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■女の子たちの交換修行(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-06-06
 
表彰式が終わったのは16時頃である。
 
その時刻、インドネシアのメダンでは千里が3時間後に始まる決勝戦に気持ちを集中させながら軽く汗を流していた。
 
「村山さん、携帯が鳴ってるよ」
と練習に同行していた通訳の人が教えてくれるので千里はコート内から離脱して携帯を取る。
 
「はい」
「先輩。湧見です。済みません。負けました」
と絵津子の声が聞こえる。
 
千里は、え〜!?と思いながら尋ねる。
 
「L女子高に負けちゃったの?」
「違います。それは勝ちました。ですからウィンターカップには行けます」
と絵津子。
「おお、頑張ったね」
と千里は言うが
 
「それはいいんですけど、P高校に負けたんです」
「それは仕方ないよ。あそこは本当に強いもん」
「私、悔しいです」
「うん。その悔しさをバネにまた頑張ろうよ」
「私、もう女を捨てて頑張りますから」
「うーん。別に女は捨てなくてもいいと思うけど」
 
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と言ってから、千里は、国際通話は料金が高いからこちらから掛け直すよと言っていったん電話を切り、再度千里の携帯から絵津子の携帯に掛け直した。
 
(実際には日本国内の絵津子の携帯から海外にある千里の携帯に掛けた場合、国際通話料は千里の携帯に課金されるので、この場合掛け直す必要はなかった。しかし千里はそのあたりの仕組みが分かっていない)
 
それで絵津子はP高校で同じ1年の渡辺純子という子に負けたという話をする。
 
「え〜!? 丸刈りにしちゃったの」
「もう悔しくて悔しくて。ついでに昭子から男子制服をぶん取ったんで、しばらくそれを着て学校に通います」
「おばさん、びっくりしない?」
「とうとう目覚めたかとか言われるかも」
「うーん。でもえっちゃんに男子制服を取られた昭ちゃんはどうするのさ?」
「そりゃ女子制服を着て通学してもらえば」
「じゃ、制服交換みたいなもんだ?」
「ですです。もっとも向こうは元々女子制服持ってたんですけどね」
 
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「でも、本人喜んだりして」
「そんな気がします」
 
「でも渡辺さんは夏にP高校とBチーム戦をした時に、素質あるなとは思って見ていた。いよいよ頭角を現してきたんだね」
 
「P高校とは本戦でもぶつかる可能性ありますよね?」
「まあぶつかるとしたら決勝戦だね」
「だったらそれまで負けないように頑張ります」
「うん。頑張って」
「それで私、自分は今まで天狗になってたと思うんです。勝手に自分は強いと思い込んでいた」
「それは誰でもあるさ。ただ強いと思い込む自分を維持するために人の倍、3倍と練習すればいいんだよ」
 
「私、無茶苦茶たくさん練習したいです」
「まあ朝練とかも頑張ろうよ」
 
絵津子は朝が弱いのか朝練の出席率はあまり良くない。
 
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「もう学校をずっと休んででもひたすら練習したいです」
「それはさすがに無理だね」
「なんか手は無いですかね。私、本戦までに今の10倍強くなりたいんです」
「そうだなあ」
 
N高校女子バスケ部は特例で夜8時までの練習が認められている。毎日の練習時間は4時間以上に及ぶ。土日も本来は部活は禁止なのだが、少人数で自主的なトレーニングをすることは「お目こぼし」をしてもらっている。千里は正直これ以上練習時間を増やしてもあまり意味無いと思った。
 
その時、F女子高の彰恵が一息入れて水分補給にコート脇に来た。千里はふと思いついたので、絵津子にまた掛け直すと言っていったん切ってから、彰恵に訊いてみる。
 
「彰恵さ、F女子高のバスケ部ってどのくらい練習してるの?」
「うーん。平日は3時間くらい。だいたい16時から19時まで。土曜日は13時から16時まで、日曜は8時から14時まで。但しお昼休み1時間」
 
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「意外に少ないね!」
「うーん。それメイちゃん(愛知J学園)からもレオちゃん(札幌P高校)からも言われた。どちらも練習時間がほんとに凄まじいみたいね。うちは、あとは朝練を1時間か1時間半くらいと昼休みに20分くらいかな」
「そんなんでホントに足りるの?」
 
「まあ後は、私や百合絵が所属している総合コースはだいたい5時間目で授業が終わるから、そのあと14時から16時くらいまで自主的に練習してるけど」
「だったら実質練習は毎日6時間以上あるじゃん」
「あれ?そうなるかな?」
 
