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試合の組合せはこうなっている。
初日
14:00 札幌−旭川/函館−C学園
16:00 旭川−函館/札幌−N高校
18:00 函館−札幌/旭川−B高校
2日目
9:00 札幌−C学園/函館−N高校
11:00 函館−B高校/旭川−C学園
13:00 旭川−N高校/札幌−B高校
各地からのアクセスを考えて遅く始めて早く終わる時間設定である。更に最もアクセスに時間のかかる函館チームは本戦最初の試合、および最後の交流試合を避けている。函館から帯広へは朝1番に出ても帯広到着は12:51だし、帰りは17:46のスーパーおおぞらに乗らないと帰り着けない。年齢が高いのにご苦労様である(帯広空港は困ったことに道内の他空港との路線が全く無い)。
ゲームは中学生と同様8分クォーターである。また50歳以上のメンバーは赤い腕輪をしており、普通のゴールで3点、スリーポイントラインの外からのゴールは4点という特別ルールになっている。スリーポイントの動作中にファウルがあって、そのシュートが入った場合はフリースローも含めて一気に5点取れる可能性もある。(スーパーシニアでそこまでのプレイができる人がいたら見てみたい気分だ)
到着してから旅疲れ解消を兼ねて少し身体を動かしてから会場内に入る。
最初の時間帯は観戦しているが
「なんか結構強くない?」
という声があちこちで起きる。今回、シニアのチームで旭川は単独チームだが、札幌と函館は2チームの合同チームらしい。単独チームでは遠征までして参加可能な人数が不足した(40代の女性は家庭の都合で動けない人が多い)ためのの苦肉の策らしいが、特に札幌の合同チームが無茶苦茶強いのである。
「思い出した。あの5番付けてる人は教員チームで北海道総合に出てたよ」
と寿絵が言う。
「嘘!?」
「スターターではなかったけど。あと4番の人も別のクラブチームで出てた」
「シニアどころがほとんど現役だったりして」
試合は80対52の大差で札幌合同が旭川ホルスタインズに勝った。函館合同とC学園の交流戦はどちらも軽く流していた感じで、62対56でシニアが勝った。
次の時間帯。N高校の相手は今大勝した札幌合同である。試合前に南野コーチからみんなに注意がある。
「絶対に相手に怪我させないこと。それとこちらも怪我しないこと。だから無理なプレイはしない。特にボーダー組は自分のプレイをアピールしたいだろうけど、今怪我したら結局道予選にも出られないよ」
「分かりました」
といちばん無理しそうな揚羽が率先して返事をした。きっと彼女や怪我した前科のある留実子などには事前に個人的にも注意していたであろう。
強い相手なのでこちらも最強布陣で出て行く。雪子/千里/薫/暢子/留実子というところで始める。ティップオフは取り敢えずこちらが取り、雪子から薫・暢子とつなぎ、暢子のバックレイアップシュートで2点先制した。
向こうはこちらが強そうというので、結構本気である。4番を付けたポイントガードの人が素早いドリブルでコートを駆け巡る。この人ほんとに35歳以上か?まだ20代じゃないのか?と思いたくなるほど身体の動きがいい。5番のフォワードも凄く強い。フィジカルに強いし、シュートが正確である。マッチングも上手く、暢子が最初うまく抜かれて「やられた〜」という顔をしていた。
かなり強い相手ではあるのだが、南野コーチは交替できるタイミングでどんどん選手を入れ替える。千里を夏恋に、薫を寿絵に、留実子を揚羽にと替えていく。どうもコーチはみんなにこの強い相手を体験させておきたいようである。第2ピリオドではメグミをポイントガードで使い、絵津子・リリカ・睦子も出して行く。第3ピリオドでは敦子・昭子・ソフィアまで出す。
この札幌合同との戦いでコートに立ったのはちょうど15人である。
ああ、このあたりが宇田先生と南野コーチの頭の中にあるインハイ・メンバーだろうなと千里は思った(この内昭子と薫は出られない)。
試合は74対69で札幌合同が勝った。
同時に行われていた本戦では旭川ホルスタインズが函館合同を倒した。ちなみに「ホルスタインズ」というのは、牧場か乳業関係者かと思ったらそうではなく、創立メンバーに微乳女性が多く、彼女たちの夫や子供に馬鹿にされたというので敢えて巨乳イメージでホルスタインにしたらしい。
もっともホルスタインはたくさんお乳は出すが乳房自体は大きくない。乳房に脂肪が豊かに付いているのは人間とジュゴンだけである。
次の時間帯では札幌合同が函館合同を圧倒し、大会自体としては札幌合同の優勝、旭川ホルスタインズの準優勝、函館合同の3位ということで終了した。3位まで表彰されるので、結局全員賞状をもらった!
