[*
前頁][0
目次][#
次頁]
男子の決勝を経て、16時からまず女子の表彰式が行われ、優勝・準優勝・3位(2チーム)が表彰される。暢子は準優勝の賞状を受け取り、佐藤さんおよび3位になった2チームのキャプテンと堅い握手を交わした。
今回N高校のゲスト参加を認めてもらったのは、表には出していないが薫の性別問題が発端だったのだが、来年からは適当な大会の上位校に正式に出場を認めることにするかも、という話も出てきているようであった。
女子の表彰式の後は16時半からは男子Bの表彰式が行われるようであったが、P高校もN高校もそれは見ずに登別に移動した。これから4校リーグ戦をするのである。
P高校・N高校は室蘭で準決勝・決勝と激しい試合をして疲れている。一方のL女子高・Z高校は、今日はA大学および室蘭のクラブチームとのリーグ戦で10時から15時すぎまで3試合やっている。どちらも疲れているが、再度気合いを入れ直して、再びリーグ戦に臨んだ。試合は次のように進めた。
17:00-18:15 L-Z N-P
18:15-19:30 L-P Z-N
19:30-20:45 L-N Z-P
最初の時間帯のN高校−P高校戦だが、さっきその組合せで激闘をしたばかりなので、この試合は主力を外して1.5軍戦をすることにした。するとL女子−Z高校の方も午前中に一度やってるしということで、そちらも1.5軍戦にすることにした。それでこの試合はTOチームで来ている子たちをベンチに入れて代わりに主力がTOをした。暢子・千里・薫・寿絵でL−Z戦のスコアラーや24秒計係をして(審判はP高校の高田コーチ)、溝口・藤崎・登山・工藤でN−P戦の管理をした(審判はZ高校の尾白先生)。
第2戦はこの日のリーグ戦のいわばメイン・イベントだ。L女子高−P高校、Z高校−N高校ともに、お互いトップチームが出て、激しい戦いになる。
(L−Pの審判は南野コーチでZ高校のTOチーム、Z−Nの審判は瑞穂先生でP高校のTOチーム)
非公開で行っている気安さから、P高校は伊香さんにどんどんスリーを撃たせたし、L女子高も風谷さんを長時間出して対抗する。お互いの秘密兵器同士の戦いになった。試合は結構良い勝負になったが、最後はP高校が底力を見せて70対64でL女子高を振り切った。
N高校とZ高校の試合は、N高校相手だととにかく燃えるZ高校の面々が今日5試合目だというのにその疲れを見せない元気の良さで序盤、猛攻をしてくる。一時は15点差を付けられるが、こちらは体力の残っている1−2年生を積極的に起用して追いすがる。結局前半が終わった所で5点差まで詰め寄った。
後半は千里・暢子・薫が気力を振り絞って相手に対抗していく。お互い体力はもう尽きている状態で、本当に気力だけの勝負になる。さすがの千里も疲れてスリーの精度が落ちるが、後半投入したリリカが何とか体力が残っているので頑張ってリバウンドを取ってくれて、逆転に成功。最後は4点差で逃げ切った。
しかし試合が終わった後は全員疲れ果てて、床に伸びている子たち多数であった。
「男の目が無いところでないと、なかなかここまでできないね」
「男性の監督も若干居るけど」
「おじいさんはもう中性ということで」
という声があって、おじいさんに分類されてしまった宇田先生は苦笑していた。
最後の時間帯、L女子高はこの試合が事実上の高校ラスト・ファイトになる3年生中心のチームで出た。それでN高校もメグミ/敦子/寿絵/薫/睦子と3年生のみによるスターターで出て行った。
お互いに今日はもうくたくたに疲れているのだが、昨年6月以来日常的に夕方からの練習試合でたくさん対戦している相手だけに、結構和気藹々の雰囲気になっていく。途中で審判をしていたZ高校の尾白先生が「君たち、闘争心が無くなってる」と笑いながら言うほどの試合であった。
