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■女の子たちのお勉強タイム(7)

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「お父ちゃん!」
と千里は声を掛けて改札口のそばにいる父の所に駆け寄った。
 
「おお、千里すまんな」
と父は笑顔だ。
 
「これ帰りのチケットとお財布、それとお弁当買ったから車内で食べて」
「すまん、すまん。お前も一緒にこの汽車で帰るか?」
 
あ!
 
その手は考えなかった。確かにひとつの方法だ。
 
「ちょっと待って。それで旭川に何時に戻れるのかな」
と言って確認すると朝一番のスーパーカムイに乗って8:13に到着することが分かる。
 
「だったらそうしようかな」
「そうしよう、そうしよう」
 
それでみどりの窓口に行くと幸いにも空席がある。
 
「こいつと並びの席にできますかね?」
と父が尋ねる。
 
「確認しますね」
と言って係の人はモニターを見ている。
 
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「今のお父さんの座席は変更になりますけど、それで良ければお嬢さんと並びにできますよ」
「じゃ、それでお願いします」
 
千里のチケット代金24,750円は父に渡した財布から父が払った。それであまり時間が無いので、そのまま新幹線ホームに行く。もう列車は停まっていた。ホームの売店で自分の夕食にと鳥飯弁当を買っていたら、父も「それうまそうだなあ」などと言うので、結局それを2個買う。乗り込むと10分ほどでE2系《はやて・こまち29号》は発車した。
 

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「しかしさっきの駅員、お前のこと《お嬢さん》なんて言ってたな」
「うーん、別にいいんじゃない?」
 
まあ、私は女に見えるだろうね〜。
 
「お前、声変わりまだしないの?」
「あれって個人差あるんだよ。17-18歳で声変わりする人もあるし」
「ああ、そういうもんかな」
「でもお父さん、何の講義受けたの?」
「航海科の特別講義で、ガレー船からTSL,エコシップまでというので、船舶の構造の詳しい歴史だったんだよ。お前TSLって知ってるか?」
「ううん」
「テラノ・スーパー・ライナーとかいうんだぞ。700人も乗れる大きな船なのに40ノット近く出るらしい」
 
テラノじゃなくてテクノかもね、と千里は思う。
 
「40ノットって時速でどのくらいだっけ?」
「確か100キロくらいじゃないかな」
「それは凄いね!」
 
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(本当は40ノットは74km/h。実際の小笠原TSLは38kt=70km/h)
 
「三井造船が作って東京と小笠原の間の航路に就航予定だったらしいけど、掛かる燃料費が高すぎるというので、フェリー会社が受け取り拒否したらしい」
 
「ああ、それはもったいないね。でも佐渡航路とかもジェットフォイルは高いもん。佐渡は観光客が来るからいいけど、小笠原はあまり観光客来ないでしょ」
「そのあたりが問題かなあ。でもせっかく100億円も掛けて造ったのにもったいない」
「需要や採算を考えずに作った方が問題だと思うけど」
 

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父はその受けた講義の内容や今年の春から父が主体でやっているホタテ養殖の話、それに週2回地元の高校で担当している授業での高校生とのふれあいなどたくさん話した、千里はそもそもあまり父と話したことが無かったのでこの日はちょっと親孝行ができたかなという気もした。
 
《はやて》は大宮を出た後は八戸に到着するまでに仙台・盛岡・二戸にしか停まらない(盛岡で《こまち》を切り離す)。停車駅が少ないこともあり、父は宇都宮をすぎたあたりで眠ってしまった。父が熟睡しているのをいいことに千里は父の財布をそっと取り出すと中に1万円札を3枚足しておいた。今回の父の旅費も家計にはかなり辛かったはずだ。
 
その後、千里も寝ていたのだが、盛岡を出て少しした頃、廊下を歩いてきた女性(?)が声を掛けてくる。
 
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「あら、千里じゃん」
 
千里は寝たふりしていようかと思ったのだが(実際ほとんど寝ていた)返事をしないと後が怖いので目を開けて
 
「おはようございます、雨宮先生」
と挨拶する。
 
「おはよう」などという声を聞いて父がびっくりしたのか目を覚ます。
 
「どこ行くの?」
「旭川に戻る所です」
「じゃ静岡に来てたの?」
 
ほんとにこの先生の発想って不思議だと思う。「東京に来てたの?」と訊かれるのなら分かるが、なぜ静岡という発想になるのだろう。
 
「東京に父を迎えに行ったんですよ。夕方到着してとんぼ返りです」
「あ、そちらお父さん?」
 
「千里の学校の先生ですか? 息子がお世話になっております」
と父が言う。
 
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「ふーん。息子ねぇ」
と雨宮先生は可笑しそうに言う。
 
「先生はご出張か何かですか」
「毛利に運転させて青森に行く所だったのよ。観光協会の人と打ち合わせでね。それが前沢SAで休んだ後、毛利のやつ、私が乗っているかどうかを確認しないでそのまま出ちゃってさあ」
 
ああ・・・毛利さんらしい。
 
「それでじっと待っている訳にもいかないから、ちょうど通りかかったXANFUSのメンバーのワゴン車に声掛けて、盛岡駅まで乗せてもらった」
 
「ざんふぁす?」
「9月にデビューしたたぶん女の子バンドなのよ。6人編成」
「6人というのは多いですね。でも多分というのは?」
「一応みんな女の子に見えたけど、ちょっと怪しいなあと思った子が1人居たからね」
「へー」
「あんたもその手の勘が働かない?」
「ああ、ふつうの人よりは働くかも。で毛利さんは?」
「放置してたら途中で気づいたらしくて電話掛かってきたから盛岡駅に居ると言ったら、そちらに行くと言ってた」
「そんなこと言って、先生は新幹線に乗っちゃったんですか?」
「罰として無駄足踏ませてやる」
「ああ、可哀想に」
「ついでにあいつには宿題をたくさん出してやる」
「ああ、それも可哀想に」
 
