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■女の子たちのお勉強タイム(2)

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「千里、何読んでるの?」
 
と山駆けの同行者のひとりが千里に尋ねる。千里はアジア選手権から帰国した後の11月13日から山駆けを再開したのだが、雪に覆われた出羽の山中を歩きながら千里はずっと何か本を読んでいるのである。
 
「今読んでいるのは物理の参考書〜。私理科が苦手だから」
「ああ、大学受験なのか。千里、どこ受けるのさ?」
「千葉県のC大学の理学部と、東京の□□大学の医学部」
 
「・・・・」
「どうしたの?」
「あんた、理科が苦手なのに、理学部とか医学部とか受けるわけ?」
「そうなんだよ。浮き世の義理でさ」
「義理で受験するんだ!?」
 
休憩の後、次の歩行では今度は千里はずっとバスケットのボールを雪面でドリブルしながら歩いている。
 
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「今度はバスケットの練習?」
と年配の修行者から声を掛けられる。
 
「そうなんですよ。12月末のウィンターカップに出ることになったから練習」
「たいへんね〜」
 
更に次の休憩の後は今度はフルートを吹きながら歩いている。ただ冬山で横笛など吹いていると、どうしても指先が冷える。一応美鳳さん特製(?)の凍傷防止効果のある手袋をして吹いているのだが、それでも冷たい。
 
それを見ていたひとりの修行者が「これで練習するといいよ」言って黒い木製のフルートを渡してくれた。黒檀だろうか。わりと重い材質で作られているが最も遠い右端の穴を除いてはキーが付いていないので穴を直接指で押さえる。
 
「あ、金属のフルートより暖かい気がする」
「うん。気に入ったらあげるよ」
「わあ、ありがとうございます」
 
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と言ってから千里はその木製フルートを少し吹いてみる。
「あ。ピッチは同じだ」
「うん。現代フルートと同じピッチで作られている」
 
音階をおそるおそる吹いてみた。
 
「これ、もしかして金属製のフルートと指使い同じですか?」
「そうそう。だから現代フルートの曲の練習に使える」
「へー。面白い」
 
「オーケストラの方もやってるんだっけ?」
「そうなんですよ。12月14日にコンサートがあるんです」
「あんた、色々やってるね!」
 
「その曲聴いたことある。メンデルスゾーンか何かの曲だったっけ?」
と別の修行者が訊く。
 
「メルカダンテという人のフルート協奏曲ホ短調第三楽章、ロンド・ルッソ、日本語で言うとロシア風ロンドという曲なんですよ」
 
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「聞いたことのない名前の人だ」
「生きてた頃はオペラ作者として絶大な人気があったんですけど、亡くなった後は評価が下がってしまって、彼のオペラは今日ではほとんど上演されません。でも、このフルート協奏曲ホ短調だけは、凄い人気で、今ではフルート奏者の定番レパートリーのひとつになっているんですよ」
 
「ああ、人の評価って、結構生前と死後で激変するよね」
 

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11月22-24日の連休、N高校女子バスケ部は釧路に合宿に行った。釧路Z高校との対決で、Z高校の松前乃々羽が参加する最後のN高校との試合となったウィンターカップ道予選の準々決勝では、千里が海外遠征で出場できなかったので、乃々羽が千里を含めたメンバーとの対決がもう一度したかったといったことから、あらためて練習試合をしましょうということになっていた。それを発展的に解消する形で、N高校とZ高校の合同合宿をすることにしたのである。
 
参加メンバーは特例で延長活動が認められている3年生4人+「来年の4月以降もバスケ部の活動をする予定の者」ということになっている。2年13人・1年16人が該当する。合計33名である。
 
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(2年生で瞳美・聖夜・安奈の3人が来年春に進学クラスに入り部活からは引退することを表明している。1年生でインターハイの時点で在籍していた21人の内それ以降に辞めた部員が3名、年末で辞める予定の部員が2名いる)
 
宿泊は釧路近郊の温泉旅館に両校の選手が泊まり込み、合同で実践的な練習をした上で最終日の夕方に練習試合をすることにした。
 
この「実践的な」練習が超ハードなものであった。
 
称して「勝ち抜け1本勝負」である。基本的にはN高校対Z高校の試合をするのだが、この日のために白石コーチがプログラムを組んだ、特製スコア・プログラムで選手のスコアを付けていく。オンコートしてから5分間全くゴールを決めきれなかったら次の人と交代する。ずっとゴールを決め続けて20分間コート上に居続けた上で1ゴール決めたら、大量に用意しているメダルを掛けてもらい1抜けである。
 