一方のZ高校−P高校の試合は激しい戦いになる。Z高校のメンツは今N高校と激戦を戦い、一時は床に伸びている子も居たのに、また気合いを入れ直して闘志を燃やして戦う。その闘志に敬意を表してP高校も主力が全力で戦う。佐藤さんや宮野さんは本当にクタクタに疲れているはずだが、松前さんたちとの対決に気力を振り絞っていた。
こちらの審判はN高校の宇田先生が務めていたが、激しい戦いに体力不足で付いていけない感じになったので後半は南野コーチに交代した(南野コーチは第2戦でも審判として40分走り回っている)。
「宇田先生、鍛錬不足ですよ」
とP高校の十勝先生に指摘されるので
「十勝さん、審判します?」
と言ったら向こうは笑っていた。さすがに60歳を越えるP高校の十勝監督・狩屋コーチには激しく体力を使う審判はさせられない。
最終的には20点差でP高校が勝ったものの選手たちも全員体力・精神力を使い切った感じであった(南野コーチもかなりバテていた)。
21時までに撤収しなければならないので、体力の残っている子たちを中心にみんなで用具の片付けと掃除をきちんとする。
それで全員で登別市内の焼肉屋さんに入り、合同の打ち上げをした。
修学旅行を振り替えてこちらに参加したZ高校の3年生たちは
「東京ディズニーランド楽しみにしてたけど、結果的にはこちらの方が楽しかったかも」
「やはり社会人とか大学生とかとやるのは凄い興奮した」
「最後にP高校と激戦したの、気持ち良かった!」
などと言っていた。Z高校の3年生の半数は今回の大会を最後に引退する。松前さんを含む何人かはウィンターカップまで頑張る予定らしい。
22時すぎに各々の宿に戻ったが、N高校のメンバーはみんな疲れ果ててお風呂にも入らずに爆睡した子が多かったようで、朝になってから起き出して温泉に入り、この3日間の疲れを癒やした。
「ところでソフィアの成長が凄いと思わない?」
とふたりだけの時、暢子は千里に訊いた。
「思う。短期間にここまで強くなるとは思わなかった。インハイ本戦に出したい気分」
と千里も答える。
「でもさ、ソフィアを本戦に出す場合、誰を外す?」
「うーん・・・」
「紙に書いてみようか?」
「うん」
ということでふたりとも紙に名前を書く。そして見せ合う。
それは一致していた。
「でもちょっと可哀想だよね」
「うん。2年連続マネージャー参加というのはね」
ふたりはその紙を部屋の灰皿のところで燃やしてしまった。
22日は朝ご飯をゆっくり食べてから、多くの子が再度温泉に入って疲れた筋肉を揉みほぐした上で10時すぎにバスに乗り込み帰途に就く。バスの中ではみんな熟睡していた。途中札幌で昼食を取った上で旭川には15時頃着いた。
練習は休みということにして解散したのだが、千里・暢子・雪子・薫・揚羽・絵津子・ソフィア・夏恋・睦子・敦子といった面々は黙って朱雀に入った。
「なんであんたたちここに来たのさ?」
「ちょっと忘れ物」
「私もです」
そういう訳で10人は勝手に練習を始めた。ちょうど5人・5人になれるので
雪子/千里/薫/暢子/揚羽
敦子/ソフィア/絵津子/夏恋/睦子
と組み分けして、試合形式で練習する。この3日間とても強い所とたくさん試合をして、みんな気持ちが高揚している。激しい戦いになる。練習のはずなのに、雪子も絵津子もけっこうなトリックプレイをして相手を翻弄する。
1時間くらいそれで対決してから、お互いに今の戦いや最近の幾つかの試合でのプレイの検討をする。「こういう場面はどうすべきか」というので、場面を再現してみんなで合議する。
するとそこに南野コーチが入って来た。
