広告:彼が彼女になったわけ-角川文庫-デイヴィッド-トーマス
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■女の子たちのウィンターカップ高2編(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-12-13
 
「なんか凄い試合だったね」
と葉月が言う。彼女の持つビデオカメラは膝の上に置かれている。
 
「葉月、撮影は?」
と川南が尋ねる。
 
「あ、しまった!!」
 
「いや、撮影隊長がつい撮影を忘れるくらいの激戦だったよ」
と夏恋は言う。
 
千里は向い側の席でデジカメを使って撮影していたはずの永子にメールしてみる。
 
「永子ちゃん、ちゃんと撮れてるみたい」
「良かった!」
 

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なお、隣のコートで行われていた愛知J学園の試合はJ学園がダブルスコアで快勝していた。後でスコアを確認すると、この試合で花園亜津子は45得点をあげる活躍を見せていた。初戦だし、51得点を狙ったのかなと千里はチラっと思ったが、なかなか51点も取れるものではない。上位の試合ではそこまでの得点はさすがに困難になるだろう。やはり18年前の記録って凄まじいんだなと考えた。
 
(ところが実は2011年に札幌山の手高校の長岡萌映子が51得点のタイ記録を出しているが、準々決勝であり、相手は強豪の東京成徳大であった。現実はしばしば安易な想像を超えている。この試合、試合スコアは87対80で長岡は相手の強烈なマークにもめげず得点を重ねた)
 
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やがて第3試合が始まるが、各自適当にお昼は食べるようにと言われていた。しかし千里は、とてものんびりと御飯など食べていられない気分だった。体育館の出口を出て、裏手に回ってみる。ドリブルしたりパスの練習をしたりしている人たちがいる。このあと試合のある人たちだろうか。千里は自分も何かしたい気分になり、取り敢えず体育館の周りをぐるっと1周ジョギングしてきた。アキレス腱を伸ばし、膝の屈伸運動をする。上体を大きく曲げたりして身体をほぐす。
 
そんなことをしていた時、向こうの方からボールが転がってくる。パス練習でキャッチミスしたボールだろう。千里は半ば反射的にボールを拾った。
 
「すみませーん」
と向こうの方でボールを逸した子が言う。
 
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千里は振りかぶってボールを彼女めがけて投げる。
 
バシッと軽い音を立ててボールは彼女の胸の所に正確に収まる。
 
彼女は最初そのボールを見つめ、次いで千里を見た。
 
駆け寄ってくる。
 
「どこの高校?」
 
千里は笑顔になって答えた。
 
「今回は見学なんです。オールジャパンの方に出場予定の旭川N高校と申します」
「名前教えて。あ、私、愛媛Q女子高の鞠原江美子」
 
溝口さんたちと話していた「女神様が召還した10人」の候補者だ。
 
「お噂、耳にしています。今日は第4試合ですね。頑張って下さい。旭川N高校の村山千里です」
「インターハイのスリーポイント女王さんか!」
 
「今回はウィンターカップに出られなかったですけど、インターハイで手合わせできるといいですね」
「うん。やってみたい」
 
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と言ってふたりは握手した。
 

第4試合でその愛媛Q女子高はダブルスコアで快勝して3回戦に進出した。千里たちはその時間帯は、その試合と、隣のコートで行われていた倉敷K高校の試合を見比べるように観戦した。倉敷K高校は結構強い所と戦っていたが、最後は10点差で勝利した。
 
合宿所となる東京郊外のV高校に移動する。
 
「Q女子高は主力を温存していたね」
「接戦で勝ったように見える倉敷K高校も主力は勝負所まで使わなかった」
 
「やはりあのレベルは2回戦・3回戦は勝って当然というスタンスなんだろうな」
「でも控え組で最初の方を勝ち抜くことができれば主力が上位の試合に全力投球できるもん。毎日1試合ずつやるのって結構辛いから」
「そういう意味では控え組のお仕事も大事」
「控え組としては、3回戦あたりまで全力投球のつもりで頑張ればいいんじゃない?」
「そうなると主力は体力を蓄えて強豪との試合ができる」
 