交流戦の方は旭川がB高校に敗れた。この日の交流戦で高校生側が勝ったのはこの試合のみである。ホルスタインズは函館に勝って準優勝がほぼ確実となった所で気が抜けてしまったのかも知れない。
宿は、札幌合同チームと同じ所になったので、食堂やお風呂で向こうのメンバーと顔を合わせ、大いに交流する。
「あんたたち総合でも見てて強いチームだなあと思ってたけど、対戦してみて強さがよく分かったよ」
と向こうの5番の人が言う。
「でもそちら元プロの人が何人もいるみたい」
「元プロは3人かな」
「企業チームの現役とOGが5人いる」
「やはり強いじゃないですか!」
「シニアの大会って、他のチームに所属していても出られるんですね」
「そうそう。特に女子は家庭婦人連盟のチームに属している人多いよ」
「なるほどー!」
家庭婦人連盟(ママさんバスケ)は参加条件が「結婚経験があるか、もしくは43歳以上の女性」である。
「このチームは札幌味噌ウィーメンと、クロックタワーOGの合同チームなんだけど、どちらもだいたい月1回くらい練習してるんだよ」
「クロックタワーって総合にも出てましたよね」
「そうそう。そこを引退したメンバーで運用しているチーム」
「なんか現役行けそうな人がいるのに」
「いや。おぱあちゃんがいつまでも在籍してると風通し悪くなるから」
「私たちのチームは姥捨て山で」
「まあ20代の頃ほどは練習できないよ。家庭抱えているとさ」
「確かに大変でしょうね」
ところで薫は女子の中に溶け込んでいるものの、昭子はまたまたネタにされる。
「君、おっぱい小さいね」
「ごめんなさい。ボク男の子なんです」
「嘘!?」
「男の子がなぜ女湯に居る?」
「というかなぜ男の子が女子のチームに居る?」
「済みません。この大会は性別は自己申告で良いということだったので出しました」
と千里が説明する。
「あら、じゃあなた自分では女の子だと思っているのね?」
「はい」
「だったら堂々と自分は女の子ですと言おう」
「ほら、お姉様にも言われたよ。昭ちゃん、自分の性別は?」
昭ちゃんは俯いて恥ずかしそうにしていたが、やがて決心したように言う。
「ボク、女の子です」
「女の子だったら『わたし』と言おう」
「ほら、頑張れ」
「わたし、女の子です」
昭ちゃんはそう言うと真っ赤になって、また俯いてしまった。
「可愛い!」
という声が上がる。
「あら。でもあんた、おちんちん無いわね」
「その内完全な女の子の身体になるそうですよ」
「ああ。性転換手術したのね」
「学校でも女子の制服着てるしね」
「だったら女子選手でもいいね」
「あんたきゃしゃな感じだし」
「さすがにマイク・タイソンみたいな人が突然女子選手になりましたと言ったら拒否だけど、あんたくらいの体格だったら、女子と一緒でいいかもね」
「あんた胸少し膨らんで来てるみたいだし、もうこれで男子の試合には出られないよねえ」
などと向こうの人たちは言ってる。
いや、男子の試合に出してるんですけど!?
