[*
前頁][0
目次][#
次頁]
なお、この日の他の試合は、愛知が神奈川に勝ち、愛媛が大阪に勝ち、東京が福岡に勝っている。愛知はJ学園の単独チーム、愛媛は実質Q女子高、大阪はE女学院とH高校を主体とするチーム、東京はT高校を中心とするチーム、福岡はC学園とK女学園を主体とするチームであった。今回の国体で単独チームで参加したのは愛知J学園のみである。
愛知────┬愛知
大分・神奈川┘
山形・愛媛─┬愛媛
大阪────┘
東京────┬東京
兵庫・福岡─┘
山口・北海道┬北海道
福井────┘
東京と福岡の対戦では、T高校の誠美とC学園のサクラの、U18代表同士の激しいリバウンド争いがあった。これに本当はT高校の星乃とC学園の桂華というフォワード対決もある予定だったのだが、星乃の怪我離脱でお預けとなる。しかし星乃の離脱で危機感を持った東京側が本来はC学園のお家芸である集団戦法で頑張り、接戦を制して準決勝に進出した。
その日の夕方、千里は敢えて電話せずにいたのだが、貴司から電話が掛かってくる。千里は出なかったが、暢子が「喧嘩したの?出てやりなよ」と言ってホテルの部屋のベランダに押し出した。千里は結局着メロが2分くらい鳴ったところで、やっと電話を取った。
「最初に勝手に恋人を作ったことを謝りたい」
と貴司は言ったが
「別に謝る必要はないよ。私たちは友だちだし、お互い恋人を作っていいと言い合ったはずだし」
と千里は答える。
「僕は今この問題について変な言い訳をして誤魔化すようなことはしたくない。でも僕にとって千里は大事な人であることは動かない」
「都合のいい女になるつもりは無いからね」
「だったら、取り敢えず、親友という線で僕との関わりを続けてくれない?」
「いいよ。でも次会ってもセックス無しだよ」
「それは構わない」
「親友として貴司と関わり続けるのは私もむしろそうありたいと思う」
「それにバスケ仲間だしね」
「あ、それだけど私、バスケは今年でやめるつもりだから」
「うそ。なんで!?」
「中学高校の6年間もすれば充分かなと思うんだよね」
「それはいけない。千里は物凄い才能を持っている。千里がバスケやめるなんて日本にとっての損失だよ。絶対続けるべきだと思う。たとえ僕との関係を解消したとしても」
「へー。私と貴司の関係より、私にバスケ続けろと言うんだ」
「そりゃそうだよ。千里はバスケの天才だもん」
「そんなことないよ。春からU18のチームに参加していて、自分にいかに才能がないかというのを思い知ってるよ」
「それは千里の才能がまだ充分には開花してないからだと思う。たぶん千里は自分の才能の1−2割でプレイしている。千里、大学の有力チームに入って鍛えたら、きっとバスケットの歴史に名を刻むプレイヤーになる」
「それはさすがに褒めすぎ」
「それにさ、バスケのことは置いておいても、僕は千里と話していると、ほんとに心が洗われる思いだし、僕は千里からたくさんエネルギーをもらっている。そして僕も何か千里にできることがあったら、していきたい」
と貴司が言う。
「うん。親友というのはそういう関係だと思う」
と千里も答える。
1晩寝て、そしてストレスを試合にぶつけて少しはスッキリしたこともあり、この日の千里は貴司のことばをある程度冷静に聞くことができた。そして貴司と親友としての関係を続けることで同意した。
「じゃ夫婦関係を解消して親友関係に移行したことをお母さんにも言う?」
「それは待って」
「じゃ、私たち、お母さんの前では夫婦を装い続ける訳?」
「もし良かったら、千里に彼氏ができるまではそうさせて欲しい」
「まあいいけどね。でもほんとに私も彼氏作るかもよ」
「うん。それは仕方ないと思う。あとクリスマスとかにプレゼント贈るくらいいいよね?」
「まあ友だち同士そのくらい贈ってもいいかもね」
「バレンタインとかホワイトデーに贈り物してもいいかな」
「まあ友チョコということで」
9月30日。少年女子は準決勝になる。(貴司が出ている成年男子は3回戦と準々決勝が行われる。1日2試合である)
千里たちの準決勝と、貴司たちの3回戦が同時刻スタートであった。ふたりは試合前に「そちらも頑張ってね」というメッセージを交換してからフロア入りした。
今日の千里たちの相手は関東代表の東京チームである。東京T高校を主体として、東京のもうひとつの強豪校U学院およびE学園,I学園の生徒が入っている。昨日福岡選抜(C学園とK女学園を中核としたチーム)に勝って上がってきた。東京チームのメンバー表はこうなっていた。
