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■女の子たちのチョコレート大作戦(4)

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それで自宅に戻ると
 
「もう先に食べてるよー」
と玲羅が言う。
 
「うん。食べてて食べてて」
と言って、千里は買ってきた洗剤を洗濯機に投入する。
 
「ああ、このズボンも濡れちゃったから入れちゃおう」
と言って、穿いていたジーンズを脱いで洗濯機に入れてからスタートボタンを押した。
 
「遅かったね」
と母。
「ごめーん。友だちに偶然会って、ちょっと話してた」
「雪道で遭難してないかと思ったよ」
「ごめん、ごめん」
 
母の方は千里を待ってくれていたようで、自分の分と千里の分と2人分のおでんを盛ってくれた。その間に千里は自分の部屋に行き、アクリルのロングスカートを穿いて出てきた。一瞬母がえっ?という顔をしたが何も言わない。玲羅は何だかニヤニヤしている。
 
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「頂きます。うん、美味しい、美味しい」
「千里、味付け上手だね」
「そうかな」
 
「お兄ちゃん、料理得意だから、良いお嫁さんになれそう」
と玲羅が言う。
 
「うん。頑張る」
と千里。
 
「あんた、お嫁さんに行くんだっけ?」
と母。
 
「うん、そのつもり」
と千里は答えたが、その時、チラリとさっきキャッチボールをした青沼君の顔が目に浮かんだ。
 
母は千里が穿いているスカートを見ながら「うーん。。。」と少し悩んでいる雰囲気であった。
 

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2月9日(金)。バレンタイン前の最後の金曜日(翌日は第2土曜で学校は休み)。千里は(女子の)友人たちとバレンタインのチョコのことで話をしていた。
 
「この週末に渡すか、当日渡すかだよね」
「みんな手作りするの?」
「私、何度か実験して失敗。諦めた。何か適当なのを買って渡すよ」
「あまり親しくない相手なら、その方がむしろいいよ」
 
「私は手作りするよー」
「お、凄い。誰に渡すの?」
「いや、それがあてが無くってさ」
「それは大問題だ」
 
「千里はどうするの?」
「手作りするよ。結局、無難な石畳チョコ作ることにした」
「おっ、それで誰に渡すの?」
「えっと・・・」
 
正直な気持ちとして渡したいと思うほどの相手は居ないのだが、手作りしている時にチラリと先日からキャッチボールを何度かしている青沼君の顔が浮かんだのは事実である。
 
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「お、その反応!」
「渡す相手がいるんだ!」
「相手は男の子だよね?」
「うん・・・」
 
と千里は赤くなってしまう。彼に渡しちゃってもいいかなあ。キャッチボール教えてもらっている感謝の印みたいな?
 
「おお、赤くなってる。相思相愛?」
「まさか」
 
「ふふ。千里が渡すつもりでいる相手、私知ってる」
と留実子が言う。
 
「あん、言わないでよー」
と千里は焦って言う。
 
「どうせ渡す時にはバレるじゃん」
「誰?誰?同級生?」
 
千里は首を振る。
 
「6年生の男の子だよ」
「うん、まあ・・・」
「でもあの子人気だから、きっとたくさんの女の子からチョコをもらうよ」
「そうかもね」
 
「それは別にいいんじゃない? ただ自分の気持ちを伝えられたら、それでいいんだよ」
「うん」
 
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2月11日(日)。市民グラウンドで、市内町対抗小学生ソフトボール大会が開かれていた。千里は青沼君がA町のピッチャーとして出場すると聞き、応援に行くことにした。そして・・・・少しだけ迷ったが、昨夜頑張って作った石畳チョコをメッセージカードとともに綺麗な箱に入れリボンを掛けたものも荷物に入れる。
 
それを見ていた玲羅が言う。
 
「お兄ちゃん、そのチョコ、彼氏にあげるの?」
 
「彼氏なんて居ないよー」
「でもこないだから、ちょくちょく男の子と会ってるよね?」
「あれはキャッチボールの練習してるだけ」
「ふーん」
 
会場に行くと、自分の町C町の町内会長さんとばったり会う。
 
「お、村山君、今日は選手で出てくれるんだっけ?」
「すみませーん。私、運動神経悪いから。今日は友だちの応援です」
 
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などと言って、スタンドに行き、適当な場所を探していたら今度は恵香と美那に会う。ふたりとも同じC町町内である。
 
「千里は選手?」
「まさか。応援、応援」
「C町の?」
「あ、えっと・・・・」
「A町だよね?」
「えへへ」
 
「千里も青沼君のファン?」
と美那が訊く。
 
「うん、まあ」
と千里は言うが
 
「というか最近、千里、青沼君と個人的に会ってるもんね」
と恵香が言う。
 
「えー!?うそ!ずるい!」と美那。
「あれはキャッチボールしてるだけ」と千里。
「なぜにキャッチボール?」と美那。
「千里、野球部に入るの?」と恵香。
 
「野球部は男子だけでしょ」
と千里が言うと
 
「ん?」と言って恵香と美那が一瞬顔を見合わせる。
 
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美那も青沼君目当て、恵香はA町の別の男の子・赤坂君が目当てらしく、結局3人でA町の男子ソフトの試合が行われる付近に移動した。グラウンドの中に強引に4つダイヤモンドが作られており、試合は3回まで又は30分を越えては新たな回に入らない規定で、各チーム2試合行い、合計得失点差で順位が決まるというシステムである。
 
