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■女の子たちの陰陽反転(2)

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ところで、このゴールデンウィーク明け、同級生で、小学校でも何度か同級になった鞠古君がずっと休んでいた。
 
彼は千里の親友・留実子のボーイフレンドでもあるので、ちょっと声を掛けてみたのだが
 
「うん。何か病気が見つかって検査で入院しているらしいんだけど、ボクにもあまり詳しいこと教えてくれないんだよ」
と言っていた。(留実子は学校の授業などでは「私」と言っているが、親しい友人の前ではボクという自称を使う)
 
「それ心配だね」
 

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鞠古君は結局5月12日(月)になって、やっと出てきた。朝のホームルーム前の時間、隣のクラスの留実子もこちらに来る。鞠古君はその留実子にチラっと視線をやった上で、とんでもないことを言い出した。
 
「実は俺、チンコ切ることになった」
 
「えーーーー!?」
 
千里は留実子の顔を見る。明らかに衝撃を受けている。
 
「お前、性転換するの?」
 
「いや、ゴールデンウィークに小便してたら何か痛みがあるんだよね。それで病院に行ったら、医者が難しい顔をするんだよ。結局、紹介状書いてもらって旭川まで出て**病院に行ったんだけどね。それでなんだかんだ検査されて。チンコから一部組織採取されて、更に大きな病院だかに送られて検査されたりしてさ。それで、チンコに腫瘍ができてて、切らないといけないというんだよ」
 
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「切るって、その腫瘍を切るわけ?」
「それがかなり拡大していて、チンコ自体を切らないといけないというんだ」
 
「うそ!」
 
「俺もちょっとショックだっだぜ」
 
「じゃチンコ切って、女になるわけ?」
 
「まさか。でも、チンコと一緒に金玉も切らないといけないらしい。何か男性ホルモンがあると病気が広がりやすいし、手術した後も再発しやすいんだって。だから男性ホルモンを作っている金玉も取らないといけないって。それで手術後は再発防止のために女性ホルモンを打ちますというんだよ。その副作用で、おっぱいが大きくなるらしい。ちょっと憂鬱」
 
「だったら、まるで女じゃん」
 
「村山、代わってやれたらいいのにな」
と同級生の男子が言う。
 
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しかし千里は留実子がかなりショックを受けている感じなので、下手な発言はしなかった。
 
「一応病状が落ち着いたら、人工のチンコと金玉を付けてくれるらしい」
 
「だったら男には戻るんだ?」
 
「ってか、俺、チンコ無くしても男だから。村山がチンコあっても女なのと同じだよ」
 
と鞠古君は言った。多分こんなことを言える所まで到達するのに、彼は相当悩んだのではないかと千里は思った。
 
「いや、村山はチンコあるかどうか疑わしい」
「俺、村山にはチンコは無いと思う」
 
などと茶々が入る。留実子も一瞬吹き出す。でもおちんちんとタマタマ切るなんて・・・本当に私が代わりたい!!
 
「チンコと金玉取った後は、一時的にこういう形になるよという写真も見せてもらった。けっこうショックだった」
 
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「どういう形になるの? やはり女みたいな形?」
「いや、割れ目とかは作らないから。何にもないお股に、ポツンと小便が出る穴が開いているだけ」
 
「それって、昔の宦官みたいな?」
「そうそう。まさに宦官という感じ。一応、病状が落ち着いたら半年後くらいに再手術して、チンコと金玉を作ってくれるって」
 
「半年間だけ宦官になるわけか」
「もっとも、人工的に作ったチンコはいつも大きさが同じで立ったりはしないらしいし、金玉も精子は作らないから子供は作れなくなるらしいけどね」
と鞠古君。
 
「金玉無いと子供作れないんだっけ?」
などと一部から声が出るが
「お前知識無さ過ぎ」
と非難されている。
 
「ホルモンとかはどうするの?」
「最低5年くらいは女性ホルモンを打ち続けないといけないと言われた。それで再発しないようだったら、男性ホルモンに切り替えてもいいって。でも女性ホルモンをそんなに打ち続けたら、おっぱいも随分膨らむだろうし、ヒゲも生えないだろうし、見た目は女にしか見えないような身体になるんだろうな」
と鞠古君は難しい顔をしながら言う。
 