PG 山岸(T) 青池(T) SG 萩尾(T) 松元(U) SF 千葉(U) 近藤(I) 甲斐(T) PF 池田(T) 大島(T) 手塚(E) C 森下(T) 藤田(U)
本来はこれにT高校のSF.竹宮星乃が入っていたものの、直前の怪我で国体代表からも脱落。代わりに同じT高校の2年生・甲斐さんが入ったようである。
試合前から留実子と(森下)誠美が睨み合っている。ふたりは「センター・メーリングリスト」の仲間であるが、取り敢えずこの試合では敵同士だ。
こちらは雪子/千里/橘花/麻依子/留実子、向こうは山岸/萩尾/千葉/池田/森下というメンツで始める。
ティップオフは留実子と誠美で始めようとしたものの・・・・
ふたりがジャンピングサークルで凄い視線で睨み合っていたことから、いきなり双方ともテクニカル・ファウルを取られるという波乱(?)の幕開けとなった。
なお、ふたりの身長は「公称」では誠美184cm, 留実子180cmであるが、先日のインターハイ直前の練習試合の時に竹宮さんが「君たちは絶対嘘ついてる」と言って2人の身長をメジャーで測ったところ、誠美は186cm, 留実子は184cmであった。しかしふたりとも登録情報を訂正するつもりは無いようである。
留実子は高校に入った頃は確かに180cmだった。実はこの子、ドーピング検査に引っかからない程度、そして生理が止まらない程度に微量の男性ホルモンを摂取しているのではと千里は疑っている。こないだなど
「僕のおちんちん、長さ測ったら1.1cmあった」
なんて言ってたし!
(「そんなに大きくして、鞠古君、嫌がらないの?」と訊いたら「あいつは僕に穴があれば充分と言ってる」などと言っていた)
この試合のジャンプボールは結局留実子が勝って雪子がボールを確保。北海道が攻め上がるものの、誠美は随分悔しがっていた。
試合は千里と萩尾さんのスリー対決、暢子・橘花・麻依子といった北海道の強烈フォワード陣と、千葉・池田などの東京のフォワード陣、そして留実子と誠美のリバウンド対決が主軸となった。
スリー対決では、まだ貴司のことでイライラしている千里が昨日ほどではないものの10本のスリーを放り込んでフリースローも入れて33点をあげた。暢子が16点、麻依子が14点、橘花が12点取る。一方、萩尾さんもスリーを6本放り込んで18点、竹宮不在の穴を埋めるべく頑張る同じT高校の池田さんが14点、千葉さんが12点など取ったが、結果的にはやはり得点能力のある選手の数の差が出た感もあった。
結局85対68の大差で北海道が勝った。
リバウンドは留実子・誠美ともに10本取って、痛み分けとなった。ふたりは握手しながらまた視線をぶつけていたが、審判が寄ってくると笑顔に切り替えてハグしたりしていた。
「残念だったね」
千里はこの日は自分から貴司に電話して言った。
「うん。僕の力不足だった」
「スコア見たけど、貴司24点も取ってるじゃん」
「26点取っていたら勝てたんだけどね」
千里はその言葉を重く受け止めた。バスケットは1点でも相手を上回った側が勝つゲームである。貴司はこの日午前中の3回戦には勝ったものの、午後の準々決勝で山形代表に1点差で敗れてしまったのである。
「それでさ」
「うん」
「チームの解散式は明日大阪で16時半からやるんで、それまでに大阪に戻ればいいんだ。他の選手は明日朝から帰るけど僕はお昼の便に振り替えて、そちらの試合を見に行く」
と貴司は言った。
「え?」
「選手の規律上、会う訳にはいかないだろうけどさ。明日僕は千里の試合を観戦するから頑張れよ」
「うん」
と答えて千里はぽぉっと顔が赤くなった。
そんな様子を窓ガラス越しに見ている暢子・留実子・雪子が顔を見合わせて何か話していた。
『貴司君がさあ、浮気しようとしていた訳よ。それでそれを阻止しようとしたんだけどね』
とその夜、ひとりで夜空を見ていた千里に《きーちゃん》が言った。
『あんたとこうちゃんで何かしてるなとは思ってた』
『それを阻止した時に怒った彼女が飲み物を貴司君に投げつけてさ。そしたらそれが隣のテーブルに居た女の子に当たっちゃったわけよ』
『それで貴司、そっちの子を好きになっちゃった訳?』
『彼女の洋服とか髪とか飲み物でひどいことになって。それでお詫びしたり、髪や服を拭いたりしてあげている内に』
『まあ貴司ってそういう奴だからね』
『だけど千里、おとといの晩はけっこうきついこと言ったね。そのおちんちんが立つのなら彼女の夢見ながらいじってればいいとかさ』
『私だって怒るよ』
『結果的に貴司君は・・・』
『貴司は?』
《きーちゃん》は少し考えたようだったが
『まいっか』
と言った。
『何よ?』
『いや。千里はあまり気にしなくていいと思うよ』
何なんだ!?
