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やがて全体集会が終わり、各々教室に戻る。少し遅れて、ひとりの女生徒が2年5組の教室に入ってくる。
「済みません。あなたは誰でしょう?」
とひとりの女生徒が(わざと)質問する。
「すみません。ボク、湧見です」
と消え入るような声で恥ずかしそうにして答える。
「昭ちゃん、とうとう女子制服で通学することにしたの?」
「男子制服を没収されて、返してもらえないんですよぉ。裸で学校に来る訳にはいかないから、これ着てきた」
と昭ちゃんは言うのだが、志緒から話を通されている聖夜が言う。
「昭ちゃんはこの後、もうずっと女子生徒として通学するんだよ」
「へー!」
「いいんじゃない?昭ちゃん、充分女の子らしいもん」
本人は真っ赤になって俯いている。
「昭ちゃん、恥ずかしがることないよ」
「昭ちゃん、可愛い女の子になれるって」
「お弁当いっしょに食べようね」
などと女生徒たちの声。
「でもちょっと恥ずかしい」
と本人。
「だって女子制服似合ってるよ」
「トイレ行く時も一緒に行こうね」
などと言われて本人はますます恥ずかしがっていた。
11月11日。
インドネシアで行われたU18アジア選手権で優勝し、日本に帰国した千里はその日、玲央美や桂華たちと一緒にお昼代わりのモスバーガーを食べた後、スーパー銭湯に行って遠征の疲れを癒やした。
16時前にお風呂からあがって一緒に羽田空港に移動する。5人の内、千里を除く4人(桂華とサクラ、江美子、玲央美)は全員ANAなので第2ターミナルに行くが、千里だけJALなので第1ターミナルである。
千里は旭川行き17:55の便を予約していたのだが、チケットを購入してこようと思ったら、《きーちゃん》が「千里、荷物凄いから、私が買って来てあげるよ」というので「じゃ、よろしく−」と言って、予約に使用したクレジットカードを渡す。
それで《きーちゃん》が「買って来たよ」というのを見ると旭川行きではなく、18:20の伊丹行きである。しかも名義がホソカワ・チサトになってる!?
「なんでこれ伊丹行きなの?」
「旭川行きも買ったよ」
と言って《きーちゃん》はもう1枚のチケットを見せる。そちらのほうの名義はムラヤマ・チサトである。
「旭川行きには私が千里の代わりに乗るから、千里は伊丹行きに乗りなよ」
千里は心がじわっとして涙を浮かべてしまった。
「貴司に会いに行っていいの?」
貴司とは9日の夜、優勝が決まったあと国際電話で1時間も話してしまった。電話代がちょっと怖いのだが、彼に会いたいという気持ちは募っていた。でも自分は来年の春までは貴司とは会えないだろうと聞いていた。それにそもそも明日は学校に出て優勝の報告をしなければならない。
「いいよ。一晩の想い出を作っておいでよ。ただし朝には千里を旭川に転送するから。だから貴司君は今夜のことは夢だったと思うだろうね」
「それでもいい! でも転送って、いつも出羽での山駆けの後旭川に戻してくれるみたいに?」
「あれはご主人様にしかできないんだよね〜。私にできることは私の位置と千里の位置を交換することだよ」
「へー!」
「私は独立して存在している時は、いつでも千里と存在位置を交換できるんだよ。この姿は千里の姿を完全にコピーしたものだから、物理学的な運動量はゼロで済むんだけどね」
「なんか凄い」
「私はその後勾陳に迎えに来てもらって一緒に空を飛んで旭川に戻るよ。千里はさっき、ちゃんとお風呂も入ったし、安心して貴司君と楽しんでおいで」
「うん」
と千里は頷いた。
その晩、貴司の彼女は貴司が練習している体育館近くのカフェで、窓際の席に陣取り、貴司の練習が終わるのを待っていた。
