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■女の子たちのチョコレート大作戦(7)

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この年の千里たちの担任はイベント好きで、バレンタインだから、クラスの女子で20円ずつ出し合ってチロルチョコを買い、明日のバレンタインにクラスの男子にプレゼントしようというのを提案した。
 
「でも女子は12人で男子は15人居ますよ」
と美那が言ったが
「足りない分は私が出すよ」
と先生は言った。
 
それで放課後、クラス委員の玖美子が女子全員から20円ずつ徴収する。
 
「千里〜、チョコ代20円」
と言うので
「ボクも?」
と千里が訊く。
 
「あんた女子だよね?」
と玖美子。
「女子で確定」
と蓮菜が言う。
 
「うん。出すよ」
と千里は笑顔で言って、ランドセルの中からポムポムプリンのお財布を出して20円玖美子に渡した。
 
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「千里、可愛いお財布使ってるね」
「そうかな?」
「うん、可愛い、可愛い」
 
「そういうの、自分で買うの?」
「これ、おばちゃんに買ってもらった」
 
実は旭川に出た時、千里がじっとこの財布を見ていたら、美輪子おばちゃんが「それ欲しいの?」と言って買ってくれたのである。
 
「千里、よく女の子用のトレーナーとか着てるけど、それもおばちゃんにもらったとか言ってたね」
 
「うん。うち貧乏だから、おばちゃんが譲ってくれる服は珍宝してる」
 
「珍宝?」
「重宝では?」
「あ、間違った」
 
「千里には珍宝は無いはず」
「そうだね〜。お宝みたいなものは無いな」
「ああ、やはり無いんだ」
 
「あれって、そんなにお宝なのかなぁ」
「男の子には大事なものでは?」
「千里は要らないと思ったから取っちゃったのね?」
 
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千里も笑っていた。
 

結局、留実子・美那・蓮菜と一緒に買い出しにも参加することになる。
 
「チロルチョコ15個買うのに、5人も要らないような気もするが」
と美那が言うが
「まあ、いいじゃん」
と代表の玖美子。
 
「チョコを買いに行くのは楽しいよ」
と蓮菜。
 
「蓮菜は結局何作ったの?」
「セピアートみたいな渦巻きの作ってみようとしたんだけどね」
「おお、凄い」
「どうしてもきれいな形にならないのよ。それで諦めて丸めてトリュフ」
「ああ、いいんじゃない?」
「やはり形のあるものは難しいよ」
 
「もう誰かにあげた?」
「そのあてが無くて困ってるんだよね」
「好きな人とか、気になる人とかいないの?」
「私、色気より食い気だし」
「それはなかなか難しいな」
 
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「あんたたちは誰かにあげたの?」
と蓮菜。
 
「美那と千里は男の子にあげて、デートまでしたみたいよ」
と留実子。
「凄い!」
と玖美子が声を上げる。
 
「まあ合同デートだけどね」
と千里。
 

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チロルチョコをいちばん安く売っているのは町のドラッグストアだということで、みんなでそこに行く。1個18円のチロルチョコを15個買う。合計270円。女子全員(千里も含む)12人から20円ずつ徴収したのが240円と先生が200円預けてくれているが先生の分を30円だけ使用したことになる。
 
「じゃ先生には170円返せばいいね」
と計算の得意な留実子が言った。
 
「でも20円で一応バレンタインの気分が味わえるのはいいことだ」
「チロルチョコはいいねー」
「ブラックサンダーもいいよ」
「あれは**に入っている100円ショップで4個100円のがいちばん安い」
 
この手の小学生のお小遣いで買えるようなおやつについては、みんな情報が詳しい。
 
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チロルチョコを買って学校へ戻ろうとしていた時、千里たちの前を学生服を着た中学生の男子3人が遮った。
 
千里たちは一瞬顔を見合わせたが
「失礼します」
と言って、脇をすり抜けようとする。しかし彼らは手を広げてそれを停める。
 
「通して下さい」
と玖美子が言う。
 
「よ、お前らさ、さっきチョコたくさん買ってたよな」
と中学生が言う。
 
「そんなにたくさんあるんなら、6個か8個くらい、俺たちに分けてくれてもいいんじゃない?」
「ちょっと待て。8だと3で割り切れないぞ」
「あれ?そうだっけ?」
 
大丈夫か〜?こいつら。
 
「これはお使い物ですから、あげられません」
と玖美子。
 
「チョコくらい安いもんじゃん。どうせ男にもたくさん配るんだろ?俺たちにくれた分をまた買ってくればいいじゃん」
 
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「安いもんだったら、自分で買えばいいじゃん」
と蓮菜。
 
「馬鹿。ホルスタインだぞ。女が男にチョコを渡す日じゃんか。男が自分で買ったら楽しくないだろ?」
「ホルスタイン??牛???」
「おい。ホルスタインじゃない。バンレタインだって」
「あ、そうか。バンレタインなんだからさ」
 
