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第2ピリオド、寿絵がマークすると寿絵はマークに関しては夏恋ほどうまくないので、かなり抜かれる。しかしそのプレイをじっとベンチに座った夏恋が見つめていた。このピリオドは風谷さんがますます『旋風を吹かせて』28対18と大きくリードする。前半を終えて54対38と大差が付いてしまう。
第3ピリオド。夏恋を戻す。暢子は少し休ませて絵津子を入れる。絵津子は伸び盛りなので、いつも練習試合をして見ているとはいっても向こうが彼女のプレイを読み切れない場面が多々あった。また夏恋は第2ピリオドで寿絵との対決を充分見てかなりシミュレーションをしていたようで、このピリオドでやっと風谷さんを止めるようになる。それでこのピリオドは20対24とこちらがリードを奪い、ここまで74対62と少し点差を詰める。
第4ピリオド。暢子が戻ってN高校は猛攻を仕掛ける。夏恋は相変わらず風谷さんをピタリとマークして仕事をさせない。それで第4ピリオド前半ではとうとう彼女は1点も取れなかった。5分過ぎた所で82対79と点差が3点まで縮んだ。
ここで向こうは風谷さんを下げて同じ1年の黒浜さんを入れる。黒浜さんは何と夏恋封じで動いた。夏恋はこれまで相手を攪乱したり、また相手の強い選手をマークしたりする仕事をよくこなしてくれた。自分が強烈マークされる側になるのは初体験だったようで最初戸惑っていた。
しかし夏恋が居るのと居ないのとでは、作戦のバリエーションの数が段違いになるのである。夏恋に専任マークを付けたL女子高の作戦は、よくお互いを知っているチームならではの好判断だ。
これで一時は点差が90対84と広がり掛けるが、N高校も夏恋に替えて揚羽を投入し、そこから逆に猛攻を掛けて残り1分の所で92対90と2点差まで詰め寄る。
相手が攻め上がってくる。しかし相手の一瞬の隙を狙って千里がパスカット。そのまま自ら速攻で攻め上がる。スリーポイントラインの手前で停まって華麗なフォームでシュートを撃つ。92対93でついに逆転!残り45秒。
相手が速攻気味に攻めてくる。大波さんが溝口さんのコンビでピック&ポップを決めて94対93。再逆転。残り32秒。
こちらは相手にあまり時間を残したくないのでメグミがゆっくりと攻め上がる。相手は溝口さんが千里のマークに、大波さんが暢子のマークに入り、残り3人はゾーンを作っている。
メグミから揚羽にボールが渡る。揚羽はそのままドライブインを試みるが、藤崎さんに止められる。それで暢子にパスする。暢子がシュートを撃つものの鳥嶋さんにブロックされる。留実子がこぼれ玉を取って千里にパスする。千里が溝口さんを振り切ってシュートするが、鳥嶋さんは根性でブロックする。しかしそのこぼれ玉を取った留実子が自らボールをゴールに放り込んだ。
94対95。残りは10秒。
相手がスローインから攻め上がって来ようとするがN高校はプレスに行く。これでボールをフロントコートに運ぶのが遅れる。ボールがこちらのコートに来た時はもう残り4秒である。ボールを持っている溝口さんがそのまま攻め入ろうとするものの暢子が必死で止める。溝口さんが大波さんにパスしようとしたが、揚羽がそこに飛び出してカット。ボールが転がる。
そのボールに飛びついたのは黒浜さんだった。
彼女にはマークが付いていなかった。しかしもう時間が無い。彼女はそのままシュート動作に入る。距離は8m程ある。千里でも精度が落ちる距離である。
そして彼女は試合終了のブザーと同時にシュートを放った。
みんながボールの行方を見守る。ボールはバックボードに当たり、リングに当たって跳ね上がり、更にバックボードに当たったがそこからまた少し跳ね上がった末にゴールに飛び込んだ。
審判がゴールを認めるジェスチャーをする。
千里は天を仰いだ。
整列する。
「97対95で旭川L女子高の勝ち」
「ありがとうございました」
お互い握手したり肩を叩いたりする。
「マイちゃん、次の練習試合では、風谷さん披露してよ」
と千里は溝口さんに言った。
「でも気付いてたね」
「昨日のZ高校戦で気付いたけど、実際のプレイをほとんど見てなかったから対策が充分取れなかったよ」
「対策を取られないように、あまり出さなかったんだよ。まだ弱点が多いから」