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「今日の札幌P高校と岐阜F女子高みたいに2回戦であんな強い所と当たった場合は例外で」
 
「まあ、あんたたちはインターハイでほんと毎日全力投球して、よくあそこまで行ったよ」
と南野コーチも言う。
 

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荷物は取り敢えず体育館の隅の方に置いたまま練習を始める。最初にジョギングでロードを3kmほど走ってきた。ここは東京都内でもかなりの郊外なので道路を走ることができるのである。このあたりの下見はN高校OGで現在都内W大学に通っている田崎さんという人が確認してくれていて、今回の合宿でもV高校との連絡係を務めてくれていた。ジョギングも田崎さんが一緒に走ってくれる。田崎さんは千里たちの3学年上なので千里たちとは入れ替わりに卒業している。
 
「私が卒業する直前、蒔枝ちゃんが来年の新入生は凄い子が3人入ってくるから楽しみ、なんて言ってたけど、ほんとにあんたたちインハイに行ったから凄いよ。更にはオールジャパンの出場権まで取っちゃうし」
 
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「N高校がオールジャパンに出場するのは今回が初めてなんですよね」
「そうそう。やはり社会人は強いもん。だいたい道大会で1回戦か2回戦負けだったんだよ」
「今回、組合せも比較的楽だったよね」
「言えてる、言えてる」
 
「でも田崎さんの所は関女の一部チームですよね?オールジャパンにも出るし」
 
「うん。確かに一部チームだけど、私自身はその三軍だという問題がある。それに今回のオールジャパンでは、組み合わせ上、W大学はN高校と当たるとしたら準決勝だし」
 
「確かに強豪チームは部内での競争が厳しいですよね」
 
「私、インハイのベンチに座れますかね?」
と唐突に川南が訊いたが
「あ、あんた無理。オーラが弱すぎ」
などと即答され
「えーん」
と泣いていた。
 
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「オーラで分かるんですか?」
「やはり強い子は覇気が違うよ。あんた、物凄く強いよね?」
と暢子に訊く。
「取り敢えずキャプテンです」
と暢子。
 
「あんたもレギュラーでしょ?」
と夏恋に訊く。
「最近何とかレギュラーに定着しつつあります。スターターにはなれないですけど」
と夏恋。
 
「あんたも凄いよね?」
と薫に訊く。
「でも私はレギュラーにはなれないんです」
「あら、そう? 凄く素質ありそうなのに」
 
「田崎先輩、その子、男の子なんですよ」
「うっそー。女子かと思った」
「薫、やはりせっかく東京に出てきたついでに、お股の改造手術を受けなよ」
「受けたーい」
 
田崎さんは留実子を見て
「まあ、あんたをレギュラーにしなかったら南野さんのセンスを疑う」
と言った上で千里を見て
 
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「あんたセンスは良さそうだけど、パワーが足りない。練習頑張れば地区大会くらいのベンチには入れるかもよ」
と言ったのだが
 
「先輩、その子、インターハイのスリーポイント女王」
と寿絵に言われ
 
「うっそー!? オーラはさっきの問題外の子と大差無いのに」
などと言っている。
 
「千里のオーラは凄く見えにくいんですよ」
と言って薫は笑っている。
 
「あのぉ、問題外の子って私ですか?」
と川南。
「うん。あんたは5年くらい鍛え直さないとベンチには入れないよ」
「5年も経ったら高校卒業しちゃいます!」
 
「大学も卒業間近というか」
 

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ジョギングの後、体操で身体をほぐしてから、この日は実戦形式の練習をした。
 
A.雪子/千里/寿絵/暢子/留実子
B.メグミ/夏恋/薫/リリカ/揚羽
 
としたのだが、薫が入っているのでこのBチームが強い強い。一時はBチームがリードする状況もあり、
「こら、Aチーム、しっかりしないと、このBチームをスターターにするぞ」
 
