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■女の子たちの国体・少女編(4)

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しかし愛媛の攻撃である。残り時間は18.2秒。
 
旭川は強烈なプレスに行くが、愛媛は長身のポイントガード海島さんが最後の力を振り絞って単独でこちらのプレスを突破。そのまま攻め上がる。プレスに参加せずにひとりで先に自陣に戻っていた留実子とのマッチアップ。
 
複雑なフェイント合戦の末、海島さんは留実子の右を抜いた。
 
そして誰もいないゴールめがけてシュート!
 
と思ったのだが、いつの間にか俊足の雪子が目の前に走り込んで来ている。留実子とマッチアップしていたほんの2−3秒の間にここまで戻って来たのである。
 
しかしふたりの身長差は24cmもある。海島さんは構わずそのままレイアップシュートに行く。しかし雪子は思いっきりジャンプすると、海島さんの手からボールが離れた瞬間を指で横に弾いた。
 
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こぼれ玉に留実子が必死で飛びつく。そして走り込んで来た麻依子に体勢を崩しながらパス。麻依子はセンターライン近くにいる千里に素早いパスをする。千里はボールを受け取ると、そのままドリブルで走り出した。
 
残りは4.1秒!
 
目の前に岡村さんと菱川さんが居る。
 
一瞬の対峙の後、岡村さんの左側をバックロールターンで抜く。
 
今江さんが目の前に居る。手を広げてガードしている。長身の彼女は千里にとっては大きな壁を目の前にしているようである。ゴール近くでは橘花と沢田さんがポジション取りで争っている。
 
「千里!撃てぇーーー!」
という貴司の声が聞こえた気がした。
 
意識の端で時計がもう1秒を切ったのが見える。
 
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千里はシュート動作のために腰を落としたが、その腰を完全には伸ばさないまま、低い姿勢で撃った。
 
一方今江さんは千里が腰を伸ばし始めたところでシュートタイミングを予測してジャンプしている。
 
千里がボールをリリースした直後、試合終了のブザーが鳴った。
 
今江さんはタイミングも軌道も予測を外されてしまったものの根性で手を下に伸ばす。しかし間に合わない。ボールは彼女の指の下の方を通過した。
 
そしてボールは長時間の山なりの軌道を描いてバックボードに当たり、そのままゴールに飛び込んだ。
 

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審判が3点を認めるジェスチャーをしている。
 
千里は駆け寄ってきた橘花・麻依子にボコボコ頭を殴られる。痛いってば!雪子は嬉しそうな表情で傍で見ており、留実子は放心した顔で、割れるような拍手をしている客席を見上げていた。客席で北海道旗を振る人、旭川N高校の校旗を振る人(昨年唐津でのインターハイをサポートしてくれた真鍋さんだ)、旭川L女子高の校旗を振る人も見られた。
 
ゴールを通過したボールを沢田さんが悔しそうにつかんで、名残惜しそうに審判に返す。整列が促される。
 
双方のメンバーが(アバウトに)整列する。
 
「95対92で北海道代表の勝ち」
「ありがとうございました」
 
お互い握手しあう。
 
こうして旭川選抜チームは国体を制したのである。
 
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旭川選抜のメンバーは、ベンチに座っていたメンバーも含めてまずは対戦チームのベンチ前に集まり、愛媛チームの監督(Q女子高の監督の田里さん)に挨拶する。それから声援を送ってくれた観客席に向かってお辞儀をした。千里は客席の中に貴司の顔を探したが、見付けきれなかった。
 
試合終了後すぐに表彰式が行われる。
 
千里たちが束の間の休憩をしている間に会場には表彰台が持ち込まれ、横断幕やプラカードを持った地元中津市の女子高生が入って来た。国体のマスコット《めじろん》の着ぐるみまで居る。
 
橘花が「監督を胴上げしようか?」と言ったものの、宇田先生は「やめて!落とされると怖い」と言ったので、胴上げは無しとなった。
 
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中央に「第63回国民体育大会/チャレンジ!おおいた国体」という横断幕を持つ2人の地元女子高生が立ち、その隣に「少年女子」のプラカード、「1位」のプラカード、「北海道」のプラカードを持つ女子高生が立ち、その隣に千里たち旭川選抜チームの12人が並ぶ。反対側には「2位」のプラカード、「愛媛県」のプラカードを持つ女子高生が立ち、その隣に鞠原さんたち愛媛県代表チームの12人が並ぶ。
 
「1位北海道、2位愛媛県」
 
とあらためて成績が発表され、北海道チームから2名、前に出るように言われる。キャプテンの暢子と副キャプテンの麻依子が前に出る。暢子が大会長から優勝の賞状をもらい、麻依子が副賞の賞品カタログをもらった。
 
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そのあと2位の表彰があり、大会長のメッセージの後、国旗・北海道旗(七光星)の掲揚がおこなわれる。千里は「君が代」を歌いながら、道旗が揚がって行くのを見ていて、初めて涙が出てきた。
 
そうか。全国優勝したんだ。なんか私たちってすげぇ?
 