「そうだろうとは思ったけどね」
「でも千里ちゃんたちも隠し球持ってるじゃん」
「え?」
「薫ちゃんはとんでもない隠し球」
と溝口さんが言うが
「あの子は玉を隠したんじゃなくて取っちゃったから」
と暢子が言うと、溝口さんは笑いを噛み殺していた。
これでL女子高・N高校ともに1勝1敗になる。つまり、今年の決勝リーグは第二戦まで終わって、4校が全部1勝1敗で並ぶという驚きの展開になったのであった。
「つまり次の試合に勝った側がインターハイに行けるということだな」
と暢子が言う。
「分かりやすい勝負だよね」
と千里。
「去年は複雑すぎて訳が分からなかった」
と暢子。
「決戦まで3時間ちょっと。みんな良く休んで体調を整えよう」
と南野コーチも言った。
女子が休んでいる間に男子の試合が行われる。
N高校は昨日札幌B高校に敗れたもののこの試合で帯広C学園に勝って望みをつないだ。ここまで札幌Y高校2勝、B高校とN高校の1勝1敗、C学園の2敗である。2敗のC学園も、最終戦でB高校に勝った上でY高校が勝てばY高校確定の上で残り3校が1勝2敗の得失点勝負になる可能性があるので、まだインターハイ進出の可能性は消えていない。逆にY高校も最終戦でN高校に負けた上でB高校がC学園を下すとYNB3高が2勝1敗で得失点の勝負になる可能性がありまだインターハイ進出は確定していない。
つまり男子の代表がどこになるかは全く決まっておらず、第三戦の結果次第である。
2008道予選男子
B−N Y−C
N−C Y−B
(Y−N B−C)
最終戦で勝つのが
YB -> Y3 B2 N1 C0 - YB
YC -> Y3 B1 N1 C1 - Y(BNC)
NB -> Y2 B2 N2 C0 - (YBN)
NC -> Y2 B1 N2 C1 - YN
一方の女子は最終戦のP高校−L女子高、N高校−Z高校の各々の勝者がそのままインターハイに行けるという単純な構造になっていた。
女子の勝敗表
_P N L Z
P− × _ ○ 1勝1敗
N○ − × _ 1勝1敗
L_ ○ − × 1勝1敗
Z× _ ○ − 1敗1敗
仮眠していた千里が目を覚ました時、既にP高校が98対68でL女子高を破っていた。これでP高校代表確定、L女子高落選確定である。残る1校は次の試合で決まる。
気合いが入りまくった状態で旭川N高校と釧路Z高校はコートに整列した。両軍挨拶してキャプテン同士が握手をする。
「宣言する。わっちらは100対50で勝つ」
と松前さんは言う。
暢子は
「うん。頑張ろうね〜」
と言って軽く流し、コートに散る。
スターターは向こうは松前/小寺/福島/音内/鶴山だ。このメンツはこの春くらいになってやっと固まった。Z高校は2年前は得失点差でN高校に勝ちインターハイに行ったのだが、松前さんたちの2つ上の学年が抜けた後、次の学年が不作で当時1年生の松前さんがすぐにチームの中心になった。
しかし彼女が頼りにできるレベルの選手が他におらず駒不足の感があった。それを松前さんが頑張ってみんなを鍛え上げてきた。特に新人戦で大敗したN高校を「仮想敵」にすると燃えるようである。その成果で昨年の道予選でもブロック決勝でP高校にあわやという試合を演じた。一時はかなりのラフプレイをしていたものの、その後方針転換して、最近では逆にファウルの少ないチームに変貌している。今、松前さんも3年生になってチームは物凄く強くなっている。現在の2年生に良い子たちがいるので来年もまた怖いチームだ。
こちらはメグミ/千里/寿絵/暢子/揚羽というメンツで始めたが、鶴山さんと揚羽も言葉を交わしたりしながらプレイしている。
試合は熱いもののファウルの無いクリーンな状態で進行する。ファウルでプレイが停まらないので、進行もスムーズである。しかし選手交代のタイミングが無いので、第1ピリオドでは5分経ったところでこちらがタイムを取ってメグミ・寿絵を下げて敦子・絵津子を入れた。向こうも少し交代する。第2ピリオドも雪子や夏恋を入れて始めて、途中で睦子・永子などを入れる。永子もこの2日間に随分成長した。試合は前半を終えて40対48とこちらがリードしている。
ハーフタイムで休んでいたら「後半相手を2点で抑えるぞ!」などと向こうは気勢をあげている。