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ああ、ヒゲが生えなくなるって、男の子の場合は嫌なんだろうな。私の場合はヒゲと必死で戦っているのに、と千里は思った。
 
「チンコが大きくならないんだったら、女とセックスできない?」
「ああ。セックスできる程度の大きさにしてくれるらしい。でも精子は無いから射精はできないな」
 
「しかしセックスは何とかできても射精できないし、子供も作れないし、胸は女みたいに膨らんでいるとしたら、結婚とかは?」
「それは相手の女次第だろうな」
 
「お前、女と結婚するんだっけ?」
「男と結婚したくねぇよ!」
 
千里は留実子を見た。かなり動揺しているのが見て取れる。そこでホームルーム開始のチャイムが鳴る。留実子は無言でその場を離れると自分の教室に戻った。その後ろ姿を鞠古君は見送っていた。
 
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「手術はいつするの?」
「色々準備して、多分7月。夏休みに入ってから」
「じゃ、お前のチンコはそれまでの命か」
「オナニーたくさんしとけよ」
「それ禁止と言われた」
「えーー!?」
 
「オナニーすると男性ホルモンが増産されるから病気に良くないんだって。実際、病気の進行停めるためにって、女性ホルモン打たれた。この後も月に2回打たないといけないらしい。これ打つのだけはこちらの地元の病院でできるんだけどね」
 
「女性ホルモン打たれて、どんな気分だった?」
「すっごく変。でも確かにチンコは立たない」
「ああ」
 

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鞠古君は小学校の時からバスケをしていて、中学でも男子バスケ部に入っていたのだが、さすがにその日は休んでいた。千里が女子バスケ部で練習をしていたら、留実子が体育館にやってきた。何か話したい風だったので、先輩に断って練習から離脱し、留実子と一緒に体育館の裏に行った。
 
「ボクもさすがにショック」
と留実子は言った。というか、彼女は少し泣いていたので、しばらく千里は彼女の手を握っていた。
 
「彼と何か話した?」
「別れてくれって言われた」
「何で!?」
「もう自分は男ではなくなるから、ボクの恋人ではいられないって」
 
「そんな、だって、鞠古君、おちんちん無くなっても自分は男だって言ってたじゃん」
 
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千里はそんなことを言いつつ、これって自分が晋治に別れようと言った理由と同じじゃんと思い、心がさいなまれる。
 
「人前ではそんなこと言ってたけど、本人としてはもう男ではなくなるんだという気持ちなんだと思う」
 
確かにふつうの男の子にとって、おちんちんを失うというのは物凄いショックなのだろう。千里は少し考えてからこう言った。
 
「るみちゃんとしてはどうなのさ? 鞠古君のおちんちんが無くなったら鞠古君にもう魅力を感じないの?」
 
留実子は少し考えていた。
 
「そんなことない。だって、ボクは知佐(ともすけ)自身が好きなんだもん。知佐のおちんちんが好きな訳じゃない」
 
「だったら、恋人でいられると思うよ」
と千里は言った。
 
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留実子はしばらく沈黙した上で言った。
「そうだよね」
 
でもその言葉には力が無く、まるで自分を納得させようとするかのような言い方だった。
 

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「ね、鞠古君に言いに行こうよ。自分は鞠古君自身が好きなんだから、おちんちんが無くなったって好きなのは変わらないし、おちんちんが無くても結婚してもいいって」
 
「結婚!?」
「結婚するのは嫌?」
 
留実子はぶるぶるって首を振る。
 
「知佐のおちんちんが無くたって結婚できると思う。いっそボクがおちんちんを付けちゃったっていいし」
「そうそう、その意気!」
 
「彼は今どこ?」
「病院に行くと言ってた。女性ホルモンの注射打たないといけないんだって」
「わぁ。。。私なら打って欲しいけど、男の子はそんなの打たれたくないだろうな」
と千里は同情するかのように言った。
 