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国旗掲揚の後は選手退場である。国体の横断幕、1位のプラカード、北海道のプラカードに続いて12人の戦士たちは退場した。それに続いて2位のプラカード、愛媛県のプラカードに続いて愛媛県チームも退場する。ロビーに出てから千里たちはまた愛媛県チームのメンバーと握手したりハグしたりした。千里は鞠原さん・今江さんとハグした。留実子は大取さんと殴り合ってる!?鞠原さんは暢子・橘花・麻依子ともハグしている。悔しそうな顔ではあるものの取り敢えず今は笑顔である。
 
そんな様子を見ていたら、鞠原さんが千里の所に寄ってきた。
「取り敢えず優勝おめでとう」
「ありがとう」
「千里ちゃん、ウィンターカップ出られそう?」
「出る気満々」
 
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「そうこなくっちゃ。このまま勝ち逃げされたくないし。ねね。千里ちゃん。出羽は実はかなり歩いてるんでしょ?」
 
「うん。実は毎年100日歩いている」
「やはり。私も少しあそこで修行したい。私、自分の体力の無さをいつも痛感してるんだよ。今日も最後の方はクタクタでついファウルしちゃった。年間100日は無理だと思うけど、せめて30日くらい参加できないかな」
 
「うん。じゃ話しておくよ」
と千里は笑顔で答えた。
 
会場では、少年女子の試合が全て終了したこと。来年は新潟市で開催されることがアナウンスされる。その後、北海道チーム、愛媛チームともにフロアに戻り、客席で見ていた瑞穂先生、そしてチームに随行している役員さんも一緒に入って記念撮影をする。ついでに《めじろん》もフレームの中に入った。
 
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記念撮影が終わって再度フロアを出た所で瑞穂先生が千里に30cmほどのサイズの箱を渡した。
 
「これ千里ちゃんのボーイフレンドから」
 
周囲から「おお、すごい」という声が掛かる。
 
「電車の時刻があるからもう行かないといけないけど、優勝おめでとう、よく頑張ったねって伝えて欲しいと言ってたよ」
 
千里は箱を胸に抱えて胸が熱くなった。
 
「大会中の不純異性交遊で千里は罰金として打ち上げの費用を持つこと」
などと暢子が言っている。
 
「うん、いいよ」
と千里は笑顔で答えた。
 

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用意してもらっていたマイクロバスで中津駅まで行き日豊線に乗る。試合は午前中で表彰式も12時半くらいには終わるのが分かっていたので、今日の便で帰ることになっている。
 
「千里、何もらったの? 見せて見せて」
と言うので、箱を開けてみせる。
 
「バッシュ?」
「なんて色気の無いプレゼントだ」
「そのサイズならお洋服か首飾りでも入っているかと思ったのに」
 
千里は戸惑った。
 
「私、今年いっぱいでバスケやめるつもりだって貴司に言ったのに・・・」
と言ったのだが
 
「千里がバスケを辞めることはないと思うよ」
と、ふだん無口な留実子がいつものようにポーカーフェイスのまま言った。
 

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朽網(くさみ)駅で降りてシャトルバスに乗り、北九州空港に入る。空港に到着したのは14:30で、ここで遅めの昼食を取ったが、それ以前に随行スタッフさんが用意してくれていた大量のおにぎりやハンバーガーなどが既に選手たちのお腹の中に消えている。
 
16:35の羽田行きに乗って羽田に18:00に着く。18:50の新千歳行きに乗り継ぎ、新千歳に20:20に到着した。ここで千歳市内の焼肉屋さんに入って夕食兼打上げをした。
 
千里は少し心配になって宇田先生に訊いた。
「ここ、お勘定いくらくらいになりますかね?」
 
「ああ、異性交遊の罰金で打ち上げ費用をって話ね」
と言って先生は笑い
「この食事の費用は学校から出ているから心配しなくていいよ」
と言う。
 
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「千里、デザートくらいおごってくれてもいいぞ」
と近くで橘花が言うので
 
「じゃ、みなさんにケーキでも」
ということで、千里が四千円ほど出して、全員にショートケーキが配られた。
 

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打ち上げは21時半で終了し、頼んでいたバスに乗り旭川周辺の各選手の自宅前まで全員を送り届けた。千里がアパートに戻ったのは23時半頃であった。
 