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このメダルはボール紙に金色の色紙を貼り丸く切り抜いて紐を付けただけの簡易なもので、実は夏恋と睦子の手作りである。受験勉強の息抜きにと作業してくれた。
 
最初は雪子/千里/薫/暢子/留実子 対 松前/小寺/富士/音内/鶴山というメンツで始めるが、雪子・千里・薫・暢子・松前・富士の6人は最初の20分で「あがり」となり初日は金メダルを掛けてもらう。その後入った不二子とソフィアも20分で「あがり」となる。しかしその後はなかなかメダルを掛けてもらうに至らない。5分に1度はゴールするというのが意外に難しいのである。留実子や揚羽にしても、向こうの鶴山・福島などにしても15分くらいまでは続くものの、あと少しで交代になってしまう。揚羽も鶴山さんも1度20分間居続けたものの、そのあと1ゴール決める前に5分間経過してメダルを取れないままの交代となる。
 
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「みんなたるんでるな」
と松前さんが言う。
「メダルたくさん用意しているのに」
と南野コーチも言っている。
 
「20分間ゴールし続けるためには持久力も必要だからね」
「バスケってスピードも必要だけど体力も必要」
「今年はみんな体力の付け直しだなあ」
 
などと言っていた時、松前さんが「あれ?」と言う。
「そちらの天然女子の方の湧見は?」
「ああ、ちょっと他の学校に留学させてるんだよ」
「へー」
 

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そんなことを言っている内に神野晴鹿がやっとあがってきてN高校7人目のメダルを掛けてもらう。
「これ鍛えられます−」
と言っている。
 
「あんた新顔?」
と松前さんが訊く。
「1年生の神野晴鹿です。よろしくお願いします」
「いい動きしてると思った。それにスリーが無茶苦茶うまい。夏はいなかったよね」
「はい。まだ大会とか出してもらえなくて」
「来年のインハイではレギュラーでしょ」
「レギュラーになりたいです」
 
「実はこの子と交換留学なんだよ」
と暢子がバラしてしまう。
「へー!
 
松前さんがじーっと晴鹿の顔を見る。
「あんたF女子高の人だ」
「すごーい。私、まだ大きな大会には出てないのに」
「F女子高を取材した雑誌の記事に写ってた」
「よく覚えてますね!」
「なんかオーラの強い子だと思ったからね」
「そんなことは時々言われるのですが、期待に添えるよう頑張りたいです」
 
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やがてZ高校の3人目で3年生の音内さん、4人目で1年生の三島さんとあがってくる。そしてN高校の8人目で上がってきたのは、なんと久美子であった。
 
「あんた凄い。やるじゃん!」
と南野コーチが褒める。
「ありがとうございます。でも疲れました」
 
「朝練の成果が出たね」
と千里が声を掛ける。
 
久美子は朝練で毎回千里の次にやってきて、結果的に最もたくさん練習をしている。
 

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少し休んだ所で「あがり組」はあがり組だけで別途練習をする。こちらは主としてスクリーンプレイとその対抗策を暫定ABチームに分けて練習した。どうしてもあがり人数に差があるので両校ミックスのチーム編成となったが、松前さんと不二子が絶妙のコンビネーションを見せて
「あんた、うちに転校してこない?」
などと勧誘(?)されていた。
 
結局初日に金メダルをもらうことができたのは、Z高校では他に3年の小寺・2年の船引、1年の伊東で、合計7名、N高校では他に揚羽・留実子・志緒・紅鹿の合計12名であった。
 
「リリカ・結里・昭子・来未・蘭・海音・愛実・耶麻都・永子以上9名は10kmジョギング」
と南野コーチから言われている。
「え〜!? もうクタクタなのに」
 
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このメンツは皆14-15分くらいまでは続けられるのだが最後あと数分のところで何度もアウトになっていたのである。
 
「引率者として部長の揚羽も行ってくるように」
 
すると永子以外の「銀河5人組」の残りのメンツも
「私たちも行きます」
と言って一緒に走って行っていた。結果的に2年生でメダルをもらえなかった子は全員10kmのジョギングに行ったことになる。
 
Z高校側もやはり14-15名ほどジョギングに行かされていた。
 
なお10km走に行かなかったメンバーは体育館でパスやドリブル、シュートなどの練習をして彼女らの帰りを待っていた。
「10km走きつそうだから行かずに済んで良かったと思ってたけど、こちらの練習もきつい」
などと1年生の可穂子が言う。
 
