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(C)Eriko Kawaguchi 2014-03-01
真ん中に仕切りが立てられていて、左側が男子、右側が女子の更衣室になっていて、入口の所に左側は黒字で「男子」、右側は赤字で「女子」と大きく書かれているが、辰子さんは3人を連れて右側の方に入って行く。千里が平気な顔をしてそれに続くので、美那と恵香は顔を見合わせたものの、特に何も言わずに一緒に入って行った。
「これ、ユニフォーム。これ着てプレイしてくれないと、万一事故とか起きた時に、治療費が出ないのよ」
と辰子さんが言う。
「へー」などと言って、3人とも着替える。恵香と美那は、千里がトレーナーとジーンズを脱いだ下に、女の子シャツを着ているし、下も女の子パンティを穿いているのを見て、また顔を見合わせた。辰子さんも、何だか頷いている。
それでユニフォームに着替えて、集合場所に行った。
「3人調達してきたよ」
と辰子が言うと、一部から「え?」という声。
「これ女子チームだけど」
「うん。千里は女の子だしね」
「まあ、女の子にしか見えないよね」
「この際いいか」
「どうせ町対抗試合だし」
「オリンピックに出る訳でもないしね」
「染色体検査される訳でもないし」
などと千里が女子チームに入ることを容認する雰囲気だ。
「青沼から、この子、ピッチャーで行けるという話を聞いたんだけどね」
「へー」
「ちょっと投げてみてよ」
と言われるので、辰子さんがキャッチャーミットを持って座り、そこに向けて千里はウィンドミルで投球する。
「お、凄い、ウィンドミルできるんだ?」
「さすが元男子」
「元男子なんだっけ?」
「今は女子だから」
「確かに」
「でもボールにスピードがない」
「そのスピードなら性別を疑われることはないな」
「でも、凄く正確にミットに収まった。もう一度投げて」
と言って辰子が返球するのを受け取り、また千里がウィンドミルで投げる。これを数回繰り返す。
「凄い。私がどこにミットを構えても、そこにジャスト来る。ミットを全く動かす必要が無い」
「それだけ正確に投球できるなら、確かにこれは使えるよ。よし、千里ちゃんピッチャーね」
「私たちは立ってるだけでいいですか?」
と美那が言うので、美那はライト、恵香はレフトを守ることになった。
試合は辰子がミットを構えるところに千里が正確に投げ込むので、相手チームのバッターは辰子の巧みなリードに翻弄されて、三振や凡打の連続で1回は三者凡退、2回は1人ランナーを出しただけで3回も三者凡退で相手チームを0点に抑えた。美那や恵香の所には1度もボールは飛んでこず、ほんとに2人は立ったままで済んだ。
一方攻撃では、千里も美那も恵香も三振だったものの、同級生の留実子は打席が回ってきた2度ともクリーンヒットを放ち、他の子たちの活躍もあって3回までに4点を取り、4対0で勝った。
2試合目も同様の展開で3対0で勝った。合計得失点差は+7である。
「今の所、この成績なら全体で6位か7位くらいになれそう」
「おお、凄い」
などと言っていた時、大会事務の腕章を付けた女性が女子チームの所に来た。
「C町の女子チームですか?」
「はい。そうです」
「ちょっと訊きたいんですけど」
「はい、何か?」
「こちらのチームに男子が混じっているのではという声が届いているのだけど」
あちゃー。バレたか。とみんな思う。
ところが事務の人はしばしメンバーの顔を見回してから、千里ではなく、長身の留実子に声を掛ける。
「君、男の子だってことはないよね?」
まあ、この中では留実子がいちばん男っぽく見えるかも知れない。
「私、時々間違えられるけど、一応女ですけど」
と留実子は言った。
「なんでしたら、脱いでみましょうか」
「うん、それが手っ取り早いかもね」
それで留実子は事務の女性と一緒にちかくのトイレに行く。そしてほどなく、ふたりは出てくる。
「ごめんなさいねー。確かに女の子だったね。誰か似ている男の子と間違えたんだろうね」
と事務の女性は謝って、去って行った。
「るみちゃん、やはり女の子だったのね?」
「私、おちんちん欲しいなと思うことよくあったけど、一応付いてないよ」
と留実子は笑っている。
「ああ、やはり欲しかったんだ?」
「兄貴のおちんちん見てたから、自分にもその内生えてくるのかなと思ってたよ、小さい頃は。でも生えてこなかったな。男の子になりたかったからスカートとか買ってもらっても全然穿かなかったし」
と言った留実子がチラっと千里に視線をやったので、千里はドキッとする。
「確かにるみちゃんって、スカート穿いてるのも見たことない」
「でも夏のキャンプ体験の時も、みんなと一緒にお風呂に入ったじゃん」
と留実子。
「確かに」
「ねぇ、あの時、やはり千里も居なかった?」
