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■女の子たちの秋の風(4)

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9月5日(金)。成田空港で入国審査を済ませた、男1人・女2人(?)の姿があった。「海外逃亡」していた雨宮先生、それを連れ戻しにニューヨークまで行ったものの雨宮先生に丸め込まれてしまった毛利、そしてふたりを強引に連れ戻してきた新島である。
 
「それで雨宮先生、東京のホテルのスイートルームを今月いっぱいまで予約しています。取り敢えず今月中に仕上げないといけない曲が50曲あります」
 
「50曲はさすがに無茶!私は上島じゃないし」
「ご自分で書く曲を5−6曲決めてください。後は適当に割り振ります」
「まあ5−6曲なら何とかなるか」
 
「また***と***と***の制作には、雨宮先生ご自身が顔を出してもらわないといけません。雑用は田船姉妹がやりますから。あちらはちょうどアルバム制作が終わったので時間が取れるみたいですし」
 
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と成田で新島さんは雨宮先生に言った。
 
「姉妹って、弟の方は性転換して妹になったんだっけ?」
「あっと男だった。姉弟ですね」
 
田船姉弟とは、バインディング・スクリューの田船智史と、その姉で作曲家の田船美玲である。同バンドのアルバムは昨日マスタリングが終わったらしい。まだ色々残務はあるものの、何とか他のことにも時間が取れるようだ。
 
「毛利君は別途千葉のビジネスホテルのシングルルームをやはり今月いっぱいまで予約しているから。あんたにもたくさん仕事溜まってるよ。ちなみにふたりとも携帯電話とクレジットカードとパスポートは私が預かるからね」
 
「俺もスイートルームが良かったなあ」
「代金は個人負担だけど」
 
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「ちょっと私のも個人負担なの?」
と雨宮さんが抗議するが
「億の収入がある方が何言ってるんですか?」
と新島さんは一蹴する。
 
「俺1ヶ月ものホテル代、とても払えねえよ」
と毛利はむしろ悲鳴をあげているが
「その分、頑張ってお仕事しなさいよ」
とこちらも新島さんは一蹴する。
 
「だけど私たち、ずっとアメリカに居てシャワーとかばかりだったから、温泉とかにも入りたいなあ」
と雨宮先生は言う。
 
「じゃ大江戸温泉物語で」
「せめて鬼怒川か草津にでも行かせてよ」
「遠すぎます」
「じゃ熱海」
「じゃ1泊だけ。私が付いて行きますから。毛利君は千葉に直行ね。もうすぐ★★レコードの高山さんが来ると思うから。彼と一緒に千葉に行って」
 
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「俺は熱海には行けないの?」
「仕事が片付いたら行ってもいいよ。自費でね」
 

5日の夜、帰国した新島さんから連絡を受けた千里はホッとした。今夜の分まで千里が作業して、明日以降は新島さんがするということだった。
 
「でもこれ凄まじい作業でした。新島さん、助手が必要ですよ」
と千里は言う。
 
「そんな気もするんだけどねえ。こういう仕事っていつ突然無くなるかも知れないから、あまり人を雇いたくないのよ」
「確かに人は簡単に解雇できませんもんね。でもひとりでやっていて新島さんが病気とかになった時はまずいですよ」
 
「そうだなあ。誰かいい人いないかなあ」
 
千里とそんなやりとりをして電話を切った新島は近くに雨宮先生が居ないことに気付く。ぎゃっ。逃げた? と思って廊下に出ると仲居さんがいたので連れを見なかったか尋ねた。
 
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「お連れ様でしたら大浴場に行かれましたよ」
「ああ、お風呂か。良かった。締め切り過ぎているのを監視して仕事させているので」
 
「わあ、たいへんですねぇ!」
と40代くらいの仲居さんは言った。
 
30分ほどして戻って来た雨宮先生は手にCDを持っている。
 
「外出なさったんですか?」
「いや。お風呂の中でちょっと面白い子に会ってね」
 
と言ってそのCDをノートパソコンに掛けて聴いている。
 
「これはいい! こういうやり方は私も思いつかなかった」
と雨宮先生は言っている。
 
「そんなにいいですか?」
「ちょっと聴いてごらんよ」
 
と言うので新島も聴いてみた。
 
「これは面白いですね!」
 
新島が見るとジャケットには女の子2人の写真が映っていて《ローズ+リリー》と書かれている。
 
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「この左側に立っている子は私が去年から目を付けていた子なのよ。でも勝手にCD作るとはけしからん」
「雨宮先生が海外に出ていて連絡がつかなかったからなんじゃないですか?」
「うっ」
 
新島はCDを裏返してクレジットを見ている。
 
「雀レコードか。インディーズですね」
「よし。東京に戻るよ」
「へ?」
 
「運転してくれる? 私さっきビール飲んじゃったから」
「もちろんです。どこに行くんですか?」
「上島んとこ」
 
「へー」
 
それで旅館に頼んでレンタカーを手配してもらい、新島が運転して車は東京の上島雷太の自宅に向かった。
 
「この子たちのデビュー曲を上島に書かせてメジャーデビューさせよう」
と雨宮先生。
 
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「雨宮先生がご自身で書かないんですか?」
「私が書くのは実力派のユニットよ。この子たちはむしろ大衆向け。だったら上島の名前を使ったほうがいい」
 
