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■女の子たちのウィンターカップ高2編(7)

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12月26日。女子は準々決勝、男子は3回戦が行われる。
 
ここで札幌P高校と愛媛Q女子高が激突する。千里たちは当然この試合を観戦したが、序盤からQ女子高が大量リードを奪うという思わぬ展開になる。
 
「うっそー」
「P高校、どうしたんでしょう?」
「調子悪いようにも見えないけど」
「実力差?」
「いや、実力は紙一重だと思う」
 
「でもどちらも長身の選手が多いですね」
「うん。空中戦が互角だよね」
 
P高校も180cmクラスの選手が3人いるが、向こうもポイントガード以外は180cm前後の背丈で、物凄い「上空」でボールのキャッチ争い、リバウンド争いが行われていたし、低い位置からのシュートはことごとくブロックされていた。
 
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「やはりリバウンドを完全に支配できないので調子出ないんじゃないかな」
「それはあるかも」
 
千里はQ女子高の、先日体育館裏で遭遇した鞠原さんと、P高校の佐藤さんのマッチアップに注目していた。鞠原さんは佐藤さんを高確率で抜いていた。あの佐藤さんが、あれだけ抜かれるって・・・と千里は鞠原さんの動きをずっと見ていたのである。
 
「なんで鞠原さん、あんなに佐藤さんを抜けるんだろう」
と千里がひとりごとのようにつぶやくと、暢子は
「瞬発力」
とひとこと言った。
 
千里はじっとふたりの対決を見つめていた。
 

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試合は前半で大差を付けられたP高校が後半システムを少し変更して必死に追いかける展開となった。
 
しかし最後は届かず、6点差で敗れてしまった。
 
「嘘みたい」
「P高校がまさかBEST8止まりとは」
「監督さん、進退伺いかなあ」
「えー? 普通の学校ならBEST8は表彰されて祝勝会とかしてもらえるのに」
「常勝校は求められるものが高いもん。特に今年はインターハイにも出場できなかったし、国体は出たけど初戦で負けてしまったし」
 
「うちは常勝校じゃなくて良かった」
「でも毎年全国大会に出てたら、うちも常勝校ということになるかも」
「宇田先生、大変ですね」
 
「僕はそのくらい大変になってみたいよ」
と言って宇田先生は苦笑していた。
 
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その他の試合では、愛知J学園と東京T高校は順当に勝って準決勝に進出した。
 
女子の準々決勝がメインアリーナで行われていた間に、サブアリーナでは男子の試合が行われていた。そちらに貴司は出ていた。千里はP高校の試合が終わったあとで、そちらの結果を見に行こうと思っていたのだが、そちらを観戦していた氷山君たちが先に戻って来た。男子の今日残りの試合はこの後メインアリーナで行われる。
 
「村山、留萌S高校負けちゃったよ」
「えー!?」
「大差だった」
「そんな。貴司、今日の相手は楽勝みたいなこと言ってたのに」
 
「1年生に凄い子がいてさ。その子が1人で30点以上取ったと思う」
「きゃー」
 
「あの子、インターハイには出てなかったよな」
と北岡君は言う。
 
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「うん。新戦力だろうね」
 
ああ。観戦できなくてごめんね、と千里は貴司に心の中で言った。
 

宇田先生が隅の方に行って、どこかに電話を掛けていた。そして戻って来て千里に言う。
 
「S高校の監督と話した。細川君と会っておいで。19時までにV高校に戻ればいいから」
「ありがとうございます」
「私服に着替えてね」
「はい!」
 
それで千里は汗をかいたりした時の着替え用に持っているポロシャツとジーンズに着替えようとしたのだが・・・
 
着替えている所に薫が入って来て言う。
「千里、これさ、川南たちが昭子に着せてた服なんだけど、すっごく可愛いし、デートするんなら着て行けよ」
 
「昨夜着てたね!」
「男の子が着た後、洗濯してない服だけど、千里、あまりそういうの気にしないよね?」
「昭ちゃんが着た服なら全然問題無いよ」
と千里は微笑んで、その服を受け取った。
 
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留萌S高校はできたらこの日の試合を最後まで見てから最終便で帰りたかったようだが、最終便には空席が無かったため、16:50の便に乗ることにしたらしかった。千里は国立競技場駅から大江戸線で大門に出てモノレールに乗り換え、14時頃に羽田空港に到着した。目をつぶって貴司の波動を探す。
 
居た!
 
S高校のメンツは焼き肉屋さんで食事を取っていた。試合時間がちょうどお昼くらいだったので、今から遅めの昼食であろう。試合前には満腹になる訳にはいかないので、せいぜい軽食で済ませたはずだ。
 
千里はつかつかとお店の中に入っていくと、顔なじみになっているS高校の監督さんに会釈してから、貴司に
 
「お疲れ様」
と声を掛けた。
 
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「お、キャプテンの彼女が来てる」
と声があがるが
「妻です」
と千里か言うと
「へー!」
という声。
 
「結婚したんですか?」
「今年の1月に結婚して11ヶ月目」
「そうだったんだ!」
「ベビーはまだ?」
という声に千里は
「居るよ」
と答える。
 
「えーーー!?」
「妊娠したの?」
「内緒」
 
「でもバスケット選手は結婚指輪ができないんですよね」
と千里は話題を変える。
 
「ああ、そうだよね。凶器になるもん」
と佐々木君が言う。
 

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「これ、機内ででも、みなさんで食べて下さい」
と言って、今そこで買ってきた東京ばな奈を3箱、佐々木君に渡した。
 