「じゃ、その病院の所まで行って、彼をキャッチしようよ」
「うん」
 
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それで千里は、いったん体育館に戻り、節子部長に急用ができたので帰りますと告げ、教室に戻って、体操服のまま荷物だけ持ち、留実子と一緒に病院に駆け付けた。
 
「あれ?」
と鞠古君がこちらを見て言う。
 
「ちょっと話したいことがあったから来た」
と千里が言う。
 
「もう注射打ったの?」
「これから。今待ってる所だけど憂鬱〜」
「前回打たれた時はどんな気分だった?」
「もう最悪の気分だった。なんか頭痛もするしさ」
と鞠古君は言う。
 
自分が女性ホルモン打たれた時とは全然違うなと千里は思った。千里の場合は、女性ホルモンを打ってもらったことで、凄く気持ちが落ち着いたし、頭痛など全く無かった。
 
「男の子なのに女性ホルモン打たれると、身体が受容できないのかもね」
と千里は言う。
「私が代わってあげたいくらい」
 
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すると鞠古君は突然思いついたように言う。
「ね、村山、ほんとに代わってくれない?」
「へ?」
「村山、むしろ女性ホルモン打って欲しいよね」
「打って欲しい」
 
「俺、そんなの打たれたなくないし、村山は打って欲しいんだから、ここは俺の代わりに村山が打ってもらえば丸く収まると思わない?」
 
「え?だって鞠古君、治療のために必要なんじゃないの?」
「1回くらいバッくれたって大丈夫だよ。俺、オナニーは我慢するからさ。女性ホルモン打つ目的のひとつはオナニーしたくならないように、らしいけどそちらは俺我慢できる気がするんだ」
 
留実子はそれまで黙っていたのだが
「それいいかもね。千里、代わりに打ってもらいなよ」
などと言い出す。恐らく留実子も自分の彼氏の極端な女性化は嫌なのだろうという気もした。
 
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「うーんと・・・・」
 
でも私が代わりに!?打ってもらってもいいの!??
 

千里は体操服で出て来ていたのだが、そのままでは男の子には見えないということで、千里も学生服を着ることにした。スポーツバッグの中から学生服を取り出し、不本意ながらそれを身につける。着替える間、鞠古君は向こうを向いていた。
 
やがて「鞠古さん」と名前が呼ばれた所で、千里が診察室に入った。
 
「ん? 君、女の子じゃないの?」
と医師。
 
「男です。何なら触ってみてください」
と千里が言うので、医師はほんとに千里のお股を触り、男性器が付いていることを確認した。
 
「あれ、ホントに付いてる。でもまだ声変わりしてないんだ?」
「はい。そろそろ来るかなとは思っていたんですが」
「そうだろうね。でもたまに居るよ。中3くらいになって、やっと来る子とか。でも君睾丸取ってしまうから、結果的に永久に来ないことになっちゃうね」
 
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「まあそれはしょうがないですけど。いっそ開き直って男性ソプラノ歌手を目指します」
「ああ、それもいいかもね」
などと医師は頷いている。
 
千里は自分も睾丸を取ってもらって永久に声変わりが来ないようにして欲しいと思う。
 
脈拍、体温、血圧などを確認した上で、女性ホルモン剤の注射をお尻に打たれた。千里は女物の下着を着けていることで何か言われるかなあと思ったが、医師は何も言わなかった。ただ、医師は注射をするついで?に千里のおちんちんを触る。
 
「触った感じでは腫瘍は分からないなあ。まだ小さいのかな」
などと言っている。
 
先月倒れた時に病院で打たれた時は腕に注射されたので、お尻にするというのは意外だった。お医者さんによって違うんだろうか。
 
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しかし・・・・前回もそうだったが、注射されてすぐに、何だか凄く気分がよくなる。ちょっと昂揚するような気分。何だか元気が出てくるみたい。私って女性ホルモンと相性がいいのかも、と千里は思った。
 

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