「ねえ。学校同士での話し合いが必要だろうけど、うちの部からそちらに1人短期留学させられない?」
「へ?」
 

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それで千里は、今日行われたウィンターカップの道予選で旭川N高校は準決勝に勝ってウィンターカップ出場は決めたものの、そのあとの決勝戦で札幌P高校に負けたこと。その時、1年生の湧見絵津子が、P高校の1年生渡辺純子にマッチアップでことごとく負けて悔しがり、自分に対して怒ったあまり、髪を丸刈りにしてしまったという話をする。
 
「インターハイでは湧見さんにうちはやられたからなあ。その湧見さんが負けて悔しさのあまり髪を丸刈りにしちゃうほどの相手か。こちらとしても要注意だな」
と彰恵は言っている。
 
恐らくこの話でF女子高は渡辺純子に関する情報を必死で集めるだろう。
 
「それでさ。まあたくさん練習したいと言っているんだけど、うちのレベルではもうあの子の練習相手になれるほど強い子は居ないんだよ。かろうじて暢子が少し相手になるけど、暢子は受験勉強にも時間を使わないといけないから、そんなに練習相手になってあげられない」
 
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「ふーん。それでうちの部の練習に参加させてもらえないかと?」
「そちらの2年生の椙山さんや豊浜さん、あるいは恐らく成長途中だと思うけど1年生の鈴木さんあたりに練習相手になってもらえたら、物凄く伸びると思うんだ。将来の日本代表を育てるために協力してもらえないかなと思って」
と千里は言う。
 
「将来の日本代表かぁ」
と言って彰恵は大きく伸びをする。
 
「そちらの鈴木さんも日本代表候補だよね。あの子は物凄い素質持っているとインターハイの時、対戦していて思った」
と更に千里は言う。
 
「だけど私たち、またウィンターカップで対戦するかも知れないよ」
と彰恵。
 
「私の勘なんだけど、今度のウィンターカップではF女子高とは別の山になりそうな気がする。だから多分当たるとしたら決勝戦。最悪準決勝」
 
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「ふーん・・・」
 
「まあ万一4回戦までに当たっちゃったら、おわびに私が急病か何かで欠場するよ」
と千里が言うと
 
「あはは。でも千里が欠場してもうちに勝てるくらいまで湧見さんを鍛えたいということか」
などと彰恵は千里の言葉を軽く受けて言う。
 
「交換留学と行かない?」
と彰恵。
 
「へー」
「1年生で確かに鈴木志麻子は目立っているんだけど、神野晴鹿ってシューターもいるんだよ」
「ほほぉ」
「でも既にうちの左石(3年生の正シューティングガード)より上手くなっちゃったから誰もこれ以上教えてあげられなくてね。こないだ冗談で旭川N高校に留学させて、村山さんの技を盗ませたいね、なんて言ってたんだ」
 
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「なるほど。こちらの湧見を鍛えてもらうのと交換に、こちらでそちらの神野さんを鍛えると」
 
「実際にはさ、インターハイでも湧見さんはうちの椙山・豊浜を全く問題にしてなかった。あの時よりも今は成長しているだろうからあの2人では練習相手にならないと思う。むしろ私や百合絵が練習相手にさせてもらいたいよ」
 
「それは凄い」
「それと鈴木志麻子とはお互いに良い刺激になると思う」
「やはりね」
 
「ちょっとお互い学校側に打診してみようよ」
「OKOK」
 
「これP高校には内緒で」と千里。
「これJ学園には内緒で」と彰恵。
 
それでふたりは笑顔で握手した。コート上にいる玲央美が「何だ何だ?」という表情でこちらを見ていた。
 
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千里はそのあと日本に電話を掛けて絵津子の意向を聞いた上で宇田先生とも話したら、向こうさんの意向さえ良ければ、それは充分検討してよいと言われる。教頭先生と話し合ってみるということであった。
 
そこまで聞いてから千里はまたコートに戻り軽く汗を流してから休憩の上、中国との決勝戦の舞台に向かった。
 

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釧路から旭川に帰るバスの中。
 
絵津子は志緒から譲り受けた昭ちゃんの男子制服を着ている。
 
「丸刈り頭にその男子制服だと、えっちゃん完璧に男子に見える」
とみんなから言われて、絵津子はわりと上機嫌である。
 
「さっき男子トイレ使ってみたけど、何も言われなかったよ」
「そりゃそーだ」
「立ってしたの?」
「さすがにそれは無理」
 
「えっちゃん、立っておしっこするやり方、教えようか」
と留実子が言う。
「サーヤ先輩、いつも立ってしてるんですか?」
「うん」
 
「なんか興味あるなあ」
と絵津子は言うが
「悪い道に誘い込まないように」
と暢子が釘を刺している。
 
「でもえっちゃん、女の子からたくさんラブレターもらえるかも」
「それもいいなあ」
 
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「でも昭ちゃんも可愛い女子高生になってるよね」
「きっと男の子からたくさんラブレターもらえるよ」
 