「じゃ、あんたまだヴァギナを作ってないの?」
「欲しいんですけど」
「でも結婚する前に作ればいいんじゃない?」
「そうだよねー。恋人ができるまでは必要ないもんね」
「あんた可愛いから、きっと素敵な彼氏できるよ」
そんなことを言われて昭子は恥ずかしそうに俯いてしまい
「かわいいー!」
とおばちゃま選手たちに言われていた。
2日目は交流戦のみが行われる。N高校は朝から函館合同との試合が設定されているが、この試合ではメグミ/結里/永子/蘭/川南というスターターで始めた。メグミ以外は昨日出場していないメンバーである。特に川南は先日の試合で全然リバウンドを取れないことを指摘されたので、ここ1ヶ月の練習の成果を確認するためセンターとして出した。
すると結構強い相手であるにも関わらず川南は第1ピリオドだけで2回リバウンドを取った。主張するだけの練習はしている感じで、南野コーチが頷くようにして彼女のプレイを見ていた。
その後も残りの出ていないメンバーを順次出して行く。向こうもやはり本戦で使い切れなかったメンバーを出している感じであったが、試合は良い雰囲気で進んでいく。試合としては72対62でシニア側が勝った。
次の時間帯はN高校の試合は無いので見学する。C学園もB高校もやはり控え組に出場機会を与えて、インハイ道予選に出るメンツの最終選考を兼ねている感じもある。十勝地区からはこの2校が道予選に出てくるのである。
「雪子、揚羽、見ておけよ。今回ベンチに入らない子にも光る子がいるからさ」
と暢子は2年生の2人に言う。
「はい。来年の中核メンバーになる可能性がありますよね」
と雪子。
その後ろに座っているソフィアと絵津子も頷くようにしてそういう会話を聞いていた。再来年の中核はこの2人かなと思って千里は眺める。1年生でキャプテンの近くの席に座るのは良い傾向だ。上下関係の厳しい部なら叱られるのだろうが、うちの部はそういうのは全く無しである。むしろこういう積極的な姿勢を買いたい所である。
最後の時間帯、N高校は旭川ホルスタインズと対戦した。道予選メンバー決め前の最後の試合になるので「出たい人?」と南野コーチが尋ね、最初に手を挙げた敦子・睦子・川南・永子・ソフィアの5人をスターターにした。ポジション的には、PG.敦子 SG.ソフィア SF.永子 PF.睦子 C.川南という感じだ。この5人に一瞬遅れた絵津子とリリカ、それから更に遅れた結里と蘭に耶麻都は少し出遅れたので後半に出すことを約束する。葉月はかなり遅れて手を挙げたが、「じゃ第4ピリオドに」と言う。愛実と不二子は「あれ?私も手を挙げて良かったんですか」などと言っていたが、同様に第4ピリオドに出すことにする。
この試合はインハイのベンチ枠を争っている子たちが最後のアピールということで頑張ったため、特に前半に大量得点する。後半出て行った子も負けじと頑張るので、ホルスタインズの人たちが「若さに負けた〜」などと音を上げる程であった。
試合は96対74でN高校が勝った。その試合を、この時間帯は見学になったC学園の特に1−2年生の子たちが熱い視線で見ていた感じであった。
同日。東京、&&エージェンシー。
おそろいの衣装を着た4人の女の子が記念写真に収まっていた。
「この4人で本日XANFAS(ザンファス)を結成します」
と斉藤社長が宣言した。
「だいたい10月頃のデビューの予定で頑張ろう」
と白浜マネージャーも笑顔で4人に言う。
リーダーの逢鈴(元Patrol Girlsリーダー)、サブリーダーの碧空(テレピのオーディション番組で僅差次点/東海方面で歌謡大会荒しをしていた)、黒羽(元リュークガールズ)、そして光帆(吉野美来)の4人である。
美来は他の3人が既に「芸能人のオーラ」を持っているので「すげー」と思い、ひとりずつ抱負をしゃべらせられた時
「みなさん凄い人たちばかりなので、みんなに追いつけるよう頑張ります。私はこの世界、全然経験がないので、みなさん色々教えてください」
と言い、他の3人にわりと好感されていた感じである。
年齢的にも他の3人は高校3年または大学1年生で美来だけ高校2年生なので、「末妹」格という感じのポジションに収まった感もあった。
「みんな学校があるし、取り敢えず土日中心に活動することにして、7月中旬くらいまでに1枚CDをインディーズで制作しよう。それを持って7-8月の夏休みの間にキャンペーンであちこち回って、9月にメジャーデビューCDを制作、10月デビューという線で」
と社長は説明する。
メジャーデビューか。何だか夢見たい、と美来は思っていた。
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女の子たちのBoost Up(4)