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■女の子たちの陰陽反転(4)

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「最近、男の子に生まれたけど、女の子として生きるのを選択する人って多いよね」
 
「そうですね」
「男の身体に生まれた人が女として暮らすのにいちばん苦労するのは何だと思う?」
 
千里は少し考えた。
 
「声でしょうか」
 
「正解。人が男女を見分けるのに最大の基準にするのは、雰囲気。次に身長。雰囲気については、女の子になろうって子はそもそも女の子の雰囲気を生まれながら持っている子が多い。多くの子が女装していなくても、女の子に間違えられた経験を持っているよね」
 
「ああ、そうですね」
と答えながら、千里は小さい頃からのその手のエピソードをたくさん思い出していた。
 
「身長に関しては正直どうにもならない。だからこれは開き直るしかない」
 
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「ええ」
 
「そして第三の見分けポイントが声なんだよ。性別の判断に迷う人でも声を聞いたら、だいたい男女を区別できる」
 
「・・・・」
 
「見た目が男女少し迷うような容貌であったとしても、声が女の声だったら、ああ、この人は女の人かと思ってもらえるよね」
「そうですね」
 
「逆に見た目がどんなに美女でも、声が男の声だったら、なんだこいつオカマかと思われちゃう。だから声は物凄く重要」
 
千里は無言で彼女の次の言葉を待った。そして、あらためて声変わりのことを考えていた。ほんとに来て欲しくない。でもいつか来てしまうのだろう。それは死刑の執行を待つような気分だ。自分が男の声になってしまったら、きっと、女の友人との間に随分壁ができちゃうだろうなというのも思う。
 
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「でも実は声は克服できるんだよ」
「え? そうなんですか?」
「そして克服できたら、その効果は物凄く大きい」
「はい」
 
「ヴァイオリンの弦で、例えばG線をそのまま弾けばG3という高さの音が出る。でも弦の半分くらいの所を指で押さえて弾けばオクターブ高いG4という高さの音が出る」
「ええ」
 
「男の子の声帯って声変わりで長くなってしまうけど、長い声帯でも半分だけ使えばオクターブ高い声を出せるんだよ」
「確かに・・・・」
 
「千里ちゃん、ヴァイオリン弾くよね。フラジオレットってのも知ってるでしょ?」
「あ、はい」
「フラジオレット使うと、音の波形を直接コントロールすることで凄く高い音が出せる。人間の声帯もフラジオレットができるんだよ」
「へー」
 
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「凄く声域の広い歌手さんとかいるでしょ。あれは高い声はフラジオレットで出している」
「わあ」
 
「でもそういう高い声はあくまで《高い男声》にすぎない。さだまさしとか小田和正とか凄く高い声で歌うけど、女の声には聞こえない」
 
「・・・・・」
 
「そこで出てくるとっても大事な話。フルートとクラリネットってほとんど長さが同じでしょ?」 
「あ、そうですね」
 
「フルートもクラリネットもだいたい65cmくらい。でもクラリネットってフルートよりオクターブ低い音が出るでしょ?」
「あ、確かに」
 
「何故だと思う?」
「分かりません」
 
「それは管の中で発生する波の形の違いなんだよ。フルートは息を吹き込む穴が開いているから、波の両端が自由なんだよね。こういう楽器を開管楽器、管が開いた楽器と言う」
「はい」
 
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「クラリネットはマウスピースを通して息を吹き込むから、吹き口の側は閉じられていて、管内で発生する波はこの部分が振動しない。こういう楽器を閉管楽器、管が閉じている楽器と言う」
「へー」
 
「これは物理学の問題になるから、高校生くらいでないとうまく説明できないんだけど、閉管楽器は開管楽器より倍の長さの波が発生する。波の長さが倍になると周波数は半分になってオクターブ低い音になるんだよ」
 
「ごめんなさい、分かりません」
 
「まあ高校生くらいになったら思い出すといい。それで結論から言うと同じ長さの管でも開管楽器は閉管楽器の倍の高さの音が出る。実は人間の男女の声帯の長さってそんなに極端には違わない。でも女性は習慣的に声帯の端を解放して話したり歌ったりする。男性は習慣的に声帯の端を閉じて話したり歌ったりする。まあ筋肉とかの付き方の問題で、そうするのが楽だからそうしちゃうんだけどね」
 
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「へー」
 
「つまりさ、男の声が低いのは声帯という管を閉じているからなんだよ。だから男でも管を開いて話したり歌ったりすればオクターブ高い声が出る」
 
千里は物凄いショックを受けた。
 
だったら・・・・声変わりが来ても、実は女の子みたいな声が出せる!?
 
「だから最近、男の人なのに女の人みたいな声が出せる人が出て来てる」
 
「あ・・・・米良美一(めら・よしかず)さんの歌とか、それですか?」
 
「ちょっと違うけど、近いと思う。でもそういう声のコントロールをするためには、喉の筋肉を鍛える必要がある。昔のカストラートが高い声を出せたのも去勢したこと自体より、喉を鍛えたからだよ。去勢した後10年以上の訓練を経てやっとカストラートになることができた」
「ひゃー」
 
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「去勢は、高い声を出しやすくするひとつの要素に過ぎない。その10年間の訓練の方が、ずっと要素としては大きいのさ」
「じゃ去勢しなくても良かったんですか?」
 
