広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちの国体・少女編(3)

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そして10:00試合開始。ティップオフは大取さんと橘花で争うが、高校ナンバー1身長の大取さんが貫禄勝ちで、愛媛側が先に攻めて来る。北海道側は鞠原さんに千里が付くほかは4人でゾーンを敷いて守る。こういう臨時編成チームでもゾーンが運用できるのは6月にこのチームを結成してずっと練習してきた成果である。
 
ポイントガードの海島さんからシューティング・ガードの菱川さんにボールが渡り、菱川さんはそのまま強引に中に突入しようとするものの、その付近を守っていた雪子・暢子に阻止される。特に158cmの雪子は180cmの菱川さんにとっては真下からボールを盗られそうになる感じで、かなりやりにくそうな顔をしていた。
 
いったん海島さんに戻された後、雪子・暢子が寄ってきたことでできた間隙を狙ってスモールフォワードの今江さん(181cm)にボールが送られ、彼女が中に入るものの、182cmの橘花がその前に瞬発力で飛び出してゴールそばまでの接近を阻む。今江さんはそのまま一瞬のフェイントの後シュートしたものの、橘花にフェイントを読まれて、きれいにブロックされてしまう。
 
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こぼれ球に雪子が飛びついて、そのまま速攻に行く。俊足の鞠原さんが頑張って戻るが、雪子は彼女に行く手を阻まれると、まるで鞠原さんの左側を抜くかのような動きをして、ボールは鞠原さんを抜く瞬間に真後ろに放り投げる。するとそこに千里が走り込んできて、そのままシュート。
 
北海道側の3点先行で試合は始まった。
 

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北海道は先取点は取ったものの、やはり愛媛チームの背の高さに攻めあぐむ。180cm台の4人が高い位置でボールを運んでいくと、上空を飛行機が飛んでいる感じで、パスカットもブロックもできない。こちらの攻撃の時、千里には今江さんが付くのだが、181cmの彼女が手を伸ばすと215-220cm程度あり、168cmの千里にとっては目の前に巨大な壁がある感じである。
 
こういう巨大な壁に対抗していくので、橘花にしても暢子にしてもかなり強引な進入を試みたので、ふだんファウルの少ない暢子が第1ピリオドだけで2つファウルを取られたし、橘花も2つ取られた。一方、愛媛側もゾーンへの進入には結構苦労して、180cm台の4人が全員1回ずつ、鞠原さんも2つファウルを取られていた。
 
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千里は先日U18のオーストラリア遠征でも背の高い選手とたくさん対決したのだが、向こうは背が低くて素早い日本人プレイヤーに慣れていなかった面もあった。Q女子高のメンツはむしろ、いつも自分たちより背の低い選手と戦っている。同じ180cm台でもオーストラリア人選手以上にやりにくい相手だ。
 
それでこのピリオド、千里はスリーを1つしか入れることができず、第1ピリオドは22対18と愛媛の4点リードで終えた。
 

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第2ピリオド。愛媛は第1ピリオドで頑張った180cm台の4人を休ませて、PG.小松(165)/SG.岡村(174)/SF.越智(172)/PF.鞠原(166)/C.伊瀬(175) というメンツで来た。
 
鞠原さんだけが連続で出る。
 
こちらは矢世依/宏美/布留子/麻依子/明里という「オールL女子高」というメンバーで始めた。
 
愛媛側は第1ピリオドでもっと点差を付けたかったようである。しかし思った以上にこちらが長身選手に食らいついてきたので、スタイルを変えて、恐らくシューターの岡村さんと点取り屋の鞠原さんとで勝負を掛けてきたと思われた。
 
これに対してこちらは、いわゆるマッチアップゾーンで守った。ボールマンにいちばん近くにいるメンバーがマッチアップし、残りの4人でゾーンを敷いてパスの受け手の侵入に警戒する方式である。コミュニケーションの綿密さが求められるものの、いつも一緒に練習しているL女子高のメンバーのみで構成しているゆえにやりやすい守備方式であった。
 
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鞠原さんは点取り屋でもあるがふだんの試合ではP高校の玲央美同様、アシストもひじょうに多い。「For the team」に徹しているので、決して無理をせず、最も得点確率の高いメンバーを使って点を取っている。しかしこのピリオドの鞠原さんは、恐らく本来の彼女の性格であろう、貪欲な点取り屋に変身した。
 
岡村さんのスリーもあるにはあるが、やはり向こうは鞠原さんにボールを集め、鞠原さんはかなり強引にこちらのゾーンを破ってゴール近くまで入って得点する。こちらが「ここはパスだろう」と思う場面でも、強引にシュートを撃つ。その代りファウルもかさむ。このピリオドで彼女は2つファウルを取られて第1ピリオドと合わせて4ファウルになってしまったものの、それでもスタイルは変えない。パワフルなプレイを続けた。
 