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すると会話の内容を半分も理解できないと思えた父が
「宿題ですか? ぜひこいつにも出してください。こいつ□□大学医学部とか受験するらしいんですよ」
などと言い出す。
 
「あら、お父さんが出してというのなら娘としては頑張らなきゃね」
などと雨宮先生は言う。
 
もう。。。わざと『娘』と言ったなと思った。
 
「まあ、やりますよ」
と千里は答える。
「じゃ、これ3つ。火曜日までに」
「来週はコンサートがあるんで、18日までにしてもらえませんか」
「うーん。まあいいよ。じゃ、もう1つ」
と言って更に1つファイルを渡す。
 
「分かりました」
と言って千里はクリアファイルを4つ手提げ鞄にしまった。
 
「パソコンは持ち歩いているよね?」
「もちろんです」
「じゃ途中まで松居が書いたデータを渡すよ」
 
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と言って雨宮先生がUSBメモリを渡すので千里はバッグからパソコンを出すとデータをコピーしてUSBメモリは返した。
 
「松居さん、どうかなさったんですか?」
 
「上島がオーバーフローしてたんで、11日までに仕上げないといけないのを20個押しつけた。まああいつはゴースト嫌いだからちゃんと松居の名前で出すけどね。それでこちらまで手が回らないからと言って途中まで書いたのを送ってきたんだよ」
 
「それはまた大変だ」
「途中まで書かれているけど、それを無視して全部最初から書いてもいいから」
「じゃそれは中を見てから判断します」
「うん、よろしくー」
 

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それで雨宮先生は八戸まで寝ているからと言って自分の席の方に行った。
 
「でも今、あの先生、お前のこと娘と言わなかった?」
「聞き違いでは?息子と言ったと思うよ」
「あ、そうだよな。先生が性別を間違うわけがない」
 
それでその後父とは八戸に着くまで東北の名物の話をした。主として海産物である。三陸のイカとかサバは美味いという話で、八戸で漁師さんからもらって食べたイカの刺身が絶品だったなどと言うので、獲れたては美味しいだろうねなどと千里も答えた。
 
やがて《はやて29号》は八戸に到着。青森行きの特急《つがる29号》に乗り継ぐ。ホームで雨宮先生と一緒になったが、先生は
 
「毛利が盛岡駅で私を見付けきれないと電話してきたから、もうすぐ八戸に着くと返事した」
などと言っている。
 
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「それで先生は青森まで行っちゃう訳ですか?」
「あんたは青函フェリーに乗るの?」
「急行はまなすで青函トンネルを抜けますよ」
「ああ、その手もあるのか。それってどこ行き?」
「札幌行きですが」
「そこまで行こうかな」
「先生は青森にご用事があったのでは?」
「向こうも札幌まで来させようかしら」
「相変わらず無茶振りですね」
 
そんなことを言いながらも結局は先生は青森駅で出札口の方に消えていった。どうも青森に居るガールフレンドの所に泊まることにしたようであった。
 

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父がはまなすの車内ですぐに眠ってしまったのを見て、千里は雨宮先生から頼まれたファイルを開いた。それで眺めている内に「あれ?」と思ったので列車がまだ地上を走っているのを見てデッキに出て雨宮先生に電話してみた。
 
「何よ?これから可愛い可愛い男の子と楽しい楽しい時間を過ごそうと思っていたのに」
と雨宮先生。
「今夜泊めてもらう恋人って男の人だったんですか?ガールフレンドと聞いた気がしたのですが」
「うん。男だけどガールフレンド」
「へ?」
「今の所はね。来週タイに行って女に生まれ変わる予定だから、この子が男性機能を使えるのは今夜が最後になるかもね」
「へー!」
「でも青函トンネルって電話通じたのね?」
「いえ通じません。まだトンネルに入っていませんから」
「青森出たらすぐ海底じゃなかったんだっけ?」
「津軽半島の先から海底に入りますよ。今まだ奥内駅を通過した所です」
「地名が分からないや。まあいいか。で何?」
 
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「この頂いた3番のファイルはもしかしてKARIONに歌わせたい歌詞コンテストの応募作品ですか?」
「何番か忘れたけど、それが入ってた。言い忘れたけど、それ東郷誠一作曲で出すから」
 
「意味がよく分からないのですが」
「東郷誠一名義の作品の8−9割はゴーストライターだから」
 
「そういえば1年ほど前にも書きましたね。その時は誰の名前で出すかは聞いていなくて後で知って驚いたのですが。今回も私が書いて東郷誠一さんの名前で出すんですか!?」
 
「うん。印税・著作権使用料は7割こちらでもらえる。そこから更に1割引いてあんたに払う、というのでいい?」
「はい。それでいいです。じゃ東郷誠一さん風に書かないといけないんですか?」
「別に適当で良いよ。醍醐春海とは雰囲気を変えてもらえばいい。どうせあの人のゴーストライターはたくさんいるから」
「なるほどー。じゃ、昨年書いた時と似たような路線で書いてみます」
「うん。よろしくー」
 
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千里は1年前にも新島さんからの依頼で「恋人たちの祭」という曲を曲先で書いたのである。その曲は東郷誠一さんの名前で、ゆきみすずさんに渡され、ゆきみすずさんがその曲に詩を付けてKARIONのデビューシングルに収録された。ただしどこかで混乱が生じたようで、実際にKARIONのCDに収録された曲のタイトルは「小人たちの祭」になっていた。
 

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