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■女の子たちの塞翁が馬(7)

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それで和泉は他の人の邪魔にならないよう前屈みの姿勢で静かに会場の外に出る。こちらから事務所に掛ける。三島さんが出る。
 
「おはようございます。絹川和泉です。お電話を何度もいただいたみたいで済みません」
「おはようございます。今、社長と代わるね」
 
それで畠山が出るが焦った声で言う。
「和泉ちゃん!よかった。誰も捕まらなくて困ってたんだよ」
「何でしょうか?」
「ラムがKARIONを辞めることになった」
「えーーーー!?」
 
ラムは昨日父親から1月からインド勤務になったことを告げられた。日本に来て間もないのだが、インド支店の支店長が急死したため、急遽行くことになったらしい。ラムは日本の環境に慣れかけたところでまだ居たかったが、お母さんが英語の通じない日本の暮らしに疲れていたので、インドなら行きたいと言い、それで結局ラムも連れていくということになってしまったらしい。その件をついさっき、1時過ぎにラムの父親から事務所に電話があったのだという。父親は最初月曜日に連絡すればいいかなと思っていたらしいが、ラム本人が「一刻も早く連絡すべき」と主張したので、勤務時間外で申し訳ないがと断り社長の携帯に電話してきたのだという。
 
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「そんな突然辞めるのは契約違反では?」
と和泉は言うが
「それを英語で議論する自信ある?」
と社長は訊く。
 
私も自信無い!
 
「だから、明日工場に持ち込む予定だったデビューシングルのマスターが使えなくなった」
「だったら、また作り直しですか?」
「それが、もう発売日は動かせない。万一キャンセルするとなるとTVスポットのキャンセル料なども入れて数千万円かかる」
 
和泉は5秒ほど考えた。
 
「ということは今から、私と美空・小風の3人で集まって、明日朝までに音源を作りなおすしかないと思います。ラムのパートは私が代理歌唱しますよ」
 
「それが美空ちゃんは北海道、小風ちゃんは九州にいるんだよ」
「えーーー!?」
「ちなみに和泉ちゃんは今どこに居るの?」
「都内です」
 
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と答えて、和泉は自分が都内に居るのは、ヒナのおかげだなと思った。
 
「良かった!取り敢えず対策を考えたいから、すぐこちらに来てくれない?」
「いいですけど、それでは美空、小風は今からこちらに戻るんですか?」
「そうしてくれと言った所だけど」
「むしろそのまま現地に居てくれた方がいいと思います」
「なんで?」
「美空と小風は実際問題として今どこに居るんですか?」
「美空は旭川、小風は平戸島という所なんだけど。一応本土との間に橋は架かっているらしい」
 
「小風はそれたぶんもう今日の最終便の飛行機になりますよね」
「かも知れない。今何時頃戻れるか確認してもらっている所。あっちょっと待って」
 
と言って、畠山は別の電話に出ている。
 
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「和泉ちゃん、美空ちゃんは18:50羽田着だって。あ、ちょっと待って」
 
更に別の電話が掛かってきたようだ。
 
「小風ちゃんは21:00羽田着らしい」
 
「社長、やはりふたりとも現地で待機してもらいましょう。21時に羽田に着いて新宿に着くのはもう22時半です。長旅で万全ではない体調で、深夜にばたばたと録音して、まともな歌唱にはなりません」
「じゃどうすんの?」
 
「ラムが入る前のもの、冬子が歌った版を使うんです。あれはマスタリングまで終わっていたはず」
「ああ、そういう手があったか!!」
 
社長も焦っていたので、その方法を思いつかなかったようである。そしてこの瞬間、冬子はKARIONに復帰せざるを得なくなってしまったのである。
 
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「だけど冬子ちゃんが同意してくれるかね?」
「その件に関しては私が責任を持ちます」
「分かった」
 
「でも冬子が入った版を使う場合、多分若干の調整が必要だと思うんです。その場合に、小風と美空の承認を取らないと先に進めない作業があると思うんですよね。それを考えると、飛行機に乗られて、電話連絡のできない時間を2時間くらい作るより現地にとどまってもらって、いつでも連絡して確認しながら進められるようにした方がいいと思うんです」
 
「それは一理あるな」
「おそらく、冬子が入った版を工場に持ち込める状態にするのに、今すぐ取りかかっても明日の朝までかかる気がします」
「それは僕もそう思う!」
 

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それで畠山は電話がつながったままの小風と美空に、とりあえず電話の通じるところで待機して、飛行機や新幹線には乗らないよう伝えた。それで小風はとりあえず福岡空港に向けて移動するということであった。美空もなにやら向こうで多人数で話していたようであったが、新千歳の方が便が多いので、そちらに移動するということだった。
 
そこまで連絡した所で畠山は冬子にも連絡を取るべく彼女の携帯に掛けるのだが、電源を切っているようでつながらない。それで少しためらったものの自宅に掛ける。するとお母さんが出た。
 
「初めまして、私、畠山と申します。∴∴ミュージックという所の社長をしておるのですが」
と畠山が言うと
 
「お世話になっております。冬子に何かお仕事の件ですか?」
と母は訊いた。
 
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冬子(冬彦)の母としては、自分の息子を女名前で言うことには抵抗があるものの、息子が女の子としていろいろ活動しているようだというのは知っているので、ビジネスと割り切って敢えて自分の息子を「冬子」と呼んだ。
 
