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取り敢えず鞠古君のその日の行動には失笑を隠せないままも、どうしたらいいんだろうと千里は悩んでいた。
 
それで部活も休んでそのまま帰宅する。帰る時、留実子をキャッチしたかったのだが、2組に行ってみたら、留実子は5時間目の途中で早引きしたと言われた。
 
多分心が動揺しすぎて体調までおかしくなったのではと千里は思った。留実子もあまり自律神経が強い方ではない。
 
ひとりで自宅に戻り、自分の机の所でぼんやりと考えている。
 
「お姉ちゃんどうしたの?」
と玲羅から訊かれたが
 
「ううん。何でもない」
と答える。
 
「もしかして彼氏に振られた?」
「そんなことないよ。大丈夫だよ」
 
その内、母が帰宅したので、母に神社でのバイトの件を話した。昨日は忙しそうにしていたので話しそびれたのである。
 
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「巫女さんのバイトって・・・・でも、それみんなに顔を曝すのでは?」
 
母はやはり「世間体」を気にするようである。
 
「男の子の私しか知らない人は、巫女装束の私を見ても、同一人物だとは思わないよ」
と千里が言うと
 
「確かにそうだね!」
と納得するように言った。
 
「私を女の子と思い込んでいる人は何も疑問を感じないし」
と千里が付け加えると
 
「ちょっとぉ!」
と母は焦ったような声をあげた。
 
「それで、神社の宮司さんにこれ書いてもらった」
と言って、千里は、《村山千里。右の者は当社の業務の都合で長い髪を維持する必要があることを証明する》
と書かれた書類を見せる。宮司さんの名前と社印が押してある。
 
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「はぁ・・」
と母は少し呆れている感じ。
 
「これに保護者の署名・捺印も欲しいんだけど」
と千里が言うと母は
 
「まっ、いいか」
と言って、笑って異装届を書いてくれた。
 

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母と一緒に晩御飯の支度をして、さて夕食、という時に電話が鳴る。
 
「あ、私が出る」
と言って、千里が席を立ち、玄関の所にある電話を取った。
「はい、村山です」
「あれ?」
という声は・・・晋治だ!
 
「あれ?ってどうしたの?晋治」
 
それは3月に別れた元彼の晋治である。
 
「いや、ごめん。掛け間違い」
「もしかして彼女に掛けようとして、間違って私に掛けた?」
「いや、違う違う」
 
と言うが、図星っぽい。
 
千里がどうも彼氏と話しているようだと察した玲羅が居間と玄関との間の襖を閉めてくれた。
 

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「そうだ。千里、その後変わりない? 新しい彼氏とはうまく行ってる?」
 
「彼のお母さんが務めてる先でバイトすることになっちゃった」
「・・・それ、男として?女として?」
 
「まあ、私は女の子にしか見えないだろうね」
「へー!」
 
「晋治はどう?元気?新しい彼女とうまく行ってる?」
「うん。元気。彼女とは今の段階では主として電話のやりとりだけだよ。僕自身も、昨日はちょっとチンコ切っちゃって痛かったけど、もう平気だし」
 
「え!? おちんちん切っちゃったの?女の子になるの?」
と千里がびっくりして言う。
 
「いや、切るって、そういう意味じゃないよ。チンコの皮がズボンのファスナーに挟まっちゃってさ。外すのに苦労して、結局ファスナーを分解してやっと外したけど、結構皮が切れて痛かったよ。おばちゃんが笑いながら生理用ナプキン1枚くれたから、ついさっきまでずっと付けてた」
 
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「あはは。おちんちん切って女の子の生理用ナプキン付けてたら、ちょっと女の子気分?」
「何か凄く変な感じ。ナプキンって」
 
「まあ体験しておくのはいいことかもね」
「千里はナプキンって使ったことあるの?」
「私は女の子ですから」
 

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「なるほどねえ。でもチンコ切ったというのから、性転換を連想するとは、さすが千里だな」
「まあね」
 
「普通の男子はチンコ切り落とすなんて考えもしないから」
「そうだね」
 
「ん?どうかしたの?」
「うん。実は・・・・」
 
千里は同級生の鞠古君がおちんちんに腫瘍が出来て、来月手術しておちんちんをもタマタマも切らなければなくなくなったという話をする。
 
「鞠古は覚えてるよ。バスケットが強かったな。鞠古知佐だっけ?」
「うん」
 
「鞠古(まりこ)という苗字がまるで女の子の名前みたいだから、Mariko Tomosuke と署名したら、きっと Tomosuke が苗字で Mariko が名前で女の子と思われるぞとか、からかわれていた」
 
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「ああ。それは小学校の時もよく言われてた」
 
「しかし、そういう話になってしまうと、とてもからかえないな」
 

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「そうだ。晋治、どう思う? 実は昨日、そのバイト先の人というか、今彼のお母さんから言われたんだけどね」
 
と言って、千里はお母さんの占いで、もしかしてこの件は誤診がある、あるいはおちんちんを切らなくても治療する方法が存在する可能性があるというのが出たということを話してみた。
 
晋治は少し考えているようであった。
 
「あのさ。それ、セカンドオピニオンは取ってるの?」
「セカ・・・って何?」
 
「別の医者の意見」
「それって病院を変わった方がいいということ?」
「それは状況次第だな。変わる変わらないを抜きにして、重大な治療になる場合は、別の医者の意見も聞いてみた方がいいこともあるんだよ」
「へー」
 