「私も混ぜてよ」
「いらしたんですか!」
「本当はこういう練習する時は学校関係者がいないといけないんだけどね」
「すみませーん!」
「まあ誰も居ないよりはマシかなと思って見てたよ」
南野コーチはN高校の講師の肩書きで教諭ではないので、本当は管理者にはなれないのだが、宇田先生がかなり疲れていたようだったので声を掛けずに自分が残ってくれたのだろう。
それで南野コーチも入って、各々の場面の対処法を検討する。
特に大学生チームは結構複雑なコンビネーション・プレイを仕掛けて来て、現場では何をされたか分からなかったという意見もあったので、一応相手のプレイを把握していた雪子や千里が中心になって解析する。それでこういう場面はこう動けば相手の自由にはできないという対処例を南野コーチが教えてくれる。こういう検討会が結局2時間ほど続いた。
17時すぎ、千里はそれまで特にひどく疲れている気がしなかったのに突然物凄いパワーを奪われるような感覚を覚えた。異変に気付いた暢子が
「千里、どうした?」
と尋ねる。
「分からない。何か急に体力が奪われていく感じで」
「風邪でも引いた?」
「この時期に風邪引くのはやばいね。千里ちゃんすぐ帰って休みなさい」
と南野コーチが言うので、千里は素直に帰ることにした。
ところが帰宅するのに旭川駅まで来たら、そこに唐突に佳穂さんが姿を現した。
「千里ちゃん、ちょっと出羽まで来てくれる?」
「えっと、いつですか?」
「今から」
「え〜〜!?」
それで叔母には
「ちょっと突然呼び出しがあったので」
と告げて千里はそのまま18時のスーパーカムイ46号に乗り込む。19:20に札幌に着き、19:29のスーパー北斗22号に乗って22:43に函館の五稜郭駅に着く。途中東室蘭を過ぎたあたりで、千里は突然体力が回復するのを感じた。
五稜郭駅からタクシーでフェリーターミナルに移動して23:20の青函フェリーに飛び乗り、青森港に3:05に到着する。千里はフェリーの中でひたすら寝ていた。フェリーを降りると、以前にも会った鶴岡の霊能者・瀬高さんが愛車RX-7で待ってくれている。
「わざわざ来てくださったんですか!ありがとうございます!」
「うん。深夜のドライブ楽しんだだけ。行くよ」
ということで千里は彼女の車の助手席に乗り込む。瀬高さんは夜中だというのをいいことに随分飛ばした。
「高速って、自動取り締まり装置とかがあるんじゃないんですか?」
「ORBISね。東北地方の高速のORBISは、どこにあるかは全部頭の中に入っているから大丈夫よ」
「えー!?」
そのあとしばらく千里はけっこうな恐怖を味わうことになる。トラックがトラックを追い越している最中で走行車線・追越車線の双方がふさがっている所を路側帯を使って一気に抜いたりする。
「危ないですよ!」
「平気、平気。ぶつけたことは2〜3度しか無いから」
「ぶつけたんですか!?」
「うん。でも死ななかったよ。一度防護壁に激突した時はさすがに死んだ!と思ったんだけど卵巣が片方潰れて摘出されただけで済んだし」
「それ無茶苦茶重傷なのでは?」
「いや、卵巣摘出されたら、女じゃなくなって、このまま男に性転換しなきゃいけないかと思ったけど、もう片方の卵巣は無事みたいだし、生理も2ヶ月に1度になるかと思ったらちゃんと毎月来てるし」
「それ生きてたことを感謝しないといけないレベルという気がしますよ」
「私たちってやっぱ出羽の人たちの守護があるから簡単には死なないんじゃないかなあ」
「出羽の人の姿を見たんですか?」
「うん。手術されていた時に佳穂さんが出てきて『1度だけだよ』と言ってた気がするのよね。どういう意味だろ?」
「それってやはり本当は死んでいたんだと思います」