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■女の子たちの交換修行(8)

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ただ教頭先生は言った。
 
「でも湧見君、さすがにその頭は何とかしない?」
 
それで千里が自分でも一時期使用していた、簡単に洗える人工毛髪のウィッグを作っているお店を紹介し、すぐにそこに注文を入れた。
 
「私が言い出しっぺだし、このウィッグの料金は私のプレゼントということで」
と千里は言う。
 
「済みません!」
と言って絵津子は恐縮している。
 
「金曜日に届くと思うから、それを付けて岐阜に行こう」
と千里。
 
「だけど、その頭、おばちゃんは何か言わなかった?」
と揚羽が訊くと
 
「最初私がただいまって帰って行った時、『どなた様でしょう?』と言われた」
と絵津子は答える。
 
「まあ、言われるだろうね」
「私だと分かると、腰を抜かされた」
「ああ、可哀想に」
「お母さんならショックで心臓麻痺起こしてたかも」
「お母さんには見せるなと言われました」
「それがいいね」
 
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「ところで昭ちゃんのほうはどうなってるんだっけ?」
と千里は訊いた。
 
「ちゃんと女子制服を着て通学してますよ」
と揚羽。
 
「へー」
「同じクラスの女子生徒の中に埋没してるみたい」
「なるほどねー」
 
「あの子、このままトランスするの?」
と教頭が尋ねる。
 
「あれはうちの女子部員たちに乗せられてやってるだけなので、申し訳ありません。コスプレのようなものということで、今は取り敢えず大目に見てやってもらえませんか」
と揚羽が言う。
 
「本人としてはやはり女の子になりたいの?」
「それはそうみたいです」
「それとどうも、こっそり睾丸は取っちゃったみたいですよ」
と絵津子が言う。
「へー!」
 
「なんか怪しいんで、訊いたんですよ。で、なかなか素直に言わないから、くすぐりの刑に処したら去勢手術受けに行ったこと認めました。でも親には知られたくないみたいだから、ここにいるメンツだけの話にしてもらえませんか?」
と絵津子。
 
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「とうとう後戻りできない所に行っちゃったのか」
「でもそもそもあの子、間違いなく女性ホルモンをかなり飲んでますよ」
「ああ、それは多分そうだろうと思ってた」
「でも睾丸取っちゃったのなら、むしろちゃんとホルモン飲んでないとまずい」
 
「でもまだ完全に性転換するかどうかは決断できないみたいですね」
と絵津子が言うが
 
「その決断は焦らなくていいと思うよ」
と千里は言う。
 
「村山君は性転換したことを後悔していない?」
と教頭が訊く。
 
「女の子になれて幸せだと思っています。でもこういうのは個人差が大きいから、人それぞれ充分考えて決断すべきなんですよ」
と千里。
 
「うん。そうだろうね」
と教頭。
「あの子は、性転換手術を受けるにしても高校を出た後で考えたほうがいいと思います」
と千里。
 
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「僕もそう思うよ」
と宇田先生が言った。
 
「じゃ、とにかく彼、いや彼女と言うべきなのかな。湧見昭君については、女子制服を着ていても男子制服を着ていても、不問にするように生活指導の方には言っておくから」
と教頭は言ってくれた。
 

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金曜日。川南が千里に話があるというので女子寮の彼女の部屋に行くと、他に葉月・夏恋・暢子もいる。話は夏に渋川で会った少年、龍虎のことであった。
 
「あの子、何とか今月いっぱいで退院できるみたい」
「今までかかったんだ!」
「凄く強い薬を使っていたのを少しずつ軽い薬に変えていったりとか経過観察の必要もあったみたい」
「ああ、川南、ずっと連絡取ってたのね」
 
「でさ、龍虎にいちばん関わったのがこの5人だと思ってね。退院の日取りは12月1日・月曜日になりそうということなんだけど、その直前の11月29-30日にさ、私たちを代表して誰かが退院祝いに行ってあげない?」
 
「なるほどー」
「あの子さ、両親が居ないでしょ。結構心細いと思うんだよ」
と川南が言う。
 
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「あの子、だいぶ入院していたんだっけ?」
「病院を出たり入ったりだったみたい。あの子の叔母さんともずっとメール交換してたんだけど、実際問題として幼稚園の年長の時から1年半ほど、ほとんど病院の中だったんだって。だから友だちとかも居ないんだよ」
 
「それはホントに寂しいかもね」
 
「両親が亡くなってたんだよね?」
「うん。2歳の時に交通事故で亡くなったらしい。でもあの子、それ以前から亡くなったお父さんの友達夫婦の所に里子に出されていたんだって」
「へ?」
「その里親のお父さんも去年亡くなっているんだよ」
「大変だね」
 