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「医者も色々勉強はしてるけどさ、完璧な医者なんて居ないじゃん。全ての医学的知識を持ってて、あらゆる種類の治療体験のある医者なんて存在しない」
 
「うん」
 
「だから、同じ患者を診た時に、医者によって診断名が変わったり、あるいは違う治療方針を提示したりする場合もある訳だよ。それは医者に優劣があるというより、立場や過去の経験が違うから違う判断をする」
 
「つまり別の医者に診せたら、おちんちんを切らずに治す方法を提示してくれる可能性もあるということ?」
 
「あくまで可能性だよ。どこに行っても全部切るしかないと言われるかも知れない」
 
「でもそれは診せてみる価値あるよね?」
 
「うん。鞠古、どこの病院に掛かってるの?」
「旭川の**病院」
 
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「・・・・だったら、札幌の##病院に行ってみない? 学閥が違うんだ」
「学閥?」
 
「医者には学閥があるんだよ。どこの大学を出たかで、同じ大学の出身者同士助け合っている訳。同じ学閥の所に掛かっても、遠慮して綺譚のない意見を出してくれない可能性がある。だからセカンドオピニオンを求めるなら、別の学閥の所がいい」
 
「ちょっと話してみる」
「何かあったら僕に電話して。僕のできる範囲のことは協力する」
「ありがとう。恩に着る」
 

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それで千里は電話をいったん切ってから、留実子に電話して、今晋治と話した内容を伝えた。留実子はすぐ鞠古君と話してみると言った。
 
留実子は結局途中から鞠古君のお母さんと直接話したようである。
 
「でも違う病院に掛かったことが知れたら、今後いろいろ嫌がらせとかされたりしませんかね」
などとお母さんが変な心配をしたのに対して留実子は
 
「知佐君の一生が掛かってるんです。病院と喧嘩くらいしてもいいじゃないですか」
と言った。
 
その晩、鞠古君の家でお父さんとお母さんが激論をしたようである。判断がつかなくなって旭川にいる長女(鞠古君の姉)花江さんの意見も聞いたようである。そして翌朝、鞠古君のお父さんから千里の所に電話が掛かってきた。
 
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「息子を札幌の病院に連れて行って診せてみます。済みません。どの先生とか指名した方がいいんですかね?」
 
「友人から聞いています。##病院の&&先生に診てもらってください。でもこの先生、紹介状が無いと診てくれないんです。それでいったん旭川の$$病院に行って、そこで紹介状を書いてもらってください」
 
念のため千里はFAXで晋治から聞いた情報を送ってあげた。
 

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翌日。鞠古君は休んでいた。そして留実子も休んでいた。
 
留実子と同じクラスの佳美から「るみちゃん、鞠古君に付いて旭川・札幌まで行くので欠席だって」と聞いた。
 
確かに居ても立ってもいられない気持ちだったろう。
 

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その日、千里は担任の先生に母が書いてくれた異装届に、神社から書いてもらった証明書を添付して提出した。
 
「あれ?村山、髪伸ばしてたんだっけ?」
「はい。何だか切るタイミングを逸してしまって。ふだんは学生服とか体操服の中に押し込んでいるんですけど」
 
「全然気付かなかった!」
と担任は言った。
 
「この神社でバイトしてるの?」
「ええ。することになりました。霊感が凄いとか言われて」
「へー。でも霊感を働かせるのにも、髪の毛が長い方がいいとか言ってたな」
「あ、それはあるかも知れません」
 
「了解、了解。でも村山が髪を長くしていても、全然違和感が無い気がするなあ」
と担任。
 
「先生、村山がショートカットにしたら、その方が不自然です」
と前の方の席に座っていた男子が言う。
 
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「言えてる、言えてる。多分村山の場合は短髪の方が校則違反だ」
と担任は言った。
 
そういう訳で、異装届けは受理され、千里は中学の間は長い髪を維持することができたのであった。もっとも先生が「巫女」のバイトと認識していたかどうかは微妙である。
 

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千里はその日部活を休み、貴司のお母さんが勤める神社に行った。
 
それで学校に異装届けを出したので髪を長くしていることを認めてもらえそうだというのを言った上で、鞠古君がセカンドオピニオンを求めて札幌の病院に行ったことを話すと
 
「うん、その方がいい」と少しホッとするかのようにお母さんは言った。
 
「何か祈祷とかしてあげられるでしょうか?」
と千里が訊くと
 
「千里ちゃん、水垢離(みずごり)とかできる?」
と尋ねられる。
 
「やります!」
と千里は答えた。
 
それで神社の裏手に行き、まずは白い(女性の水垢離用)衣装に着替えた上で、そこに流れている清流に入って水を浴びた。お母さんも付き合ってくれた。
 
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しかし冷たい!
 
でもこれで少しでも役に立てるなら、我慢できると千里は思った。
 
その後、身体を拭いて巫女の衣装を着け、神社の奥社のひとつ、少彦名神社(すくなひこな・じんじゃ:但し小さな祠があるだけである)にお参りした。病気治療の神様だとお母さんは教えてくれた。
 
「私が言う通りに祝詞を唱えて」
「はい」
 
それで貴司のお母さんが唱える祝詞をできるだけ真似して唱えた。どのくらいきちんとコピーできているかは分からなかったが、これは気持ちの問題が大きいと千里は思ったので、自分のできる範囲でやれるだけやってみた。
 

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女の子たちの陰陽反転(7)

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