貴司にはこれまで何度か夜のデートを誘ってみたものの、何だか色々理由をつけて断られている。しかし今夜は実力行使で貴司を拉致して「自分を召し上がってもらおう」という魂胆である。それで、より美味しく思えるよう?フルーツ系のパフュームも付けてきている。軍資金も給料日までのことは考えないことにしてたっぷり持って来た。
20時半すぎ。
体育館に制服を着た髪の長い女子高生が1人入って行くのを見た。暗くてよく分からないがディズニーっぽいトートバッグを持っていた。選手の誰かの妹さんか何かかな? 塾の帰りにでも寄ったのだろうかと考えた。
そして21時すぎ。そろそろ練習が終わる頃だと思い、会計をして外に出た。あまり他の選手には見られたくないので、たまたま駐まっているトラックの陰に隠れた。
11月はもう夜になると結構寒い。貴司を刺激するため短いスカートを穿いてきたのをちょっと後悔する。せめてもう1枚着て来るべきだったかなとも思う。ただトラックの陰なので風から守られているし、トラックがアイドリングしているおかげでその熱もあり、何とかなる感じだ。そして、貴司が出てきたら何て言おう?などと考えていたらワクワクする。ハートも熱くなり、身体まで暖かくなるような気がした。
21時半。選手たちがひとりふたりと出てくる。彼女はドキドキしながら貴司が出てくるのを待った。
しかし・・・・
貴司が出てきた時、先ほど20時半頃体育館に入っていった髪の長い女子高生と一緒なのを見る。何よあの子?と思うが、貴司がその女子高生と手を握りあって、しかも貴司が女子高生のディズニーのトートを持ってあげているのを見て、ムラムラと嫉妬の心が燃え上がった。
見ているとふたりは何だかとても楽しそうに会話している。思わず出て行って声を掛けようと思ったものの、ふたりの雰囲気にはとてもそこに割って入ることができないようなものを感じた。
結局ふたりがすぐ目の前を通過していくのをトラックの陰からただ見つめているだけであった。
その日、細川千里名義の航空券で羽田発・伊丹行きJAL 133便に乗った千里は、飛行機が少し遅れて19時40分頃に伊丹空港に降り立った。預け荷物も無いので、そのまま連絡橋を渡ってモノレール駅に入る。千里中央(せんりちゅうおう)駅まで行ってから地下鉄に乗り換え、貴司が練習している体育館の最寄り駅に着いた。
貴司からもらったスントの腕時計で見ると20:25くらいである。そこから歩いてその体育館まで行く。持っているのはこれも貴司からもらったミッキーマウスのトートバッグ。中に入っているのは化粧水やリップに歯磨きなどの入った化粧ポーチと今晩一晩分の着替え、そしてインドネシアで買って来たビカアンボンというメダン名物のパウンドケーキに似たお菓子である。他の荷物は全部《きーちゃん》が旭川に持って行ってくれた。
体育館に入って行き、2階席に上がって練習の様子を見た。
Aチーム・Bチームに別れて練習試合をしているようだ。貴司は15番の背番号を付けてはいるもののAチームに入っている。それも全体の中核的な仕事をしている。千里がじっと見ていたら、その貴司がふとこちらを見上げた。そして千里の顔を見て驚いたような顔をする。千里が手を振ったら、物凄く嬉しそうな顔をした。そしてその貴司の笑顔を見て千里も心躍る思いだった。
やがて練習が終わる。ロビーに降りて待っていたら、背広に着替えた貴司が出てきた。
「お疲れ様」
と声を掛ける。
「千里、どうしたの?」
と貴司は半分戸惑っている。
「アジア制覇の喜びを貴司と共有したかったから。はい、これお土産」
と言って、ビカアンボンの箱を渡す。
「じゃ、私帰るね」
と言って千里はバイバイして体育館を出ようとする。
「ちょっと待って。今から帰る便あるの?」
と貴司が慌てて追いかけて千里の肩を掴んで言う。