「ボクの男子制服、どうなるんですか〜?」
「これは私がもらっちゃったから、昭ちゃんはこれからは女子制服で通学しなよ」
「え〜!?」
 
「その女子制服、穂礼先輩からもらったんだよ。昭ちゃんにならあげると言われているから」
「昭ちゃん、久井奈先輩からもらった女子制服もあるだろうけど洗い替えに」
 
「そんな女子制服で通学するなんて恥ずかしいですよー」
「でも昭ちゃん、将来女の子になりたいんでしょ?」
「うん。それはそうだけど・・・」
 
「だったら、女子制服を着て女子高生として高校生生活を送って、おとなの女性になるための修行だよ」
「あ、思ってたけど、昭ちゃんって女の子になる素質はあるけど、女としての修行が足りないよね」
「自分のことも、なかなか『わたし』って言えないし」
 
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するとそんな会話を聞いて絵津子が言う。
「じゃ、私は昭ちゃんの男子制服を持ったまま岐阜にバスケ修行に行ってくるから、その間に昭ちゃんは女の子修行をしてなよ」
 
「そんなあ」
「そしてそのまま女子大生になればいいよね」
「そうそう」
 
「でも、えっちゃんまさかこちらの男子制服を着たままF女子高に行くつもり?」
「だめかな?私丸刈りにしちゃったし」
「トイレなんてどうするのさ?」
「あ、女子高だからそもそもトイレは女子トイレしか存在しない。トイレ自体に男女表示が無いらしいよ」
「ああ、L女子高も体育館にはトイレが男女あるけど、校舎内のトイレには男女表示が無いよね」
「しかし、いいんだろうか」
 
「でも昭ちゃんは、大学受験も女子制服で受けに行けばいいよね」
「恥ずかしいですー」
 
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「だって昭ちゃん、以前英語の試験を女の子の格好で受けたことあるよね」
「あれも恥ずかしかったです。男子トイレに入ろうとしたら、こっち違うと追い出されちゃうし」
「それでトイレどうしたの?」
「仕方ないから女子トイレに入りました」
 
「昭ちゃんは別にふだんから女子トイレ使ってるよね」
「それはそうですけど・・・」
 
「今回の遠征で私、昭ちゃんと女子トイレの列で一緒になった」
と言っている子が数人居る。
 
「女子制服を着てたら、学校でもふつうに女子トイレ使えるよ」
「でもクラスの子に何と言われるか」
 
「大丈夫。昭ちゃんと同じクラスの聖夜や夜梨子から、他の女子たちにも話を通してもらうから」
 
「え〜!? ボクどうなっちゃうんですか?」
「だからもう女子高生になっちゃえばいいんだよ」
「なんなら、もう性転換手術しちゃうとか」
「今手術したら、インターハイまでには充分回復間に合うよね」
 
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「どうしよう・・・・」
「あ、悩んでる、悩んでる」
「もう一押しかな」
 

11月10日。
 
旭川N高校は月曜朝の全体集会の場を借りて、東体育館・青龍で、バスケット部のウィンターカップ道予選の結果が報告される。男子がBEST8、女子は準優勝でウィンターカップ本戦出場というのが生徒会長から報告されると、大きな拍手が送られていた。男女バスケ部を代表して揚羽が、全校生徒にみんなの支援に対する感謝のメッセージ、および東京体育館での本戦に向けての決意のことばを述べた。
 
なお、千里が参加したU18世界選手権の優勝の報告もされたが、これに関しては千里が帰国して登校した時点であらためて報告会をすることが告げられた。
 
壇上には釧路まで遠征した男女バスケ部員32人(雑用係で随行した来未・紅鹿を除く)が並んでいたのだが、2年5組の生徒が並んでいる付近ではざわめきが起きていた。
 
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壇上に登っているのは、男子選手15人、女子選手15人、女子マネージャー2人の男15人・女17人のはずが、数えてみると男14人・女18人居るのである。
 
「ねえ、あの北海道旗の下にいる子さあ」
「やはりそう思う?」
などという会話が交わされていた。
 
東体育館の舞台背景には、中央に国旗、左側に北海道旗、右側に校旗が掲げられているのだが、そのちょうど北海道旗の真下くらいに居る《女生徒》がどうも「怪しい」のである。
 

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女の子たちの交換修行(5)

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