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■女の子たちのお勉強タイム(4)

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食事の後は1時間休憩だったはずが、不二子・ソフィアが自主的にシュート練習し始めたのを見て、晴鹿・久美子・紅鹿・永子といった面々がそれに加わった。他のメンバーも参加しようとしたが、南野コーチが
 
「あんたたち、試合の前に疲れるようなことはやめなさい」
と言ってやめさせる。
 
「あの6人は?」
「異常な人たちだから放置」
 
などと南野コーチは言ったが、Z高校1年の富士・三島・来宮・下田も加わって結局最後は5人対5人の勝負をしていた。永子がZ高校側のPGを務めたのだが、永子のオーソドックスなプレイに、富士・三島という1年生の中核選手ふたりや休憩しながら見ていた1年生ポイントガードの白浜が「あっそうか」といった顔をする場面が度々あった。Z高校の松前乃々羽は野性的なポイントガードなので、うっかり基本を忘れてしまうこともあったのである。
 
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14時になり、体育館で2面取ったコートで、Aチーム戦・Bチーム戦が始まった。ここで宇田先生も南野コーチもBチームの方に付いた。要するにボーダーラインの選手の見極めをするということなのだろう。Aチームの指揮は白石コーチが執ってくれた。
 
Z高校は松前/白浜/富士/三島/鶴山、N高校は雪子/千里/晴鹿/暢子/留実子というメンツで始める。
 
Z高校1年の富士・三島にしてもN高校側の晴鹿にしても休憩時間を全然休まずにずっと練習していて疲れているだろうに、その疲れを感じさせない激しいプレイをする。
 
第1ピリオドで松前はゲームメイクは白浜に任せて、自分は千里の専任マーカーとなった。実をいうと千里にとっては彼女のような理屈も無く、こちらの動きを見るのでもなく、ただ勘だけで対抗してくるタイプの選手はいちばんやっかいである。最初の内3回立て続けに停められてしまい、珍しく千里が自分の頬を数回叩いて気合いを入れ直す場面が見られる。
 
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しかし続けて停められても雪子は敢えて千里にボールを出す。N高校は千里を使わなくても晴鹿でも暢子でも得点できるし、そもそも千里・晴鹿とシューターが2人入っている構成は「ダブル遠距離砲」で攻める王道戦術があるのだが、それをせずに敢えて全て千里で行くのが雪子らしいところである。ここは打破してくれないと困りますよという先輩に対する強烈なメッセージである。
 
ここで千里は相手を抜こうとする前に時計に目をやった。時計の秒数が奇数なら左、偶数なら右と決めて行動してみたのである。すると美事に松前を抜くことができた。
 
このあと攻撃の度に千里は「時計方式」を使ってみる。すると最初の4回は2勝2敗だったが、これで向こうが混乱したようで、その後その混乱に乗じて残りは全勝することができた。
 
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こうしてこのピリオドの攻防の鍵となった千里対松前は千里の勝利となり、両軍の点数も18対21とN高校のリードで終えることができた。
 

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第2ピリオドは不二子/ソフィア/薫/志緒/揚羽とメンバーを一新して出ていく。しかしこれがひじょうに強い。不二子は松前と同様に自分でも点を取るポイントガードである。Z高校と対戦するチームは、しばしばその両用プレイに虚をつかれるのだが、不二子はこの3日間の合宿の間に彼女のプレイを相当盗んでいる。変幻自在のゲームメイクにZ高校は振り回されて、このピリオドは16対23と大きく点差が開いた。前半合計で34対44である。
 
「パスを出すのか自分でシュートに行くのか読めないのって結構守りにくいね」
などと乃々羽自身が言っていたが、隣に居た暢子が
 
「まあそれでうちはいつも苦労していたんだけどね」
と答えていた。
 
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第3ピリオドでは不二子/千里/久美子/暢子/紅鹿と「ボーダー組」の2人を使うラインナップで行く。向こうも第3ピリオドは1年生のメンバー中心で来たが、白浜vs久美子、富士vs不二子、三島vs紅鹿といったフレッシュ対決が軸となる展開となった(本来はPGの白浜にはPGの不二子がマッチアップすべきだが、富士がひじょうに巧いので久美子では歯が立たず、不二子がマッチアップしたのである)。
 