「サンキュー、サンキュー」
 
「でも残念だったね」
「悔しい」
と貴司は言う。
 
「ごめんね。観戦に行けなくて」
「いや、千里は女子の試合を見ないといけないだろうし」
 
「だけど村山ちゃん、今日は可愛い服着てるね」
と田臥君から言われる。
 
「その台詞は貴司に言って欲しかったな」
「こいつ浮気性でしょ? もし見捨てる気になったら、僕の彼女にならない?」
「田臥君、私の性別は知ってるよね?」
「もちろん。僕はバイだから、村山ちゃん、身体を直さなくても結婚してあげるよ」
 
「それもいいな。貴司が再度浮気したら検討しようかな」
 
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貴司は困ったような顔をしている。
 
「じゃ、キャプテンがあまりイチャイチャしてたら恋愛を犠牲にして頑張っている部員さんたちに示しが付かないから、私はこれで戻るね」
 
「うん。千里、オールジャパン頑張ってね」
「貴司も就職活動頑張ってね。あ、その前に卒業できるように勉強も頑張ってね」
「ああ、こいつはそれが一番危ない」
「では失礼します」
 
と言って千里はテーブルを離れようとしたのだが、佐々木君に呼び止められる。
 
「俺が許可する。村山、細川にキスしていいぞ」
 
「そうですか。じゃ」
と言って千里は貴司の顔を両手でつかむと、唇に3秒ほどキスした。
 
思わず拍手が起きる。
「じゃ、皆さんも頑張ってくださいね」
 
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と言って千里は焼き肉屋さんを後にした。
 

翌日12月27日は女子の準決勝が行われ、東京T高校と愛媛Q女子高が対決した。
 
札幌P高校に空中戦で勝利した愛媛Q女子高も、東京T高校のインターハイ・リバウンド女王・森下さんには勝てなかった。森下さんは背丈もありジャンプ力もあるが、とにかくポジション取りがうまい。向こうに180cmクラスの選手が何人居ようと関係ない。オフェンス・リバウンドでも7割、ディフェンス・リバウンドは9割くらいをひとりで獲得して、竹宮さんなどにパスしてT高校側の攻撃に確実に結びつけていく。つまりQ女子高としては最初から外さずに入れたシュートしか得点にならない感じであった。
 
更にインターハイではまだ出ていなかったシューターの萩尾さんが調子よくスリーを放り込み、ぐいぐい点差を広げていく。
 
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試合はほとんど一方的になり、大差を付けてT高校が勝利した。
 
「リバウンドって本当に大事なんですね」
とリリカがあらためて言う。
 
留実子や揚羽も森下さんのプレイを熱い目で見ていた。
 
もうひとつの準決勝は愛知J学園が山形Y実業を順当に下した。
 

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準決勝はお昼過ぎには終わってしまうので、その日は午後たっぷり練習となる。
 
「この合宿って、後になるほどヘビーになるんですね」
と1年生の聖夜(のえる)が言う。
 
「初日は実質2時間くらいで終わったから、物足りないくらいだったのに」
「そうそう。2日目は5時間、3日目は6時間、今日は7時間コースですよね?」
と同じ1年生の瞳美も言う。
 
毎日試合観戦が終わった後で練習を始めるので、試合が減る分、始まりが毎日早くなってきているのである。24日は16時近くまで観戦したが、25日は男子の秋田R工業や福岡H高校などの試合まで見て15時まで。26日は男子の試合も14時までには終わってしまった。今日27日は13時半には全ての試合が終わっている。
 
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「まあウィンターカップが終わると1日中になるよ」
「はははは」
「一時帰宅したい人はしてもいいよ。交通費は自費になるけどね」
「それ単にお金と体力を消費するだけって気がします」
「私、お母ちゃんから戻って来れないの?と聞かれたから往復6万掛かるけどと言ったら、そのままそちらに居なさいと言われた」
 
「年末年始の交通機関なんて超満員だしね」
 
「あ、私ちょっと実家に行ってくる」
と薫が言う。
 
「ああ、性転換の許可を取りに行くのね?」
「許可してくれないよぉ!」
「そこを何とか説得しなきゃ」
 

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この日から千里は「瞬発力」を鍛えるメニューを練習に取り入れた。
 
Q女子高の鞠原さんがP高校の佐藤さんを高確率で抜いていたのを見た暢子は「あれは瞬発力の差」と言っていた。いつも佐藤さんに停められている千里としては、もっと瞬発力を上げれば佐藤さんに勝てるかもと思い、練習することにしたのである。
 
まず合宿させてもらっているV高校にお願いして陸上競技のスターティング・ブロックを借りてきた。ウィンターカップ見学が目的で来ていて練習には参加していない明菜に頼んでランダムなタイミングでスターターピストルを撃ってもらい、それでできるだけ早く飛び出す練習をした。
 
また手を輪にして中に紐を通し端を明菜に持ってもらい、突然指を離してもらって、それを掴むというのもかなりやった。こういう練習をする時、明菜はわりと何も考えていないので、ほんとにタイミングが読みにくいのである。
 
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また反復横跳びの練習もかなりやった。
 

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