「まだ100対50という話が生きているんだ」
と寿絵が楽しそうに言う。
「まあこの相手に50点差は大変だけど、20点差くらいはつけるつもりで頑張ろうか」
と暢子は言って後半出て行く。
第3ピリオドは前半休ませておいた雪子を出して、雪子/夏恋/寿絵/暢子/リリカというメンツで始める。途中で「出して出して」とうるさい川南を出して暢子も休む。暢子が下がっている間は寿絵がキャプテンマークを付ける。試合は最近絵津子の成長で危機感を募らせている寿絵が頑張って62対80と更に点差を付けた。川南もゴールをひとつ決めて異様に喜んでいた。
第4ピリオドでは雪子/千里/敦子/暢子/留実子というメンツで始め、後半は揚羽・睦子も出したが、84対108で決着した。
「108対84で旭川N高校の勝ち」
「ありがとうございました」
こうして旭川N高校女子はインターハイの切符を掴んだ。
対戦結果
N113-112P
Z 86- 85L
P 98- 68L
N108- 84Z
P 96- 62Z
L 97- 95N
最終的な勝敗表
\ P N L Z 勝 敗 得 失 差
P − 112 98 96 2 1 306 243 +63
N 113 − 95 108 2 1 316 293 +23
L 68 97 − 85 1 2 250 279 -29
Z 62 84 86 − 1 2 232 289 -57
その後、男子の決勝リーグ第3戦である。先に行われたB高校とC学園の試合でB高校が勝った。これでC学園の落選が決定した。後は最後の試合で代表2校が決まる。Y高校が勝てばY高校とB高校が代表決定。N高校が勝てばYNB3者の得失点勝負になる。
ここまでの段階での各校得失点差は Y +46 B +22 N +8 である。つまりN高校男子がインターハイに行くためには15点差以上の点差を付けてY高校に勝たなければならない(14点差だとB高校とN高校が得失点差で並ぶので直接対決でB高校が勝っていることからB高校が代表になる)。
しかし試合が始まってみるとY高校はN高校を圧倒した。北岡君・氷山君に疲れが見え、水巻・大岸も相手を全く抜けない。落合君に替えて昭ちゃんを出すと相手は昭ちゃんの怖さが良く分かっている。今まで北岡君のマークに付いていた向こうのエースの人が昭ちゃんにピタリと付いて何も仕事をさせてもらえない。
ただその人が昭ちゃんに付いているおかげで北岡君がそれまでよりは働けるようになる。しかし点差はじわじわと開いていく。浦島君や道原兄弟を出すものの点差は更に開いていく。
結局終わってみれば96対76の大差で敗れていた。
こうしてN高校男子は今年もインターハイ出場を逃した。そしてこの試合で北岡君や氷山君たちの高校バスケは終了したのである(但し北岡君は国体の旭川選抜に招集されて8月まで活動した)。
「私があそこに出てたら勝てたかなあ」
と薫が悩むような声で言う。
千里は何か言おうとしたが、その前に暢子が言った。
「そもそも女子は男子の試合に出れない」
薫は大きくため息をついた。
「そうだよねぇ。私、女の子だもん」
「薫、国体予選頑張ろうよ」
と千里は言った。
「うん。絶対勝とう」
と薫は顔を引き締め、誓うように言った。
男子最終結果
\ Y B N C 勝 敗 得 失 差
Y − 98 96 96 3 0 290 224 +66
B 84 − 82 78 2 1 244 222 +22
N 76 60 − 84 1 2 220 232 -12
C 64 64 54 − 0 3 182 258 -76
ロビーで札幌B高校の田代君に遭遇した。
「インターハイ進出おめでとう」
と千里は声を掛けた。
「ありがとう。悪いけど勝たせてもらったよ」
「強い者が先に行く。この世界は単純だよ。埼玉でお互い頑張ろうね」
「うん。俺にとっては最初で最後のインターハイになる」
「あ、そうそう。これあげる」
と言って千里はリボンの付いた箱を渡す。
「えっと・・・」
と彼は戸惑うようにして受け取った。
「蓮菜から。元カノからの祝福だって。中身はチョコらしいよ」
「じゃ瑠璃子に見付からないように食べて箱は証拠隠滅しておく」
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女の子たちのBoost Up(7)