「AYAとダブりません?」
「そこをどう書き分けるかお手並みを拝見したいね」
 

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9月6-7日の週末、福岡C学園のバスケチームがまた北海道にやってきた。
 
昨年、旭川C学園開校を前にして周囲の学校との親睦を図るということで福岡C学園のバスケ部、兵庫C学園のサッカー部、東京C学園のコーラス部が来て周辺の学校と親善試合・合同演奏会をしたのだが、建設中の校舎が火災で焼失して開校が1年延期になった。その建て直していた新しい校舎がほぼ完成したとのことで、再び合同イベントをすることになったのである。
 
今回C学園のバスケ部は金曜日の午後の飛行機(福岡15:00→17:10新千歳)でやってきて、札幌で1泊。土曜日は午前中に札幌P高校との親善試合をしてそのあと旭川に移動、午後はL女子高との親善試合をする。そして旭川で1泊して、日曜日の午前中にM高校・A商業・R高校の合同チームとの親善試合をし、午後にN高校との親善試合をしてから、夕方の羽田経由便(旭川17:05→18:50羽田19:40→21:35福岡)で帰るというスケジュールである。
 
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やってくるのは福岡からは選手18人と監督・コーチ2名・理事長さんの22名で結構な費用が掛かっていると思われたが、やはり昨年火事を起こして大騒ぎにになったことのお詫びも兼ねて今回またイベントを行ったようである。
 
N高校バスケ部女子有志は6日朝から札幌に行ってP高校との試合を見学させてもらい、午後はL女子高の試合、翌日午前中もMAR合同チームとの試合を見学した。今回L女子高との試合はL女子高の第2体育館を使ったが、MAR合同チームとの試合には、旭川C学園のバスケ専用体育館を使用した。
 

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「見たことがあるような体育館だ」
という声がN高バスケ部女子の間から出る。
 
「冬の間、私たちが仮設体育館として使用していたものだよね」
「それをそのままここにお引っ越ししたから」
「元々仮設として作ったものだけどいいのかな」
「4−5年後に建て直す予定らしいよ」
「やはり開校までの費用節約かな」
 
「そちらの学校で朱雀と呼んでいたというお話を聞いて、フェニックスという名前を付けたんですよ」
とN高校のメンバーを案内してくれた向こうの理事長さんが説明してくれた。
 
「いいかも知れない」
「火の中から再生するんですよね」
「今旭川のバスケットはレベルが高いから、その一角に食い込めるように頑張りますよ」
と理事長さんは言ったが
 
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「いや、あまり頑張らなくていいです」
などと声も出て、理事長さんは笑っていた。
 

既に落成している校舎も見せてもらった。
 
「新しい木の香りがいいですね」
「結局そちらの新しい朱雀と同様、江差のヒバを使いました。地産地消ということで。でも再度木で建築するというのの許可を取るのに苦労したんですよ」
「確かに大火事を出した後では」
「基準よりかなり多くスプリンクラーとか設置していますし、壁とか和室の畳とかも耐火加工をしていますから」
と理事長さんは説明してくれた。
 
「介護実習室なんてあるんですね」
 
「実を言うとですね。あの火事を起こした加害者の妹さんたちが、うちの被害額の弁済をしてくれましてね。でも未成年の彼女たちが頑張ってお金を作ってくれたものを単に受け取っていいものかと、こちらも悩みました。それで妹さんたちと相談して、この介護実習施設を作ることにしたんですよ」
 
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「へー!」
「今妹さんが働いておられる牧場に何人もの障碍者の方がおられるそうで、そういう人たちの助けをしたいというのはずっと考えていたらしいです」
「偉いなあ」
 
「でもやはり本当に払ったんですか!」
「なんか完済したという噂はありましたけど」
 
「どうやって払ったんですか?」
「内容は聞いておりますが、そのことで騒がれたくないということで、公表しない約束になっているんですよ」
「へー」
 
「全国の障碍者の方に勇気を与える活動をなさっていますよ」
「へー!!!」
 

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9月7日のC学園戦にN高校はこういうメンツで臨んだ。
 
PG 雪子(5) 永子(13) 愛実(16) SG 結里(8) ソフィア(9) SF 絵津子(7) 海音(17) 薫(21) PF 志緒(10) 蘭(11) 来未(12) 不二子(14) 川南(19) 葉月(20) C 揚羽(4) リリカ(6) 耶麻都(15) 紅鹿(18)
 
現時点での1−2年生のほぼベスト15に、インターハイ本戦に出場できなかった3年生川南・葉月・薫を加えたメンバーである。川南・葉月にとってはこれが事実上の引退試合ということになった。
 
