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■女の子たちの秋の風(7)

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星乃の離脱で、ピリピリしていた空気が随分やわらいだ感じがあった。現在の代表候補の中で、富田さんの実力不足は明確で、本人も勉強のためにここに居るという意識が強いようだ。そうなると、落とされるのはあと1人である。スモールフォワードの星乃が離脱したことで、もうひとり落とされるのはパワーフォワードの玲央美・江美子・百合絵・桂華の中の1人だろうという空気が、少なくとも江美子・百合絵・桂華の3人の中にはあった。玲央美は平常心だ。実際彼女のプレイを見たら彼女を入れない訳が無いと思えた。
 
やがて3日間の練習が終わり、15日(祝)の夕方、全員丸く集まって座るように言われる。
 
「ではU18代表を発表します」
と高居さんが言う。
 
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「今回このメンバーの中から、残念ながらインドネシアに連れていけないのは、1人はセンターの富田さん」
 
「はい。今回はたくさんみなさんの素晴らしいプレイを見させて頂きました。この成果を次の機会に活かしたいと思います」
と富田さんは言った。
 
しかし彼女はこの春から随分進化した。ウィンターカップでは怖い存在である。
 
メンバーの中に緊張が走る。
 
「もうひとりはスモールフォワードの大秋さん」
と高居さんが言うと
 
「えーー!?」
という声が上がる。スモールフォワードの星乃が離脱したのに、もうひとりスモールフォワードを外すというのは、ここにいたメンバーの半数以上にとって意外すぎる結論であった。
 
「スモールフォワードは元々3人しか招集されていなかったのですが、それでは前田さん1人になるんですか?」
とポイントガードの早苗が質問する。
 
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「それですが、現在パワーフォワードとして登録されている佐藤さんをスモールフォワード登録に変更します」
と高居さんは言った。
 
確かに彼女はP高校では181cmの長身なのでセンター登録だが、インターハイでアシスト女王を取ったことにも象徴されるように、元々器用な選手なので、性格的にはむしろスモールフォワードあるいはシューティングガード向きなのである。
 
(大秋)メイが発言する。
「私は昨日高居さんと片平コーチから言われました。実際今回ずっと合宿に参加していて自分の実力不足を痛感していました。また鍛え直して頑張りたいと思います」
 
どうも顔を見ていると、キャプテンの朋美、副キャプテンの彰恵、そしてポジションが変更になる玲央美には事前に言ってあったようである。昨日メイに通告されたということは、恐らくこの合宿が始まる前にほぼ決定していて今回の合宿の様子を見て、特に調子を落としたり故障している選手が居ないのを確認の上通告したのだろう。
 
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千里はそう思いながらも、メイのように上手い選手でさえ落とされるということに、この競争のレベルの高さを再認識した。
 
「みんなが海外遠征に行っている間に特訓して国体とウィンターカップの2冠を取らせてもらおうかな」
などとメイは言っていた。落選を通告された時はショックだったろうが、一晩寝て何とか気持ちの整理を(無理矢理)付けたのだろう。
 
「なお背番号は一連番号にしなければならないので、17番の橋田さんの背番号を竹宮さんが付けていた9番に変更します。新しいユニフォームは次の合宿までに用意しておきます」
と高居さんは補足した。つまりこういう背番号になる訳である。
 
4.入野(PG) 5.前田(SF) 6.鶴田(PG) 7.村山(SG) 8.中折(SG) 9.橋田(PF) 10.佐藤(SF) 11.鞠原(PF) 12.大野(PF) 13.森下(C) 14.中丸(C) 15.熊野(C)
 
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同じ9月15日夕方。東京、&&エージェンシー。
 
「XANFASを結成した後、あまりにも変動が激しすぎたので、ちょっと占い師さんに相談したら、名前の画数がよくないと言われました。それで今日の大安吉日、名前を XANFUS と改めて、再度結成式を開きたいと思います」
と斉藤社長が言った。
 
集まっているのは、こういうメンバーである。
 
ソプラノ 音羽(本名桂木織絵)
アルト  光帆(本名吉野美来)
  ふたりともPatrol Girls臨時参加経験あり
 
ギター 三毛(Parking Serviceのミッキー)Purple Chase
ベース 騎氏(ミッキーの友人の貴子)Purple Chase
キーボード 黒羽(元リュークガールズ。本名升山黒美)Black Cats
ドラムス 白雪(黒美の友人。本名黒井由妃)Black Cats
 
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「AがUに変わるんですか?」
「うん。姓名判断で見ると画数が XANFUSにした方がいいらしい。読み方は今までと同じで『ザンファス』」
 
「へー。画数とか意味があるんですかねー」
と三毛(みけ)は疑問なようだが、
 
「でもほんとに色々ありすぎましたよ」
と白雪(はくせつ)はいう。黒羽も頷いている。彼女はまだ大きな声が出せないし、あまり喉に負担を掛けないように長時間の歌唱を避けている。
 
