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■女の子たちの陰陽反転(3)

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それで病院代は鞠古君が渡してくれたお金で払い、3人で病院を出た。
 
「私、お邪魔だろうから、どこかに消えようか?」
と千里は言ったが、留実子が
「ここに居て」
というので、恋人達のお話の場に居合わせることになった。さすがの留実子も、今回はかなり不安なのだろう。
 
「昼休みに話した時はボクも突然のことで、何と答えていいか分からなくてさ。でもボクの気持ちは変わらないから」
と留実子は言う。
 
「ボクはトモ自身のことが好きなんだよ。トモのおちんちんが好きなのでもないし、トモにおちんちんがあるから好きな訳でも無い。だからトモにおちんちんが無くなっても、ボクの気持ちは変わらない。ずっと恋人で居て欲しいし、結婚してもいいと思う」
と留実子は言った。
 
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「ありがとう。でも多分、俺、るーを満足させてやれないと思う。セックスがまともにできないって、多分夫婦生活を破綻させる。それに俺きっと、金玉無くなって、女性ホルモン打たれていたら、性格も変わってしまうと思う。男らしくない性格になっちゃうだろうし、るーが期待するようなことをしてあげられないよ」
と鞠古君。
 
「ボクは何も期待しない。ただトモが居てくれるだけでいい」
 
「・・・・ほんとにいいの?」
 
「うん」
「るー」
「トモ」
 
ふたりが立ち止まって見つめ合うので、千里はふたりに背中を向けて座り込んだ。
 
ふたりの視線が背中に来た気がする。その後、暖かい波動が感じられる。ああ、キスしたなと思った。千里は心が温まる思いだった。
 
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「ところで、今度は2週間後にまた女性ホルモン打たないといけないんでしょ。その時、こないだの子と違うって言われないかな」
 
3人で自分たちの集落の方へのんびりと歩いて帰りながら、千里はふと思った疑問を口にした。
 
「ああ、それは問題だね」
と鞠古君。
 
「うん。それなら、また次も千里が女性ホルモン打ってもらえばいいんだよ」
と留実子。
 
「えーーー!?」
と千里は叫んだが
 
「おお、それで万事解決」
と鞠古君も言う。
「だって俺はそんな注射打たれたくない。村山は打って欲しい。どこにも問題無いよな」
 
「でも病気の進行を抑えるのに打たないといけないのでは?」
「うーん。何か変だなと思ったのは去年の秋くらいなんだよね、実は。もう半年放置してたんだから、このあとチンコ切るまで2ヶ月くらい放置してても構わん気がする。どうせチンコ全部取ってしまうなら、少しくらい腫瘍が大きくなっても大丈夫だろ」
 
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「でも転移したりしたら?」
「一応医者は良性だと言ってる。それに転移するなら、もうとっくに転移してると思うんだ」
 
留実子が立ち止まる。その問題は留実子も多分考えないようにしていたのだろうが、鞠古君か明確にその言葉が出てきたことで、真剣に考えてしまったのだろう。
 
「ちょっと、トモ、千里、付き合ってくれない?」
「ん?」
 

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留実子が2人を連れて行ったのは、市内のQ神社だ。
 
「ここのね、巫女さんの占いが物凄く当たるんだよ。転移しているかどうか占ってもらおうよ」
と留実子が言う。
 
「占いでいいの?」
と千里がびっくりして言う。
 
「お医者さんにも分からないようなことは占いで見るしかないよ」
と留実子。
 
何だか理屈が通ってるんだか、通ってないんだか、良く分からない話だ。
 
社務所の所に「よろず相談事」などという看板が出ている。
 
「こんにちは、ちょっと占って欲しいことがあるんですけど」
と留実子が声を掛けると、
「ああ、ちょっと待っててください」
と若い神職さんが言い、奥の方に入って行く。
 
ほどなく千里の母と同年代くらいかなという感じの女性が出てくる。
 
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「実は、私の彼氏のことなのですが」
と留実子。
 
「彼氏というのは、その学生服を着ている、髪の短い方の子?」
と巫女さんが訊く。
 
「ええ、そうです。髪の長い方は私の友人の女の子です。体育祭で応援団するから、その衣装なんです」
 
「ああ、女の子だよね、やはり。何か雰囲気は女の子なのに学生服なんて着てるから私も迷った。へー、応援団か」
 
「それで彼が、おちんちんに腫瘍が出来ていて、7月に手術するんですけど、転移していたりしないかどうか、この後、転移したりしないかどうか、鑑てもらえないでしょうか?」
 
