広告:ニューハーフ恋子の告白-綾小路恋子
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■女の子たちのウィンターカップ高2編(6)

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「停めなくても良かったのに」
と玄関の所に戻って来た薫に千里は言った。
 
「まだあの子は冷静な判断ができてないよ」
と薫は答える。
 
「でも冷静な判断ができるようになった頃には取り返しのつかない身体になってしまっているんだ」
「私は既に取り返しのつかない身体って気がする」
「そんなことないよ。あと2年もしたら、薫、女らしい身体になれるよ。ちゃんとまじめに女性ホルモン飲んでたら」
「そうかな・・・」
 
「薫さ、診断書取ってないでしょ?」
「GIDの?」
「違う。去勢しているという診断書」
「うん。まあ・・・」
 
「ふーん。去勢していることを否定しないんだ」
「あ、しまった」
「旭川に帰ってからでもいいからさ。診察受けて取っておきなよ。女子選手として認めてもらうには、それが必要になるはず」
 
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「・・・・私、女子選手になれるかな?」
「薫は既に女子選手だよ。ただ過去にちょっとよけいなものが付いてただけ」
 
「少し考えておく」
と言って部屋に戻ろうとする薫に、千里は5千円札を渡した。
 
「半分こしよう」
 
薫は笑って、昭ちゃんから取り上げた女性ホルモン剤の半分を渡した。
 
「でもここから影になっていたと思うのに、まるで近くで見ていたかのようだ」
「意識をそこに飛ばしていただけだよ」
「幽体離脱?」
「半分だけね」
 
「千里の霊的な能力って凄いのか、実はたいしたことないのか全然分からない」
「私、霊的な力なんて全然無いけど」
「それは絶対嘘だ」
 

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そういう訳で、この遠征中の昭ちゃんの体質女性化作戦は未遂に終わった。
 
と、千里は思ったのだが・・・・。
 
その日の夕食の席で、昭ちゃんは川南たちに呼ばれる。
 
「昭ちゃん、可愛い女の子だね」
「えへへ。ボク、女の子でもいいかなと思い始めました」
「うそうそ。前から自分は女の子だと思ってたんじゃない?」
「少し」
 
「よし。それでは君がもっと女の子らしくなるように、おっぱい大きくなる薬をあげるよ」
「えーーー!?」
 
「これ、エステミックスというサプリなんだけどさ、タイで採れるプラエリア・ミーフィータという薬草の成分が入っているんだよ」
 
千里は頭を抱えた。ついでにプエラリア・ミリフィカなのだが、この際、その訂正はしなくてもいいだろう。
 
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「タイって美しいニューハーフさん多いじゃん。みんなこれ飲んでるんだって」
「えー?そうなんですか?」
 
「だから君もこれを飲んで、おっぱい大きくしよう」
「飲みます」
「よし。これ1袋全部あげるから」
「これコンビニとかにも売ってるから、足りなくなったら自分で買うといいよ」
「はい」
 
それで昭ちゃんはエステミックスを3錠飲んじゃった。
 
川南と葉月が拍手する。
 
「これでもう昭ちゃんは男の子じゃなくなったね」
「私たち女の子の仲間だよ」
「嬉しいです」
「よしよし」
 
南野コーチが千里のそばに寄って訊く。
「あの薬知ってる?」
「知ってます。私も小学生の頃飲んでました」
「なるほどねー。どのくらい利くの?」
「気休め」
「だったらいいか」
 
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「女子の場合は効果がある人もいるようです。半分はプラシーボ効果ではないかという気もしますけど。男子の場合は睾丸で男性ホルモンが生産されているから、あの程度の女性ホルモンを身体に入れても大した事無いです。ただし、男性が飲むと、人によっては性的な能力がそこなわれる可能性はあります」
 
「多分・・・いいよね?あの子」
「昭ちゃん、高校卒業したら、女の子への道をまっしぐらですよ」
「だろうな」
「それとドーピング検査には引っかからないと思います」
「あ、それ他の子にも注意しとかなくちゃね」
 
今回の遠征で女子部員たちには、風邪や腹痛・生理痛などがあった場合、絶対に自分で持っている薬や自分で買った薬は飲まずに、山本先生から薬をもらって飲むように言い渡してある。
 
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ウィンターカップでは実施されていないが、オールジャパンはドーピング検査が行われる。ベンチ入りメンバーは尿検査を受けさせられる可能性があるので、念のため他の子にもドーピング検査に引っかかる可能性のある薬を持たせないようにコントロールする方針である。
 

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なお今回の合宿では他にもN高校OGの女子大生やV高校の関係者など合計5人を調理係などを含むスタッフとしてお願いしている。彼女たちは空いてる時間には練習相手にもなってくれた。
 
「色々ご面倒掛けます」
と千里たちは挨拶したが、向こうは
「バイト代もらえて好きなバスケもできて天国天国」
などと言っていた。この人たちが結構強くて、最初にやった練習試合ではAチームが苦戦していた。
 
