広告:わたし、男子校出身です。(椿姫彩菜)
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■女の子たちのチョコレート大作戦(2)

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翌日曜日。この日は父の漁はお休みなのだが、千里は網の手入れに駆り出された。母も駆り出されたが、妹の玲羅はまだ小学2年生なので、同年代の子たちと一緒に近所のお婆ちゃんの所に預けられ、他の子と遊んでいる。
 
もっとも千里も網の手入れ自体には参加していない。破れた所の補修を教えられて少しやってみたものの、「腕力が無さ過ぎる。お前の締め方ではまたすぐ外れる」と言われて、結局雑用係である。道具を持って回ったり、お茶を配ったりなどの作業をしていたが、それでも結構歩き回るので体力は消耗した。寒さを忘れるくらいである。
 
作業が始まってから2時間近く経った頃、千里もそろそろ疲れて来たなと思い始めていた時、作業の手をふと休めた人を見かけてお茶を持っていく。
 
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「お疲れ様」
と言って熱いお茶を渡す。
「ああ、ありがとう」
と言って受け取ったのを良く見るとまだ子供である。千里はその子を見た記憶があった。6年生で確か野球がうまい子だ。名前は何と言ったかな・・・と考える。
 
その時、近くに居た大人の人がその少年に声を掛けた。
「おい、晋治(しんじ)、もうヘバったか?」
「いや。まだまだ」
 
あ、そうか。青沼晋治君だった。と千里は彼の名前を思い出した。
 
「さて、お茶飲んだし。また頑張るぞ」
と言って、彼は千里に湯飲みを返した。その時、晋治と千里は偶然目が合い、彼が千里にニコっと微笑み掛けた。千里も思わず微笑み返した。
 
「おーい、千里、こちらにもお茶」
という声が掛かったので、千里は晋治に会釈して、そちらに行った。
 
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月曜日。その日の5時間目の授業は性教育だった。
 
この学校では本格的な性教育は5年生から始まるのだが、4年生ともなれば、早い子はもう生理になったり、精通が来ていたりするので、先行してこの時期から基本的なことを教え始めることになっていた。
 
「男の子と女の子の違いは何ですか?」
と保健室の先生が教壇の所で問いかける。
 
「チンコが付いてるかどうか」
と男子の鞠古君が答えるが
 
「まあ、確かにそうですが、正確には、男の子の器官が付いているのが男の子、女の子の器官が付いているのが女の子ですね」
と先生は言う。
 
ここで男性器と女性器の図がプロジェクターに投影されると、息を呑むような教室内の空気。
 
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「男の子の器官には、おちんちん、医学的には陰茎、あるいはペニスと言いますが、それとか、袋の中に入ったタマタマ。袋は陰嚢、タマタマは睾丸と言いますが、そういったものがあります。女の子の器官には、まず目立つのが割れ目ちゃん、医学的には陰唇と言いますが、そして小さなおちんちん、陰核あるいはクリトリス、クリちゃんとか言いますね。昔はサネなんて呼んでました。そして膣あるいはヴァギナがあり、その奥には、赤ちゃんが入る場所である子宮や、卵が入っている場所である卵巣があります。女の子の卵巣に対して、男の子の睾丸のことを精巣とも言います」
 
「なんか女の方がいっぱいある」
と元島君。
 
「そうですね。女の子の身体の方がだいたい複雑です。そして女の子の器官はほとんど身体の中に隠れているんですよね。そして男の子の器官はほとんど身体の外に出ている。でも体内にも実は精嚢とか前立腺とかいった器官もあるんですけどね」
と先生はその声に応える。
 
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「だいたいみなさんくらいの年齢から中学生くらいまでの世代を思春期といって子供の身体が次第に大人の身体に変化していく時期です。女の子は脂肪が付いて丸みを帯びた柔らかい身体になり、男の子は筋肉が発達してがっちりした身体に変化していきますね」
 
千里は説明を聞きながら、そんながっちりした身体になるのは嫌だなと思った。
 

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「男女ともこの時期に陰部に毛が生えてきますね。男の子は陰茎や睾丸が大きくなり、睾丸の中で赤ちゃんの種である精子が生産されるようになって、それが外に出てくるのが精通です。喉仏が発達して声変わりが起きますね」
 
「一方この時期、女の子は胸が発達して乳首も大きくなり、卵巣の中では赤ちゃんの卵である卵子が成熟して、1ヶ月に1度子宮まで1個ずつ出てくるようになります。これが受精しなかった場合流れてしまうのが月経で月経が始まるのは、赤ちゃんを産める身体になったということなんですね。ですから、昔は月経が始まったら、女の子はもう1人前の大人の女性とみなされていました」
 
千里は何かの間違いで自分も胸が大きくなり、月経が始まらないだろうかと思った。声変わりしたくないなとも思う。
 
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「先生、男に月経が来たり、女に精通が来ることはないの?」
と鞠古君が質問する。
 
「5ARDというのがあります。このタイプの子供は生まれた時は女の子なのですが、思春期になると、胸が発達したりはせずに、それまでクリちゃんと思っていたものが突然大きくなり始め、おちんちんに変化して、男の子の身体になってしまうんですね。これは太平洋のある島国では全然珍しい例ではないらしく、よく起きていることらしいです。こういうのが起きやすい遺伝子があるんでしょうね」
 