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千里はこのピリオド、ベンチに座って愛媛のプレイを見ながら、また第1ピリオドでのプレイを思い出しながら、どうやれぱこの相手とまともに戦えるのかをずっと考えていた。
 
ふと視線を感じて目を客席にやると貴司が居た。貴司とは4月1日の朝、心斎橋駅で別れて以来会っていなかった。千里の胸の中に熱いものがこみあげてきた。視線で会話を交わす。貴司、私、貴司が恋人を作ってもいいと自分で言ったから、取り敢えず恋人を作ることは許してあげるよ(本当に作るとは思ってもいなかったけどね)。セックスもそうだなあ2回くらいまでは許してあげる。でもまたいつか私だけのものにしちゃうからね。覚悟しといてね。千里はそう心の中で思うと、試合に対する闘志を燃え上がらせた。
 
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千里はその時唐突に疑問を感じた。
『ねぇ、きーちゃん、貴司の恋人って女の子?』
『女の子に見えたけど』
『ホモに目覚めた訳ではないよね?』
『目覚めるも何も元々貴司君はそっちだと思うけど』
『うーん・・・』
『千里が初めて好きになった女の子だよ。小学生の頃は何度か男の子に憧れたりしてるらしい。ある筋から聞いた話』
『へー!』
『千里を好きになったことで、女の子との恋愛に味をしめたんだよね』
『じゃ貴司の中で私は女の子なんだよね?』
『もちろん』
 
試合は鞠原さんのプレイで愛媛がじわじわと点差を広げていく。こちらもしっかり守ってはいるのだが、千里が居ない分どうしても得点力が落ちていることもあり、第2ピリオド9分まで行った所で48対40と8点差を付けられていた。そして終了間際、鞠原さんがシュートすると見せてインサイドから遠くに居た岡村さんにボールを送り、こちらがつい無警戒になってしまっていた彼女がきれいなフォームでスリーを放り込んで51対40と11点差にして前半を終了した。
 
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「ごめーん。点差広げられた」
と麻依子が謝っているが
 
「いや、(鞠原)江美子が本気を出したらあのくらい行くでしょ。最後の岡村さんのスリーはおまけみたいなものだし。江美子は実際問題として今高校界で(佐藤)玲央美と並ぶ、最強のフォワードだと思う。江美子1人で2人分くらいのパワーがあるかも知れない。でもこちらも次のピリオドは暢子と橘花で行くから、ふたりが1.6人分ずつくらい頑張れば上回れるよ」
と千里が言う。
 
「うん。鞠原さんは天才だと思うけど、こちらは凡才2人で対抗しよう」
と暢子。
「植木の盆栽だったりして」
と橘花。
 
「第3ピリオド、例の作戦で行くよ」
と宇田先生が言う。
 
「若干不安はあるけど、あれしか無いですよね」
と雪子。
「暢子、パスキャッチをミスるなよ」
と橘花が言う。
「それはこっちのセリフ」
と暢子。
 
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それで雪子/千里/麻依子/暢子/橘花というメンツで出て行く。向こうは180cm台の4人を戻す。鞠原さんはお休みで海島/菱川/今江/屋敷/大取というオーダーである。鞠原さんの代わりに入っている屋敷さん(愛媛H商業)も178cmの長身で、この高さは第1ピリオド以上に「天井チーム」となった。
 
千里は1年生の時に男子の試合に出て、こういう長身の相手とのマッチアップもたくさんやったことを思い出していた。あの頃の自分はまだまだマッチアップが下手だった。そして、あの頃はほんとにスリー以外の能力が無かったから、しばしばフィジカル面で負けていたし、スリーも随分叩き落とされていた。
 
旭川選抜チームは、愛媛チームと当たった場合、インターハイでP高校がやってみせたように素早く動き回り、パスも速く回して相手が対応できる前に攻撃するしかないと話し合った。この作戦は国体チームの練習でけっこうやったのだが、やはりパスのキャッチミスも多数発生して諸刃の剣という面もあるのは自覚していた。
 
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一応、雪子・橘花・麻依子・暢子・千里の5人はお互いに相手を全く見ずにパスを通せるので、いかにも進入するかのような動きを見せて相手を引きつけては他の子にパスするというプレイを見せる。
 
また雪子以外の4人は、とにかく立ち止まらずに常に走り回ること、そしてボールを2秒以上は保持しないことを話し合っていた。すぐに攻撃できないなら、他の子に回すか雪子に戻す。
 
すると、愛媛チームはP高校とのインターハイでの対戦の時以上にボールを追うのに苦労する。あの時はまだ鞠原さんがしっかりボールを見てみんなに指示を出していたのだが、今彼女がいないのでポイントガードの海島さんが必死にボールの位置を追うものの、こちらは5人ともフェイントがうまい。まるでボールを持っているかのような動きをするので、海島さんでも見失うことがあり、全然ボールの無い所にうっかり守りを集中させては「あっ」と言う状況が生じた。
 