「こら。頑張らないと私たちがオールジャパンに出るぞ」
などと言われた。
 

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12月25日。女子は3回戦、男子は2回戦が行われる。
 
第1試合では東京T高校、愛媛Q女子高はいづれも勝ったが、福岡C学園は僅差で山形Y実業に敗れてしまった。
 
「あんなに強いチームでも負けるのか」
「インターハイでも親善試合でも、あんたたちはあそこに勝ったんだけど」
「よく勝ちましたね!」
 
などという声も出ていた。もっともインターハイの時は福岡C学園は3年生が主体で2年生は橋田さんと熊野さんだけだった。今回のチームは2年生の比率が増えているが、千里の見た目には、インターハイの時より、そして北海道遠征の時より強くなっていたと思われた。
 
しかしそんなに強いチームでも負ける。全国には本当に強いチームがたくさんあるんだなと千里は思った。
 
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第2試合では、その佐藤さんの札幌P高校、花園さんの愛知J学園はいづれも快勝して準々決勝に駒を進めた。
 
花園さんは今日の試合でも1人で40得点を挙げる大活躍であった。試合中に花園さんと目があったが、彼女は千里に「どうだ?」という感じの闘争心あふれる視線を送ってきた。
 
千里は黙って座っていることができなくなり、ひとり席を立つと誰も居ない練習場を見付け、黙々とシュートを撃った。
 
その姿をひとり、今日負けてしまった福岡C学園の橋田さんが見つめていたことに千里は気づかなかった。
 

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「今日も勝利おめでとう」
と千里は電話で貴司に言う。
 
「ありがとう。これでBEST16だから、32歳までには結婚できる?」
「まあ、その時お互いに独身だったらね。私結婚してたらごめんね」
「えー?他の人と結婚しちゃうの?」
「貴司の方がよほど怪しいけどなあ。貴司それまでに5−6回結婚してる気がするよ」
「さすがにそんなに結婚する自信は無い」
「まあ×2(ばつに)くらいまでは許してあげるよ」
「千里と結婚できるまで他の子と恋人になったりはしないよ」
「そういう絶対に守れる訳ないこと言うもんじゃないと思うな」
 

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貴司との電話中にメールが着信していた。電話を切ってから気づいたので見ると雨宮先生である。慌ててこちらから掛ける。
 
「あんた東京に来てたのね。来たら連絡しなさいよ」
「申し訳ありません。でもバスケ部の遠征なんですよ」
「ああ、何かの大会?」
「ウィンターカップを観戦しつつ合宿をして、本番は年明けのオールジャパン、皇后杯です」
「へー、皇后杯って何だか凄そうな大会だね」
「社会人やプロチームとの対戦もあるから優勝はさすがに無理ですけどね」
 
「あ、それでちょっと出てきて、渡すものがあるから」
「宿舎から出たら叱られます!」
 
仕方ないねというので、雨宮先生が夜10時頃、宿舎になっているV高校まで来てくれた。宇田先生の許可を取り、宿舎となっている研修施設の応接室で会った。
 
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「これ渡しておくね」
と言って賞状を2枚渡される。
《RC大賞・歌唱賞『See Again』作詞鴨乃清見殿》
《RC大賞・歌唱賞『See Again』作曲鴨乃清見殿》
と書かれている。
 
「何かのご冗談ですか?」
「冗談な訳無い」
「RC大賞って大晦日に発表される賞ですか?」
「そうそう」
「なぜそれが一週間も前に」
「大賞だけは大晦日に発表されるけど、それ以外の賞はもう全て発表されているから。あんたこれ受賞したの知らなかった?」
「知りませんでした!」
「葵ちゃんにはあんたから渡しといて」
「はい!」
「これ、賞金ね。全額渡すの惜しいけど、ピンハネするほど私もがめつくはないから」
と言って小切手も2枚渡される。千里は額面の数字をその場では数え切れなかった。あとでゆっくり数えようと思う。
 
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「全額頂けるんですか?」
「葵ちゃんと1枚ずつね。ふたりとも税務申告忘れないように。脱税で捕まったりしたら私まで迷惑するから」
 
「勉強します!」
「あるいは税理士とかにやってもらうか」
「それ依頼料どのくらい掛かるんですか?」
「個人事業主だから、そう高くない。4-5万じゃないかな」
 
「もったいないから自分で頑張ってやります」
「あんたはそう言うと思ったよ」
 
「大賞だけがまだ決まってないんですか?」
「決まってるけど発表してないだけ」
「ああ、やはりあれって番組の最中に決めるんじゃないんですよね」
「まさか」
「誰が取ったんですか?」
「松原珠妃の『ゴツィック・ロリータ』」
 
「ああ、なんか格好いい曲だと思いました。蔵田さんも最近乗ってますね」
「本当は蔵田の作品じゃないけどね」
 
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「・・・・・ゴーストライターなんですか?」
「蔵田も2割くらいは関わっている。でも、恐らく8割は弟子の作品」
「共作ですか」
「だと思うんだよ。ただ誰が書いているのか分からないんだよなあ。関係者の口が硬くてさ」
 
この当時雨宮先生は既に唐本冬子と知り合っているのだが、まさかそれが蔵田孝治の共同作業者とは思ってもみなかったという。
 
「女性ですよね?」
「そうだと思う。だから私は蔵田の作品じゃないと思うんだよ」
 
と言ってから雨宮先生は
「ひょっとしたら男の娘かも知れないけどね」
 
と付け加えた。
 
「雨宮先生そういうのお好きですね〜」
 
先生は「また来年もよろしくね」と言って帰って行った。
 
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