教室が少しざわめく。
 
「元々人間の身体というのは女の子のような形なのですが、ふつうの男の子の場合、お母さんの子宮の中で、おちんちんが発達してその形で生まれてくるのですが、5ARDの場合は、お母さんの子宮の中ではその変化が起きずに、思春期になってから始まってしまうんですね」
 
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「琴尾、実は男で、チンコ生えて来たりして」
などと、口の悪い田代君が、男勝りの性格の蓮菜をからかって言う。
 
田代君はしばしば蓮菜の苗字の「琴尾(ことお)」が逆から読むと「おとこ」
になると言って、お前実は男じゃないか?などと、からかっているのである。もっとも黙ってからかわれている蓮菜ではないので、しばしば田代君は蓮菜からパンチやキックを食らっている。
 
「ああ、チンコ生えて来たら、男になって、田代を嫁さんにしてやるよ」
と蓮菜は笑って言い返す。
 
「嫁さんにするなら、俺より村山を嫁さんにしろよ」
と田代。
 
そんなことを言われて千里は恥ずかしそうに俯いてしまう。
 
「ああ。千里は私が嫁さんにしなくても、きっと誰か良い男の人と結婚して、可愛いお嫁さんになりそうな気がするよ」
と蓮菜は言う。
 
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「逆にそれまで男の子の身体だったのに、思春期になってから突然胸が膨らみはじめて女の子らしい身体に変化していくケースもあるそうです。こちらはあまり事例がないのですが、40年ほど前に日本でもあったそうです。本人が悩んで消息を絶ってしまったので、その後どういう身体付きに変化して行ったのか、特に元々あったおちんちんは小さくなって無くなってしまったのかどうかとかもよく分かりません」
と先生は付け加えた。
 
千里は、ああ、そういうことが自分の身体に起きて欲しいと思う。
 
「そういうのって、ニューハーフの人とかとは違うんですか?」
と質問が出る。
 
「身体の性が曖昧な人たちはインターセックスというのですが、ニューハーフの人たちのように、心の性が曖昧であったり身体の性と一致しない人はT’sとか言うようです。ニューハーフの人たちの場合は自然に身体が変化するのではなく、人工的に男の身体を女の身体に作り替えてしまうんですね。女らしい身体になるように、10代の内から女性ホルモンの注射を打っているので、胸はふつうの女の子のように大きくなりますし、陰茎や睾丸は縮んでいって、赤ちゃんのおちんちんみたいになっちゃうそうです。声も女の人の声のようになるみたいですね」
 
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先生はどうも少し誤解しているようだが、一般の人のこの付近の知識はしばしばこの程度のものである。でも先生が言うので、千里も含めてみんなそんな話を信じている。
 
「女性ホルモンというのが、おっぱいを大きくするんですか?」
 
「そうです。女の子は卵巣で女性ホルモンが生産されるので、それで胸が大きくなり、月経も起きます。男の子は睾丸で男性ホルモンが生産されるので、それで陰茎や睾丸が発達し、声変わりも起きます」
 
男性ホルモン要らない。女性ホルモンが欲しい、と千里は思う。
 

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「ニューハーフの人、女性ホルモンをずっと打っていたら、おちんちん、小さくなって無くなってしまうことはないんですか?」
 
「小指の先くらいまで縮むことはあるらしいですよ。でも完全に無くなってはしまわないから、最後は性転換手術というのをして、女の人のような形に作り替えてしまいますね」
 
この付近は先生も若干あやふやな雰囲気。
 
「性転換手術って、チンコ取る手術ですか?」
と鞠古君。
 
「陰茎と睾丸を取って、割れ目ちゃんを作り、陰核と膣を作る手術ですね。最近けっこう受ける人が増えているようですね。逆に女の子から男の子への性転換手術というのもありますよ」
と先生。
 
「じゃ、村山はその手術を受ければいいんだ」
と元島君。
 
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千里はまた恥ずかしそうに俯いている。
 
「そんなこと言うもんじゃないですよ。村山君も立派な男の人になって、漁師さんとか、あるいはお相撲さんとかになりたいかも知れないじゃないですか」
と先生が注意した。
 
「いや、村山のお相撲さんは絶対あり得ん」
「漁師もあり得ん気がする」
などという声が上がる。
 
「千里、男の人になりたいの?」
と蓮菜が訊いた。
 
千里は首を振った。
 
「私、男の人になりたくないです。女の子になりたい」
と千里は恥ずかしそうに言った。
 
「やはり」
「だったら性転換手術だな」
「女性ホルモンの注射、打たなきゃ」
 
「女性ホルモンの注射って病院で打ってもらうんですか?」
と留実子が訊く。
 
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「そうですね。お医者さんの診断を受けて、この子には必要だとお医者さんが認めたら打ってもらえると思いますよ」
と先生。
 
「村山、病院に行って、打ってもらえよ」
と田代。
 
千里はほんとに病院に行きたい気分だった。
 

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