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■女の子たちのBoost Up(2)

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2008年5月12-14日、千里はU18日本代表候補の第一次合宿に参加した。
 
11日夜の便で、千里は愛知県名古屋市まで行った。新千歳からの便を使ったが、新千歳−セントレアの便では、佐藤さんと隣の席でいろいろおしゃべりしながらの旅となった。
 
12日朝、帝国電子体育館に今回の合宿参加者が揃う。千里は並んでいる選手たちのオーラを見て、みんな凄いなと思っていた。
 
ここは花園さんがこの4月から入ったチーム《エレクトロ・ウィッカ》を所有している会社である。花園さんもふだんこの体育館で練習しているのかな、と思うと身が引き締まる思いだ。
 
今回のチーム代表となっているバスケ協会の役員さんからお話があった後、ユニフォームを配られる。背番号と各々の名前(アルファベット)が染め抜かれている。背番号はこうなっていた。
 
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4.入野(PG) 5.前田(SF) 6.鶴田(PG) 7.村山(SG) 8.中折(SG) 9.竹宮(SF) 10.佐藤(PF) 11.鞠原(PF) 12.大野(PF) 13.森下(C) 14.中丸(C) 15.熊野(C) 16.大秋(SF) 17.橋田(PF) 18.富田(C)
 
入野さんが主将、前田さんが副主将に任命される。それ故の4番,5番だ。
 
しかし何だか凄まじくあからさまな背番号だ。16-18の3人は事実上補欠という意味なのだろう。もっとも富田さんはまだ若いということで、今回はひとつ上のレベルの子たちに揉まれて勉強しなさいということか。
 
取り敢えず紅白戦をすることになる。
 
A.入野/村山/前田/鞠原/森下 +大秋・橋田・富田
B.鶴田/中折/竹宮/佐藤/熊野 +大野・中丸
 
というスターター・組み分けにした。
 
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しかしこれは凄い対戦だ。普段テンポ100で歌っている歌をいきなりテンポ250で歌わされるような感覚だ。連携などがあまりにもうまく行き過ぎるので戸惑うくらい。こんなのに慣れたら、チームに戻ったときチームメイトに不満が出ないだろうかと自分が心配になるくらいだった。
 
むろん相手も超巧いので、警戒を決して緩められない。お互いやはりスリーに物凄く警戒する。千里と中折さんはお互いにマーカーになった。先日のエンデバーでも手合わせしたが、あの時はお互い八分の力で戦っていた。しかし今日はどちらもマジだった。
 
中折さんはほんとにレベルアップしている。最初の内、かなり千里のマークを外してシュートしたり、あるいは抜いて中に入ったりした。しかし千里も進化しているので、こちらが攻撃の時も、中折さんと対峙してかなりの確率で相手を抜くことが出来た。
 
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それで前半はお互いに相手をほとんど停められない感じだった。
 
後半になってお互いけっこう相手の新しいロジックを感覚的に読めるようになる。それで後半はお互い半分くらい相手を停めることができた。結果的に2人とも後半はスリーが半減する。
 
40分の試合で68対56でAチームが勝ち、点差としては12点付いたものの感覚的には物凄い接戦だったし、お互い全く気を緩められない試合であった。
 
そんな様子を篠原監督も高田・片平の両コーチも満足そうに見ていた。
 
千里と中折さんの対決は痛み分けの感じだったが、鞠原さんと佐藤さんの対決は今回佐藤さんの圧勝だった。ウィンターカップで完璧に鞠原さんにやられたし佐藤さんも恐らくかなり頑張って自分をレベルアップさせているのだろう。鞠原さんも「今回はやられた。また鍛える」と佐藤さんに言っていた。
 
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またリバウンド対決でインハイ・ウィンターカップのリバウンド女王森下さんに対して、熊野さんが一歩も引かない激しい争いをした。ふたりのリバウンド対決も痛み分けだったようである。ふたりはお互いに「ボクもまた頑張らなくちゃ」などと言っていた。ついでに2人はあとでメールアドレスの交換をしていたようである。どうも留実子や中丸さんを含めて、センター同士の「ボク少女ネットワーク」ができつつあるようだ。
 