畠山は、冬子はしばしば単発であちこちの事務所の仕事をしていると言っていたのを思い出し、初めて聞く名前でも、理解してくれたようだと考える。それで畠山は事情を話す。1月デビューの歌手ユニットの音源製作に、冬子に臨時で協力してもらったこと。しかしその後、正規の参加者を確保したので、その音源はいったん封印して新たな参加者を入れた音源を再作成したこと。ところがその参加者が突然辞めてしまったため、その新しい音源が使えなくなったこと。それで冬子が入っていたバージョンに差し戻して発売したいこと。
 
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「ああ、そういうことでしたら構いませんよ。自由に使ってください」
とお母さんは言う。
 
畠山もお母さんが承認してくれたのなら大丈夫かなと思い
 
「助かります! もう明日の朝、工場に持ち込まないといけなかったもので」
 
と言ったのだが、お母さんは更に言った。
 
「でもそれ多分本人もそちらに行かせた方がいいですよね?」
「はい、それはそうしてもらうと助かりますが」
 
「ちょっとこちらで連絡が取れないか試してみます」
「助かります。お願いします!」
 

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それで冬子の母は、今日は名古屋に伴奏の仕事で行ったはずと思い、名古屋の風帆の所に電話する。ところが風帆は
 
「冬ちゃん、出がけに急用が入ったとかで、別の所に行ったみたいよ」
などと言う。
 
「えーー!?どこに行くとか言ってなかった?」
「なんか、くらたさんとか言ってた」
「分かった。ありがとう!」
 
それで冬子の母は蔵田の事務所である$$アーツに電話する。すると高崎さんという人が出て、
 
「ああ、冬ちゃんのお母さんですか? 私、ドリームボーイズのダンスチームで一緒だった高崎と申します」
「あらまあ、それはずっとお世話になっておりまして」
 
などと挨拶を交わした上で、高崎さんは前橋社長にとりついでくれた。前橋社長は話を聞くと、それは僕が直接畠山さんと話して事情を聞いてみましょうと言い、∴∴ミュージックに電話する。それで状況を聞くと前橋は言った。
 
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「畠山さん、それは冬子ちゃんをすぐそちらにやった方がいいね。僕の勘が言ってる。たぶんそれ冬子ちゃんが居ないとできない作業が出てくる」
 
「可能性ありますね。それでは連絡お願いしていいですか」
「OKOK。何とかしますよ」
 
それで前橋社長は蔵田の携帯に電話する。幸いにも電源は切られていないようだ。辛抱強く待つ。すると50回くらい鳴らした所で
 
「今日は創作に集中したいから電話しないでと言ったじゃん!」
という蔵田の声。
 
「音源製作うまく行ってる?」
と前橋が尋ねると
 
「あ!社長!? 何かありましたか?」
と蔵田。事務所の電話を使っているので、おそらくマネージャーの大島からだと思ったのであろう。
 
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「ちょっと洋子ちゃんと話がしたいんだけど」
「へ? 洋子ですか? はい、代わります」
 
と言って蔵田は冬子に電話を代わった。
 

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一方の旭川では電話があった時、収録中だったので月夜が代わりに取ったのだが、話を聞いて、演奏が停まったところでフロアに入っていき、美空に緊急事態で事務所から連絡が入っていることを告げる。
 
「分かりました!すぐ戻ります」
 
それで時刻を調べるが、旭川発14:20にはもう間に合わないので、次は17:05になることが判明する。
 
「新千歳にも便がない?」
「16:40が限度だと思う」
「でも東京に着くのは30分くらい早くなるよね?」
「じゃそちらを使おう」
 
「美空、荷物は全部置いていきなよ。私が持って行くから」
と月夜が言うので、そうすることにして、美空のお父さんの車で新千歳まで行き、16:40の羽田行きに飛び乗る話になる。それで到着時刻を東京の事務所に電話した所、状況が変わったので、とりあえず飛行機には乗らずに待機していてくれという話になった。
 
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「でもどのくらい待機してればいいんだろう?」
 
千里はバッグの中から筮竹を取りだし、易卦を立てた。何だか今日の暦と見比べているようである。
 
「明日の午後だと思う」
と千里は言った。
 
「丸1日待機か!」
「たぶんデータを作りなおすのに丸1日掛かるんだよ。その間に美空との連絡が取れない事態があると、そこで作業が停まっちゃうんだと思う」
 
「新千歳空港内で夜は明かせないよね?」
「追い出されると思う」
「千歳市内のホテルで待機した方がいいよ」
 
千里は筮竹と航空時刻表を見比べていたが
「連絡があるのは14時頃だから、最速で新千歳発14:30の便に乗れるよ」
と言う。
 
「連絡があってからではその便のチケット買えないよね?」
「15:30になっちゃうだろうね。空席があっても」
 
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「じゃ、私、その占いを信じて14:30のチケット買って搭乗口まで行ってるよ。それで電話を受けたらそのまま機内に入ればいいから」
と美空が言う。
 
「だったらさ」
と蓮菜が言う。
「DRKの録音作業は続行しようよ」
「いいんだっけ?」
「どうせ飛行機にも乗れないし、青函トンネルも通れないみたいだし」
 
「よし、全員フロアに戻って」
「演奏するよ!」
 

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