「そんな時に龍虎が大きな病気して、里親のお母さんひとりだけではとても病院代も出せないんで、いったん叔母さんが引き取ることにしたらしい。叔母さんは詳しくは言えないけど、わりと収入があるんだよ」
 
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「へー」
「ただ仕事が物凄く忙しい」
「ああ・・・」
「だから龍虎が入院している間は良かったんだけど、退院するとなると、どうするか悩んでいたみたいなんだけどね」
「うん」
 
「それでたまたま、病院内で龍虎と知り合って仲良くなった20代の夫婦が自分とこで暮らさないかと言っているらしい」
「どういう人なの?」
「ふたりとも学校の先生なんだって」
「ふーん」
 
「そしてさ。ここだけの話」
「うん?」
「この夫婦、性別を変更しているんだよ」
「は?」
 
「つまりこの夫婦の夫の方は元女で、妻の方は元男」
「え〜?」
「どちらも性転換したあとで知り合って仲良くなって結婚したんだって」
「ちょっと待ってくれ」
「今若干、話に付いていけなかった」
 
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「結婚したのが5年前なんだよ」
と川南が言う。
 
「あ!当時は戸籍上の性別を変更できなかったんだ!」
と千里が言う。
 
「そうなんだよ。でも偶然にもふたりは戸籍上も男と女だから、そのままの性別で入籍することができた」
 
「要するに旦那は戸籍上は妻で、奥さんは戸籍上は夫なんだ?」
「そういうこと」
「性別交換・夫婦交換か」
 
「この件、他の人には言わないでね」
「うん。分かった。言わない」
 
ここに集まっている5人はみな口は硬い子ばかりである。
 
「でも学校の先生って言わなかった? よく性別を変更しているのに採用してもらったね」
「うん。どちらも完璧に新しい性別でパスしているから、これならいいだろうと認めてもらったらしい。名前は経年使用を理由に20歳になってすぐ変更しているから、実際、同僚の先生たちも性別変更のことは全く知らないらしいよ」
 
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「その奥さんの方、随分早い時期からトランスしたんだろうね」
と千里は言う。
 
「うん。女から男になるのって後からでも結構いけるんだけど、男から女になるのは遅くても17-18歳くらいまでにはやらないと、もう女らしい身体にはなれないらしいね」
 
「だからMTFの悩みは大きいんだよ。声変わりの問題もある」
「この奥さんは小学生の時に自分で玉を切り落としたらしい」
「きゃー」
「勇気あるー」
「それで声変わりをキャンセルできたんだよ。だから音楽の先生してるんだけど、ソプラノボイスなんだよね」
 
「凄いね」
 
「それでこの夫婦、生殖機能を放棄してしまっているから、医学的に子供が作れないんだよね。それもあって、龍虎を自分たちの子供として育てられたらという希望らしい。龍虎の叔母さんや、龍虎の亡くなったお父さんのお友だちとかが何度もその夫婦と会って話したけど、人格的にも全然問題無いということで、その夫婦に託すことにしたらしい」
 
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「へー」
「だから龍虎には新しいお父さん・お母さんができることになる」
「それって養子にするの?」
「いや、単に預かるだけ。だから龍虎の親権は叔母さんが引き続き持つ」
 
「その方がいい気がするよ。龍虎について責任を持つ人が複数居た方がいいと思う」
と夏恋が言う。
 
「まあそれで退院祝いに少し洋服を買ってあげようと思ってさ。これ買い込んできたんだよ」
 
と言って川南が服を見せるが・・・
 
「女の子の服ばっかりじゃん」
「だってあの子、女の子になりなよとか、龍虎のコの字は子にして龍子ちゃんになったらとかからかうと、反発して面白いんだもん」
 
「悪趣味な」
「だから、これプレゼント」
「まあいいけどね」
「着る着ないは本人の自由ということで」
 
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「でも代表で誰かというけど、そんなに川南かかわっているなら、川南が行っておいでよ」
と葉月が言う。
 
「うん。私もそれがいいと思う。私は退院祝いにお菓子でも送ろう」
と夏恋も言う。
 
「そうかな、やはり」
と川南。
 
「バスケ部員に色紙をまわして寄せ書きも書いてあげよう」
と暢子。
 
「ああ、それいいね」
 
「じゃ、私が行って来ようかな」
などと川南は言っているが、最初からそのつもりだったようである。
 
「たださ、私、あんまりたくさん洋服買いすぎて」
「ああ、荷物多いから宅急便で送ればいいよ。こんな大きな箱持って行けないし」
と千里。
 
「宅急便送る時は言って。私少しお菓子買ってくるから一緒に入れさせて」
と夏恋。
 
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「いや、それはいいんだけど、旅費が無くなっちゃって・・・」
と川南が言いにくそうに言う。
 