などと南野コーチから言われていた。
 
「その場合、薫は?」
「もちろん強制性転換」
「眠り薬飲ませて病院に連れて行きましょうよ」
「本人、目が覚めたら泣いて喜びますよ」
 
薫は笑っているが、強制性転換などということばを聞いて、むしろドキドキしている感じなのは昭ちゃんである。
 
「昭ちゃん、君もついでに性転換手術受けるかい?」
「薫さん、性転換しちゃうんですか?」
「28日の女子決勝戦を見たら、その後病院に入院して手術を受けるんだよ」
「いいなあ」
「じゃ、君も予約を追加してあげよう」
 
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「でも勝手に性転換したらお母ちゃんに叱られるかも」
「取り敢えず高校卒業するまでは、偽ちんちん付けて誤魔化しておくといい」
「どうしよう・・・・」
 
「昭ちゃん、偽おちんちん売っているお店、教えてあげるよ」
と留実子からも言われて、昭ちゃんは本気で悩んでいるようであった。
 

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練習が終わった後はお風呂タイムだが、
 
「昭ちゃん、女子と一緒にお風呂入らない?」
と川南たちから誘われている。
 
「えー!?」
「昭ちゃん、今日はおちんちんあるの?」
「実は無いんです」
「おちんちんの無い子は男湯に入る権利無いから、女湯だね」
「うん、それでOKOK」
 
ということで川南と葉月に連行されるようにして女湯の脱衣場に連れ込まれる。南野コーチも呆れて見ていた。
 
なお、男子の参加者および宇田先生・白石コーチは、女子が全員お風呂に入った後で入浴した。一応男女の宿泊ができるようにお風呂は2つあるのだが、2個とも使うのはお湯がもったいないので、ひとつだけ沸かして交代制にしたのである。
 
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千里は夕食前に貴司にメールした上で電話した。
 
「初戦突破おめでとう」
「ありがとう」
 
ウィンターカップは男子と女子の日程がずれている。女子は今日は2回戦が行われたのだが、男子は今日がほとんどの学校の1回戦であった。
 
「何とか勝てた。一時は諦めかけてたよ」
「優勝したら結婚してあげるから頑張りなよ」
「それ、ハードルが高すぎると思うんですけど!?」
 
「じゃ、優勝なら20歳、準優勝なら22歳、BEST4なら24歳、BEST8なら28歳、BEST16なら32歳で結婚してあげるよ」
「もう少し負けてよ」
「負けたらダメじゃん。勝たなきゃ」
「なんか訳が分からなくなった」
 

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昭ちゃんはお風呂から上がったあと
 
「可愛い服用意しておいたよー」
という川南たちに乗せられて、超キュートなショーツとブラのセットを身につけ、とってもガーリッシュなブラウスとスカートを穿かされてしまったが、食事の時間まで少しあったので、ちょっと彼女たちから離れて宿舎の裏手に行った。
 
少しドキドキしながらバッグの脇ポケットのファスナーを開ける。
 
そこには12個の錠剤がついた薬のシートがあった。
 
10秒くらい悩んでから、2個取り出す。掌に乗せたまましばらく考えていたが、やがて意を決したようにして、それを口に・・・・
 
入れようとした所で、がしっと腕を握られた。
 
薫だった。
 
「これ、私がもらっちゃう」
と言って、薫はその薬を自分で飲んでしまう。
 
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「あ・・・・」
 
「その薬全部出しなよ」
「はい」
 
昭ちゃんは素直に薬のシートを6枚バッグから出して薫に渡した。
 
「女性ホルモンなんてやめときなよ。今やっちゃったら後悔するよ」
「薫さんは後悔しないの?」
「私はもう身体の中で男性ホルモンが生産されてないからね。サーヤから指摘されたんだ。ホルモンニュートラルになったら骨折とかしやすくなるよって。だから実は女性ホルモン飲むことにして、こないだの層雲峡合宿の後で飲み始めたんだよ」
「薫さん、やはり既に性転換してるんですね?」
 
その昭ちゃんの問いに薫は微笑んで「内緒」と言った。
 
「あ、そうだ。ホルモン剤、高かったでしょ?これ、私が買い取ったことにしといて」
と言って、薫は1万円札を昭ちゃんに渡すとバイバイして玄関の方に戻って行った。
 
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