『千里って自分の能力に無自覚だもんなあ』
『へ?』
その夜、大分市内のホテルの個室に泊まっている貴司は、千里と少し落ち着いて話せて、かなり気持ち的には楽になっていた。貴司は浮気もするが千里のことが好きというのも不動だ。しかし千里のことを思う一方で、スタバで飲み物を掛けてしまった女の子との今後のこともわくわくと考えていた。次はどこでデートしよう。食事の後にドライブとかもいいよな。レンタカー借りておこうかな?
千里のことも、あちらの女の子のことも考えていたら、つい何気なく触っていた手が、いつしか規則的な動きになっていく。
千里と過ごした熱い時間の記憶が蘇る。千里〜。千里の身体が欲しいよぉ。あれスマタだと本人は言ってるけど、あれ絶対ヴァギナだよなあ。でも結局千里っていつ手術したんだろう?そんなことを考えながら貴司は手を動かしていた。
しかし・・・・
その日貴司は逝けなかった。
あれ〜。疲れが溜まっているのかなあ。
貴司は結局30分近くやっていたものの、どうしても逝くことができないまま試合の疲れが出て眠ってしまった。
2008年10月1日。国体は少年女子・少年男子・成年女子の決勝と、成年男子の準決勝が行われる。千里たち少年女子の決勝の場所は中津市のダイハツ九州アリーナである。
相手は愛媛代表。実質愛媛Q女子高である。準決勝で愛知代表(=J学園)を倒して決勝に上がってきた。パワーフォワードの鞠原さん以外スターターに180cm台の選手が並んでいる「天井チーム」だ。昨年のウィンターカップでは札幌P高校がこの背の高さにやられてしまったのだが、今年のインターハイではP高校はプレイ速度を上げた「ブーストアップ作戦」に加えて2人のシューターがスリーを積極的に撃つ「ダブル遠距離砲作戦」の組合せで打破した。
今日の試合でも北海道代表はスターターを雪子/千里/宏美/橘花/暢子とした。センターを入れずにシューターを2人入れる布陣で、スリーをどんどん撃つよと宣言しているようなものである。
昨夜。暢子たちは千里の貴司との電話をさんざん冷やかした上で、選手12名と宇田先生・瑞穂先生とで集まり、今日の試合の作戦について話し合った。
「サーヤ(留実子)の存在感は圧倒的でゴール下でサーヤと対抗できそうなのは向こうの大取さん(186cm)だけだとは思うけど、それでも180cm台の選手に取り囲まれると、こちらは橘花(182cm)以外は、かなり厳しい。やはり遠距離砲中心に攻めるのが定跡だと思う」
という意見が出る。
「村山さん、先日オーストラリア遠征やってきたよね。向こうのチームどうだった?」
と瑞穂先生が訊く。
「ポイントガードがそもそも170cm台なんですよ。フォワードもシューターも180cm台ばかりでセンターは190cm台。でもみんな言ってたんです。要するに男子チームと試合しているつもりでやればいいと。U18に出てきている子たちは、みんな普段から男子大学生チームとかとの練習試合を経験しているから。一番まずいのは背丈の差にびびって、気合い負けしちゃうことなんです」
と千里は言う。
「まあ、去年のウィンターカップでのP高校がまさにその気合い負けした状態だったよね」
と宇田先生も言う。
「今年のインターハイまでのQ女子高は背丈は男子並みにあったけど、スピードはそれほどでもなかった。むしろP高校の方が男子並みのスピードで戦っていた。あれから2ヶ月、どう強化してきたかは分かりませんけどね」
と雪子が言う。
「国体のここまでの愛媛チームの戦い方を見ると、そんなに速度は感じられない。ただ決勝はうちか東京だろうとみて、スピードを隠していた可能性はあるけどね」
と偵察してくれていた瑞穂先生が言う。
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
女の子たちの国体・少女編(2)