「ただいまあ」
と言って家に入ると、美輪子が
「お疲れ様、優勝おめでとう」
と言う。
 
「ありがとう。なんか優勝って素晴らしい。バスケやってて良かったぁと思ったよ」
「全国優勝って凄いね」
 
「インターハイで1位になりたかったけどね」
「国体だって凄いでしょ」
「まあ、そうだけどね」
「金メダルは?」
「国体はメダルが無いんだよ」
「あら、残念」
 
「なんか副賞で後から大分の名産品をもらえるらしい」
「ああ、国体ってそういうノリか」
 
「選手より役員の方が多い感じだったし」
「ああ、まあそういう大会なんだろうね」
 
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美輪子がケーキを買ってくれていたので、紅茶を入れて一緒に食べた。
 
「美味しい。ここのケーキいいよね」
と千里が言うと
「うんうん。特にスポンジが美味しいのよね。しっとりしていて」
と美輪子も言う。
 
「向こうで貴司君と会えたの?」
「こちらの決勝戦を見に来てくれた。けっこう力づけられたよ。直接話はできなかったけどね。こちらは決勝戦のあとすぐ表彰式だったし、向こうは電車の時間があったし」
 
「残念だったね」
と言ってから美輪子はその問題について尋ねた。
 
「あんたさ、貴司君とはどういう状態になってるんだっけ?」
 
千里は微笑んで答えた。
「実をいうと3月でいったん別れたんだよ」
 
「なんかそんな気がしてたよ」
「3月31日に大阪まで会いに行ってきたでしょ。あれでサヨナラだったの」
 
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「でも電話とかメールとかよくしてるよね」
「うん」
「誕生日のプレゼントも贈ってなかった?」
「贈ったよ。テンガ付きで」
 
「面白いもん贈るね!」
 
「私と貴司の関係は今はただの友だち」
「ただの友だちには見えないけど」
 
「まあ縁があったら恋人に戻ることがあるかも知れない」
「恋人じゃなくて夫婦でしょ?」
 
「そうだねぇ」
と言って千里は遠い目をする。
 
「でも今、貴司、彼女がいるんだよね」
と千里は言う。
 
「ふーん。でも貴司君って、たくさん浮気しているから恋人が何人かいてもあまり関係無いんじゃない?」
と美輪子。
 
「うん。ほんっとに浮気症なんだよなあ。たぶん今できている恋人も1年はもたない気がするよ」
 
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「1年もしない内にあんたが壊しちゃえばいい」
と美輪子は煽る。
 
「そうだね。大学に入ったら、取り敢えず壊しに行こうかな」
「うん。頑張れ」
 
「そうだ、これ、その浮気者さんから優勝のお祝いってもらった」
と言って、千里は貴司からもらった真新しいバッシュを出す。
 
「すごーい。これ高そう」
 
「今履いてるのがけっこう傷んでるからね」
 
千里の最初のバッシュは貴司のお母さんが買ってくれたもので中学1年の時から約3年間使った。現在使っているものは高校1年の時に占いのお礼でもらったお金で買ったもので2年ちょっと使用している。
 
「でも私12月でバスケは辞めるつもりだったんだけどなあ」
 
最初はインターハイまでのつもりが、その後の国体にも出ることになり、そのあとU18にも行くことになり、そしてとうとうウィンターカップにも行く可能性が出てきている。
 
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「大学でまたバスケ部に入ればいいじゃん」
「それは全然考えていなかった」
「あんたの志望校のC大学ってバスケ強いの?」
「確認したけど関女(関東大学女子バスケットボール連盟)では3部にいるみたい」
「微妙かな。もっと強い所に志望校変えたりしないの? どうせあんた大学であまり勉強する気無いでしょ?」
 
「えへへ」
「そもそも東京方面に行きたいというの自体が、親の目の届かない所で女の子ライフを満喫するつもりだったでしょ?」
「そうなのよねぇ。男子高校生生活を3年間するつもりだったから」
「早々に女子高生になっちゃったけどね」
 
「うふふ」
と千里は笑ってから
「実は教頭先生から□□大学の医学部を受けろって言われてるんだよね。もっとも□□大学も関女3部」
 
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「そこ無茶苦茶難しいのでは?」
 
「ウィンターカップに出ることになる3年生4人に全員課題の大学が指定されたのよね。ここより難しい所を受けてもいいらしいけど、ここより難しい所って、東大・京大・阪大・名大・東京医科歯科大の医学部くらいって話」
 
「あんた通るの? 今年はまともに勉強できてないでしょ?」
「そうなのよねー。ほとんどバスケ一色だもん」
 
「落としたらどうなるの?」
「4人のうち2人落としたら、来年からはこういう特例処置は一切認めないという話。だけど、留実子は絶対落とす」
 
「ああ」
「となると、私、頑張らなくちゃ」
 
「Z会でもやる?」
「進研ゼミくらいにしとこうかな」
 
 
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女の子たちの国体・少女編(4)

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