「そりゃ、これだけお洋服買えばね!」
と葉月が呆れて言う。
 
「じゃ、みんなでカンパするか」
と暢子。
 
「ごめーん」
 
それで、川南は急行はまなすを使って往復して4万円くらいなんだけどと言うが「それきついよ。飛行機使いなよ」と言い、経済的に余力のある千里が4万出して、暢子・夏恋・葉月が1万円ずつ出すことで話が付いた。川南は飛行機なら、土曜日の朝の便で行って龍虎に会い、向こうで1泊してから日曜日の飛行機で戻ることにすると言った。
 

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11月14-16日(金土日)。第63回全道総合選手権大会(兼オールジャパン予選)が行われ、釧路Z高校と旭川L女子高が出場した。
 
L女子校は1回戦は突破したものの、2回戦で札幌のクラブチーム・クロックタワーに敗れてしまった。釧路Z高校は決勝戦まで進出する快進撃を見せたものの、最後は札幌S大学に激戦の末敗れてしまった。これで麻依子たちの高校バスケも乃々羽たちの高校バスケも終了となった。大学進学する部員は、もうこのあと受験勉強一色となる。
 
日曜日の午後、F女子校の制服を着た絵津子がセントレア行きの飛行機に乗り、1ヶ月間のバスケ留学に旅立つ。千里や揚羽など多数のバスケ部員、宇田先生・南野コーチ・教頭、担任、絵津子の叔母(絵津子の下宿先)、そして従兄?従姉?の昭ちゃんと、数人の彼女の友人が見送った。
 
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絵津子が女子制服なのに丸刈り頭なので質問が出る。
 
「えっちゃん、ウィッグは?」
「持ってますよ。向こうの学校に入る前には付けます」
と言って、バッグの中から出してみせる。
 
「いや、付けてたらウィッグの金具がセキュリティに引っかからないかなと思って、取り敢えず外しておいた」
などと言っている。
 
「その頭で女子制服着てて、トイレで咎められなかった?」
「悲鳴あげられて警備員さんが飛んできたけど、ちんちん付いてないこと確認してもらった」
「ちんちん無くて良かったね」
「昭ちゃん、要らないんでしょ?ちょうだいよと言うのにくれないから」
 
「そんな簡単に取り外せないし」
などと結局N高校の女子制服を着ている昭ちゃんは言っている。
 
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昭ちゃんが女子制服を着ているのを見て、絵津子の叔母(昭ちゃんの叔母でもある)が驚いていたが
「昭ちゃん、小さい頃から可愛いから女の子にしてあげたいとよく言われてたもんね」
などと言っていた。
 
「でも、えっちゃん、ボクの男子制服は?」
「あれは向こうに転送する宅急便に入れちゃったからなあ」
「え〜!?」
「昭ちゃんは女子制服似合っているからそのままで問題なし」
「まだ1ヶ月もこれで過ごさないといけないの?」
「そのまま卒業までそれでいいと思うけどなあ」
 
「昭ちゃん、ご両親は何て言ってるの?」
と千里は尋ねる。
 
「何も言わないんですー。それどころかこのトート買ってくれたし」
 
と言って見せるのは可愛いリトルツインスターズのミニトートバッグである。
 
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「まあ、認めてくれているってことだよね」
「そうなのかなあ」
「きっと昭ちゃんが女の子になってくれて嬉しがってるんだよ」
「え〜!?」
 

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結局ロビーで30分近く立ち話していたが、そろそろ行かないとという話になる。
 
「じゃ頑張って日本一の学校のワザを盗んできますね」
と言って手を振って絵津子は手荷物検査場の列に並んだ。
 
でもいきなり「お客様チケットが違います」と言われて、南野コーチが近くまで行き「この子、間違いなく女の子です」と証言していた。
 
絵津子はたとえスカートを穿いていても充分男に見えるので、頭が丸刈りだと尚更である。
 
「えっちゃん、混乱の元だから、検査通ったらすぐウィッグつけときなよ。また搭乗口で言われるよ」
と南野コーチは言っていた。
 
「昭ちゃんは最近男子制服を着ていても女の子に見られていたから、女子制服を着るので混乱が無くなったね」
などとこちらで志緒が言っていた。
 
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女の子たちの交換修行(8)

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