これがどれもいい勝負となり、お互いに良い経験になったようではあるが点数としては3年生の千里・暢子が頑張って14対18という点差になる。
 
そして最終ピリオド、Z高校は松前/小寺/福島/音内/姉崎、N高校も雪子/千里/薫/暢子/留実子と3年生中心のメンバーで対決する。Z高校の5人にとってはこれが高校生最後のプレイである。みんな全力を出し切るようなプレイをするので、こちらも妥協しない厳しい戦いで応じる。変な揺さぶりも仕掛けも無しで力と力の勝負である。防御にあまりこだわらず得点を競うような展開になったので、このピリオドは24対30とかなりの得点になった。
 
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ともかくも試合は72対92で決着した。
 
試合終了後両軍の選手がハグしあう。千里は松前・小寺と、松前も千里・暢子・雪子と、揚羽と鶴山もハグしていた。
 
「ノノちゃん、大学でもバスケやるよね?」
と千里が言う。
「本当はもう高校だけで燃え尽きてしまった気分なんだけどね。バスケ選手としても女としても燃え尽きて、バスケも辞めて女も辞めていいくらいの気分」
「女を辞めるって性転換するの?」
「うーん。性転換も一度してみたいな」
「男も面倒だよ」
「だよね〜。大学でもバスケやるかは合格してから考える」
「どこ受けるの?」
「茨城県のTS大学」
「それは本気でバスケやろうという選択じゃん」
 
なおBチームの方は60対94でN高校が勝った。この試合では結里が15点、昭子が12点、蘭が14点、リリカが12点、来未が10点、海音が8点取っている。結里と昭子はスリー以外撃つなと言われている。また永子と愛実は15分ずつ出してもらったのだが(残り10分は胡蝶がPGをした)は自分ではシュートせずにアシストに徹しろと言われていて、永子が5アシスト、愛実が7アシストを記録した。しかし白石コーチ特製ソフトでカウントしていた「アシスト記録にはならない実質的なアシスト数」では、永子が15, 愛実は12とふたりの成績は逆転している。これはパスを受けた選手が更にドリブルでゴール近くまで寄ってから撃って得点したようなケースまでカウントしたものである。
 
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Aチーム戦・Bチーム戦が終了したのは15時過ぎである。このあと今日は全員で10kmのロードを走ってきた後、整理体操をして合宿のメニューは終了となる。全員お風呂に入って汗を流した後で、各チームごとに集合した。
 

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「それではウィンターカップの選手登録者を発表します」
と宇田先生が少し厳しい顔で言うと、部員たちの顔が引き締まる。
 
「背番号順に発表しますが、3年生の3人は後ろの番号を使用します。これは予定通り、16番若生暢子 17番村山千里 18番花和留実子。この3人は特例出場のレベルに恥じないプレイを見せたので、そのまま確定とします」
 
「それでは1−2年生のメンバーを発表します。4番主将・原口揚羽 5番副主将・森田雪子。このふたりはチームのまとめ役としてもまた試合の主力選手としても期待しています。その期待の重さに耐えるのも大変だろうけど頑張って下さい」
 
「6番水嶋ソフィア 7番湧見絵津子 8番黒木不二子。この新鋭三人組はお互い刺激しあって伸びて行っている。湧見君が今不在だけど彼女が頭を丸めた覚悟は買いたいし、その覚悟に恥じない努力をしていることを期待している。そしてその不在の湧見君に負けじと頑張っている水嶋君・黒木君の努力も買いたい」
 
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「9番北本志緒。道大会でも頑張っていたし今回の合宿でも3日間とも勝ち抜けすることができた。北本君は随分男子チームのマネージャーとしても男子の大会に同行して、男子のパワフルなプレイをたくさん見たのが良い刺激となったようだね」
 
実際志緒はかなり筋力トレーニングを頑張っているし、マッチングでは2年生では雪子の次に巧いのである。
 
「10番山下紅鹿。先月のトライアウトでは次点だったのだけど、その後ほんとによく努力して、特にこれまで苦手だったマッチングでフェイントの入れ方がかなり進化したのを評価している。1ヶ月前とは別人のようにうまくなっている。本番でも頑張って欲しい」
 
「11番町田久美子。朝練をとっても頑張っていることを聞いている。その成果があがってこの1ヶ月でかなり進歩したね。町田君の場合もマッチアップでかなりの進歩が見られたしパスも色々なパスの仕方を覚えたね」
 
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さて、ここまでは合宿初日の夕食の時に宣言された通りである。1,2日目で金銀両方のメダルをもらうことのできたメンバーが順当に登録選手となった。残りは4名である。
 
「12番越路永子。今回の合宿で銀銅のメダルを取ったこと、練習試合でも充分良い動きをしたことで選ばせてもらった。越路君は1年生の1年間でも物凄く進歩したのだけど、2年生になってからも更に大きく進歩している。もう補欠の星などというのは失礼な感じだ。僕から『躍進の星』の称号を贈りたい」
 