だめだー。こいつら。
 
「別にあなたたちにあげる道理はありません」
と玖美子。
 
「俺たちちょっと格好良いと思わない? チョコあげたくならない?」
 
「どこが格好良いんですか?小学生からカツアゲしようとか、最低の屑ですね」
と蓮菜は言っちゃう。
 
「屑だと?」
「おい、優しくしている内に、言うこと聞けよ」
と言って中学生のひとりが身体を乗り出してくる。
 
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それまで発言していなかったものの、体格の良い留実子が、さっと玖美子と蓮菜の前に出た。
 

「ん?やる気か?」
と中学生が言った時、
 
ポーンとどこからかバスケットのボールが飛んできて、身を乗り出して来た中学生の顔面に激突した。思わず倒れ込む。
 
「ああ、ごめ〜ん」
などと、のんびりした声で歩み寄ってきたのは、同級生の田代君だ。その後に鞠古君も続いている。
 
「ああ、当たりました? キャッチできないなんて運動神経悪いですね」
と田代君。
 
「何だと?」
と中学生は言うが、田代君はそれを黙殺してボールを回収すると、
 
「あれ? お前たちどうしたの?」
と今気付いたかのように、蓮菜たちに声を掛ける。
 
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「この人たちがお使いで買ってきたチョコを寄越せと言ってさ」
と蓮菜。
 
「そんな馬鹿な。いくら何でも中学生が小学生からチロルチョコを横取りしようなんてね。チロルチョコくらい普通自分で買えるでしょ。そんな情けない中学生は留萌には居ないよ」
と田代君は言う。
 
中学生たちは、女子がそもそも5人もいる上、前面に立って鋭い視線を見せている留実子が、喧嘩になるとあなどれない雰囲気なのに加えて、かなり運動神経の良さそうな感じの男子が2人加わったとなると、戦うと結構苦戦しそうと見た感じだ。
 
「おい、やめとこうぜ」
と1人が言う。
 
「今日は退散するか」
「お前ら、覚えてろ」
と言って、3人は去るが、田代君は
 
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「俺、物覚え悪いから、すぐ忘れるよ」
と3人の背中に向かって言った。
 

「田代、鞠古君、ありがとう。あんたたちいいとこあるね」
と蓮菜が田代君たちにお礼を言う。
 
他の4人も「ありがとう、田代君、鞠古君」と言う。
 
「いや、たまたまボールが飛んでっただけだから」
と田代君は言うものの
 
「取り敢えず学校に着くまで付き合うよ」
と言って、その後、女子たちをガードして学校まで行ってくれた。
 
学校に戻って職員室に居た先生にチョコの入ったバッグとレシートにお釣りを渡す。中学生3人組に絡まれたことを玖美子が報告すると、先生は
 
「昨日、5年生の女の子が実際にチョコを取られたんだよ」
と言って、中学の方と連絡を取って、事件を起こしている生徒を特定して何らかの処置をとるということを言っていた。
 
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田代君たちにあらためて礼を言って別れ、そのまま5人でおしゃべりしながら帰り道に就く。
 
「でも田代って、あんなに格好良いことできるんだね」
などと蓮菜が言っている。
 
その言い方に微妙な雰囲気を感じて、美那と千里、それに留実子も顔を見合わせた。
 
「そういえば田代君と蓮菜って近所だっけ?」
「近所も近所。お医者さんごっこした仲だよ」
「おぉ!」
「でも天敵だね」
と蓮菜。
 
「それってお互いに天敵だったりしてね」
と玖美子は優しく言った。
 

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翌日。給食の時間に、昨日女子で調達したチョコを男子に配ることになる。女子12人でジャンケンして、配る役は蓮菜と千里が務めることになった。先生が用意していた、可愛い天使風のドレスを(着ている服の上から)着て配る。
 
「村山、ドレス似合う」
と元島君から言われる。
 
「えへへ。これ可愛い衣装だよね」
と千里もご機嫌で答える。
 
「そうしてるとほとんど女だな」
などと鞠古君。
 
「まあチロルチョコ買うのにお金も出したしね」
と千里。
 
「琴尾、そういう服着てると女に見えるな」
などと田代君が蓮菜に言う。
 
「そうだね。まだおちんちん生えて来てないから取り敢えず女かな」
と蓮菜は応じる。
 
「やはりチンコ生えてきそう?」
「生えて来たら、田代を嫁さんにしてやるから安心しな」
 
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この手の会話は、何だかこのふたりのいつものジャブ応酬という気もする。しかし千里はその「嫁さんにしてやる」という言葉に、いつもと違う雰囲気を感じ取った。
 
配り終えた後で、女子全員で集まり、一緒に「チョコレイト・ディスコ」を歌った。鍵盤楽器の得意な美那が教室に置いてある電子キーボードを弾いた。
 
歌いながら千里は「声変わり」問題について考えていた。今は自分も女子と同じような声で話せるし、歌える。でもいつか声変わりが来てしまったら、こんなこともできなくなってしまうのだろうか。その時、自分を女子の友人たちは、今までと同様に友人として扱ってくれるだろうか・・・・。
 
それはまるで死刑を宣告されて執行を待つかのような気分であった。
 
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