「これだけ色々あったら誰か性転換しても驚かないかも」
「ああ、どうせなら2〜3人性転換しちゃう?」
「だけど男も色々たいへんみたいだよ」
 
「楽器担当の4人はなんか猫っぽい名前ですね」
と騎氏が言う。
 
「あ、思った思った」
と白雪。
 
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「ミケネコ、キジネコ、クロネコ、シロネコ」
 
「出身バンドがPurple ChaseとBlack Catsだから、合成してPurple Catsとか名乗るのもいいかもね」
「じゃ、それ裏の名前で」
「じゃ裏のメンバー名も作ろう」
「ほほお」
「アルファベットで、mike(ミケ), kiji(キジ), noir(ノワール), yuki(ユキ)」
と由妃。
 
「なぜ黒羽だけフランス語?」
「うーん。語呂の問題」
などと由妃は言っている。
 
「ボーカルのふたりは?」
「メンバーの中でいちばん若いから子猫ちゃんということでキティとプッシー」
 
「いや、それどちらも問題がある」
 
「プッシーじゃレスビアンみたいだよ」
「あんたたちレズっけは?」
 
「無いと思います」
と光帆と音羽は即答したものの、音羽は桃香との甘い記憶が脳内に蘇ってドキドキした。
 
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千里たちの合宿が終わりU18代表が発表されたのは17時頃であった。それで解散になるのだが、この日の内に帰られる子は帰るが、この時刻からは帰ることができない、千里・玲央美、渚紗(秋田)・早苗(山形)、そして帰ることは不可能ではないが到着が遅くなってしまう愛媛の江美子(19:53の新幹線に乗ると0:53に松山にたどり着ける)の5人は1泊してから明日帰ることにしていた。
 
それでその5人で一緒に夕食でも食べようよと言い、早苗の希望で中華料理屋さんに入り、おしゃべりしながら御飯を食べた。
 
「男子のU18アジア選手権が4位だったので、上の方はまた揉めてるみたい」
「揉めてるって?」
「責任のなすりつけあい」
「あぁぁ」
「3位までに入っていれば来年のU19世界選手権に行けたからね」
「3位決定戦が7点差で負けたから惜しかったんだけどね」
「3位と4位では天国と地獄だもん」
 
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「これで私たちもメダル取れなかったら、上はかなりやばいんじゃないかなあ」
「で、私たち勝てるんだっけ?」
「まあ、自分たちができる全てをぶつけるしかないけどね」
 
そんな不穏な話をしていた時、千里は唐突に声を掛けられる。
 
「あら、千里じゃん」
 
千里は黙殺しようと思ったのだが、返事をしないでいると、いきなり後ろから抱きつかれた。
 
「雨宮先生、痴漢で訴えますよ!」
「あんたが返事しないのが悪い」
 
「缶詰になって曲を作っておられるかと思いました」
「今日はちょっと人間を作って来たのよ」
「プラモデルか何かですか?」
「あんた、人間は卵子と精子を結合させてできるっての知らないの?」
 
そんな会話をしていたら、早苗が
「あの、もしかして、ワンティスの雨宮三森さんですか?」
と尋ねる。
 
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「うん。そうだけど」
「すごーい! ワンティス好きなんです。サインください」
と早苗が言うので、雨宮先生はちょっとご機嫌になり、早苗の生徒手帳にサインを書いてあげた。
 
「ジャージ着てるけど、あんたたちバスケットの選手?」
と雨宮先生。
「はい、そうです!」
と早苗。
「千里のチームメイト?」
と雨宮先生。
「日本代表ですよ」
と千里。
「へー、あんた日本代表になったんだ?」
「1時間ほど前に言われました」
「北京オリンピックにでも出るの?」
「それは先月終わりました。11月のU18アジア選手権です」
 
「ふーん」
と言ってから雨宮先生はサインした早苗の生徒手帳を見る。
 
「山形市立Y実業。あんた、山形なんだ?」
「はい」
 
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「ね、聞いてる? 山形の月山の頂上にバスケットのゴールがあって、あそこの神社にお参りしてシュートを決めると、バスケット選手にご利益があるんだってよ。あんたたち日本代表なら、お参りに行って来ない?」
 
と雨宮先生は唐突に言った。
 
「月山は今日が閉山祭だったんです」
と千里は言う。
 
「あら、神社無くなっちゃったの?」
「無くなりませんけど、冬の間は一般の人はとても行けなくなるので、9月15日で参拝終了なんですよ。次は来年の7月です」
 
「でも来年の7月じゃ11月の大会に間に合わないじゃん。そうだ。9月15日までというのなら、今日中に行けばいいんじゃない?」
 
「どうやって行くんです」
 
雨宮先生は自分の携帯で何か調べているようだった。
 
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「18:41の新幹線に飛び乗ると20:23に東京に着く。20:36の山形新幹線に乗り継ぐと23:21に山形駅にたどり着く。そこから月山8合目まで車で走る」
 