「じゃ『銀河5人組』も『躍進5人組』と改名しましょうか?」
と暢子が言う。
 
「うん。そうしよう、そうしよう」
と宇田先生は楽しそうである。
 
「13番杉山蘭。北本(志緒)君とは良きライバルとして1年の時から競い合いながら進歩はしていたのだけど、あと少しのところで2人ともボーダーラインを彷徨っていたね。そろそろふたりともレギュラーに定着して欲しい所だ。今回の合宿での成果も良かったので登録」
 
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ここまでは今回の合宿の結果を見れば順当である。残り2人が恐らく先生たちも迷った所だろう。
 
「14番常磐リリカ、15番杉山海音」
と残り2人を先生が一気に読み上げると、部員たちの間からため息が漏れた。選ばれた2人も単純に喜びは表現せずに神妙な顔をしている。
 
「ほか数人のあと少しの選手との差は正直微妙だった。最後のZ高校Bチームとの練習試合で非常に良いプレイをしていたので登録。それからマネージャーなのだけど、これは実は2年生数人からの進言があって、歌子君を登録することにしたいと思う」
 
「え!?」
とこれは薫も寝耳に水であったようで驚いている。
 
「要するに歌子君は戦況を分析したり、相手選手の癖を見抜いたりするのがとても巧い。本戦で参謀として最も力を発揮するのが歌子君ではないかというので、選手枠に漏れた子を勉強のためにベンチに座らせるのではなく、一番マネージャーとして役立つ人を連れていくべきではないかということなんだよ」
 
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「分かりました。頑張ります」
と薫は緊張した顔で答えた。
 
「一応これで今夜中に名簿を提出する。しかしウィンターカップは大会前日までエントリー変更は可能だから。選ばれた人も心して練習に励んで欲しいし、選に漏れた人も、ひょっとしたら逆転出場もあるかもという気持ちで緊張感を保って欲しい。最終的な決定は12月20日に予定している某チームとの練習試合で決めることになると思う」
 
と宇田先生は言った。
 
「某チームってどこですか? ウィンターカップに出場するどこかですか?」
「詳細については後日発表する」
 
「それとみんな怪我に気をつけてよね。今怪我したら、せっかく選手に選ばれていてもダメになるし、今回漏れた子も本戦前の復活は不能になるからね」
と南野コーチが言った。
 
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そういう訳でウィンターカップの登録メンバーは下記のようになることになった。
 
PG.雪子(5) 永子(12) SG.ソフィア(6) 千里(17) SF.絵津子(7) 久美子(11) 海音(15) PF.志緒(9) 蘭(13) 不二子(8) 暢子(16) C.留実子(18) 揚羽(4) リリカ(14) 紅鹿(10)
 
道大会のメンツからは、薫の代わりに千里が入り、結里と耶麻都が落ちて代わりに久美子と紅鹿が入った形である。
 
主な落選者 結里(2年) 来未(2年) 耶麻都(1年) 愛実(1年)
 
「道大会の選手だったのに今回落ちた人は悔しいと思うし頑張っていたのに何で?と思うかも知れない。確かに今回落ちた人たちもこの1ヶ月間に進歩した。しかし代わりに入った2名がそれを上回る進歩を遂げたんだ」
 
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と宇田先生は補足した。
 
「本戦直前にはまた分かりませんよね?」
と揚羽。
 
「うん。この後はできるだけ入れ替えは避けたいとは思うけど、これからの1ヶ月で物凄く進歩した人が現れた場合は分からない」
と宇田先生。
 
「ただし頑張りすぎて怪我したり筋を痛めたりしないように」
と南野コーチ。
 
「悔しいので10km走ってきていいですか?」
と言ったのは2年生の中堅選手の中で唯一落ちた来未である。
 
すると南野コーチが
「さっきも10km走ってるからもう一度10km走るのはやりすぎ。5kmにしなさい」
と言うので、来未も素直に「分かりました。5kmにします」と答える。
 
「私も付き合うよ。私もボーダー組」
と志緒が言うと蘭、結里、リリカ、それに1年で落ちた耶麻都・愛実、それに「躍進5人組」が同行すると言い、結局引率者ということで揚羽も一緒に走ってくることにする。
 
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彼女たちが行っている間、他のメンバーもただ待っているだけはもったいないと言ってパスやマッチング、シュートなどの練習をする。そして5km組が戻って来たところでみんな再度お風呂に入り、夕食を食べてから帰途に就いた。
 
 
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