「しなくても行けるけど、訓練は、より大変だろうね」
と言って、彼女は微笑んだ。
 
しかし千里は声変わり問題について一縷の望みが出て来た気分だった。
 

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突然列車の窓の外が明るくなった。
 
「深川、深川、終点です。特急ライラック旭川行きにお乗り換えの方は3番乗り場にお越し下さい。19:40。31分の連絡です」
 
という車内アナウンスが流れる。窓の外に《深川》という駅名標が見えた。
 
あ、乗り換えなきゃと思ってふと前を見ると、前の席には誰も座っていなかった。
 

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旭川駅前からバスに乗って、美輪子おばさんの家の近くのバス停まで行く。そこから歩いて3分ほどで、おばさんの家に到達する。
 
「ごめんねー。こんな時間からお使いを頼んで」
と言って、美輪子おばさんは、何かの書類の入った封筒を千里に渡した。
 
「この書類を明日の午前中までに千里のお母ちゃんに書いてもらって提出しないといけないんで、郵送では間に合わなかったんだよ。でも私、昨晩仕事で徹夜してるから、今日は車を運転する自信が無くてさ」
 
「わあ、それはお疲れ様です」
「でもお腹空いたでしょう?」
 
美輪子叔母は洋風の煮込み料理を出してきて、千里と一緒に食べた。千里は「美味しい、美味しい」と言い、この料理の作り方を尋ねる。美輪子が説明すると、千里はそれをメモに書いていた。
 
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「千里、お料理するの好き?」
「ええ。何だか物を作るということ自体が楽しいんです」
 
「千里、オムレツも上手に作ってたね」
「あれは、まともな形になるまで随分練習したんですよー」
 
そんな千里に美輪子は優しい視線を送っていた。
 
「でもいつもひとりで食べてるから、一緒に食べてくれる人がいると、こういうのも良いなと思う」
などと、おばさんは言っている。
 
「おばさん、結婚はしないんですか?」
「うーん。まだまだ先でいいな」
「ふーん」
 
「千里、もし高校出た後、旭川の大学か専門学校に行くなら、うちに下宿していいからね」
 
「そうですね・・・」
 
千里は旭川に自分が住んでいたら、晋治との関係も続いていたかも知れないよな、などと一瞬考えて、今は自分には貴司がいるのに、と考え直した。
 
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「でも学生服を着た千里って、すっごく違和感ある」
と美輪子は言う。
 
「そうですか!?」
「千里はやはり可愛い女の子の服を着てないと」
「あははは。あ、そうだ。私、着替えとか持って来てないから、適当な服を貸してもらえませんか?」
 
「うん、いいよ。下着はまだ未使用のがあるから、それをあげるよ。ブラウスもいるよね?」
 
「あ、えっと、本当は学生服の下はワイシャツなんですけどね」
「ブラウス着てたってバレないよ」
「そうですね」
「だいたい、千里がブラウス着てても誰も変に思わない」
「そうかな?」
 
「来月になったら衣替えでしょ。男の子たちはワイシャツ姿になるんだろうけど、千里はブラウス姿になっちゃえばいい」
「えーーー!?」
「こういうのは少しずつ、なし崩しで行くんだよ」
「うーん・・・・」
 
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「あるいは女子の夏制服を着ちゃうか」
と美輪子が言ったら、千里は無言で何か考えている。
 
「あ、その気になってるな?」
「あ、えっと・・・」
 

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6月の上旬、地区のバスケット・フェスティバルが行われた。千里はこれに女子チームの一員として出てよと言われた。
 
「男女に分けない大会なんだよ。1回戦では男子と女子は当たらないけど、2回戦からはどんどん当たるから。男女混合チームもあるし。そもそも今回中学生と高校生も一緒」
 
「でもそれだと中学の女子チームは2回戦でほとんど消えたりして」
「そうとも限らないけどね」
 
「いや、男子は結構女子相手にやるのは苦手に感じると思うよ」
 
「女子が突進して来た時に、身体の接触覚悟でそれを停められるかというと、こういうの男の方が恥ずかしがるんだよね」
「言えてる、言えてる」
「女子は割とそれ平気」
 
「まあ、男女混合だから、チャージングとかの身体の接触のファウルはかなり厳しく取るらしい」
「それもうちには有利ですよ」
 
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S中学の女子バスケ部には、千里も含めて、がっちりしたタイプの選手は全然居ない。
 

男女分けない大会というのは、千里のような選手にとっては理想的だ。ところがひとつだけ問題があった。
 
「普通の大会なら最初からユニフォームでいいんだけどさ」
「というか、いつもの年ならこの大会もユニフォームでいいんだけどさ」
「まあ、うちの女子バスケ部はユニフォームなんて無いから体操服だけどさ」
 
「今回、来賓があるんだよねー」
「更に宮様まで来るという」
 
何でも最近アフリカの小国ルメエラの駐日大使に着任したサクラ・ジョサナンという女性が、実は日本生れで(お父さんが日本で仕事をしていた時に生まれたらしい)一時期留萌市内の小学校にも在学していたことがあったということで、その縁で、今回のフェスティバルに来賓として出席するのである(北海道庁を表敬訪問した時にフェスのポスターに目を留め、見たいと言ったらしい)。それでそのサクラさんがルメエラ王族の一員でもあることから、小杉宮則子女王まで同席あそばされるのである。則子女王はサクラさんと偶然にも同い年であった。
 
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「まあ、それで開会式は制服を着てくれというんだよねー」
「千里、ワイシャツに学生ズボンで並ぶ?」
 
千里は首を振る。せっかく女子チームの一員として参加できるのに男子制服なんて絶対に着たくない。
 
「じゃ、誰かに頼んでセーラー服の夏服を貸してもらって着るかね?」
「誰か貸してくれそうな友だちとかいる?」
 
などと訊かれたので千里は答えた。
 
「セーラー服、夏冬とも自分のを持ってます」
 
「何〜〜〜!?」
 
 
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