「それは大変だね。でもそういうのはお医者さんに診てもらった方がいいよ」
「お医者さんにも分からないことのようなんです。もちろん、ちゃんとお医者さんの診断は受けますから」
 
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「そういうことだったら、一応鑑てみようかね。本当は病気のことは占ってはいけないんだけどね。盗病死は占い禁止なんだよ」
 
と巫女さんは言いながらも、何やら竹の棒のようなものを取り出して、手の中でじゃらじゃらとやり出した。
 
左右に分けて、左手に残った棒の数を数えているようである。紙に記録する。巫女さんはこの動作を3回行った。
 
「沢天夬(たくてん・かい)の五爻変(ごこうへん)というのが出たよ。転移は大丈夫だと思う」
と巫女さんは言った。
 
「ほんとですか!良かった」
「でもね・・・・」
と巫女さんは悩むような仕草をする。
 
「何か問題があるんですか」
「いや。転移のことじゃないんだけど。何か重大な決断しなければならないことがあるみたい」
 
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「それは手術のことでしょうか。実は彼、おちんちんもタマタマも全部取らないといけないらしいんです」
「それは気の毒だね」
と巫女さんは本当に同情するように言った。
 
「でも、あなたは彼氏がおちんちん取ってしまっても平気なの?」
 
その質問は鞠古君の前でわざと言ったように千里は思った。
 
「平気じゃないけど、病気治療のためには仕方無いです。それに男か女かなんておちんちんが有る無しじゃないと思うんです。心の問題だから、彼が心で男である以上、たとえおちんちんが無くなっても私は大丈夫です。彼と結婚したいと思っています」
と留実子は言った。
 
「それはありがたい彼女を持ったね」
と巫女さんは鞠古君の方に向かって言った。
 
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ふたりと別れた後、いつものように晩御飯の買物をしてから帰ろうと思い、念のため公衆電話から母に連絡したら
 
「遅いね。今どこ?」
と訊かれる。
 
「ごめーん。ちょっと友だちの深刻な悩みの相談に乗ってたんだよ。今ここは末広町かな?」
「だったら、そのまま駅に行って、旭川まで行ってくれない?」
「え?今から?」
 
「うん。ちょっとお使い頼まれて。今17:30だから、18時の汽車には間に合うよね?」
「うん。余裕。でもこの列車、深川からの連絡が悪かったはず」
「深川から旭川までは特急に乗って」
「えー?もったいない」
「美輪子に払わせるから」
 
「ああ。叔母ちゃんとこなのね」
「そうそう。取り敢えずの汽車賃ある?」
「うん。お買物するのに2000円持ってたから」
「帰りは美輪子に深川まで送らせるよ。留萌線の朝1番の快速に乗れば留萌に6時半に着くから学校には間に合うよ」
「私、着替えは・・・」
「美輪子の下着を借りちゃえばいい。どうせ千里、女物着てるでしょ?」
「私、今学生服着てるんだけど」
 
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着替えたかったが、着替える場所が無かったのである。
 
「じゃ明日は女物でいいね」
 
母は自分の性別のことを理解してくれてんだか、便利に思ってんだか分からないよなあ、などとも思いつつ、千里は駅に向かい、旭川までの切符と深川−旭川間の特急券を買って、列車に乗り込んだ。駅で待つ間に宿題を仕上げる。
 
汽車の中ではぼーっと沿線の風景を見ていた。やがて日が落ちるが、急速に暗くなっていく様を見ているのもまた心地よかった。千里は割とぼーっとしているのが好きである。
 

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その人物がいつ乗ってきたのか、千里は記憶が曖昧だった。ふと気付くと向いの席に座っている。列車はたくさん空席があるのに、なんでわざわざ自分の所に乗ってきたんだろう?と千里は思った。
 
何となく会釈をしたが、その女性もこちらに会釈をした。年の頃は18歳くらいだろうか。彼女は真っ白い上下の服を着ていた。白いスモックに白いスカート。黒い学生服を着ている自分とはまるで写真のネガとポジだな、とふと思った。
 
「そうね。私とあなた、ちょうど逆の服みたいな感じ」
とその女性は言った。何だか自分が心の中で思ったことが相手に伝わったみたいで不思議な感じだった。でも凄く美しいソプラノボイスだ。ああ、こんな声が出せたらいいなと千里は思う。
 