なお、富田さんは熊野さんとでも中丸さんとでもリバウンドを1つも取れなかった。U16からの「飛び級参加」しただけあって充分優秀な感じではあったのだが、熊野さんや中丸さんが凄すぎるようだ。
 
またこの紅白戦では一時中折さんを下げて佐藤さんをシューティングガードの位置に入れた。佐藤さんはスリーも上手いし、体格が良いので敵陣侵入して攻め筋を作り出す、いわゆるスラッシャーとしての働きも出来る。ただ全般に体格の良い選手が多い外国チーム相手に彼女の体格で対抗できるのかどうかは未知数という気もした。
 
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この合宿では、みんなハイレベルな選手ばかりなので、コーチたちも何かを「教える」ということはあまりしなかった。ただ、コーチたちが指導したのは「声を出すこと」「チームメイトを使うこと」といったものである。
 
ここに出てきている選手はみんな各チーム内で卓越した力を持っている。それ故にけっこう孤立しがちな面もある。試合中に孤軍奮闘したりする。しかし、この日本代表チームでは、お互い自分と近い実力を持つ選手ばかりなのだからチームメイトを信じ、ひとりで突破しようとはせずに、チームで協力して突破することを考えろとコーチたちは言った。
 
「お前らひとりで試合しようとしても、スローインさえできないだろ?」
などとコーチは言う。
 
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バスケの試合ではスローインが多数発生する。パスについては、最悪、ひとりでボールをドリブルしていき、そのままシュートすれば、一度もパスすることなくゲームができるかも知れないが、スローインだけは絶対に1人では不可能だ。
 
だからバスケットでは出場できる選手が怪我などで欠けて、稼働できる選手が1人になってしまったら、そこでゲームは終了になり相手の勝ちとなる。2人まではゲームを続行してもよい。
 

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このU18合宿の2日目の夜、千里はやっと先日雨宮先生から送られて来た音源を聴くことができた(『花園の君/あなたがいない部屋』)。
 
何この子? すげー上手いじゃん。
 
お風呂から上がってベッドに寝転がって聴いていた千里は心躍る思いがした。こないだは超へたくそなAYAの歌をたくさん聴いたので、こういう歌を聴くと日本の歌謡界にも良心はあるんだな、という気分になる。
 
千里はその音源を5回くらい繰り返して聴いた。
 
聴いている内に何か足りないものがある気がしてきた。それは何だろうというのを考えていた時、昨日・今日とコーチから言われていた「バスケは1人ではできない」ということばを思い出した。
 
そうだ。この歌は、細すぎるんだ!
 
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ボーカルというのは「単音楽器」なので、1人のボーカルが出せる声はひとつだけである。せっかく、こんなに上手い歌を歌えるのなら、ハーモニーにした方がいい。
 
それでKARIONのことを連想するのだが、千里はKARIONのような四声ボーカルというのは多すぎるという気がした。あれはあれで美しいのだが、ヒットを狙うのであれば、むしろ2人がベストだ。漫才だって2人でやるのが面白いじゃん。
 
そこで千里は雨宮先生に電話して言った。
 
「あれ、とても美しいんですけど、ソロだとやはり細すぎるんですよ。ボーカルを2つにしてハーモニーにしてみませんか?」
 
「ああ、それは行けるかも知れない。ちょっとやらせてみよう」
 
それからしばらくして雨宮は楽曲をツインボーカルにアレンジし直して、冬子を呼び出し、2つのボーカルを共に冬子に歌わせて音源を完成させた。
 
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そして雨宮がこれをプロダクションやレコード会社関係に売り込み始めたことから、6月初旬、加藤課長のもとでローズ+リリーのプロジェクト(当初のプロジェクト名は『イチゴ・ガール』で、政子が加わってから『イチゴ・シスターズ』に改名された)が動き出すことになるのである。この名前は雨宮先生が冬子を15歳と思い込んでいたことに由来するらしい(実際には高校2年生の16歳であった)。
 
もっとも一方でなかなか雨宮先生から連絡をもらえない冬子はしびれを切らして元々一緒に曲作りをしていた相棒の政子と組んでふたりでデュオで歌う音源を自主制作し始める。(『雪の恋人たち/坂道』)こちらの音源は冬子の民謡関係の指導者であった○○プロの元専務・津田アキさんが別途2人をセットにした形で売り込み始めるのである。
 
