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オールジャパンのベンチメンバーは12名なので、このようになった。
PG 雪子(7) メグミ(12) SG 千里(5) 夏恋(10) SF 寿絵(9) 敦子(13)
PF 暢子(4) 睦子(11) 蘭(15) C 留実子(6) 揚羽(8) リリカ(14)
やっと留実子と暢子が復帰である。但し留実子は病み上がりなので「あまり無理しないように」と言われ、練習時間を制限されている。宇田先生・南野コーチ・保健室の山本先生との話し合いで、今回のオールジャパンでは1試合の出場時間が合計20分を越えないようにすることにした。それでも居るのと居ないのとでチームの雰囲気が違うし、揚羽もかなり負担が減って助かるようである。
ベンチ枠の中で14番のリリカまではすんなり決まったが最後の1人については、暢子・千里も入れて、宇田先生・南野コーチ・白石コーチと一緒に検討した上で決めた。
ボーダーラインになるのが、蘭・来未・結里・川南・葉月・永子あたりなのだが、まず技術水準の問題で川南・葉月・永子を外す。そしてポジションのバランスの問題で、千里のバックアップ・シューターを考えた場合、結里のレベルではオールジャパンのハイレベルな相手には通用しないという結論に達し、夏恋をシューティングガード登録して、最後のひとりはフォワードで蘭か来未ということにし、このふたりは実力が拮抗しているので、かなり悩んだ末、最後は宇田先生の決断で蘭に決まった。
スタッフが6人登録できるので、ヘッドコーチに宇田先生、アシスタントコーチに南野コーチ、トレーナー名義でインターハイにも帯同してくれた保健室の山本先生、チーフマネージャーに薫、サブマネージャーに来未と永子を登録している。遠征メンバーにはこの他白石コーチも参加している。白石コーチはベンチには入らず、むしろベンチに入らない子たちを束ねる仕事をしてくれる。北田コーチは旭川に残って、(女子も含めて)遠征に参加しない部員たちの練習に付き合う。
なお、川南を応援隊長に、葉月を撮影隊長に任命して赤いリボンと青いリボンを付けてあげたら「あ、なんだか偉い感じだ」といって、割と気に入っていたようである。
「だけどインターハイ本戦も12人枠だから、多分今回とほぼ同じメンツになるよね」
とメグミが言う。
「まあ近いかもね。でも1年生が入る可能性がある」
と寿絵。
「1年生が何人入るかだよね。それ次第では私、弾き出されるかなあ」
とメグミ。
「そういうこと、あまり言わない方がいいよ。自己暗示に掛かっちゃうから。そういうネガティブな言葉は」
と千里は言う。
「うん。自分が弾き出される訳ない、と思ってた方がいい」
と暢子も言う。
「でもそれで弾き出されたらショックじゃん」
「1年生に負けないくらい練習すればいいじゃん」
23日は旭川を20:00の札幌行き特急《スーパーカムイ52号》に乗り、40分の待ち時間で22:00の青森行き夜行急行《はまなす》に乗って青函トンネルを越える。23日は練習はしていなかったものの、みんな熟睡している。
24日の朝5:35に青森に着き17分の連絡で《つがる2号》に乗り継いで八戸へ。ここで6:55の新幹線《はやて2号》に乗って東京に9:51に到着。10時半頃に東京体育館に到着した。
ウィンターカップの試合は昨日から始まっているのだが、1回戦までは見るまでもあるまいということで(試合は東京近郊に住むOGに依頼して全部撮影してもらっている)、今日からの観戦になった。
行った時は既に第1試合が行われていたが、メインアリーナでは福岡C学園、サブアリーナでは東京T高校が対戦中であった。女子は撮影隊など数人以外は福岡C学園の試合を見る。試合はかなり競っていた。(男子はサブアリーナでもうひとつ行われている男子の試合を見に行った)
「なんか10月に見た時より強い気がする」
などという声もあがる。
「やはり北海道に来た時は旅の疲れもあったんじゃない?」
「親善試合と本戦とでは気合いの入りようも違うよね」
「特にこういう接戦になると必死になるし」
試合中だったが千里はトイレに行きたくなったので、席を立ってロビーに出ていく。トイレの列に並んだら、何とすぐ前に愛知J学園の花園さんがいる。
「あれ、旭川N高校出てたっけ?」
「出てません。今回のウィンターカップは札幌P高校が北海道代表ですよ」
「だよね?北海道は代表2校だったっけと思っちゃった」
「オールジャパンが本番で、ウィンターカップは観戦だけです。毎日観戦した後で合宿なんです。今日も16時くらいまで観戦した後、3−4時間練習になります」
「それは物凄い合宿になりそう。イメージトレーニングにいいし。うちがやりたいくらいだ」
「みんな燃えちゃいますよね。オールジャパンまで一週間頑張ります」
「組み合わせ表見た感じでは当たりそうにないけどお互い頑張ろう」
「ええ。頑張りましょう。取り敢えず11:30からの試合、頑張ってください」
「うん」
ということで握手をした。
花園さん、多分私に会ったことでスリーをどんどん撃つのではと千里は思った。
「花園さんは、高校を出た後は大学進学ですか?」
「私、ひたすらバスケばかりしてたから入試は無理」