「ああ。トレーニング代わりに旭川まで走って帰るよ」
と千里。
「それ無茶だよ!ね、今夜泊まれないの? 明日の朝、伊丹空港まで送っていくよ」
と貴司が言う。
「そうだなあ。まあ元夫婦のよしみで一晩くらい一緒してもいいかな」
「僕はまだ千里と夫婦のつもり」
「ふーん。私とは夫婦で、あの子とは恋人なんだ?」
「その話、今夜は勘弁してよ〜。だって半年ぶりに会ったんだから」
「そうだね。今日だけは勘弁してやるか、浮気者さん」
それで貴司が千里のトートバッグを持ってくれて、手を繋いで体育館を出た。同僚の人だろうか
「お、細川の彼女さん? ハメを外しすぎるなよ」
などと声を掛けて先に行く人がいる。千里(ちさと)も笑顔で会釈した。地下鉄に乗って千里中央(せんりちゅうおう)駅まで行く。それから10分ほど歩いて貴司のマンションに入った。部屋は33階の31号室である。
部屋の中に入るなりふたりは濃厚なキスをした。貴司はその場で千里を押し倒してしまうが、制服を脱がせようとしたら、千里が「せめてベッドに行こうよ」というので、寝室に移動してから仕切り直す。
貴司が背広を脱ぎネクタイを外すと、飢えたように千里の服を脱がせるので、千里はされるままに任せていた。やがて裸になってしまう。
「千里、いい匂いがする」
「日本に着いてから、日本のお風呂が恋しいねといって、みんなでスーパー銭湯に行ってきたから。これは石けんの匂いだよ」
「そうか。してもいいよね?」
「どうぞ。私の旦那様」
「うん」
貴司は自分も急いで服を脱ぐと、千里を強く抱きしめた。その時、自分のアレが物凄く熱く硬くなっていることに気づく。凄い、この感触、久しぶりだ!やった。俺、やはりEDじゃなかった。そう思うと貴司はいきなり千里に入れようとするが「ちょっとせめて少し濡らしてからにしてよ」と千里から言われる。
「ごめんごめん」
と言って千里のクリちゃんを揉む。千里が気持ち良さそうにしている。貴司は1分くらいやっていた。下の方に指をずらしてみる。結構濡れてる?
実際問題として千里も7ヶ月ぶりなのですぐ身体が反応してしまったのである。それで貴司はおそるおそる入れてきたが、ちゃんと行けそうだと分かると頑張って行為を始めた。千里は頭の中が快楽物質で満たされる思いだった。やはり私って貴司の奥さんということでいいよね? 千里はそう思っていた。
貴司はあっという間に果ててしまう。千里は貴司の背中を優しく撫でていた。
「あっ」
と貴司が思い出したように言った。
「どうしたの?」
「ごめーん。あまりにも興奮してて、コンドーム付けるの忘れてた」
それは千里も思ったものの、久しぶりだし、私たぶん妊娠しないだろうからいいことにしようかなと思ったのである。
「まだ生理が終わってすぐだから大丈夫と思う」
と千里。
この身体はアジア選手権が終わった後、また女子大生の身体に戻っている。《いんちゃん》に確認したら、昨日が生理周期の5日目だったらしい。千里はインドネシアに行く直前の合宿中、10月28日に生理が来ていた。そのあと、11月2-9日が女子高生の身体になっていた。だから29,30,31,1,10,11と数えて今日は生理周期の6日目のはずである。
「ごめんね。次会った時はちゃんと付けるから」
「次会った時って、まさか今夜これで終わりじゃないよね?」
「もう一度やっていいの?」
「何度でもどうぞ」
「コンドーム買ってくる!」
と言うと貴司はいそいでそこら辺に落ちてる!トレーナーとジーンズを身につけ飛び出して行った。コンビニにでも行ったのだろう。
10分ほどで戻って来る。
「コンドームと、それからおやつにストロベリーショートケーキ買って来た」
「お、貴司にしては優秀だね。じゃそれ食べてから2回戦しよう」