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「えー、辞めちゃうの〜?」
と織絵は鈴子に言った。
 
「ごめーん。こないだの模試の成績が悪かったのをお父ちゃんに叱られてさ。当面勉強がんばらないといけないから、バンドからは抜けさせて」
と鈴子。
 
「でもベースが居ないとバンドにならないよ」
と織絵。
 
「ギターが居ないバンドはたまにあるけど、ベースが居ないのはわりときついね」
と鏡子も言う。
「どっちみち今までの曲は、かなりアレンジを変えないと演奏できない」
 
「大学受験終わってからなら再開できるかも知れないけど」
と鈴子。
「それまで2年間活動休止?」
と織絵。
 
「もし何だったら、他の子をベースに入れてもいいよ」
と鈴子。
「でも私、鈴子のベースが心地良いんだよねー」
と織絵。
「私も。鈴子のベースを聴いているとちょっと興奮しちゃう」
と鏡子。
 
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そんな鏡子の言葉を聞いた時、鈴子は一瞬、先日桃香と過ごした甘い時間のことをつい連想してしまった。あれって凄く興奮した。私・・・・女の子との恋愛にハマっちゃったらどうしよう? ついノリで「処女あげる」と言っちゃったけど桃香は「自分を大事にしなよ」と優しく言って処女は奪わなかった。そんなこと言われてよけい自分は桃香に心惹かれてしまった気がする。
 
桃香は織絵とも親しくしているようだ。自分はこのままこのバンドに居たら織絵に嫉妬してしまうかも知れない。父に成績のことを言われたのがバンドを辞める主たる理由ではあるが、実は織絵を嫌いになったりしないように自分を抑制したいというのも、人には言えない辞める理由なのである。私、織絵のことも好きだし。
 
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千里たちのU18代表候補合宿はとても内容が濃厚だった。本当に充実した3日間を過ごして各自帰途につく。次の合宿は8月ということだ。それまでは各自、インターハイをひとつの目標に自己鍛錬を重ねていくことになる。その結果、現在の序列が変わることは大いにあるであろう。C学園の橋田さんもあからさまに補欠扱いの背番号を渡され最初はショックだったようだが、かえって開き直りができたから、上の人たちを蹴落とせるように頑張ると言っていた。
 
「でもステラちゃんがあんなに楽しい人だとは思わなかった」
と帰りの飛行機で隣り合う席になった佐藤さんと千里は話していた。
 
「何だかひとりで笑いを取っていたね」
と千里。
「うん。U18日本代表のマスコットにしたいくらいだ」
と佐藤さん。
 
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ステラというのは東京T高校の竹宮星乃のことである。星から「ステラ」というニックネームが付いているというのを披露したので、みんなからステラちゃんと呼ばれていた。彼女は休憩中や食事中などにたくさん天然ボケ?をかまして、みんなを楽しませてくれた。
 
なお、佐藤(玲央美)さんが「レオちゃん」とか大野(百合絵)さんが「リリー」というのも先月のエンデバーでみんなに浸透している。
 
「だけど、村山さん、今回も花園さんに全勝だったね」
 
せっかくエレクトロ・ウィッカのホームで合宿をしているので、エレクトロ・ウィッカがU18との練習試合もしてくれたのである。試合はU18側の大敗でプロの実力を思い知ることになったのだが、花園さんと千里のマッチングは全て千里が勝ったのである。おかげで花園さんはスリーを全く撃てなかった。
 
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「やはりあれは相性の問題だと思う」
と千里。
 
千里は花園さんとの対決よりも紅白戦での佐藤さんとの対決に8割くらい負けたことの方が気になっていた。私、かなり瞬発力鍛える練習してるんだけどなあ。
 
「次こそはリベンジするぞと言ってたね、花園さん」
と佐藤さん。
 
「彼女はほんとに努力すると思う。だから私も頑張らなくちゃ」
「私も頑張るよ」
と佐藤さんが言うので、千里は
「私、佐藤さんに全然勝てないんだけど!?」
と言った。
 

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