「山形駅から4時間かかると思います」
と千里。
「8合目から山頂までどのくらい掛かる?」
と雨宮先生。
「慣れている人で2時間半ですね」
と千里。
 
「じゃ山形駅から8合目まで2時間半で行って、8合目から山頂まで2時間で歩けば、今日の28時頃に山頂にたどり着ける」
 
「1日は24時までですけど」
「朝になるまでは今日のうちよ。さ、行くよ」
 
「先生だけどうぞ」
「あんたたちも来るに決まってるじゃん」
 
千里はため息をついた。
 
「もしかして私もですか?」
と江美子が訊く。
 
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「当然。あんたも日本代表なんでしょ?戦勝祈願」
 

全員雨宮先生の勢いに飲まれてしまい、そのまま名古屋駅に移動して取り敢えず新幹線に飛び乗った。結局18:19の新幹線に間に合ってしまった。
 
「東京到着が20:03だから20:16の《やまびこ》に間に合うな」
と雨宮先生は時刻表を見ながら言う。
 
「そうすると福島に21:53に着く。そこから車で走ると月山8合目に着くのは多分26時。閉山しても道路は通れるよね?」
 
(つまり当初予定していた山形新幹線で山形まで行くよりも福島から車で走った方が早く月山に着く)
 
「道路自体は確か10月中旬まで走れたはずです」
「よし」
 
それで雨宮先生は毛利さんを呼びだそうとしたようだが、出たのは新島さんのようであった。
 
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「先生、今どこですか?」
「あっと、今東京方面に向かっている所よ」
 
うーん。確かに嘘ではない。東京を通過予定だが!
 
「いつ戻られるんですか?」
「明日には戻るわよ。今千里と一緒だから」
「ああ、千里ちゃんと一緒なら安心かな」
 
雨宮先生はぶつぶつ言いながら電話を切る。
 
「千里、あんたの知り合いで東京近辺か東北方面に居て、車の運転のうまい子居ない?」
と雨宮先生は訊いた。
 
千里は心当たりがあったものの、あまり呼び出したくない人である。しかし運転技術は高い。少なくとも毛利さんとは比べものにならないほどうまい。それで鶴岡の瀬高さんに電話してみると
 
「行く行く! 大丈夫。福島から月山まで3時間で連れて行ってあげるよ」
などと言っている。
 
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「瀬高さん。行き先が天国にならないようにだけはお願いします」
と千里が言うと
「任せといてよ。事故なんて、たまにしか起こさないから」
などと言っている。
 
「こちら人数が6人いるんですが」
「じゃ走り仲間で(ルノー)エスパス持ってる子がいるから、それを借りてくよ。あれ7人乗りだから」
「すみません。お手数おかけします」
 

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千里が山に登るには防寒具やトレッキングシューズ、杖などが必要だと言うと用意させると言って、東京付近にいる知り合いに電話して買わせて東京駅で受け取ることになった。全員の靴のサイズを訊いていたが「あんたたちサイズがすげー!さすが日本代表」などと言っていた。
 
「でも雨宮さんも割と足が大きいみたい」
という声が出る。
 
「まあ私は男だから26cmは普通よ」
と雨宮先生が言うと
 
「あ、私たちもよくあんた男だろって言われるね」
 
などと江美子が言っている。どうも江美子は先生の性別を知らないようだ。
 

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練習疲れが出て全員道中は東京駅の乗換時以外はずっと寝ていた。東京駅で全員の靴や服などを持って来てくれていたのはKARIONの蘭子であった。千里が軽く会釈すると向こうも会釈を返してくれたが、むろん彼女はこちらを知らないはずだ。千里は「ふーん、この子、雨宮先生と何か関わっているんだっけ?」と漠然と考えた。その後東北新幹線に乗り、福島駅で22時頃下りると、駅では瀬高さんが待っている。
 
「結局この子(Renault Espace IV)のオーナーの友だちにここまで運転してきてもらったのよ。私は道中寝てた」
などと瀬高さんは言っている。
 
「充分睡眠取ってるなら安心ね。お友達は?」
「福島まで出てきたついでに新幹線で東京まで行った。明日新幹線で鶴岡に戻るらしい」
 
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「じゃそのお友達に車の借り賃も含めて東京までの往復運賃宿泊費でこれ渡してくれない?」
と言って雨宮先生が封筒を渡すので瀬高さんが預かる。
 
瀬高さんが運転席、雨宮先生が助手席、2列目に江美子・千里・玲央美、3列目に早苗・渚紗と乗って出発した。取り敢えず雨宮先生の隣に若い女の子を座らせるわけにはいかない!
 
「この車、大きい割にパワーがあるわね」
と雨宮先生が言う。
 
「3.5L V6エンジンで240馬力ですから」
と瀬高さん。
 
「微妙な気がする」
「この車ボディがプラスチックだから軽いんですよ。だから馬力としてはエルグランド並みでも実際はかなり走るんです。峠にも強いですよ」
「今日の道は峠よね」
「まあ特に最後の20kmがですね」
と瀬高さんは楽しそうに言っている。
 
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「走ったことある?」
「ええ。何十回も走りました。目をつぶっても走れますよ」
「じゃ目をつぶって走って」
「いいですよ」
と瀬高さんは言ったが、千里が
「ちゃんと目は開けててください!」
と釘を刺した。
 

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女の子たちの秋の風(7)

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