と花園さんは笑いながら自嘲ぎみに言う。
「うーん・・・」
「愛知県内の帝国電子という会社が運営しているバスケチームに入る予定」
「Wリーグのチームですね! じゃ高校卒業したらプロですか?」
「但しこのウィンターカップでBEST4以上になって、私自身も優秀選手に選ばれることが条件」
「花園さんなら優勝で、最優秀選手でしょ?」
「当然それを狙っている」
と彼女は自信あふれる顔で言ってから少し悪戯っぽく付け加える。
「今回は村山さんが出てないからスリーポイント女王取れそうだし」
「加藤貴子さんの記録した1試合51得点を破って下さいよ」
「大きな声では言えないけど実は狙っている」
加藤貴子は1989年のウィンターカップで1試合51得点の記録を出しているが、この記録は18年経った今もまだ破られていない。
今日の第一試合は福岡C学園は結局1点差で辛勝して3回戦に駒を進めた。東京T高校の方は快勝であったらしい。
そして第2試合に先ほど千里が話した花園さんがキャプテンを務める愛知J学園が出場するのだが、その隣のコートで同時刻に行われる試合も注目の試合である。何と札幌P高校と岐阜F女子高の対戦なのである。
優勝候補同士が2回戦でぶつかってしまうというのは、何とももったいない話だが、当事者にとっても辛い相手だ。千里は試合前の練習で札幌P高校の佐藤さんや片山さんたちの顔が物凄く気合いが入っているのを見て取った。
「決勝か準決勝でやってもいいカードだからね」
と寿絵が言うと
「えー?そんなに凄いカードなの?」
とこの試合の撮影係になっている葉月《撮影隊長》が驚いたように言う。
試合は実際、最初から激しい争いになった。実力が拮抗しているし、どちらもひじょうにレベルの高い試合運びをする。
「どちらもパスのボールがちゃんと相手の胸にピタリと来てる」
などと川南が言うと
「それ当然のことなんだけどね」
と暢子が言い
「その当然ができない選手の方が多いからね」
と寿絵が補足する。
「でもこの試合は、プロレベルに近いよ」
と南野コーチは言っていた。
どちらも譲らないまま激しい戦いが続き、お互いにかなり消耗しているようで選手交代も積極的に行っているようであった。前半を終えて岐阜F女子校が5点のリードである。ハーフタイムで札幌P高校のメンバーが円陣を組んで、なにやら話していた時、ふと気持ちを切り替えるかのように佐藤さんが視線を泳がせた。その視線が偶然千里と会った。
お互いに数秒見つめ合う。
佐藤さんの顔が引き締まる。
「行くぞ!」
と声を出してコートに出て行く。
第3ピリオド、お互いに少し疲れが出始める所だが、佐藤さんは物凄く頑張った。序盤立て続けにF女子校のキャプテン鏡原さんがスリーを決めて突き放しに掛かったのに対して佐藤さんはスリー1回を含む3連続得点で追いすがる。激しい戦いは続いてこのピリオドが終わってF女子高のリードは2点となる。
第4ピリオドではF女子高がタイムアウトも併用して選手をどんどん入れ替え短時間に集中してプレイする作戦で来たのに対して、札幌P高校はこのピリオド全く選手を入れ替えなかった。竹内/片山/河口/宮野/佐藤と180cmクラスの3人のフォワードを並べてパワーで圧倒する作戦である。シューターの尾山さんを下げているのでスリーはあまり使えないのだが、それでもこの身長の破壊力は凄まじい。
F女子高にも実は180cmクラスの選手が2人いるのだが、どちらも留学生なのでオンコートは1人のみである。それでこの「空中戦」で札幌P高校は優位に立つことができた。それでもF女子高は必死に戦い、残り15秒のところで得点して1点リードとなる。
竹内さんがやや慎重に攻め上がる。F女子高はゾーンで守っている。何度か片山さんや宮野さんが強引に中に飛び込んでみたものの、硬い守りに阻まれてボールを中に入れることができない。
そして残りもう3秒というところで、マーカーを振り切るように、いったん浅い位置に走って下がった佐藤さんへ片山さんからのパスがつながる。佐藤さんはそこからそのままシュートを撃った。
みんながボールの行方を見守る中、ボールはバックボードに当たった上でリングに飛び込む。
3点!
50対48と札幌P高校2点のリードとなる。
得点差が1点だしシューターの尾山さんが下がっているのでスリーは無いだろうとF女子高も無警戒になっていた。そもそも2点取れば逆転できる所でわざわざ確率の低いスリーを撃つというのは普通考えない。しかしだからこそ、敢えて佐藤さんはスリーを撃ったのだ。実際、尾山さんがいるので佐藤さんは普段あまりスリーは撃たないのだが、実は彼女は結構スリーもうまいのである。
みんなが時計を見る。残り0.1秒!
F女子高は超ロングスローインを試みるものの、ボールはゴールから大きく外れ、誰もそのボールを取れないまま試合終了のブザーが鳴った。
50対48で札幌P高校の勝ち。
このロースコアが激戦を物語っていた。
試合後あちこちで握手をしている。F女子高の前田さんと札幌P高校の佐藤さんが握手しているのを見て、千里は「なぜ自分は今コート上に居ないのだろう」と悔しい思いが胸にこみ上げてきた。
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女の子たちのウィンターカップ高2編(4)