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愛媛は途中で菱川さんに代えて沢田さん(松山A高校)を入れて来た。彼女は動体視力が高い上にフェイントなどを見破るのもうまいようで、彼女の投入で、愛媛チームの混乱はかなり小さくなる。それでも、どうしても向こうの高い壁にほころびが生じがちである。そこを旭川は攻めていった。
 
千里も誰かにパスしたかのような動作をしてはまだ自分が持っているというプレイで結構今江さんを翻弄する。こちらの「スピードプレイ」でボールを見失ってはいけないという意識があるだけに、パスされたら誰がパスを取ったのかを確認しようとする。それで一瞬意識が他に行くのである。
 
このピリオドで旭川はけっこうキャッチミスは発生するものの、落としたボールをそのままドリブルに移行したり隣の子にバウンドパスしたりして、あまり破綻が無いように何とかプレイした。
 
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そして橘花・暢子・麻依子はお互いに競争するかのように点を取った。
 
一度は暢子がゴールそばでシュートしようとしている所を手の中から橘花がスティールして自分がシュートした。向こうの大取さんが「えぇ!?」と思わず声を出していた。
 
(あとで橘花は「ごめーん。敵としてプレイしていることが多いから」などと言っていた。要するに間違ったようであるが、暢子は全く気にしていなかった)
 
リバウンドに関してはこちらが留実子を下げているので186cmの大取さんの存在が大きい。しかし4人とも高精度でボールをゴールに放り込むので実際問題としてリバウンドはこのピリオドはあまり意味をなさなかった。
 
そして第3ピリオドを終えた所で70対68と2点差まで詰め寄った。
 
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そして第4ピリオドが始まる。向こうは鞠原さんを戻す。こちらは雪子の消耗が激しいので矢世依を入れ、またフォワード陣の中で消耗の激しかった麻依子を下げて留実子を入れる。
 
基本的にはこちらは第3ピリオドと同様のスピードゲームである。向こうはやはり天井方式ではあるが、それに加えて鞠原さんのディフェンスをかいくぐっての得点もある。点数は完全にシーソーゲームとなった。開始早々こちらが同点に追いつくが、すぐに向こうが突き放す。いったんこちらが逆転しても、また向こうが逆転する。
 
3分経ったところで向こうの大取さんが5ファウルで退場になる。このゲームは堅い守備を無理矢理押し開ける攻撃が多いため、どちらもファウルがかさんでいるのである。向こうは代わりに菱川さんを戻す。そして4分経ったところで今度はこちらの暢子が5ファウルで退場になる。暢子の退場は1年生の時に地区大会で1度やっただけで、ひじょうに珍しい。代わりに麻依子を入れるが麻依子もインターバルと合わせて6分休んで少しは体力が回復している。そして5分経った所で向こうの鞠原さんが5ファウルで退場になってしまった。
 
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退場者が続けて3人も出たことで審判がプレイヤーを集めて警告した。全員素直に「気をつけます」と答える。
 

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試合再開。向こうは鞠原さんの代わりにシューターの岡村さんを入れる。こちらも雪子を再投入する。しかしやはり審判に警告されたことから、このあとはどうしてもお互いに無理なプレイを避け、そのため攻めあぐねる展開となり、得点のペースも落ちる。鞠原さんが退場になった時点で得点は84対85だったのが、残り1分を切った時、まだ90対90であった。ここで向こうの攻撃から、岡村さんのスリーが外れたのを今江さんがリバウンドを取り、自らシュートを決めて92対90となる。
 
旭川が攻め上がる。残りは38.6秒である。こちらの攻撃のあと確実に向こうが1度攻撃するので、ここはできたら3点取りたい。向こうもそれが分かっているので千里に今江さんと菱川さんの2人がついてダブルチームする。
 
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それを見た雪子は相手の警戒の薄い麻依子にボールを送る。麻依子がフォローに来た海島さんを押しのけるようにして中に進入しシュートを撃つ。ゴールは入ったものの、審判はシュートを撃つ前に海島さんのファウルがあったとしてゴール無効とする。シュート動作に入る前のファウルだが、チームファウルが既に5つを越えているのでフリースローになる。
 
麻依子が審判からボールを受け取る。
 
1投目。きちんと決める。92対91。
 
2投目。リングの端で跳ね上がる。
 
そこに留実子が飛び込んで行きタップしようとしたのだが、菱川さんがその前でジャンプして妨害する。ゴールよりも上のラインでふたりの手の先が争う。ボールは結果的に下にそのまま落ちてきたのだが、審判が笛を吹く。
 
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審判は菱川さんのファウルを取った。
 
留実子のフリースローとなる。
 
1投目。外れる!
 
留実子はフリースローはあまり得意ではないのである。
 
2投目。慎重にセットする。撃つ。
 
入る! 92対92。
 

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女の子たちの国体・少女編(3)

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