「青沼君、やっぱり格好いいなあ」
と美那が言う。
「千里、彼とどんな話してるの?」
「お話とか何もしてないよ。ひたすらキャッチボール」
「何だか不思議な関係だ」
 
「彼にチョコ渡したりしないの?」
「あ、えっと・・・・」
「もしかして持って来てたりして」
「えへへ」
「じゃ、渡そうよ。実は私も持って来てるんだけどね」
「あ、じゃ2人一緒に渡せばいいよ」
などと恵香が言う。
 
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「よし、この試合が終わった後で渡しに行こうよ」
「う、うん」
 

試合は青沼君がピッチャーで4番で投打に活躍し、8対0で快勝した。
 
「よし、行こう」
「恵香も赤坂君にチョコ渡すんでしょ?」
「えー!? どうしようかなぁ」
「持って来てるんだよね?」
「うん、まあ」
「だったら私たちも応援するからさ」
「うん・・・」
 
それで試合が終わって選手たちがグラウンドから引き上げて来た所に3人で突撃した。
 
「こんにちはー」
と明るく声を掛ける。なかなか1人では勇気が持てない所だが3人一緒なので、何とかなっている感じ。
 
「あのぉ、青沼先輩、これ」
と言って美那が先にチョコを差し出した。
 
「わあ、ありがとう」
と言って青沼君は美那のチョコを受け取るが、チラッと千里の方に一瞬視線を投げた。恵香が「ほら、千里も頑張れ」と言って千里の背中を押す。それで、千里もチョコの包みを出して
 
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「いつも楽しませてもらっています」
と言って青沼君にチョコを渡した。
 
青沼君は笑顔で
「僕も楽しんでるよ」
と言って千里のチョコを受け取り、ついで千里と握手をした。千里は身体的な接触でキャーと思い、頭に血が上る。
 
「あ、先輩、私も握手いいですか?」
と美那が言うので、青沼君は
 
「いいよ」
と笑顔で言って、美那とも握手をしてくれた。
 
「お、ふたりからチョコもらうなんて、青沼、人気だな」
とそばに居た赤坂君が言う。
 
その赤坂君に恵香が
「あの、赤坂先輩、これを」
と言ってチョコを渡す。
 
「え?俺に? おぉ!嬉しい。何ならデートする?」
などと本当に嬉しそうに赤坂君が言う。
 
「はい、デートしたいです」
と恵香は言っちゃった。
 
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「おお。じゃ、明日お昼、留萌駅で」
などと赤坂君が言うと
「行きます!」
と笑顔で恵香は言った。
 
すると美那が
「あ、私たちもデートしませんか?」
などと言う。
 
「あ、だったら、青沼たちも明日お昼留萌駅に来ない?」
と赤坂君。
 
「5人でまとめてデート?」
 
青沼君は困ったような表情で笑いながら、視線は千里の方に置いている。
 
「そうそう。ダブルデート?トリプルデート?まあ、そんなもの」
と赤坂君。
 
「4人ならクアドルプル、5人ならクイントゥプル、6人ならセクストゥプルかな」
と青沼君が言う。
「セックス?」
と美那が大胆発言。
 
「いや6のことラテン語でセクスというんだよ。英語のシックスが訛ったもの」
「びっくりしたー」
「小学生だし、セックスは抜きで」
などと赤坂君が言うが
 
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「セックスって何?」
などと千里が訊いちゃう。さすがの赤坂君も「えーっと」と言葉を選びかねている。すると恵香が
 
「千里、あとでゆっくり教えてあげるから」
と言って引き取った。
 

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そんな感じで、青沼君も千里も明確に同意しないまま、明日の振替休日に5人まとめてデートという話が決まってしまった感もあった時、C町の6年生女子・山田辰子さんが、こちらを見つけてやってくる。
 
「美那ちゃん、恵香ちゃん、ちょっと顔貸して」
「どうしたの?」
「C町の女子チームのメンツが足りないのよ。あんたたち、何なら立ってるだけでもいいからさ。9人居ないと不戦敗だから」
 
するとその時、
「あ、千里もC町だよね?」
と青沼君が言う。
 
「うん」
「だったら、千里、ピッチャーやりなよ。山田、この子、凄く使えるから。僕が推薦する」
と青沼君。
 
「え?でも・・・」
と辰子は少し言いよどんだが、思い直したように
 
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「そうだね。今私も入れて選手が6人しか居ないから、あと3人調達しないといけなかったし、じゃ美那ちゃん、恵香ちゃん、千里ちゃん、3人とも来て」
 
と言って、結局、辰子さんは3人を連れて更衣室になっている隣接の体育館の方に行く。
 
 
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