「千里や暢子は出ないの?」
とオーダー表を見た桂華から言われたが
「東京体育館でね」
と千里は言っておいた。
 
向こうはインターハイのメンバーから一部の3年生が引退したほかはだいたい似たようなメンツに1−2年生を加えていた。
 
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桂華は千里たちが出ないのを残念そうに言ったが、試合は絵津子・ソフィア・不二子の1年生トリオが大活躍する。最初様子見な感じのプレイで始めたC学園はすぐに本気バリバリになる。しかし簡単にはこの3人の破壊力を停めることはできなかった。更に薫が巧みなプレイで着実に得点していくし、結里のスリーもけっこう入る。耶麻都も紅鹿もリバウンドで頑張り、C学園のサクラには負けるものの結構ボールを取っていた。
 
試合は最後に桂華たちC学園の3年生がかなり本気になって逆転勝ちしたものの、「あんたら強ぇ〜」と言って桂華は絵津子たちを褒めていた。
 
川南も6点、葉月も2点取ることができて、2人にとっては良い想い出になったようであった。
 
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「ところで今回は昭子ちゃん出なかったのね」
と桂華が言った。
「性転換手術受けたら出してやると言ってる」
と暢子が答えると
「それはやはりタイ行きの航空券を持たせて」
「手術の予約も入れておいてあげて」
などと言われて、本人はまた俯いて恥ずかしそうな顔をしていた。
 

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千里は一週間学校を休んで、作曲家さんたちの事務連絡をしながらたくさん問題集を解いていたおかげで、結果的にこの1週間で今まであまりよく分かっていなかったことが随分分かるようになった。それで、9月9-10日の1学期末テストは、ひじょうに良い点数を取ることができた。ここ数ヶ月、受験生とは思えないほどバスケ中心の生活を送っていたのに!
 
「千里、数学の点数が学年5位じゃん。どうしたの?」
 
「うん。開眼したかな。いや、オーストラリアでは夜間ネットもできないし(正確には機械に弱い千里はネットのつなぎ方が分からなかった)、暇だからずっと微積分の本を読んでたのよ。そしたら定積分って意味が分かったら楽しくてさ。それを解くには不定積分が分からないといけないし、不定積分は微分の逆算だから《分かんねー》と思って飛ばしていた微分をしっかり勉強し直して、やっと意味が分かったのよね。そしたら、その付近は全部すいすい解けるじゃん。連立一次方程式や因数分解より、よっぽど簡単なんだもん」
 
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「そうそう。微積分って意味が分かるかどうかだけなのよ。分かっちゃうと、実に簡単な話なんだよね」
と数学が学年1位の鮎奈は言っていた。
 
「dy=何とかdx って、つまりdxだけ小人(こびと)さんが動いたら、dyだけ値が変化するって意味だよね?」
 
「うん。数学的に正確な定義の仕方より、その考え方の方が分かりやすい。だからdy/dx = f(x) みたいな本来の書き方より dy = f(x)dx のような方便的書き方の方が直感的だし感覚が掴みやすいんだよ」
 
「それからここ一週間はベクトル関係の問題をずっとやってた。ベクトル算って、要するに複数の数式をまとめて書いただけなのね」
 
「うん。実はそういうことなんだよ」
「それが分かったら、なーんだと思っちゃった」
 
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「数学というのはね、お手伝いさんとは実は女中さんのことである、なんてのを難しいことばで説明する学問なんだよ」
「あ、そうかも」
 
「これ偉い数学者のことば」
「へー」
 

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「でも鮎奈、志望校のランクを落としたの?」
「6月の模試で漢文が悲惨で8月の模試では日本史があまりにも悲惨だったから。漢文はやばいから頑張ったけど日本史までは手が回らない」
 
鮎奈はこれまで旧帝大の医学部を志望校にしていたのだが、旧六の医学部に変更したのである。
 
「いっそ倫理とかに変更するとか?」
「それもまた辛いのよねー。それにこの段階になったら、地歴や政経を本気で勉強するより、それは悲惨にならない程度に頑張って英語や数学をしっかり勉強したい。ちょっと甘く見過ぎていた」
「大変だねー」
 
「千里、世界史覚えた?」
と梨乃が訊く。
 
「年数はだいぶ頭にたたき込んだ。みんな御免ね・ゲルマン民族の大移動 375年、非難爆発・フランス革命 1789年、威張れよ皇帝ナポレオン・ナポレオン皇帝就任 1804年、戦場に行く人よ・第一次世界大戦 1914年、ひとつ以降は王も従え・マグナカルタ 1158年」
 
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「マグナカルタは1215年」
「あれれ?」
「12を《ひとつ》と読んでるんだよね」
「《人に以降従え》と私は覚えた」
と蓮菜が言う。
 
「あ、そちらがいいかな」
「ひとにぎりのイチゴ・マグナカルタ」
と鳴美が言うが
「それ、マグナカルタとの関連が分からん」
と言われている。
 
「日本史のイチゴパンツ好きな織田信長本能寺に死す(1582)ってのも関連が分からないよね」
「あれは何となく覚えちゃうけどね」
 
「ナポレオンの百日天下は何の戦いで終わったか?」
と梨乃が訊く。
「え?分からない」
と千里。
 
「年数覚えたんじゃないの?」
「年数は覚えたけど、そんなナポレオンの百日咳とかのことまでは知らない」
 
京子が顔を机に埋めて笑っていた。
 
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女の子たちの秋の風(4)

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