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「そりゃ合宿だもん」
とソフィアが言っていた。
 

泊まった旅館はひじょうに広い大浴場を持っているので、時間帯とかも決めずに両校選手入り乱れてお風呂に入り、修学旅行のような騒ぎになっていた。例によって、昭子はN高校の選手だけでなく、Z高校の選手からもたくさんいじられていた。本人としても、どうもいじってもらいたい感じだ。
 
「昭子君、君について少し噂があるのだが」
と言い出したのはなぜかZ高校の鶴山さんである。
 
「なんですか?」
と昭子は少し恥ずかしそうに答える。
 
「君は既に睾丸を取ってしまったという確かな筋からの情報なのだよ」
「実は手術を受けに行ったんです」
「おぉ!やはり」
「でも未成年はダメだって言って取ってもらえなかったんです」
「え〜〜!?」
「じゃ、まだ玉は2個ともあるんだ?」
「実は1個はとってもらったんです」
「なんで1個だけ?」
「先生はしてくれそうだったんですよ。それで手術室に入って1個取ってもらって、次2個目という時にうるさ方の年配の婦長さんが手術室に入ってきて、この子、未成年でしょ?と言って手術中止になって」
 
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「じゃ1個だけ残ってるんだ?」
「1個取ってから変わった?」
「女性ホルモンの効きが良くなったような気はします」
「ほほお」
 
「もう1個も取っちゃったら、女子の試合に出られるんだっけ?」
「去勢から半年経ってたら地区大会、1年経ってたら道大会までは出られるそうです。2年経ってて性転換手術も終えていたら全国大会や国際大会にも出られるのだとか」
 
「ほほお」
「じゃ千里っちは性転換まで終えているんだっけ?」
と突然千里の方に話が飛んでくる。
 
「それはとっくに終わってるかな」
「なるほどー」
 
「昭ちゃんも、もう1個取ってしまったらインターハイの地区予選には出られるのでは?」
「さすがにこれ以上男子選手を女子チームに取ったら、男子チームから苦情が出るかも」
「でも11月くらいまでに去勢しておけば、大学2年のインカレに女子として出場できたかも知れないのに」
 
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「いや、昭子の場合、女性ホルモン飲んでて既に化学的には去勢済みと考えるとそれ行けるかも知れない」
「ただそういう診断書が出ている必要あるけどね」
「そういう検査とか受けてないの?」
「受けてません」
 
「それは早急に受けた方がいい」
「うん。この合宿終わったら一度病院で検査受けてきなよ」
 
そんなことを言われながら、昭子はあの中断した去勢手術の前に松井医師から去勢手術の証明書をもらっちゃって、そのまま持ち帰ってきていることを思い起こしていた。
 

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お風呂が終わった後、大広間に両校の生徒60名ほどが入り夕食となるがこの席で宇田先生は衝撃のことばを言った。
 
「今日はみんなお疲れさん。あの勝ち抜き戦はけっこうハードでしょ。明日もあれやるから。明日は勝ち抜けた人は銀メダルね。それで金メダルと銀メダルの両方を取った人はウィンターカップの選手登録確定」
 
「え〜〜〜!?」
 
「ウィンターカップの選手枠って道大会前のトライアウトで決まってたんじゃないんですか?」
と不二子が尋ねる。
 
「うん。でもあれからどうも戦力が変動しているみたいだから再選考した方がいいのではないかと。だから今回の合宿の成果をもとにメンバー表を提出する。でもウィンターカップって、大会前日まではエントリー変更可能だから、最後まで分からないかもよ」
 
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「わあ・・・」
 
「ちなみにうちも金銀両方を取った人は新人戦の枠確定ね」
とZ高校の尾白監督も言う。
 
「片方だけ取った人はどうなるんですか?」
「金銀両方取った人の残りの枠を決めるのに参考にする」
「3日目はこれしないんですか?」
「午前中だけやって銅メダルを渡す。銅メダル取った人も参考にするね」
 
「よし。明日頑張って、選手枠に食い込もう」
と2年生の「銀河5人組」のひとり夜梨子が言うと
 
「私やばい。頑張らなきゃ」
と蘭が言う。
 
ボーダー組にとっては明日は真剣勝負になる感じであった。
 

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女の子たちのお勉強タイム(2)

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