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「世の中は陰陽で出来ているのよ」
と彼女は更に言った。
 
「いんよう?」
「陰と陽。光と影、太陽と月、昼と夜、男と女、火と水、左と右、上と下、N極とS極、プラスとマイナス」
 
「へー」
「光があるからこそ影ができる。でも影が出来て初めて光の存在が認識される。どこにも影が無かったら、光があるのかどうかを確認できないよね?」
 
千里は良く分からなかったが、確かに光と影は対かも知れないという気がした。
 
「でも左右って、反対側を向いたら逆になりません?」
 
「うん。反対のものって実は意外に簡単に逆転する」
「へー!」
 
「陽極まれば陰生ず、陰極まれば陽生ず、というんだよ。昼が極まると日没して夜になるし、夜が極まると日出となって昼になるでしょ?」
 
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「ええ」
「そもそも、日本が昼ならブラジルは夜だし、日本が夜ならブラジルは昼だよね」
「確かに!」
 
「N極とS極って、北極を向くのがN極で、南極を向くのがS極だけど、地質学的な研究で過去に地球の磁場は頻繁にNSが反転していることが分かっているんだよね」
 
「そうなんですか!?」
 
「堆積岩が出来る時に、その泥や砂の中に含まれる磁化された鉄は、その時の地球の磁場の向きになって海底に堆積するでしょ?」
「ああ、そうでしょうね」
 
「火成岩も、どろどろの熔岩が固まる時にやはり鉄分は磁石の向きに並ぶ」
「なるほど」
 
「だから岩石の中の鉄の磁化方向をチェックすると、何万年・何億年前に地球の磁場がどちらを向いていたかが分かるんだよ」
「はぁぁ」
「それで調べてみると、結構地球の磁場ってコロコロ反転してる」
 
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「面白いですね」
 
「太陽と月の神様とか、ギリシャ神話では太陽がアポロンで男、月がアルテミスで女。だけど日本神話だと、太陽は天照大神(あまてらす・おおみかみ)で女、月は月読神(つくよみのかみ)で男。こういう対応って地域によって違う」
「へー!」
 
「電流はプラス極からマイナス極に向かって流れるけど、実は電子はマイナス極からプラス極へと流れてるよね。物事って意外に考え方を変えるだけでも変わってしまうんだよ」
 
「ふーん・・・」
「バスケットやサッカーの試合で、どちらにボールが転がっていけば有利かは、どちらのチームに所属しているかによって違うよね。物理的な事象としては同じでも立場で全く逆」
「ですね」
 
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「男と女だって実は簡単に反転する」
「えーー!?」
 
「お魚の中には、最初はメスで成長するとオスになったり、その逆だったりするものがいるよね」
「ああ、それは聞いたことがあります」
 
「貝の牡蠣(かき)とかは冬の間は性別が無くて夏になるとオスかメスになるけど、毎年どちらになるかは不定。今年オスになって来年メスになるかも知れない」
「あ、そうだったんですか」
 
「人間だって、女に生まれて男になっちゃう人や、男に生まれて女になっちゃう人もいるよね」
 
「・・・・」
 
「それが自然に起きちゃうケースもあるけど、人工的に変えちゃう人も最近は多い」
「はい」
 
「元々男の身体と女の身体も陰陽の対で出来ている。女の身体には奥深くに卵巣があり、男の身体には身体の外側に精巣がある。女には穴の形をしたヴァギナがあり、男には棒の形をしたペニスがある」
 
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「ええ」
 
「千里ちゃん、男を女にする手術って、どうやるのか知ってる?」
「いえ」
「興味あるでしょ?」
「はい!」
 
「凄く大雑把な言い方をすると、ペニスの中身を出して、裏返しに身体の中に押し込んでヴァギナにしちゃう」
 
「えーー!? ペニスがヴァギナになるんですか?」
 
と千里は驚いたが、そういえば誰かもそんな話をしてたな、とふと思った。誰から聞いたんだっけ?
 
「そそ。基本的にペニスとヴァギナって同じサイズなんだよ。でないとセックスがうまく行かないでしょ」
「ですよね!」
 
「だからペニスをヴァギナに変えられるのさ。まさに陽を陰に転じる」
「わぁ・・・・」
 
「まあ千里ちゃんも3年後くらいにはそういう手術を受けるんだろうけどね」
 
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3年後・・・・・その言葉を頭の中で反芻していた時、千里はふと疑問に感じた。あれ?何でこの人、私の名前を知っているんだろう? 私名乗ったっけ??
 

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女の子たちの陰陽反転(3)

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