「居ないよー。だいたい、私が女子の時間帯に居たら、きっと、みんな、なんでここに居るのよ?と追求したと思うよ」
と千里は言う。
「確かにそう言われたらそうだけどなあ・・・」
「おしゃべりはお風呂の外に居る時にしたんだよ」
「そうだっけ?」
「私も自信なーい」
その後、A町男子の2試合目があったので、留実子も誘って4人で見に行った。やはり青沼君の投打による活躍で9対0の圧勝。赤坂君も2塁打を打ったので、恵香が騒いでいた。
「A町優勝かな?」
「他のチームの成績次第だけどね」
選手たちが戻って来た所に声を掛ける。
「お疲れ様でしたー」
ところがそこに数人の女の子が駆け寄り、青沼君にチョコを差し出す。青沼君は一瞬千里の方に目をやったものの、千里が笑顔でいるのを見ると、彼女たちのチョコを受け取った。
「あぁ、受け取っちゃうの〜?」
と傍で美那が言うが、千里は
「いいじゃん。私たちはデートの約束までしたんだし」
と言う。
「そうだねー」
「握手もしたしね」
「うんうん」
青沼君は彼女たちのチョコを受け取り、少し言葉は交わしているものの、握手とかまではしないようである。
「あんたたちデートするの?」
と留実子が訊く。
「うん。赤坂君、青沼君と、私と千里と美那の5人でセックスデート?」
と恵香が言うと
「セックス!?」
と留実子がびっくりして言う。
「違うよ。5人だからクイントゥプル・デートだよ。セクストゥプルは6人」
と美那が修正した。
「ああ、びっくりした。でももしセックスするんなら、ちゃんと付けさせなきゃ駄目だよ」
と留実子が言う。
「何付けるの?」
と恵香。
「赤ちゃんができちゃったりしないように、男の子に付けるものがあるんだよ。たしか、コンタックとか何とかいう奴」
と留実子もあまく詳しくはないようである。
「コンタックって風邪薬?」
「あ、いや、何か似たような名前」
「でも小学生で赤ちゃん産んじゃうのはさすがに辛いからね」
「確かに」
そういう会話が千里には、何だかさっぱり分からない感じであった。
「でも千里も赤ちゃんできるんだっけ?」
「そのあたりがどうも微妙だな」
「千里、お嫁さんになって、赤ちゃん産みたい?」
「え?赤ちゃん産むの? できるかなあ」
と千里。
「やはり産む気でいるようだ」
「千里なら産めるかもね」
「千里は産ませるほうじゃないよね?」
「おちんちん付いてないみたいだから、それは無理でしょ」
そのあたりの会話も千里にはさっぱり分からなかった。
翌日(振替休日)、千里が自宅で厚手のタイツを履き、膝下サイズのタータンチェックのスカートを穿いていたら、母が
「可愛いの穿いてるね」
と言った。父は近所の寄り合いに行っている。
「うん。デートだから」
と千里が言うと
「デートって・・・まさか男の子と?」
「そうだけど。夕方までには戻るね」
母は何だか悩んでいる様子。
「恵香と美那も一緒なんだけどね。男の子の方も2人で合計5人だし」
と千里が言うと
「ああ、グループデートなんだ」
と安心するように言ってから母は
「あんたは・・・男の子側なんだっけ?女の子側なんだっけ?」
と訊く。
「え?私は女の子だよ」
と千里は笑顔で言った。
「じゃ、行ってきまーす」
と母に言ってダウンコートを着て、出かけようとしたら
「あ、これ持って行きなさい」
といって千円札を2枚渡してくれた。
「ありがとう」
と言って千里は出かけた。
バスに乗って駅に行くと、既に恵香が来ていた。千里のコートの下からタイツが見えているのを見て恵香が言う。
「千里、もしかしてスカート穿いてきた?」
「うん。これ」
と言って、千里はコートを脱いでみせる。
「可愛い! そんなスカート持ってるんだ?」
「叔母ちゃんのお下がり」
「へー」
やがて、青沼君、美那と到着し、言い出しっぺの赤坂君がお昼を5分くらい過ぎてから到着した。
「遅刻〜」
と青沼君に言われて
「ごめん、ごめん」
と謝っている。
駅から出て歩きながら5人でおしゃべりして、結局ケンタッキーに入った。
男の子たちはセットを注文したが、女子組は、チキン1個と飲み物というオーダーである。
まずは昨日のソフトボール大会、お疲れ様でしたという話になる。結局A町の男子チームは得失点差が1点差で2位(1位は+18)、C町の女子チームは5位で、どちらも賞状と、チーム全員に記念品のボールペンをもらった。
「千里、今はボールにスピードが無いけど、ジョギングしたりして足腰を鍛えたら、もっとスピード出るようになるよ」
と青沼君が言う。
「そうですねー。でも私、運動苦手だし」
と千里。
実はあまり身体を鍛えて筋肉質の身体にはなりたくないので、敢えて運動をしていないという面もあるのである。千里はスリムではあるが、筋肉より脂肪が多いので、身体に触った感触は女の子っぽい。
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女の子たちのチョコレート大作戦(5)